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エヌマ・エリシュ

えぬまえりしゅ

バビロニア神話の世界創造叙事詩。バビロンの都市神・マルドゥクが争いの末に女神・ティアマットを破り、混沌から世界と人類を創造するまでを描く。
目次 [非表示]

概要

バビロニアの中心都市バビロンの都市神であるマルドゥクによる世界創造をうたった神話。その成立には諸説あるが、おそらく前16〜12世紀ごろには完成されたと考えられている。かつてはバビロニアの新年祭(四日目)で朗唱され、いわゆる神話というよりも、マルドゥクの優越性を示し権威を高めるために書かれたという側面を持つ。

エヌマ・エリシュ(𒂊𒉡𒈠𒂊𒇺/Enûma Eliš)は「その時、上に(When on high)」といった意味であり、冒頭の


上にある天空は未だ名付けられておらず、

下にある大地もまたその名を呼ばれぬ時のこと。


という一節から取られている。これは古代の作品にはよく見られる「インキピット」と呼ばれる手法であり、タイトル(題名)が無い作品を扱うための手法である。

物語は全部で七枚の粘土板に彫られており、そのほとんどが原型を留めている。バビロニア人の世界観を知る上で非常に重要なのはもちろん、古代から各地で翻訳・複製作業が行われ、マルドゥクをアッシュル(メソポタミアを征服したアッシリアの神)に置き換えただけのパク……改稿版が書かれるなど、後世の文化に与えた影響も大きい。後述するティアマトなどの魅力的な神々は現代でも愛されている。


あらすじ


第一書板

 まだ天地が存在しなかった時代、最初にアプスーとティアマト、そしてムンムが生まれた。

アプスーとティアマトの交合からラハムとラフムが、アンシャルとキシャルが生まれ、アンシャルからアヌ、アヌからその息子エアと、さらに様々な神が生まれ増えていった。


 子孫たる神々が増えるとともに、彼らの起こす騒ぎも増してゆき、それに耐えかねたアプスーは神々の抹殺を企てティアマトに相談、ティアマトには諌められたものの、ムンムの進言で実行を決意する。

 だが、計画の実行前にエアに悟られてしまい、アプスーはエアの術により眠らされた上で殺され、ムンムは捕らえられて監禁されてしまう。


 その後も神々の騒ぎは収まるどころか、エアの子マルドゥクの誕生祝いなどで更に悪化してゆき、ついにティアマトも、配下の神々の批判や訴えの前に戦いを決意。

 キングーを新たな伴侶とした上で、天命のタブレットを与え最高神に高め、更に11種類の混成獣を生み出す等、神々抹殺のための軍団を編成しはじめる。


第二書板

 ティアマト軍勢の存在を知ったエアは、アンシャルに相談。

 アンシャルはアヌとエアをティアマトの説得に向かわせるが、2神とも軍団を見ただけで怯えて帰ってきてしまう。


 混乱する神々に対して、マルドゥクは自らを最高神の地位につけることを条件に、自らティアマトと戦うと申し出る。


第三書板

 アンシャルはマルドゥクの進言を受け入れ、神々の承認を得るために集会を開き、宴席を持って神々を歓待。

 神々はマルドゥクの条件を飲み、ティアマトと戦うものとして承認する。


第四書板

 神々はマルドゥクに天命を与え、その力が十全に働くか否かを試すようにマルドゥクに指示。

マルドゥクは星々を消滅、復活させてみせてその力を示し、喜んだ神々により様々な武器を与えられて戦いに出陣する。


 キングーを始めとするティアマトの軍勢は、進みくるマルドゥクの威容を目にしただけで萎縮し、戦いを放棄してしまう。

 ティアマトが自ら一騎打ちを挑むも、マルドゥクの挑発により正気を失い、彼が従える風を飲み込もうと口を開けた所に、その風を送り込まれることで口を閉じることができなくなった隙をマルドゥクに突かれ、弓によって心臓を射抜かれて倒された。

 そしてその体は2つに裂かれ、天地創造の素材とされてしまった。


第五書板

 マルドゥクはキングーより奪った天命のタブレットをアヌに進呈すると、更に神々の座所や暦、昼夜や星座の配置等の世界の法則を生み出し、残ったティアマトの体で世界の細部を整えて世界創造を進めて行く。


 神々はマルドゥクの偉大さを賞賛し、その命令に従うことを表明、それを聞いたマルドゥクは、すべての神々の座所として、バビロンの建設を語る。


第六書板

 神々の賞賛を受けたマルドゥクは、それに応えるために、彼らの労働を代わりに担うものとして人間の創造を決意、捕えていたキングーを殺し、その血より人間を作り出す。(人間が生み出されるまでは、生活に必要な様々な労働は下位の神々の役割であった)


 それにより労働から解放された神々は、更にマルドゥクを賞賛、最後の働きとしてバビロンの建設に取りかかり、二年でそれを完成させた。


第七書板

 マルドゥクを讃えるため、神々は彼に50の名を与え、それらを列挙していく。


作中でティアマトが生み出したとされる11の混成獣について


上述したように、ティアマトはマルドゥクに戦いを挑むため、11の怪物を創造し軍団を創設した。

ただしこれらの混成獣はエヌマ・エリシュ成立以前から浮き彫り(レリーフ)などで存在していた。例えばムシュフシュは最高神であり仇であるはずのマルドゥクに仕えた姿が多く描かれ、他の怪物たちも初出はそもそも別の国家だったりもする。

ムシュフシュにもかつて別の都市神の随獣だった過去があり、マルドゥクと共に描かれるようになるのはその故郷がバビロニアによって滅ぼされた後からである。唐突にも思える合成獣軍団は他の神々由来の霊獣に神話的根拠を持たせ、ひいてはバビロニア(とその都市神マルドゥク)による諸国の征服を表している……のかもしれない。

もっとも、皮肉な事にバビロニアの神々も後に同じ様にへと堕される事となるのだが…。


  • バシュム/ウシュム:角と翼、二本の前足を持つ蛇、バビロニアのへび座。
  • ムシュフシュ:元はエシュヌンナ市の都市神(ニンアズ、後にティシュパク)の眷属。後にマルドゥクを始めとする様々な神々の騎獣となる、イシュタル門に描かれた姿が有名。
  • ラフム/ラハブ:エアの眷属、のちにはマルドゥクの眷属。6つの巻き毛を持つ全裸男性の姿もしくは大蛇で表されることが多い。名前の意味は「毛深い」(以前は「海の泥」とされていた)。
  • ウガッル/ウガルル/ウガルルム:ライオンの頭と足、上半身は人間。左手にメイス、振り上げた右手に短剣を持った姿で描かれる。古バビロニア時代には冥界と関係があるとされ、罪人を罰し、病を運ぶとされる。
  • ウリディンム/ウルマフルッルー:人間の上半身に犬の下半身を持つ太陽神シャマシュの眷属。クサリックと対で描かれることも多い。
  • ギルタブリル/ギルタブルル:サソリ人間。ギルガメシュ叙事詩においては、マーシュの山の門番として、これの夫婦が登場する。ゲームファン向けのモンスター解説ではパビルサグ神と混同されていることが多いので注意。
  • クルッル/クルール:いわゆる人魚。人間の上半身に魚の下半身を持つエアの眷属、女性型(クリルトゥ)も存在する。
  • クサリック/クサリク/グガランナ:上半身は人間、下半身は牡牛。太陽神シャマシュと近い関係があるとされ、ウリディンムと対で描かれることも多い。
  • ムシュマッヘ/ムシュマッヘー:7本の首を持つ竜。ギリシアのヒュドラの元とも言われる。
  • ウシュムガル:翼を持つ4本足の竜。紀元前3000年期後期の美術にすでに登場している。名前の意味は「偉大な竜(ウシュム:竜、ガル:偉大)。ウシュムガルは王や神々の称号としても用いられることがある。例:アマウシュムガルアンナ(彼は偉大な天の竜)=ドゥムジ神。
  • ウム・ダブルチュ:恐るべき嵐等と訳される。ライオンの要素を持つとも言われるが詳細は不明。パズズのことであるという説もある。

現代の作品におけるエヌマ・エリシュ

魅力的な神話であるが、どうしてもギルガメッシュ叙事詩と比べると地味であり、エヌマ・エリシュそのものを題材とした作品は少ない。


Fateシリーズ

ただし、バビロニアの創造神話においては、天地を切り分ける剣という描写は見つかっていない。

またティアマト(Fate)に創造された混成獣が登場する、紀元前2700年のバビロニアを舞台としたシナリオ、第1部第七特異点絶対魔獣戦線バビロニアが配信された。


モン娘☆は~れむ

センシティブな作品

11の混成獣のうち、ラハブ、ムシュフシュ、バシュム、ウガルルム、ギルタブリルをモチーフとした5人のモン娘が存在する(上のイラストはウガルルムのモン娘であるアンジェリカ)。

元から5人しかいなかったのか、原典通りあと6人メンバーがいたのか、そのあたりの詳細は一切語られていないため不明。


一部では、本当は11人実装したかったが、ギルタブリルまでを追加した段階で本ゲームのサービス終了が決まってしまったため、結局5人だけになってしまったのではないかという憶測もある。


参考文献


「筑摩世界文学体系1 古代オリエント集」 三笠宮崇仁、杉勇編 筑摩書房

「古代オリエント事典」 日本オリエント学会編 岩波書店

「古代メソポタミアにおける混成獣グループ(ティアーマトの被造物) マルドゥク神学構築と転用のための戦略的手段」柴田大輔 宗教学年報XVI

「Gods Demons and Symbols of Ancient Mesopotamia」 University of Texas Press

「Babylonian Star Lore」 Solaria Publications


関連タグ

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