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墓場鬼太郎(竹内寛行版)

はかばきたろうたけうちかんこうばんあるいははかばきたろうたけうちひろゆきばん

水木しげるによる貸本漫画『墓場鬼太郎』の最初期に、貸本出版社・兎月書房の独断で分岐した作者の違う別作品。
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概要

1960年、水木しげるは、兎月書房が墓場鬼太郎への原稿料を支払わないため同書房と絶縁、軸足を三洋社(後の青林堂)のガロに移して「鬼太郎夜話」を執筆する。


兎月書房はこれに対抗して、同じ紙芝居作家出身の竹内寛行(たけうち かんこう/ひろゆき)を作者に据えて続きを担当させた。

これが竹内版墓場鬼太郎で、兎月書房から出版された『墓場鬼太郎』は結果的に全19巻にも及ぶ異例の大長編となったが、そのうち第4~19巻までが竹内によるものである。

  • なお、兎月書房から出版された「墓場鬼太郎」シリーズには、1~3巻までが「著・水木しげる」、4~19巻は「原作・伊藤正美 画・竹内寛行」とクレジットされている。伊藤正美は墓場鬼太郎の原点である紙芝居作品「ハカバキタロー」の作者。

1962年、水木は兎月書房と和解。竹内版はこの時点で打ち切られ、単行本も絶版。その存在は表舞台から姿を消すこととなった。



内容と評価について

「水木の絵より画力も劣り、グロテスクなだけで水木の作品に有った愛敬も乏しく味気ない」と酷評も多いが、戦後の東京下町のノスタルジックな雰囲気等については定評がある。また、「土俗的な想像力を喚起させる衝迫性には独自のものがある」とも評価されている(宇田川岳夫「オタク文化とコア・オカルトのミッシング・リンク」ジャパン・ミックス編『歴史を変えた偽書』1996年)。


登場人物の設定や性格は、”本家”の水木版と大きく異なる。一方的に利用されるだけだった水木版と異なり、鬼太郎親子と水木青年には信頼関係が見られ、地獄から生還した水木は「成見七郎」と名を変えて私立探偵に転身、鬼太郎親子とともに数々の謎に挑んでいく。おまけに口調もやたらと伝法になっている。

また、ねずみ男が早々に妖怪に殺され、その妖怪を倒して以降、鬼太郎はあまたの妖怪たちとバトルを繰り広げることとなる。他にも閻魔大王様の登場、西洋妖怪との戦争等、竹内版は後に妖怪退治のヒーローとなる水木版に先んずる部分を持っていた。

  • 竹内版の刊行は1960~61年。同時期に水木が発表していた「鬼太郎夜話」での鬼太郎親子は、周囲の人間に災いをもたらす不吉な存在のままで、他の妖怪たちの悪巧みに巻き込まれることがもっぱらだった。

今も昔も、バトルものは少年たちにウケる大きな要素であり、竹内版墓場鬼太郎は当時、水木版よりも高い人気を得ていたという。実際、水木の手による第1~4巻を除いても、同時期に三洋社から刊行されていた白土三平の人気作品、『忍者武芸帳』全17巻に迫る巻数であり、これは当時の漫画界としては破格のものだった。


水木は兎月書房との和解後、「怪奇一番勝負」からの続編として「霧の中のジョニー」を執筆するが、このころから「不気味で不吉な妖怪の子供」だった鬼太郎が、「人間に害をなす妖怪を退治する、正義の味方」としての変化を見せ始める。そのため、竹内版の鬼太郎が水木に影響を与えたとの指摘も行われている。



作品を巡るトラブルについて

以下、竹内版墓場鬼太郎を巡る水木と兎月書房のトラブルについては、後述する籠目舎の代表、伊藤徹の著述で語られているものである。


竹内は水木と元々友人であり、竹内自身鬼太郎のファンだった。そのため竹内は、兎月書房から「墓場鬼太郎」の続きを描くよう依頼されたとき、作品を惜しむ気持ちから、水木に「1巻だけで良いから描かせてくれ」と頼んだとされる。この申し出に加えて、紙芝居の衰退による作家の貧窮を身に沁みて知っていたことも、水木が竹内による引継ぎを黙認した理由と言われる。このときの約束では「1巻のみ、番外編として」のはずだった。


しかし、兎月書房はその後も竹内に執筆を続けるよう強要、書房に首根っこを押さえられ、生活に困窮していた竹内は仕方なく描き続けた。

結局、兎月書房が未払いの原稿料を支払うことと、竹内版の中止を約束する代わりに、再び水木が同書房から作品を出版する事で和解が成立。そして生まれたのが河童の三平だったという。

  • ただし、水木の弟子であり研究家でもある作家・京極夏彦は「2種類の鬼太郎物語があることに関して、過去に深刻な本家本元争いがあった訳ではない」と述べている。


その後

その後、問題の元凶である兎月書房は倒産(結局水木は原稿料をもらえなかった。)。竹内版墓場鬼太郎も絶版となる。

一方、水木は苦節の末に週刊少年マガジンでメジャーデビューを果たし、墓場鬼太郎は「ゲゲゲの鬼太郎」と改題されてアニメ化、やがて国民的ヒーローへと成長していった。


その陰で竹内版はタブー的な扱いを受け、知る人ぞ知る存在となっていたが、2004年ごろ、同人グループ「枚方映画研究会」により「ゾッキ本」、つまり著作権を無視した海賊本として復刻される。

  • もちろん違法行為なのだが、もはや一部のマニアの間で名前のみが知られる有様となっていた作品を掘り出し、再び世に出すことに対して、枚方映画研究会を評価する意見もあった。

しかし、同会の出版物がヤフーオークション(当時)に出品されて耳目を集めた結果、枚方映画研究会は「著作権をないがしろにし、暴利を貪る悪徳グループ」として強い批判を浴びることになる。結局、同会は解散し、竹内版墓場鬼太郎は再び絶版となった。


ところがその数年後、水木作品を多く取り扱っていることでマニアに知られていた、大阪の古書店「梅田古書倶楽部・籠目舎」が出版社を介さない自主流通本として再復刻。

こちらは権利問題をクリアしていたのか批判を受けることはなかったが、その分、全6巻で31,500円也と価格もマニア向け。それでも幻の作品となっていた竹内版を入手できる貴重な機会ではあった。

しかし2013年8月、籠目舎の代表である伊藤徹が死去。籠目舎は閉店し、竹内版墓場鬼太郎はまたもや、闇の中へと姿を消した。

  • そのほかには「まんだらけ」中野店店長・辻中雄二郎らによる自費出版レーベル「グッピー書林plus」が「竹内寛行 EXPERIENCE0 墓場鬼太郎」と題し、数編を収めたムック本を発行した例がある。

2021年8月現在、兎月書房から正式出版された竹内版墓場鬼太郎は、古書店で一冊あたり数万円、全巻セットで100万円近い高値となっているため、よほどの好事家でもない限り、全編を目にする機会はない。ただし、グッピー書林plusのムック本は古本が5,000円程度で流通している。また新潮OH!文庫の「消えたマンガ家―アッパー系の巻」には竹内寛行についての章が設けられ、その中で作品の一部を目にすることができる。こちらは新品が手頃なお値段で売られているほか、古本が安値で手に入るので、興味のある人は購入し、その魅力に触れてみるのもいいだろう。



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