江戸川乱歩(本名:平井太郎、1894‐1965)とは、日本の小説家(推理作家)である。文豪とも。筆名は推理小説の父エドガー・アラン・ポーに由来する。「乱歩」と略される事も多い。
他記事への誘導
- 『文豪失格』の登場人物 → 江戸川乱歩(文豪失格)
- 『文豪ストレイドッグス』の登場人物 → 江戸川乱歩(文豪ストレイドッグス)
- 『文豪とアルケミスト』の登場人物 → 江戸川乱歩(文豪とアルケミスト)
- 『ラヴヘブン』の登場人物 → 江戸川乱歩(ラヴヘブン)
概要
『日本推理小説の父』にして、国内サブカルチャーの仕掛け人
日本を代表する推理作家の一人。名探偵明智小五郎・怪人二十面相の生みの親としても有名。「探偵小説」を象徴する存在。
1923年に『二銭銅貨』が雑誌「新青年」に掲載されデビュー。同作は、日本の推理小説界が翻訳期を脱し創作期に入る転換点となった。
その後、謎と論理を中心とする「本格」と怪奇と幻想の横溢した「変格」の両方に優れた作品を発表し、前後して登場した小酒井不木・甲賀三郎・横溝正史らと共に、探偵小説を独立した文学ジャンルに築き上げた。
その名を冠した江戸川乱歩賞は、推理作家を志す者の登竜門とされる。
2016年には、著作権の保護期間が終了し、青空文庫(作品ページ)などでも作品の公開が始まった。
また、大衆向け通俗長編や少年向けの少年探偵団シリーズで推理小説読者の裾野を広げた他、推理小説の評論、海外推理小説の紹介、新人推理作家の発掘、SF等の隣接分野への支援、日本推理作家協会の創立などにも尽力した。
その広範かつ深甚な貢献、推理小説界における存在の絶大さから、しばしば「巨人」「大乱歩」とも称される。
乱歩の発掘・養育した人物一覧
乱歩が見出した・世話をした人物は数多く、中には相当なビッグネームが揃っている。
- 横溝正史…代表作「獄門島」「犬神家の一族」
- 松本清張…代表作「黒革の手帳」「砂の器」
- 高木彬光…代表作「刺青殺人事件」「白昼の死角」
- 山田風太郎…代表作「甲賀忍法帖」「魔界転生」
- 大坪砂男…代表作「天狗」。また孫にも文才は引き継がれている。
- 香山滋…代表作「ゴジラ」(原作)
- 星新一…代表作「ボッコちゃん」「午後の恐竜」
- 大藪春彦…代表作「野獣死すべし」「汚れた英雄」
……どの作家、作品も文芸界に与えた影響は現在でも計り知れず、彼自身の作品も繰りかえし新たに出版されていてその人気は衰えない。
『本格』と『変格』の狭間で
一方で怪奇幻想や異常心理の代名詞のように扱われることがある。理由は、戦傷によって四肢欠損になった夫とその衰えぬことのない性欲に付き合う妻を描いた『芋虫』などのようなかなりアナーキーな作品も執筆しているため。その実、エロスと猟奇とシュールのジェットストリームアタックであるエログロナンセンスの確立にも大きな足跡を残している。
というのも、乱歩自身がかなりマジメに当時はおぼろげな概念だった『ミステリー』とはなにかという定義に意欲的であったのが原因とされる。
今日的なミステリーというジャンルが確立するまでは、なんとこの係累は「ストーリー経過と共に徐々に謎などの伏線が回収される」という構図からSFや伝奇、冒険物、等々を一緒くたに捉えられるケースが多かったのである。上述にもある乱歩自身の尽力もあり、これらは徐々に個別ジャンルとしての道を歩みだすが、結局さいごまで決定的に分離することなく国内のミステリー界隈で並立した二大ジャンルこそが『本格』と『変格』であったのである。
『本格』とは何か。それは探偵と犯人、両者が謎を介して対峙する一般的な探偵・推理小説である。シャーロックホームズ以来の伝統ともいえる。
では『変格』とは何か。解釈は様々だが、必ずしも探偵役は登場せず、しかし前述の「芋虫」のように奇怪な内容のストーリーが経過するにつれて登場人物の心の闇が浮かび上がる方向に力点を置いたものであった。すなわち怪談かつ人怖ーーーホラー小説というわけである。
???「まあ、ご自身のペンネームじたいがあの『ポー御大』のまんま捩りですからねえ。リスペクトというか、私の主人と同じく寝る前に怖い話しを読んでしまうようなお方だったのでしょうね。とはいえ、御大のゴシックホラーと推理ものをない交ぜにしたような作風までだいぶ似通っているのはどうかと思われますが。」
???「……お前は誰と喋っているんだ?」
乱歩は「人間の深層心理に迫る(大意)」という趣向のもと両ジャンルの作品制作を精力的に行った。そして、それは最終的に両者の雰囲気や構成の合成状態になっていった。
その結果が『怪奇幻想や異常心理の代名詞』というわけである。
……つかりどういうことか? と、いまいち分からない人は「人間椅子(リンク:青空文庫)」とか「人でなしの恋(リンク:青空文庫)」あたりを読んでみるとよろしい。
本格&変格の究極は、「パノラマ島奇談」や「人間豹」あたりか。
極端なはなし、戦後に成立するガロ系の思想根源はエログロナンセンス隆盛時代に活躍した大乱歩や夢野久作あたりにそれを求めればだいたいあってる。
江戸川乱歩以後……
上述のように国内のミステリー及び隣接ジャンルの成立に大きな足跡をのこした江戸川乱歩であったが、最終的に自身の作品の影響でついてしまった「ミステリー=本格&変格」といったさながら悪魔合体じみたイメージは、そっち系に耐性の無いユーザーから気持ち遠巻きにされる一因にもなっていた。
評論家の権田萬治は、著書『日本探偵作家論』において、乱歩の長編は翻案など一部を除きほとんどがプロットに破綻をきたしていると述べ、作品としての完成度を批判している。乱歩と長年親交のあった中島河太郎は、1974年刊の『小学館万有百科事典』(ジャンルジャポニカ)においてミステリー市場拡大の貢献を評価する一方で、その低俗性を認めざるを得ないとしている。
そんな中で1957年に発表された「点と線」等々で社会派ミステリーを確立した松本清張の登場はミステリー界隈だけでなく国内全体のサブカルチャーに衝撃をもたらした。
今日的な刑事ドラマの基盤になった清張の諸作品を各マスコミはこぞって持て囃し、その勢いは半ば「社会派にあらずんばミステリーにあらず」といわんばかりであったという。
乱歩は、清張を激励する一方でもう自分の時代は過ぎ去ったと感じたとされる。1965年(昭和40年)7月28日、蜘蛛膜下出血のため東京都豊島区池袋の自宅で70歳で没した。同31日、長年の功績が評価され正五位勲三等瑞宝章を追贈された。
清張の登場によってミステリーはより大衆化したとされる。これを松本清張以後とよぶ。
しかし、これによって従来の「謎と論理」を基調にした本格ミステリーが大多数のメディアから事実上否定されたことに不特定多数のミステリーユーザーが不満を抱くことになった。
そんな思いが結集したのが、1987年に発表された綾辻行人による『十角館の殺人』である。
作品冒頭、とあるキャラクターが「昨今の社会派ミステリーばかりが持て囃される風潮くっだらねえ(要約)」と述べながら始まるこの作品は『そして誰もいなくなった』をはじめとする著名ミステリーのオマージュをふんだんに盛り込みながら新時代の本格ミステリーを目指したものであった。
この作品よりはじまるムーブメントは新本格とよばれることになり、本格ミステリーの系譜はここに復興を遂げた。有栖川有栖はこれ以降を綾辻行人以後と称した。
江戸川乱歩の系譜はまだまだ続いていくーーーー。
主な作品・記事のある作品
- 二銭銅貨
- D坂の殺人事件
- 屋根裏の散歩者
- 人間椅子
- 人でなしの恋
- パノラマ島奇談
- 悪魔の紋章
- 陰獣
- 孤島の鬼
- 芋虫
- 押絵と旅する男
- 黒蜥蜴
- 人間豹
- 怪人二十面相(少年向け作品)
- 幻影城(評論集)
- 探偵小説四十年(自伝)
- 盲獣
- 蜘蛛男
- 悪霊
ブックガイド
乱歩作品は、一般的に短編の評価が最も高く、また、初期短編のアイディアを後の作品で再利用している場合も少なくない。
そのため、定評のある短編(D坂・赤い部屋・屋根裏・人間椅子・人でなし・鏡地獄・芋虫・押絵など)から読むことを薦められることが多い。
なんとその大半が昭和初期特有のアレな傾向の作品だァ! ようは上述した一歩間違えれば「ホラー小説」ばかりィ! ピュアな精神の少年少女には正直重いしキツいィ!! 読む場合は情緒や人間の「業」的に心に保険を打っておこうォ!!!
その他、下記サイト「乱歩の世界」の「これから読まれる方へ」なども参考になる。
外部リンク
江戸川乱歩(声と映像でたどる人間往来)
幻のふるさと:三重県名張町(現:名張市)
乱歩と大大阪:大阪府