概要
慶応3年3月10日（1867年4月14日）、伊東甲子太郎は思想の違いから近藤勇、土方歳三らと袂を分かち藤堂ら十数名を引き連れ新撰組を離脱し御陵衛士（高台寺党）を結成した。
薩長の動向を探るための「新撰組の別働隊」という名目だったが、伊東をはじめ御陵衛士は逆に薩長と接触して勤王倒幕運動に勤しんでおり、薩摩藩と通謀して近藤を暗殺しようと企んでいることを、新撰組が間諜(スパイ)として潜り込ませていた斎藤一から聞き明らかとなった。(諸説あり)
伊東甲子太郎の暗殺
同年11月18日（12月13日）、近藤は資金用立てや国事のことで語り合いたいと伊東を妾宅(別宅)に招いてしこたま酒を飲ませ酒宴を張っていた。そして伊東は高台寺への帰路途中に待ち伏せてた新撰組隊士の大石鍬次郎ら数名に襲撃された。この時伊東は槍で(首の辺りに)深手を負ったが一太刀敵に浴びせ、「奸賊ばら」と叫んで、本光寺の石塔前で絶命したという。
御陵衛士の壊滅
新撰組は伊東の遺体を七条油小路の辻に放置し、遺体を引き取りに来た御陵衛士を一網打尽にしようとした。午前0時頃御陵衛士屯所に伊東が暗殺されたことや遺体を引き取りに来るようとの知らせが届く。
この時遺体を引き取りに来た衛士側は篠原泰之進、鈴木三樹三郎、加納道之助、服部武雄、毛内監物、富山弥兵衛、そして試衛館以来の同志だった藤堂平助の7名だった(阿部十郎や新井忠雄らは出張、外泊中で不在だった)。
そして伊東の遺体を運ぶために駕籠と共に来た御陵衛士7名に対して新撰組は40～50名で取り囲み得意の集団戦法で襲い掛かる。そして、この事件で藤堂、服部、毛内の3人が討死した。
- 藤堂に関しては、近藤と試衛館以来の同志である永倉新八と原田左之助が逃がそうと試みたものの、近藤の心情を酌めなかった他の隊士に斬られた。(額から鼻にかけての傷は長さ約21cm、深さ6cmに達しておりほぼ即死であった)
- 毛内は「毛内の百人芸」と呼ばれたほどに多才の人物で槍なども使えたようだが、その遺体は五体バラバラで無惨だったらしい。(この時脇差を握ってたそうな)一説には早い段階で太刀が折れ、其の隙を見せた為か新選組隊士に集中的に攻撃され、脇差での奮闘も及ばぬままに前述のような悲惨な最期となったという。
- 服部は隊内でも相当な二刀流の使い手として鳴らしていたため、服部の孤軍奮闘は鬼気迫るものがあったという。民家を背にして激戦し、新撰組にも多数の負傷者を出したが、最後は服部の大刀が折れたスキを狙って原田が槍を繰り出し、一斉に斬りかかって絶命した。
生き残った4名は薩摩藩邸へ逃げ延び(後に不在だった阿部・新井らも今出川薩摩藩邸に合流)、これにより御陵衛士は壊滅した。
翌朝、事件があった現場には折れた刀や多数の親指が落ちていたと残っている。(衛士側は北辰一刀流の使い手が多く、親指を狙って斬り落とし刀を握れなくする戦法がある)
諸説
近藤勇を暗殺しようと企んだと言われる伊東らだが近藤を暗殺しようとしたものがないため、近藤暗殺計画自体が存在しなかったとの説もある。また御陵衛士が江戸幕府と敵対していた長州藩に対して寛大な処分を主張する建白書を提出したことが、長州厳罰論を説く近藤を激怒させ、油小路事件につながったものといわれている。
この他にも油小路事件の3日前に近江屋で坂本龍馬らが暗殺されていて(近江屋事件)、当時は新撰組の仕業とされていた(御陵衛士もそう見ていた)。この件で衛士の一人阿部十郎は薩摩藩邸に保護するよう頼んだが元新撰組だったことから信頼されず何か手柄を立てなければ無理だと突っぱねられている。この時の対応策や案件を検討してたが間者として潜り込んでた斎藤一に筒抜けになってて「近藤暗殺」はこれらの対応策が誇張されたものだったとも。しかし、真相は謎である。
その後
伊東らの遺体はしばらく放置してあったが、光縁寺に埋葬されたがその後、慶応4年（1868年）2月頃、鈴木らによって泉涌寺塔頭戒光寺に改葬された。
この事件の約一ヶ月後近藤は二条城からの帰り道、伏見街道で御陵衛士の残党に狙撃され右肩を重傷し、また沖田総司は療養中に暗殺されかけた。(場所を移してたことで助かった)
戊辰戦争時、劣勢となった近藤は流山で大久保大和（剛）と称して新政府軍に出頭したが、新政府軍に加わっていた元御陵衛士の加納らに正体を看破されて捕縛され、ついに斬首となった。このことから油小路事件は後に新撰組側にも大きな爪痕を残すことになった。
