概要
ガラスや金属、セラミックで作られた容器に電極を配置し、管の中を真空又は低圧にして希ガスや水銀を封入した構造を持つ素子。
日本ではブラウン管やテレビカメラ用撮像管、放射線源管、プラズマディスプレー、放射線計数管(ガイガー=ミュラー計数管)なども含むことがあるが、厳密な意味においては真空管とは異なるので注意。
原理
陰極を高温にして熱電子を放出させ、それを磁界や電界で制御する。
特徴
利点
- 構造が単純なので、絶縁破壊などによる不可逆的な損傷が少ない。
- 電荷の担い手が自由空間中の電子であるため、半導体に比べ担い手の移動度が高い。
- 高い耐圧を持つ。⇒軍事面では電磁パルス攻撃に強い。また、民生用においても1990年代初頭まで、ラジオの送信機(特に親局)には真空管方式が安定した性能を理由に多く使われていた。固体化(半導体化)した機材に更新しようとしたら上役の説得に難儀した会社があったほど。
欠点
- 熱電子を放出させるという原理上、発熱するため消費電力が多い。
- 寿命が短い
- トランジスタに比べると素子単価が高い。大量に作った結果今はトランジスタは1個数十円である。
- 小型化・耐震性に難がある。
用途
過去に実用されていた用途
現在では、これらの用途は殆ど半導体に取って代わられている。
実用用途
- 高周波大電力用素子(放送局:大出力送信、防衛省:大出力レーダー)
- 電子レンジ(「マグネトロン」というマイクロ波発振専用の真空管が使われている)
- ブラウン管アナログテレビの画面そのものが一種の真空管である。
- 核融合用マイクロ波発生源(将来期待される用途)
ホビー用途
動作
二極管
構造
陰極となるフィラメントの周りにアノード(陽極、形状からプレートともよばれる)と呼ばれる電極が配置されている。
動作
フィラメント(カソード、陰極)から放出された電子はアノードにかかる電圧がカソードに対してプラス(正)寄りかマイナス(負)寄りかで挙動が変わる。
アノードがプラスの電圧の時はカソードから放出された電子はアノードのプラスの電荷に引き寄せられ電流が流れる。逆にマイナスの電圧の時はマイナスの電荷に押し戻され電流は流れない。
このため、一方方向の電流のみ流す(整流)ことができる。
同じ動作の半導体
ダイオードが同じ動作をする。ダイオードの名前の由来は二極管が電極が2つの真空管だったため、「2」を意味する"Di"と「~管」の"ode"からDiode(ダイオード)という名前であり、それと同じ動作をするため、「半導体ダイオード」→「ダイオード」となった。
三極管、四極管、五極管
構造
二極管のカソード~アノード間に「グリッド」という、その名のとおり網状の電極がある。四極管や五極管はアノードから反射した電子による影響を避けるためにカソードやアース(接地極)に接続して動作の安定を図る第二、第三のグリッドが追加されている。
動作
カソードから放出された電子はアノードへ向かって移動するが、途中にあるグリッドに電圧をかけることによってカソードへ向かう電子の流れを加速したり抑制したりする。これにより、アノードへ到達する電子の量が変化するので増幅ができる。
同じ動作の半導体
電界効果トランジスタが電圧で電流を変化させるため、同じ動作をする。ちなみにバイポーラトランジスタは電流の変化で電流を変化させる素子。
カソードの加熱方法
フィラメントそのものがカソードの直熱式とフィラメントでカソードを加熱する傍熱式とある。
求められる性能 | 直熱式 | 傍熱式 |
---|---|---|
予熱時間 | 短い | 長い |
陰極電圧 | フィラメント電圧⇒制約あり | 回路のマイナス極電圧⇒制約が少ない |
熱電子放出効率 | フィラメントの材質に縛られる | カソードに適切な材質のものが使用できる |
フィラメントの加熱について | 交流を使うとハムノイズ(※)が乗る | 交流をかけてもハムノイズは殆ど乗らない |
一般には利点の多い傍熱式が多く使われた。
※…交流電源由来のノイズ。身近なところだと、安物のACアダプタ付きのアンプ内蔵スピーカなどで音を出していないときに聞こえる「ブーーーーー」という音。