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明治22年法律第34号

けっとうざいにかんするけん

決闘に関するあらゆる行為を罰する日本の法律。この法律には『題名』がないため、このようなタイトルになってしまった。
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概要

日本における特別刑法のひとつで、明治22年(1889年)に制定された、実際に行われた決闘の当事者とその決闘に関与した者を罰するのみならず、決闘を申し込み、これを受けて立つ行為まで罰する法律である。
現行の刑法が制定される前の大日本帝国憲法が制定された同じ年に制定されたもので、大日本帝国憲法が日本国憲法に改正された後も、この法律に関しては改正されることもなく制定時のまま現行法として生き残っている日本の法律界における生きた化石である。
この法律には、冒頭での説明のとおり『題名』がなく、便宜的な『件名』として『決闘罪ニ関スル件』という名が与えられており、片仮名の部分を平仮名で書いても構わない。

制定に至った経緯は、当時、欧米の事物が日本国内へ大量に持ち込まれた中に『決闘』があった他、それまでの日本にも『果し合い』という風習があり、それを放置することによって欧米の決闘文化と日本の果し合い文化が融合して日本国内に蔓延する悪影響を鑑みてのものである。

また、不思議なことに、このような刑罰を規定している刑法以外の法律では、その行為を禁止する条文があるのが普通なのであるが、この法律には決闘をし、決闘に関与したことに対する罰則はあっても、『何人も決闘をしてはならない』のような決闘を明確に禁止する条文がない。

法律全文

全6か条しかないため、現行の状態で全文を掲載する。
制定以来、改正が行われていないため、この状態が現行なのである。

全文

朕決鬪罪ニ關スル件ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム
御名御璽

明治二十二年十二月十八日

                               內閣總理大臣 伯爵 山縣有朋
                                 司法大臣 伯爵 山田顯義

法律第三十四號

第一條 決鬪ヲ挑ミタル者又ハ其挑ニ應シタル者ハ六月以上二年以下ノ重禁錮ニ處シ十圓以上百圓以下ノ罰金ヲ附加ス
第二條 決鬪ヲ行ヒタル者ハ三年以上五年以下ノ重禁錮ニ處シ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ヲ附加ス
第三條 決鬪ニ依テ人ヲ殺傷シタル者ハ刑法ノ各本條ニ照シテ處斷ス
第四條 決鬪ノ立會ヲ爲シ又ハ立會ヲ爲スコトヲ約シタル者ハ證人介添人等何等ノ名義ヲ以テスルニ拘ラス一月以上一年以下ノ重禁錮ニ處シ五圓以上五十圓以下ノ罰金ヲ附加ス
 情ヲ知テ決鬪ノ場所ヲ貸與シ又ハ供用セシメタル者ハ罰前項ニ同シ
第五條 決鬪ノ挑ニ應セサルノ故ヲ以テ人ヲ誹謗シタル者ハ刑法ニ照シ誹毀ノ罪ヲ以テ論ス
第六條 前數條ニ記載シタル犯罪刑法ニ照シ其重キモノハ重キニ從テ處斷ス

逐条解説

  • 第一条
    • 決闘を申し込んだ者、決闘を申し込まれて応じた者に対する罰則。
    • 刑罰の内容は、六月以上二年以下の重禁錮とした上、十円以上百円以下の罰金を併せて科すというものである。
    • 口約束でも成立するのであろうが、『果たし状』や『決闘状』のように紙媒体の文書となって明文化されている物があると、の成立は決定的である。また、現代流で言うならLINE電子メール等を使用して当事者間の意思疎通が行われ、決闘を行う合意に至った経過が記録となってはっきりした場合も本条による罪から逃れられるものとは思えない。
    • この条文では、決闘を申し込まれたら断らなければいけないということになる。
  • 第二条
    • 決闘が実際に行われた場合における決闘の当事者に対する罰則。
    • 刑罰の内容は、二年以上五年以下の重禁錮とした上、二十円以上二百円以下の罰金を併せて科すというものである。
    • 現場を押さえれば、当然、現行犯である。
    • その場の言葉の応酬で決闘することが決まった場合、多くは、この時点になるまで発覚しないことが多いと思われる。
  • 第三条
    • 決闘を行ったことによって人を殺傷する結果に至った場合は、刑法の該当する条文によって判断するというもの。
  • 第四条第一項
    • 決闘に立ち会い、または決闘への立ち合いを約束した者に対する罰則。
    • 刑罰の内容は、一月以上一年以下の重禁錮とした上、五円以上五十円以下の罰金を併せて科すというものである。
    • この条文で注意しなければいけないのは、決闘に立ち会うことが罪なのであって、役目の呼び名(決闘立会人、証人、介添人等)は関係ないということである。
    • 本条の立場の者がヒートアップして決闘に参加してしまった場合は、第二条に規定する決闘の当事者に早変わりするので要注意。
  • 第四条第二項
    • 決闘のために使用されることを知っていて場所を提供した者に対する罰則。
    • 刑罰の内容は、決闘に立ち会い、または決闘への立ち合いを約束した者に同じ。
    • 要するに「決闘をするから庭を使わせてくれ」と言われても使わせてはいけないということである。
  • 第五条
    • 決闘を申し込んで断られた場合において、相手の名誉を貶める言動をした場合は、現行刑法の『名誉毀損罪』によって判断するというもの。
    • この条文は、決闘を申し込まれて断った者の名誉を保護するものである。要するに決闘を断られたからと言って、相手に「このチキン野郎、逃げんじゃねえ!」と言ったり、周囲に「あの野郎、俺の決闘を受けないチキン野郎なんだぜ」とか言いふらしてはいけないということである。
  • 第六条
    • 前条までにかかわらず、その行為が刑法による刑罰の方が重い場合は、刑法の該当条文によって判断するというもの。
    • 第三条と合わせ、この法律の違反によって摘発される件数が少なくなる要因である。

注意

  • この法律に登場する『刑法』とは明治13年に制定された旧刑法のことである。この法律は現行の刑法が制定される前からある法律なので『刑法施行法』という法律と併せて解釈する必要がある。
    • 『重禁錮』という刑が登場しているが、これを刑法施行法第二条によって読み替えると有期懲役ということになる。
    • この法律では罰金刑が併科されているが、これを刑法施行法第三条第三項に照らし合わせると、『刑の併科はせず、重い方の刑を適用する』、『複数の刑から選択するものにあっては、重い方の刑を適用する』とあることから、罰金の併科は廃止されたことになる。
    • 第五条に登場する『誹毀ノ罪』は、刑法施行法第二十二条第一項によると『刑罰に旧刑法の規定を掲げているものについては、刑法に当該行為が該当する罪があれば、そちらに変更する』となっているので、現行の刑法と照らし合わせると『名誉毀損罪』に該当する。


用語の定義について

通常、法律では、条文に登場する抽象的に表現される行為、固有名詞等について、その語が何を表しているかを明確にする条文があり、このことを『定義』という。
この辺を明確にしておかないと、行政の拡大解釈によって、その法律による規制が濫用されてしまうのである。
特に刑罰を規定している法律にあっては、行政の拡大解釈で恣意的に運用されるようなことだけは避けなければならない。

しかし、この法律では『決闘』という語が何を表しているか明確にされていないのである。
このことについて、大審院、最高裁判所は、次のような判断を下している。
共通する点は、どちらも「当事者の合意により、暴力に訴えて闘う行為」である。
よって、暴力によらない方法で勝負するものであれば、本法律における『決闘』には該当しないことになる。

  • 明治40年(れ)第916号【明治40年10月14日 大審院第二刑事部宣告】
    • 「当事者ノ人員如何ヲ問ハス兇器ノ対等ナルト否トヲ論セス合意ニ因リ身体生命ヲ傷害スヘキ暴行ヲ以テ相闘フ行為」
    • この大審院の宣告では、『決闘』という行為について、「当事者間の合意により、身体生命を傷害すべき暴行をもってお互いが闘う行為」としており、さらに「当事者の人数、事のなりゆきを問わない」、「使用される凶器についてもそれが対等であるかそうでないかについて論ずる必要はない」ともしている。
  • 昭和24年(れ)第1511号【昭和26年3月16日 最高裁判所第二小法廷判決】
    • 「当事者間の合意により相互に身体又は生命を害すべき暴行をもつて争闘する行為を汎称するのであつて必ずしも殺人の意思をもつて争闘することを要するものではない。」
    • この最高裁判所の判決では、『決闘』という行為について、「当事者間の合意があることを前提に、当事者がお互いに身体又は生命を害すべき暴行をもつて争い闘う行為」を包括して『決闘』と判断し、さらに「相手に対しての殺意があるかは無関係」としている。

適用の状況

この法律は、制定以来、ほとんど適用の機会がなく、20世紀が終わるころには『過去の遺物』となっていた。
しかし、21世紀に入ってから、『タイマン』と呼ばれる行為が本法律における『決闘』に該当すると判断されてからは、暴行罪や傷害罪といった罪状では処理が困難な事件で摘発する際に適用されるようになった。
ちなみに2005年における、この法律の違反での検察庁の受理人数は34人である。

関連タグ

法律 決闘

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