概要
F-22(およびYF-23)誕生のきっかけとなったアメリカの先進戦術戦闘機(ATF)計画に対抗するようにソ連が打ち立てた多機能前線戦闘機(MFI)計画。それに応じてミコヤン設計局が提示した次世代戦闘機プランが1.42であり、その概念実証機として製造されたのが1.44であった。便宜的にMiG-1.44とも呼ばれるが、制式化されていないので正確な名称は「1.44」である(MiG-23は「23-11」、MiG-29は「9」など、ミコヤン設計局ではしばしば試作機名を数字だけにすることがあった)。NATOコードネームはフラットパック。
エンジンには世界で始めて実用化された可変サイクルジェットエンジンであるAL-41F(アフターバーナー使用時:176kN)を双発で搭載・超音速巡航能力を獲得している。
※追記:AL-41F1及びAL-41F1S(117S)ターボファンジェットエンジンは、AL-41Fの名を冠してはいるが、AL-31F系統のターボファンエンジンにAL-41Fの技術を盛り込んだ大幅な改良型であり、AL-41Fとは別系統である。純然たるAL-41F系統の可変サイクルジェットエンジンの改良・量産型がIzdeliye 30エンジンである。
機体形状は当時欧州で流行していたカナード付きデルタ翼で、アメリカ製第5世代機ほどステルスに徹底した設計にはなっていないが、これは1.44があくまで飛行特性などを実証するためのデモンストレイターとして製作されたためであり、実用型1.42はよりステルスを意識した設計で製作されるはずであった。
MFI計画はソ連崩壊の煽りを受けて事実上計画中止となり、試作機の初飛行すら各設計局の自腹で行わなければならない状態に追い込まれた。Su-27のセールスで儲けていたスホーイはS-37をバンバン飛ばしていたが、MiG-29販売のスタートダッシュに失敗したミコヤンは中々飛行代を捻出できず、1.44は数回飛んだだけで倉庫に押し込まれてしまった。その後の音沙汰が全くなかったためスクラップになったとの憶測も飛んでいたが、近年の航空ショーで久々にお披露目されいまだ健在であることを知らしめた。もっとも、PAK-FAが飛んだ今では1.44および1.42が採用される見込みは皆無と言ってよく、残された機体の行末はスクラップか博物館入りしかないと思われる。
ちなみに1.44(1.42)の派生型として、単発機版である「4.12」と呼ばれる計画案が存在する。こちらはMFIとハイローミックスするはずだった軽量前線戦闘機(LFI)計画の候補機だったが、現在開発中のLMFS計画機(PAK-FAとハイローミックスする予定)に転用することも考えられているようだ。そうなると似たような外形を持つ1.44がテストに用いられることもあるかもしれない…。
MiG-1.44(2000年2月29日初飛行)
派生型
- MiG-49
MiG-1.44ベースのステルス双発艦載機(『V・V・チホミーロフ記念機器製作科学研究所(NIIP)』開発『ベルカ(N050)』AESAレーダー標準搭載)。2021年7月20日(火)から7月25日(日)まで、モスクワ・ジュコーフスキー飛行場で開催された『MAKS国際航空ショー2021』にて開発計画の実態が披露された。MiG-49に搭載される『Izdeliye-30』噴式推進器の総推力は他国の第5世代双発戦闘機の推力を凌駕しており、ミリタリー推力でも11トン×2基(合計推力22トン)、アフターバーナー使用時には19トン×2基(合計推力38トン)にも達する。なお『Izdeliye-30』噴式推進器は、『亜音速飛行の際はターボファンジェットエンジン / 超音速飛行の際にはターボジェット』に噴式推進器内部の機構が切り替わる事により、超音速巡航能力の獲得と燃費向上に伴う航続距離延長に貢献している。
※【『MAKS国際航空ショー2021』にて披露されたMiG-49ステルス艦載機モックアップ(上部及び底部)】
現行の第5世代双発ジェット戦闘機との比較
開発国 | 噴式推進器 | アフターバーナー出力 | 搭載機種 |
---|---|---|---|
ロシア連邦共和国 | Saturn Izdeliye-30×2 | 186.3kN×2 | MiG-49 |
アメリカ合衆国 | Pratt & Whitney F119-PW-100×2 | 156kN×2 | F-22 ラプター |
ロシア連邦共和国 | Saturn AL-41F1×2 | 147kN×2 | Su-57 フェロン |
中華人民共和国 | Shenyang WS-10C×2 | 142kN×2 | J-20 ファイヤーファング |
中華人民共和国 | Shenyang WS-19×2 | 110kN×2 | J-31 ジルファルコン |
関連タグ
Su-47 - 1.44のライバル機。
J-20 - 中国製ステルス機。レイアウトがMiG-1.44と似ている。
アレン・C・ハミルトン - エースコンバット5の登場人物。終盤でMiG-1.44を使用。
ミロシュ・スレイマニ - エースコンバットX2 ジョイントアサルトの登場人物。ストーリー途中で専用のカラーが施されたMiG-1.44を使用するが終盤で架空機であるGAF-1ヴィルコラクに乗り換える。ちなみにエースコンバット インフィニティにおいてスレイマニ仕様のMiG-1.44が存在する。