「ビアトリスは実家の力で強引に俺の婚約者におさまったんだ。俺は最初から不本意だった」
王太子アーネストがそう吹聴しているのを知ってしまい、公爵令嬢ビアトリスは彼との関係改善をあきらめて、距離を置くことを決意する。
「そういえば私は今までアーネスト様にかまけてばかりで、他の方々とあまり交流してこなかったわね。もったいないことをしたものだわ」。
気持ちを切り替え、美貌の辺境伯令息や気のいい友人たちと学院生活を楽しむようになるビアトリス。
ところが今まで塩対応だったアーネストの方が、なぜか積極的にビアトリスに絡んでくるようになり――?!
概要
小説家になろうにて連載されているウェブ小説。著者は雨野六月氏。
Mノベルスfより書籍化、モンスターコミックスfよりコミカライズされている。
正式なタイトルは関係改善をあきらめて距離をおいたら、塩対応だった婚約者が絡んでくるようになりました。
主人公であるビアトリスが婚約者であるアーネストとの関係に疲れ、学園で出会ったカインと交流を重ねていくうちに心惹かれていくストーリー。
悪役令嬢タグがつけられてはいるが実際には少女漫画を思わせる内容であり、不完全で歪な登場人物たちが運命を翻弄されつつも、自身の人生を決めていく恋愛物語となっている。
あらすじ
「ビアトリスは実家の力で強引に俺の婚約者におさまったんだ、俺が望んだことじゃないって、殿下ははっきりそうおっしゃってましたわ!」
学園の生徒の令嬢に告げられ、ビアトリス公爵令嬢は打ちひしがれていた。
誰にでも優しく人気者である王太子アーネストは、しかし婚約者のビアトリスにだけは冷たく、いつも距離を取っていた。
アーネストのためにどれだけ努力を重ねてもその関係は改善されず、そういう様子を見た周囲の人間たちはビアトリスのことを「王太子に嫌われる婚約者」だと侮蔑し、ますます孤立するビアトリス。
虚しさに一人泣いていると、目の覚めるような赤毛の男性生徒と出会った。
「ビアトリス嬢、君はなにも悪くない。あいつがああいう態度を取るようになったのは、あいつ自身の問題だ」
そう語る彼に、ビアトリスは興味を持っていき……。
登場人物
小説家になろう版第一部までの主要な登場人物を紹介する。
なおキャラクターの説明においてはネタバレを含む。
- ビアトリス・ウォルトン
主人公。ウォルトン公爵令嬢。王太子アーネストの婚約者。
アーネストとは幼い頃は互いの将来を誓い合う非常に仲睦まじい仲であったが、学園に入る前から冷遇されていて、関係の修復を図ろうとしても事態をさらに悪化させてしまうという悪循環に陥っており、そのような様子を見ている周囲の人間からは面白半分に悪評をたてられ、「アーネストは婚約を望んでいない」という噂を聞き、ついに心が折れてしまう。
学園で出会ったカインの言葉や、仲良くしてくれた令嬢らの助言などから、アーネストのご機嫌取りをやめて自身も距離を置くようになり、彼を差し置いて友人と遊びに出かけたりしていくうちに心境が変化していき、アーネストと決別して生きようと思うようになる。
将来王になるアーネストの伴侶になるものとして王妃から直接を英才教育を施されており、彼女自身も未来の王妃として恥ずかしくないよう自己研鑽を怠らない真面目な努力家であるため「実際に話をすると悪評とは違う」と驚かれることが多い。
過去に悪意なくアーネストのコンプレックスを刺激するような言動をしたことが彼の態度が豹変した原因の一つなのだが、彼の持つ劣等感には気が付いておらず、また彼の態度が変わったことを誰にも相談もせずに抱え込んでしまい、ギクシャクした関係が続く要因になってしまった。
それらを知った上で、アーネストとの婚約破棄を確実なものにするため、カインと共謀してアーネストが次代の王となるために努力して積み上げてきたものを公衆の面前で踏みにじるなど、本質的には他人への共感よりも親しい人物から自分へ向けられる感情を優先する傾向にある。
王家
- アーネスト
ビアトリスの婚約者。王太子。
聡明で、誰にでも優しく常に笑顔を浮かべた青年。学園でも首位を維持し、生徒会長として忙しい事務作業にも敏腕を振るいながらも王太子としての仕事もこなす秀才で、誰からも好かれる好青年なのだが、婚約者であるはずのビアトリスにだけは冷たくそっけない態度をとっており、そのことが彼女を周囲から孤立させ悪評が立つ原因になっている。特にコミック版ではそれが強く描かれている。
一方で物事がうまく進まないときには感情を荒げてしまうことがあり、特にビアトリスに関することには顕著に表れる。
幼い頃から自分よりも遥かに優秀な腹違いの兄であるクリフォードと比較され続けており、周囲の人間だけでなく王である父アルバートもクリフォードを深く愛する反面アーネストには見向きもせず、母親であるアメリア王妃からも自身の不出来さに愚痴をこぼされる等、どれだけ努力しても決して認められることのない孤立し鬱屈した人生を過ごしていた。
ビアトリスとの婚約が決まったことを契機に次期王として認められたことで持ち直し日々研鑽に取り組むようになるのだが、周囲のクリフォードとの比較は終わることなく、また豊かな穀倉地帯を持つウォルトン公爵令嬢との婚約は「兄を蹴落とし王位を簒奪するため」のものだと噂され、さらにはビアトリスに劣等感を刺激される言動をされたことで失意に陥り、彼女に冷たい態度を取るようになってしまう。
ビアトリスのことを愛しているのだが、冷たい態度を取っていても変わらず献身してくれるため彼女から愛されることもまた当然だと考えてしまっており、自身の劣等感も相まって彼女に謝罪することもせずに過ごしてきてしまった。
彼女に距離を置かれてから慌てて今までの態度を改め関係を修復しようとするのだが、すでに手遅れであり、心の離れた彼女からは許してはもらえなかった。
策略にはめられ正式に婚約破棄された後も彼女への愛は変わらず、しかし自身への気持ちに少しずつ折り合いをつけ、前へ進もうとする。
- アルバート
現国王。クリフォードとアーネストの父親。
前王妃アレクサンドラに一目惚れして結婚しクリフォードを授かったが、彼女は産褥の中で命を落とした。その後、現王妃アメリアとの間にアーネストをもうける。
愛しい女性との子どもであり優秀なクリフォードを愛する一方、半ば政略婚で生まれた子でありクリフォードに劣るアーネストには最低限の情しかかけていなかった。
優柔不断であり、執務もアメリア王妃が主体となっているなど、クリフォードやアーネストからも内心軽蔑されるほどには無能な王。
- アメリア
現王妃。ミルボーン侯爵令嬢で、アーネストの母親。
ミルボーン侯爵家は代々諜報を取り仕切る家系であり、彼女自身も権謀術数に長ける。
王であり夫であるアルバートと息子のアーネストを深く愛しているが、息子の幸せを願うあまりに過干渉気味で、アーネストとビアトリスが不仲になった遠因となった。
王妃としては非常に優秀であり、次期王妃となるビアトリスへ最高の環境を整え英才教育を施し、また様々な政策立案や執務をアメリアやミルボーン侯爵家が行っていた。
学園
- カイン・メリウェザー
メリウェザー辺境伯の庶子。目の覚めるような赤毛の青年。
学園の東屋で泣いていたビアトリスと出会う。
ビアトリスに悩みや抱えている問題を打ち明けられ、それを笑うことなく真摯に助言し、彼女に優しく接するうちに、ビアトリスから好意を持たれるようになる。
実は前王妃アレクサンドラとの間に生まれた第一王子で、本当の名前はクリフォード。
アーネストとは腹違いの兄弟になる。
王太子として期待されていたが髪の色が父であるアルバートとは似つかぬ赤色で、かつ王家の護衛騎士に赤毛の人間が居たために不義の子供ではないかと噂が立っており、またアーネストが有力な公爵家の令嬢であるビアトリスと婚約したことが決め手となり、アーネストが王太子に決まった。
その後は前王妃アレクサンドラの名誉を守るためという名目で、第一王子は死んだものとして公表し、祖父にあたるメリウェザー辺境伯の庶子として第二の人生を歩んでいた。
幼少の頃から何でもできる神童で、チェスで本気を出せば父相手でも数分で下せるほどに頭の回転も早かった。
悪評がある中でも能力の高さは周囲から高く評価され王太子として望む声も少なくなく、自身も次期王になるものと信じて疑わない程には尊大で、自分より何もかも劣り実の父である王からも侮蔑されているアーネストへの軽蔑を隠さず、兄弟らしい会話も一切してこなかった。
しかし彼が婚約したビアトリスに一目惚れし、アーネストに対し嫉妬心を抱く。
王位への未練はなく自由奔放な生活に満足していたが、学園の東屋で偶然にビアトリスと再会し、彼女への好意を隠して様々な相談に乗り、アーネストとの婚約破棄を共謀する。