白泉社『LaLa』にて1991年から2002年にかけて掲載された長編漫画。突然異世界に迷い込んだヒロインが、凶兆の影の迫る世界で謎めいた青年に出会う異世界ファンタジー。全5部構成。2004年に星雲賞を受賞した。
導入
見知らぬ世界の夢を頻繫に見るようになっていた高校生・典子は、友人たちとの帰り道の途中、無差別爆弾事件に巻き込まれ吹っ飛ばされてしまう。夢とも幻ともつかない意識の中で見たのは、自分の痕跡が何も残っていないという爆発現場と困惑する友人たち。やがて目を覚ました典子は、怪物の蠢く異様な雰囲気の樹海に一人きりでいるという現実に直面する。不安と恐怖におののく彼女の前に現れた、言葉の通じない青年。なんとか状況を飲み込もうとする典子は、人間離れした不思議な力を持つ青年・イザークに連れられて樹海を脱出し、広大な世界へと踏み出すのだった。自身が予言された存在、手にした者に世界の覇権を、騒乱をもたらす「目覚め」であることなど、露ほども知らずに――。
登場人物
ノリコ・タチキ (立木典子)
これといって取り柄のない少女。17歳。SF作家の父がいる影響か、異世界に飛ばされて取り乱しはするものの、自分の理解を超える状況を受け止める力はある。助けてくれたイザークとの旅の中で彼に全幅の信頼をおき、後に彼が抱えた秘密に直面した際にもそれが揺らぐことはなかった。
荒っぽい事態に直面して思わぬ馬力を出し、また感応力においても秀でたところがある。イザークとは想い合うあまりにテレパシーまで会得した。自身の非力さを認めつつ、今の自分にできることをやり通そうという強い思いが、時に彼女を翻弄する事態を打開する鍵となる。素性を知らぬ者には「身寄りのない島の娘」で通しているが、手中に収めた者が強大な力を手にするという「天上鬼」を呼び起こす「目覚め」と呼ばれる存在であり、その事実を知っている者はその場に居合わせたイザーク一人であった。自分がイザークを変貌させてしまう事実を暴露されて彼の元を去ろうとするが、彼の強い想いを受け、共に運命を変えることを決意する。
ちなみに言葉はまったく通じなかったのだが、イザークが付き合ってくれたこともあって数ヶ月ほどで意思の疎通ができるようになっている。とはいえヒアリングがメインなので、使ってみた言葉が思わぬ意味に解釈されることも。
イザーク・キア・タージ
ノリコが目を覚ました樹海を訪れていた長身の渡り戦士。19歳。東洋人とも西洋人ともつかない端正な顔立ちながら常に仏頂面で、口数も多くない。ただでさえ凄腕の上に超人的な身体能力や回復力を持ち、「遠当て」と呼ばれる衝撃波や炎をも操る一匹狼の能力者。細っこい見た目のせいか初対面の荒くれ者になめられがち。
予言にある「天上鬼」そのものであり、樹海へ赴いたのは自身の運命を大きく変える「目覚め」を消し去るため。しかし何も知らずに宿命を背負ったノリコの境遇に自分を重ね、彼女の正体を隠して連れ歩くことになる。いつの間にかノリコに強く惹かれている自分に気づきながらも、待ち受ける運命との間で葛藤を抱えていたが、「目覚め」を狙う者たちとの戦いを経て、彼女を失いたくないという想いはイザークの中で何にも変えられないものとなる。
ガーヤ・イル・ビスカ
イザークがノリコの定住先として選んだ、ザーゴの国で雑貨屋を営む中年の女性。恰幅のよい体格にインパクトの強い顔で存在感抜群。戦闘集団として知られる灰鳥一族出身の戦士であり、50歳を過ぎてなお一流の刺客と渡り合う。出店資金を稼ぐために加わった隊商でイザークと知り合い、悪目立ちしてからまれる彼の身を案じて剣を教えた、いわば師弟のような関係。
アゴル・デナ・オーファ
「目覚め」を探し求める勢力のひとつ、自由都市リェンカに雇われる傭兵。樹海へ派遣された捜索隊を率いていたが空振りし、手掛かりとなりそうなイザークという青年を探すべく、ジーナを連れてその足取りを追っていた。ザーゴの内乱に巻き込まれて一文無しになってしまった折にノリコたちと出会い、リェンカの尾行を振り切ってかれらの逃避行に同行する。
ジーナハース
母の形見の占石を使って予知や透視を行なう「占者」のすぐれた才能をもつ、アゴルの愛娘。7歳と幼いながらも聡明で、父・アゴルの仕事を占いで助ける。ノリコとイザークに尋常ならざるものを感じてはいるが、ノリコとの触れ合いもあってそのことは黙っている。生まれつき盲目で、彼女にとっての占いは世界を見る目の代わりでもある。