解説
押井守監督の日本の劇場アニメ映画。士郎正宗原作のサイバーパンクコミック『攻殻機動隊』の映像化シリーズ作品第一弾である。
原作漫画における人形使い関係のエピソードを基にしているが、本作では「コンピュータが『記憶』を獲得して自我を認知した時、人間を人間たらしめているものは何か?」「記憶と人格が人間存在を規定すらならば、人間がそれらを外部化した時、それもまた人間たりうるのか?」という点にスポットを絞った内容となっている。全体的にシリアスな作風に纏められており、フチコマのような公安9課所属の思考兵器類も登場しない。
主人公・草薙素子のキャラクター造形も原作とは違い、基本的にクールで無表情かつ劇中で瞬きをしないなど敢えて無機質なロボットっぽさを強調したデザインがなされ、優秀な義体使いでありながら全身サイボーグ故に人間としての自己存在の実在性と限界に思い悩む一人の女性という、現在まで出てる全てのシリーズ作品の中でも最もストイックな人物像になっている。
当時の日本ではアニメ視聴者層の間でもまだサイバーパンク的な感覚の馴染みが薄かったこともあって、諜報戦を背景として展開するストーリーと海外SF小説的なテーマ、多くを語らない硬質な演出からやや難解な内容の映画として受け取られたため、公開直後の国内での興行成績はあまり奮わなかった。
しかし1995年の第5回東京スポーツ映画大賞で作品賞を獲得し、同時に草薙が主演女優賞を獲得したことで話題となった他、海外で大きな反響を呼び、アメリカのビルボード誌においてはビデオ週間売上げ1位を成し遂げた。これは日本アニメ史上初の快挙として国内で大きく報道され、さらにジェームズ・キャメロンやスティーブン・スピルバーグ等に絶賛されたことで海外において押井の名を大きく広める切掛となった。
原作の濃厚な設定と軍事マニアで知られる押井の趣味が合致したことで描かれた、異様なこだわりが込められた銃撃戦の描写は必見。
2004年に続編『イノセンス』が公開。
2008年には押井の新作映画『スカイ・クロラ』上映記念として本作に新作カットや音響の大幅なリニューアル、CGカットや背景美術を『イノセンス』の世界観に合わせてリメイクした『攻殻機動隊2.0』が公開された。
あらすじ
西暦2029年。企業のネットが星を覆い、電子や光が世界を駆け巡っても、国家や民族が消えてなくなるほど情報化されていない近未来。
首相直属の防諜・対テロ機関『公安9課』、通称・攻殻機動隊の実力部隊を率いる草薙素子は世界最高峰の実力を持つ優秀な義体使いの捜査官だが、その一方で全身サイボーグであるが故に自身の存在と限界に対し葛藤を抱えていた。
ある日、他人の電脳をゴーストハックして人形のように操る国際手配中の凄腕ハッカー、通称「人形使い」が入国したとの情報を受け、9課は捜査を開始。草薙たちは秘密会談を控えた外務大臣の通訳の電脳に侵入してきた人形使いを逆探知・追跡することで実行犯を確保したものの、人形使い本人の正体はつかむことが出来なかった。
そんな中、政府御用達である義体メーカー「メガテク・ボディ社」の製造ラインが突如稼動し、女性型の義体を一体作りだした。義体はひとりでに動き出して逃走するが、交通事故に遭い公安9課に運び込まれる。調べてみると、生身の脳が入っていないはずの義体の補助電脳にはゴーストのようなものが宿っていた…。