概要
『宇宙戦艦ヤマト2199』のサイドストーリーとして作成され、2014年12月6日公開された新作劇場映画作品である。帰還後の話ではなく、イスカンダルから帰途に付いてバラン星でアベルト・デスラー総統らに襲われるまでの間の話に相当する作品である(24話と25話の間)。
制作経緯
本作が検討されたのは、第五章を制作していた頃に製作委員会から総集編の話が出たことによる。出渕裕総監督は「全26話のエピソードを1本の総集編に纏めるのは難しい」という懸念があった為に、代わりとして今までに描かれていないものを検討。
TV版で制作された設定や、艦船系統の3DCGモデルが流用でき、イスカンダルからの帰路のエピソードを新規で作ることを提案し、それが新作映画『星巡る方舟』として製作が決定された。一方で総集編は別にして、改めて製作が決定されて『追憶の航海』として公開された。
新作映画は第六章の頃には決まっていた為に、その布石となるものを各所に散りばめていた。第20話で初登場した桐生美影はその最たる例で、TV本編では活躍がなかったものの劇場では中心的立ち位置に定まっていた。
ストーリーに関しては様々な案が検討されていた。生き残りのオルタリア人がヤマトに保護を求めてくる話、自動惑星ゴルバをモチーフにした生命体が登場する話、というものもあったが、結局はテレビシリーズで既出であることや、模型展開の容易さ等という製作側の都合(大人の事情)から、ガトランティスを主敵に据えた話となった。
なお、本作が公開される2、3日前(12月3日と4日)には、バンダイチャンネルにおいて先着4000名までの無料のオンライン試写が行われた。
音楽
音楽に関しては、前回に引き続き宮川彬良氏が担当した。
ガトランティスの新イメージ
今回はガトランティスが登場する作品であるため、曲もガトランティスのものを演奏することになった。ただしオリジナルでは、パイプオルガンを使った重低音で「恐怖」や「畏怖」といったイメージを与えるような演奏していたものとは、全く性格が異なる。
今回のガトランティスは、オリジナルとはイメージを一新し、『蛮族』という新曲名からも野蛮さや豪快さが出ているのが特徴である。そういった性格を出すために、パイプオルガンではなくティンバニといった打楽器系統を使用している。これは総監督らの意向で、「行くとこまで行っちゃえ」と決めて「肉食って、太鼓を叩いて攻めてくるイメージ」を採択した模様(映像もそのまんまだが)。
その為、オリジナルにおける恐怖的なものより、力強さや野蛮的な面を強調した曲に仕上げることに成功しており、劇中でもその豪快な性格が表れている。その例として、宮川氏の新曲『蛮族来襲』を始めとして、オリジナルに手を加えた『ガトランティス襲撃』など、テンポの良さや、力強さが表れていた。
フィルムスコアリング
また、今回の劇場版に合わせて作曲・収録された37曲もの音楽があるものの、その手法は映像に合わせて行うフィルムスコアリングを採用した。音響監督である吉田氏によると、第1作目から完結編までにおいて700曲あまりが作曲されたのにかかわらず、実際に使用されたのは僅か250曲あまりという贅沢ぶりであったと言う。
今の時代ではこのような贅沢なことは到底出来ないと判断し、フィルムスコアリングで宮川氏に作曲を頼んだと言う。結果として上記に記した『蛮族来襲』はものの見事に、映像とマッチングした迫力のあるシーンに仕上がった。そして艦隊決戦の為に作られた『大決戦-ヤマト・ガミラス・ガトランティス-』は、今作でもっとも力を入れた曲として、最終決戦に相応しい雰囲気を構築しえた。
OP曲及びED曲
OPテーマ曲では、ささきいさお氏による歌は挿入されていない。その代りに、ヴァイオリンを手掛ける葉加瀬太郎氏自身が、ヴァイオリン1つで歌の代わりに演奏しているのが特徴的である。また幼いころに見たヤマトに思い出深く、良くヤマトの絵を描いていたという。その為、本人曰く「20秒から30秒あればヤマトが描ける」と言わしめるほど。
EDテーマ曲では、平原綾香氏が担当している。彼女の父親である平原まこと氏が、宮川泰氏の『巨匠宮川組』におり、彼女自身も小さい頃から宮川泰と会っていたという。そのつながりを持って、今回の劇場ではEDを担当する事となった。
また、劇中では挿入歌としてドイツ民謡「ムシデン」(岡本敏明翻訳版の「別れ」)を使用している。これは沖田の私物であるレコードとして登場。最初は音楽のみで、その後に日本語版が流れる。劇場における一つのテーマを体現していると言っても過言ではない。
作品のテーマ
当劇場作品を制作するうえで出淵総監督は「テレビシリーズでは描ききれなかった『世代の継承』や『異民族の相互理解』といったテーマを、一つのエピソードにしたい」と考えていたことを明らかにしている(公式ホームページより)。
世代の継承
実際にTV版本編26話中では、オリジナル版の様に古代進が途中で艦長代理を務めるなど、『世代の継承』と思われる部分が語られてはおらず、不完全燃焼気味な印象を与えていた。それが本作では、古代進が艦長または副長の代わりに艦の指揮を執ることで、古代の成長ぶりを表現した。これはオリジナルシリーズにおける古代の、艦長代理を取り入れた結果となる。
また桐生美影も世代を継承する1人として語られており、ジレル人、地球人、ガミラス人の相互理解を成し遂げるための重要なキーパーソン的な存在になるなど、重要性を増している。
異民族の相互理解
相互理解においては、山本玲、メルダ・ディッツ、ユリーシャ・イスカンダルら3人の異民族同士が親しげに会話したり、古代守とスターシャ・イスカンダルの関係など、相互理解しているような場面は見受けられている。
そこでさらに、復讐心に燃えるフォムト・バーガーと、分かり合えることを信じる古代進との関係を強める事で、真の意味で理解し合うことを表現しようとしている。加えてジレル人という民族と、地球人、ガミラス人との相互理解を目指した。
ストーリー
時に西暦2199年。苦難の航海を経て、目的地イスカンダルで〈コスモリバースシステム〉を受領したヤマトは、いままさに大マゼラン銀河を後にしようとしていた。
だが突如、大マゼラン外縁部で謎の機動部隊と遭遇する。
彼らこそは蛮勇で宇宙にその名を轟かす戦闘民族ガトランティス。指揮官はグタバ遠征軍大都督「雷鳴のゴラン・ダガーム」を名乗り、艦の引き渡しを要求してきた。戦闘を避け地球へ急ぎたいヤマトに、突如空間を跳躍し紅蓮の炎が襲い来る。それはダガームが放ったガトランティスの誇る最新兵器〈火焔直撃砲〉の光芒だった。
間一髪、ワープでダガームの追撃を振り切ったものの、薄鈍色(うすにびいろ)の異空間へと迷い込んでしまうヤマト。ヤマトはまるで意志を持ったように舵を切ると、謎の惑星へと誘われていく。事態打開のため、古代、桐生、沢村、新見、相原の5人は惑星へと情報収集に降下する。
地表に降り立った彼らが見たものは、そこにあるはずのない艦。だがその艦内には先客がいた。それは七色星団の戦いを生き残りヤマトへの復讐を誓う、ガミラスのフォムト・バーガー少佐の姿だった。彼らもまたここに迷い込み、脱出できないでいたのだ。
ヤマトの空間航跡を追ってワープしたダガームもまた、薄鈍色の宇宙へとたどり着く。ヤマトが誘われた眼前に輝く惑星こそ、彼らが探し求めていた宝の星であったのだ。邪魔なヤマトをあぶりだすべく火焔直撃砲の砲門を惑星へと向けるダガーム。果たして古代たちは閉じられた空間を脱出し、ガトランティスの包囲網を突破できるのか。
一刻も早く地球へ戻りたいヤマト、力で宝の星を求めるガトランティス、ヤマトを討たんとするガミラス―――それぞれの譲れぬ想いが交錯する
以上、公式HPの〈ストーリー〉より抜粋
主な登場人物
地球側
市川純(初登場)
桐生悟郎(初登場)
斎藤始(初登場)
ガミラス側
ネレディア・リッケ(初登場)
クリム・メルヒ(初登場)
ミルト・エヴァンス(初登場)
メリア・リッケ(初登場)
マイゼル・ドラム(初登場)
ガトランティス側
シファル・サーベラー(初登場)
ゴラン・ダガーム(初登場)
ボドム・メイス(初登場)
イスラ・パラカス(初登場)
ジレル側
レーレライ・レール(初登場)
登場メカ
地球側
キ8型試作宙艇(初登場)
ガミラス側
ガトランティス側
宇宙生物
BD&DVD版
劇場公開終了後、BD版とDVD版での発売が5月26日に決定した。ここにおいて、視聴者の間からは劇中で指摘していた、物語後半における作画の乱れ(ホテルのシーンを中心としたキャラクターの作画)が心配されていた。
しかし4月10日にて、東京と京都の劇場でBDverの本編映像が公開されると言う情報が公式HPで発表されている。同日、新宿ピカデリーのゲスト会見では、修正された部分について言及されており、キャラクターの作画修正を施していると説明があった。視聴者には気づかれない部分まで手を加えたとの事である。公式HPにも、出来る限りのリテイクを行い、質の向上を目指したと、総監督自身がコメントしている。
エピローグにおいて、ヤマトとの交信(テレビシリーズ最終話冒頭での交信)が回復する直前に藤堂が語るヤマト発進後の経過日数で「ヤマトが旅立って324日、人類滅亡まで41日」と語っており、交信時より後の地球帰還日である12月8日から逆算したとしても、ヤマト発進以前のメ号作戦が行われていた1月17日と誤りがあり矛盾が生じるが、総監督は「ちょうど藤堂役の小川真司の訃報があり、修正できなかった」と語っている。
リテイク箇所
リテイクされた箇所は多岐にわたり、同時に細やかに行われている。その一例を以下に上げる。
その他気づいたことがあれば追記願います。
ダガームvsバンデベル戦
- 砲撃戦時に何もなかった背景に、マゼラン銀河が追加され、矛盾を消化している。
- 火焔直撃砲による閃光加減を行い、より赤みを帯びている。
- ゼルグードⅡ世の砲塔部がディテールアップされている。
- ゼルグートⅡ世本体轟沈時のカメラワークが変更されている。
- ダガームの据わるソファ(背もたれ)が背景に追加されている。
大和ホテル
- 登場キャラクターの作画不安定を大幅に修正されている。
- バーガーらガミラス人の視点で見た場合のホテル内部が修正されている。
ピクチャードラマ
初回限定盤として販売された商品には、特典ディスクが付属している。その中にピクチャードラマが3本挿入されているが、絵を描いたのはヤマト2199の漫画版を描くむらかわみちお氏によるもの。中身は、1つ目が古代達が探索に出ている間に火焔直撃砲の対策を考える真田と森の様子、2つ目は波動砲症候群(仮称)に駆られる南部の様子、3つ目は森と山本によるパフェの会食といったものとなる。
未収録
また、制作には至らなかった話も3つ程ある。1つ目は、ヤマトがイスカンダルを離れた後の、スターシャとヒスの通信会談の様子。2つ目は、先にシャンブロウに来ていたバーガー達が、惑星調査のために降下するまでの様子(何気に本作の重要なポイントであったと思われる)。3つ目は、ホテル生活において、新見が何者かの力が関与しているのでは、と思考を巡らせる様子。以上の3つは絵コンテは出来上がっていたものの、惜しくも実現には至らなかった。
関連イラスト
制作の裏話など
オフレコ現場で
また、スケジュール上かなり切羽詰まった様子で、オーディオコメンタリーでは裏話が持ち上がった。声優陣が声を吹き入れる中、映像が無い状態でアフレコを実施したというもので、役者自身も「どういう状態なのか?」と疑問を持ちつつも演じていた模様。ガミラスの主役を演じた諏訪部順一氏は、独りでアフレコをする事となっていた模様で、それをオーディオコメンタリーでも口にしている。
絵コンテ等で
時間の都合(尺の都合)で、出渕氏の提案した絵コンテは多くがカットされているとのこと。出渕氏の作り上げる絵コンテは、艦隊戦などの経緯を詳しく描いた、非常に丁寧なものである反面、実際に制作すると放映時間が大幅にオーバーしてしまうと判明したためである。実は日常的なシーンに茶道が持ち込まれていたり、艦隊戦も大分カットして、うまい具合に繋げていると、総監督自身がコメントしている。
一部の原画にはヱヴァンゲリヲンの庵野秀明監督が参加していた。担当カットは、惑星カッパドギアの大爆発のシーン、最終決戦で火焔直撃砲本体がヤマトの左舷に激突し爆発するシーンの2つであった。
艦載機デスバテータが、錐もみしながら僚機に激突して爆発四散するシーンが、劇中に2回程みられる。このシーンに関して、別々のスタッフが絵コンテを切ったにもかかわらず、まさか似た様なものが仕上がったと言われ、出渕総監督を驚かせたと言う事である。
現場スタッフの愚痴など?
アフレコや台本等を製本化する祭、制作に追われて厳しい情勢にあった現場スタッフなどが、思わず台本の隅に「~になったらいいのに・・・」等と愚痴の様な事を書いていたら、そのまま製本化されてしまったらしい(結果として役者一同が見る事になる)。
音楽収録で
近年におけるアニメーション音楽は、作成する方法として、1つの曲に対してミュージシャンがそれぞれ個別に弾いて録音し、それらを後に重ねていくことで音楽として完成させる手法を主流としているとの事である。
一方で生のオーケストラ方式(40人余りのミュージシャン達が一つの収録現場で集まって、一斉に演奏する手法)によって、音楽を作り上げてきることが常套手段としている宮川彬良氏は、今時の収録方ではなく生のオーケストラ方式を採用して、音楽を作り上げていった。
この時、参加したミュージシャン一同は、生のオーケストラ方式で収録することに対して、嬉しそうに「久々だよ」と宮川氏に呟いていたとの事である。このことから、今の音楽収録方法が如何に、別々で演奏しているのかが分かる一面ではないであろうか。
リスペクト・オマージュ
ミリタリー映画
宇宙戦艦ヤマト2199には、これまでにスタッフらが影響を受けたと思われる、過去様々な作品のリスペクトやオマージュ、史実ネタを盛り込んでいるのが特徴である。中でも戦争映画『バルジ大作戦』の合唱シーンは、その典型的例と言って良い。
他のアニメ・特撮作品
星巡る方舟に至っても、そう言った他作品の影響を受けた部分も随所に見られている。例えば、ヱヴァンゲリヲンの庵野秀明監督が原画で参加しており、エヴァのネタが盛り込まれている(注意:ネタとして盛り込まれたが、庵野氏自身がその絵コンテを切った訳ではない模様)。
東宝の特撮映画『ドゴラ』をリスペクトしたようなものもみられる他、某宇宙海賊のリスペクトと思われる部分もみられる。因みにこの某海賊と思われるシーンで、出渕氏は「眼帯付けりゃ完璧じゃん」等と発言していることから、恐らく確信犯か。
オリジナルシリーズから
勿論、過去のヤマトシリーズからのリスペクト部分も多い。その一例として、火焔直撃砲発射した効果音の中に白色彗星の効果音が混じっている点である。冒頭無料10分動画において、バンデベルが抹殺される瞬間はまさに、白色彗星に飲み込まれるシーンを沸騰させる。
また、当劇場は『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』を踏襲している面もあるが、寧ろこの『新たなる旅立ち』が大きな基盤となっていると言っても過言ではない。デスラーと古代が共闘して暗黒星団帝国の艦隊と戦う様子が、この劇場ではバーガーと古代、そして敵方がガトランティスに置き換わってこそいるが、その大元は『新たなる旅立ち』を踏襲しているのが伺えるだろう。
同時に、ポスターにもあった、ヤマトとゲルバデス級『ミランガル』が航行する姿も、『新たなる旅立ち』におけるヤマトとデスラー戦闘空母を沸騰させるに十分である。このように、物語の中身は様々なリスペクト、オマージュや、相互理解といったテーマを入れているが、共闘すると言う部分にあっては、『新たなる旅立ち』を踏襲しているのが伺えるであろう。
コンサート
2015年2月28日及び3月1日において、千葉県の舞浜にある舞浜アンフィシアター(東京ディズニーランドのお隣)で「宮川彬良Presents『宇宙戦艦ヤマト2199』コンサート2015」が実施された。当コンサートは、前半で『追憶の航海』に使用された音楽を中心にして演奏されており、後半で『星巡る方舟』に使用された音楽を中心にして演奏された。
前回のコンサートに比べて演奏者が比較的小規模であるが、これは宮川氏が「スタジオで収録している時の様子を、そのままお客様に見せたかった」というもので、ほぼ収録時のメンバーと同一で演奏を実施した。一方で合唱団の人数は、前回よりも大幅に増員されたのが特徴である。
音楽と映像、及びライトアップによるグラデーションが融合したような演奏で、迫力を醸し出した。森雪のナレーションで進行すると同時に、ステージ上には5mサイズのヤマトが迫上がって登場するなどの演出がなされ、会場を大いに盛り上げていった。
また今回の宮川彬良氏は、開幕時からは一切喋らずに演奏に終始集中していたものの、終盤においてようやくトークを開始。「わざわざ東京ディズニーランドの御客の間を掻き分けて来ていただいて、有り難うございます」等と相も変らぬ宮川トークである。
余談であるが、今回のコンサートで動員された演奏者たちの殆どは、宮川氏の先輩、後輩、と言った間柄だということである。
また、アニメ音楽だけによるコンサートそのものは、非常に稀であるとのこと。その事からも、ヤマトの音楽がどれだけ力を入れてきたものであるか、そして視聴者やファン一同がどれだけヤマト音楽に魅了されているのかが伺えるのではないだろうか。
余談
なお、企画プロデューサーの西崎彰司氏は、葉加瀬太郎との対談コメントにおいて、「これからもヤマトの新作を作っていきたい」と意気込みを示している。そして、それが現実となった。
同時に宮川彬良氏も、特番のコメントにてこれからもヤマトの音楽を手掛けていきたい旨を示していた。「なんか、もう宣言しちゃってるよね。いかんなぁ~」とどこか嬉しそうであった。また宮川氏が2199の続編に関わるか、現時点では不明である。