概要
全体の名称は「東方文果真報 Alternative Facts in Eastern Utopia.」。
上海アリス幻樂団主宰のZUN著によるもので、発行者であるKADOKAWA(角川)広報では「 書き下ろし 」とされている。全編ZUNの書き下ろしによる書籍としては『東方求聞口授』以来の「 5年ぶり 」の作品。
本書籍のコンセプトはKADOKAWAによれば、射命丸文が発行する「 週刊誌 」。
文は東方Project作中において「文々。新聞」を発行しているが、『文果真報』では文の新しい活動が描かれる様子である。
公開されている実際の本書籍表紙などにも文と思われるキャラクターがメインで描かれている。
「"没"週刊誌」
「 今まで新聞ばかり作ってきたのですが、
今度、初めての雑誌に挑戦しようと思っていまして 」(文、『東方香霖堂』)
『文果真報』作中には実際に週刊誌的レイアウトが見られる「 文々春新報 」が掲載されており、『文果真報』に先だって文が登場した『香霖堂』(『東方外來韋編』)ではこの存在が文によって語られている。
文は自信をもってこれを制作した様子である。
しかしこれには「 重要な見落とし 」があったため、発刊を行わなかったという経緯があるとされている。
また発刊前に出会った宇佐見菫子からは、幻想郷ではこの「 進歩的な雑誌 」の形式である「週刊誌」も「外の世界」ではその内容から広く遍く大衆の手に、とはいっていない様子が伝えられており、文はこれに驚いている。
ZUNによれば文というキャラクター造形自体に多様なパロディが込められており、例えば苗字の「射命丸」の由来等にも元ネタといえるような要素がある(『外來韋編』)。
「 文々春新報 」にも多様なパロディ・オマージュが含まれている様子で、『文果真報』を通しても、文を通した「 東方 」の新しい「 広がり 」が生まれている。
書籍情報
- 出版社:KADOKAWA / アスキー・メディアワークス
- 発売日:2017年3月30日(予定)
- 著作者:ZUN
- ISBNコード:978-4-0489-2862-5
- サイズ:A5判
※ただし上記情報は実際の書籍発表前の事前公開情報によるものであり、実際の書籍では異なる可能性がある。
本作タイトルの英文部分については、直訳であれば「東の方角の楽園の二者択一の事実」などの意味となるか。
「二者択一の」や「代わりの」等を意味する「 Alternative 」をどのように解するかによって変化し得るが、同語には「主流ではない」等の意味があり、このことから、時には「(主流に対する)カウンター的な」などのニュアンスが込められることもある。
形容詞形にみる「伝統慣習にとらわれない」等の意味もこれに共感するだろう。
一方「 Alternative Facts 」を一つの成句として見る場合、本書籍発表当時(2017年)の時事から生まれた語句を見ることができる。
本記事では元々の時事テーマがもつ政治的性質及び本記事執筆時点における事態の流動性、本記事が個々のポリティカルな記述を本旨としない等の観点から由来と内容の具体的記述は行わないが、この場合の「 Alternative Facts 」は「もう一つの事実」「代替的事実」などと訳される。
スラングとしては二律背反的な、時には詭弁的な様を内包したジョークを示したり締めくくったりする際の語句の一つとなっている。
不条理・ブラックユーモアネタの「オチ」(あるいはネタばらし)とも言えるだろう。
スラングが流行した場の一つであるツイッター風に記述する場合、次のような例が考えられる。
「貴方の見る事実と私の見る事実が異なるのであって、そもそも物事には二つの事実があるんだ。
あなたには私が酔っぱらっていると確信しているという事実がある。
だが私には酔っていないという事実がある。
えっ? 顔が赤いって? さっきまで一緒に呑んでたって?
いや酔ってないよ! これが私の事実だ! #Alternative Facts」
(このジョークシーンでは発言者は酩酊状態)
この一連の時事の動向は本書籍発表のおよそ二月前(2017年1月)の出来事であった。
本英文部分にこのニュアンスが込められていると仮定するときの意味としては「東の方角の楽園におけるもう一つの事実」などの意味となり得るが、この「もう一つの事実」は多分に含みのあるものとなるだろう。
『文果真報』にも関連する先述の『香霖堂』のエピソードでは、森近霖之助が外の世界における新たな「 大統領 」が「 嘘を真実として認めさせようと躍起になっている 」との情報を得ている。
このエピソードが語られた『香霖堂』第三話タイトルは「 多数の真実がある世界 」。
この霖之助の情報を受けた博麗霊夢は「 外の世界も幻想郷と同じで醜いことになっているのねぇ 」とし、近年の多様な勢力による幻想郷の人間や人間の里に対するパワーバランスを俯瞰している。
同エピソードではこの会話の後に文が「香霖堂」を訪れ、幻想郷の巫女である霊夢や半妖半人の霖之助、さらに文に遅れて合流した(救出された)外の世界からの訪問者である菫子というそれぞれの個性が全く異なる面々を交え、物語はさらに広がっていく。
射命丸文の執筆活動
文については『東方文花帖』をはじめ複数の作品で他者に対する取材活動の様子が語られており、それは文の具体的な活動動機となることも多い。例えばSTGの『文花帖』などはプレイヤー自身が多数の幻想郷の存在に対する文の取材を体験する作品でもある。
実際の「文々。新聞」の誌面そのものが描かれることもあり、『文花帖』をはじめ『東方求聞史紀』などでも文の目と耳を通した古今の幻想郷を広く人々に伝えるものとして登場している。
『求聞口授』、『東方鈴奈庵』などでは一つのメディアとして他者を動かす(例えば説得や情報戦のための)ツールとしても利用されている様子が描かれており、実際に文の手による制作物は今日の幻想郷に影響力をもって関与するものともなっている。
『文果真報』では先述の通り文が「週刊誌」の発行に挑む旨が本作発表に先駆けて語られているが、その内容がどのようなものになるか、文が何を見聞きし、どのような形で誰にそれを伝えるのかがファンの間でも様々に想像されている。
「文」と「果」
前述のように『文果真報』には文の手による発行物が関係するが、東方Project作中には文同様に幻想郷の天狗が発行する新聞メディアとして姫海棠はたてが発行する「花果子念報」が登場している。
『文花帖』(STG)のシステムと同様に弾幕的取材活動を体験することのできる『ダブルスポイラー』ではそれぞれの取材活動も通しながら新聞の発行部数などををめぐる文とはたてのライバル関係が描かれた。
ファンの間でも両者の関係は『ダブルスポイラー』以後も注視されており、作中で文が語られる際にははたてとの以後の関わりについてなども関心が寄せられている。
文が主人公としてその活動が描かれた『文花帖』とコンセプトを類しつつも、本作ではそのタイトルが『文果真報』となっているところも、ファンの間でははたてを絡めた想像を寄せるポイントともなっている。
『文果真報』の発表にあたってはその名にあるように「文」(文々。新聞)と「果」(花果子念報)が再び並び立つか、といった想像も展開されている。
例えば二者択一の( Alternative )「文」と「果」が本作でもせめぎ合うのだろうか、あるいは新しい幻想郷のメディアとしての「 週刊誌 」を通して含みのあるものとしての「事実」がうごめくのだろうか、など、本作の発表以後多様な想像が展開されている。