ドイツ神話や北欧神話における軍神。勇敢な神とされる。
概要
古英語形ではティーウ (Tiw) 、ドイツ語ではテュール (Tyr) 、ツィーウ (Ziu) 、またはティウ (Tiu) という。想定されるゲルマン祖語ではティワズ (*Tiwaz) 。
ギリシア神話のゼウス (Ζεύς) 、ローマ神話のユーピテル (Jupiter: 原型はDieu pater) など印欧語族の多くが天空神として信仰する神々と同語源と考えられ、テュールも本来は天空神だったらしいが、現存する史料では概ね軍神とされている。これは本来は法と豊穣と平和をつかさどる天空神であったのが、2世紀後半以降にゲルマン人の世界が激しい戦乱の時代をむかえ、戦争の神であるオーディンへの信仰が台頭し、テュールは最高神の地位を追われて一介の軍神に転落したからと考えられている。こうした経緯もあり、「テュール」というのは、古くは古ノルド語で「神」をあらわす一般名詞でもあった。
「エッダ」の成立した時代には相当マイナーな神様になってしまったらしく、かつての最高神なのに目立った逸話がほとんどない。
軍神という点でローマ神話の軍神マルスと同一視され、ゲルマン語で火曜日を意味する語(Tuesday など)の語源となった。
北欧神話の雷神トールとは、かつて同じ天空神だったこともあってポジションが若干被っている。たまに両者を混同する人もいる。
テュールが最高神であった時代のゲルマン人諸族の王を意味する語は、ティワズの祭司を意味するティウダンス (thiudans) であった。 絵画などでは隻腕の戦士の姿で表され、これはフェンリルに片手を食いちぎられたことを示す。 またルーン文字のティールは軍神テュールの象徴で勝利を意味する。戦いの際にこのルーンを剣に刻み勝利を祈ったとされる。