概要
「男の娘(おとこのむすめ)」と書いて「おとこのこ」と読む。正確な起源は不明だが、文字通り(外見が)「娘」と呼べる程に可愛らしい男の子を表す言葉として、2000年代を通して広まっていった。本来男性向けジャンル発の言葉だが、現在は女性向け作品にも広がっている。また女装子や女装男子など言うより商業的にも受けがよく可愛らしい言葉なので、三次元の女装者自らが女装者の別称として扱うことがある。
定義&定理と傾向
○ 男の娘とは、娘に見える可愛い男性のこと。(見た目に対する言葉。)
・あくまで、娘に見える可愛い男性のことなので、女装してる必要は無い。(男装でも裸でも娘に見えればいい。特に作中で女と間違われるシーンが描かれていれば、そのキャラは男の娘であるといっても差し支えないだろう。)
・見た目年齢には関係あるが実年齢は関係ない。(娘に見えればいいから。)
・男の娘かどうかに心情や性的指向といった内面的なものは関係ない。(見た目の問題だから。)
・所作は女性的なキャラが多い傾向。(娘に見える必要があるから)
下記の「作風としての違い」を参照。
分類
・分け方1(手間が必要かどうかで分ける)
「女装をすること(手間をかけること)で男の娘になれるタイプ」と「(女装しなくても)素のままで男の娘なタイプ」の2タイプに分けることができる。ただ、三次元において女装しなくても素のままで男の娘なタイプはとても少ない。
※女装をするときだけ娘に見えるタイプの場合、男の娘と認識されるかは女装してる割合や印象の度合いによってだいたい決まり、女装時に対して男の娘と認知される。このタイプは四六時中女装してれば男の娘と認識されるし、逆に女装してないことが多いと男の娘とは認識されないことが多い。
・分け方2(心情で分ける)
どんな内面でも娘に見える可愛い男性なら男の娘なので、いろいろな心情の男の娘がいる。
海外において
海外においては「femboy」や「trap」といった言葉が男の娘とほぼ同じ意味で使われている。femboyは読んで字のごとく「フェミニンボーイ(女性的な男子)」を意味するが、
trapは、女の子と思ったら男だったよチクショウ!という意味で「トラップ(罠)」と名付けられた。
「tomgirl」も似たような用語として使用されている。元々「tomboy」という言葉が「男みたいな女」=「お転婆」の意味で使われていたが、その反対に「女みたいな男」と言うことで男の娘に当てられるようになった。
歴史
1980年代~1990年代
稚児文化の盛んだった日本では遡ると『南総里見八犬伝』とか『弁天小僧菊之助』の昔まで行き着いてしまうが、オタク文化に限定すると原点はやっぱり手塚治虫とかになってしまうので、現在の「男の娘」の直接の元祖と認識されている作品は、1981年より週刊少年ジャンプで連載されアニメ化もされた『ストップ!!ひばりくん!』が挙げられる。主人公の大空ひばりが、今日のムーブメントを起こす人間に種をまいた全ての元凶と言える。
そして1990年代に同誌で『幽遊白書』の蔵馬が登場。なお当時は男の娘という言葉もなく、本人も真っ当に男性として生きているため一般的には中性的キャラで統一されている。しかし連載当時から彼を女性と間違える読者や視聴者が続出、アニメも女性的なカラーリングに女性声優が声を当てるなど、男の娘系統の歴史を語る上では無視できないほどの圧倒的知名度を誇る。
それ以外では、『奇面組』シリーズの物星大、『究極超人あ~る』の兵藤まことなども草分けとして挙げられることがある。特筆しておくべきは、これら全て1980年代~1990年代初頭の少年誌作品であることである。つまり、基本的にはこのジャンルは男性向け作品に根があった(と一般的には思われている)ということである。
実は1980年代の少女漫画には女装美少年の登場する作品が散見され、代表的なところでは『前略・ミルクハウス』の菊川涼音のような女装美少年キャラが登場しているのだが、男の娘の文脈で言及されることは少ない。この流れは1990年代には『ミントな僕ら』の南野のえる、『プライベートアイズ』の森村時緒、『ふしぎ遊戯』の柳宿などに引き継がれ、後の乙女ゲームや男性向け作品における男の娘のキャラ造形にも間接的に影響を及ぼしていると思われる。
1990年代後半に入ると『VS雀士ブランニュースターズ』の水奈瀬愛生や『美少女戦士セーラームーンSupers』のフィッシュ・アイのように男性声優(偶然にも同じ声優が担当していた)が女装美少年を演じるケースも発生し、男性向けエロゲーの攻略キャラとしてショタや美少年が配されているなどしている。
また人気2大推理漫画では自らの容姿を活かして女性に扮して犯行を行う男の娘が登場した。
2000年代~
21世紀に入ると、アダルトゲームではRUNEの別ブランドCAGEがボーイズヒロインと言って男の娘を攻略ヒロインにしたゲームを多数世に出している。後に攻略ヒロインが全員男の娘の『ぷる萌えンジェル アイドルあいこ』や『PureMy妹ミルクぷるん♪』を生み出す。
さらに一般向けでも、2002年発売の格闘ゲーム『GUILTYGEAR XX』においてブリジットが衝撃のデビューを果たした事を皮切りにゲーム界にも同様の風潮が生まれる。2005年には『旋光の輪舞』にて、ツィーランがその大きなお尻に魅惑されたゲーマー諸氏を阿鼻叫喚の渦に叩き込み、パソコンソフトの『はぴねす!』でも渡良瀬準が登場した。この三者は現在まで非常に高い人気を誇っており、ジャンルの牽引役として全年齢に幅広く認知を進める事となった。
2005年には『処女はお姉さまに恋してる』において主人公の宮小路瑞穂のように性別を偽り女装して女子高に通う内容になっており、女子高潜入ものがアダルトゲームを始めとするジャンルで確立することになる。
2009年には『steins;gate』が、漆原るかを「だが男だ」という短くも非常に明快な表現で捉えた事で更なる注目を集め、前後して起こったふたば☆ちゃんねるの「こんな可愛い子が女の子のはずがない」ブームやラノベ原作アニメ『バカとテストと召喚獣』の「性別:秀吉」ブームと共にニコニコ動画のMAD等の題材にも盛んに取り入れられた。この頃になると「男の娘」の呼称も完全に定着する。また、ラノベ原作のアニメ化によって、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の戸塚彩加や『這いよれ!ニャル子さん』のハス太などの男の娘キャラクターが有名になっている。
女性向け作品では上述の通り、女装美少年キャラの系譜が一つの流れとして存在しており、『Wジュリエット』などが連載されていたが、この時期、男性向けでの流行を受け入れる形で改めて「男の娘」というキャラ造形が認知された。
2010年代に入ると漫画・アニメでは男の娘キャラの認知はすっかり一般化し、2010年から2013年にかけて専門漫画雑誌が各出版社から発売されて最盛期を迎えた。2011年には男の娘の妊娠について扱った『女装山脈』が発売される。今後男の娘やその妊娠について話題になるとき度々このゲームが持ち出される。
現在はそうしたブームも一旦の収束を見せ落ち着きつつあるものの、それは完全に一般化して一ジャンルとして定着したからという意味合いが強い。
他ジャンルとの関連
男の娘はオカマや女装男子といった既存ジャンルと重なる部分が大いにあり、その区分は曖昧だが、下記のような傾向の違いがある。
- オカマ
・そもそも侮蔑的な意味合いが強く、大抵は「良くてネタキャラ」という扱いである。
・外見が明らかに男性で、男性としても醜い部類に入る顔立ちである事が多い。
・内面は女性のようだが、やはり女性としても違和感のある言動をしばしば見せる。特に性的に奔放で誰彼構わずナンパして回るといった、男性の悪い面を兼ね備えている事が多い。
・体格は時に過剰に男性的(マッチョ)で、女装姿は「ただの変態」としか見られない事がほとんどである。稀にそれを活かして「やる時はやる(性的な意味でなく)」漢女に近い者もいるが。
・性自認は男性・女性・オカマの3パターンがあるが、恋愛対象としては男性を選択する。
- 女装男子(女装している男子のこと。状態を持った言葉である。)
・女装する理由も罰ゲームや家庭の事情など、消極的なものが多いが、ブーム以降は単に「自分に似合っている」「美しいから」というナルシストタイプも増えてきた。
・外見が女性の場合でも内面は男性である事が一般的である。あくまで「女装」という立ち位置。
・体格はもちろん男性で、多くは細く筋張ったマラソン選手・バスケ選手タイプの体をしている。細マッチョ程度なら筋肉質な場合もある。
・性自認も基本、男性で恋愛対象として女性を選択する傾向。
・似合ってなくても女装している男子は女装男子である。
・女装が似合ってても娘に見えなければ男の娘ではない。
・娘に見える女装男子は男の娘である。
- 男の娘(娘に見える男性。見た目を表す言葉である。)
・生まれながらに心身共に女性的な場合でも、「性同一性障害」といった悩みを抱えている事は稀である。むしろ自身への評価は高い部類で、性別を意識せず自然体を楽しむ傾向にある。
・体格も皮下脂肪が多く丸みを帯びた女性に近い姿をしており、肌に至っては「女性よりもきれい」という評価になる事も多い。
・第二次性徴は基本的に素通りしてしまい、声変わりや髭等の発毛が無いまま大きくなってゆく。エロ方面のノリが強い作品では、逆に微乳程度まで胸が膨らむケースさえある。
・異性として「男性」を意識するケースも多々あるが、やはり同性愛だから云々という葛藤を抱く事は少なく、「それが自然」という風である。
・男の娘が女装する場合、その理由は「かわいい自分を見るのが好きだから」、「好きな男の子に近づきたいから」、「好きな女の子に憧れて」、「女性のふりをして相手をからかうのが好き」など様々。普段は男性として暮らしパートタイムで女装を楽しむ者もいれば、常に女性としてふるまっているものもおり、性指向も男性が好きな者、女性が好きな者、「可愛ければ誰でも」、不明などさまざまである。
・「乙男」の場合はこの限りではない。
「男の娘」と「女装男子」は関連する部分も多いため、作品や作者理解によっては両者の呼称が混用・誤認される事がある。
「男の娘」と「女装男子」との違い
形式的な区別
明確な基準は娘に見えるかどうかと女装してるかどうかである。
●「娘に見えない女装男子」は「男の娘」ではない。
例:ニコイチの戸田須真子(女性に見えるのにあまり男の娘と言われないのは子供がいたり、娘というには大人っぽかったりするせいであろう。娘ではなく母)
例:仮面のメイドガイのコガラシ(メイド服を着ているが女性には見えない)
例:これはゾンビですか?の魔装少女状態の相川歩(女性には見えず似合ってない)
●「女装してない男の娘」は「女装男子」ではない。
例:明堂院さつき(原作では女装しない。ただし二次創作ではよく女装させられてる)
例:這いよれ!ニャル子さんのハス太(ユニセックスな服装だが女性女性してる服は着てないのでこちらに。見た目はロリにもショタにも見える。ロリショタとして男の娘とみることができる。)
●「女装している男の娘」と「娘に見える女装男子」とは、ほぼ同じ意味である。
ただ、言葉の語感的には
「女装している男の娘」は、「女装しなくても男の娘が女装してる」ように感じるのに対し
「娘に見える女装男子」は、「女装をすることで男の娘になれるタイプが女装してる」ように感じる。
例:はぴねす!の渡良瀬準(基本いつも女装しているがしてなくても娘にしか見えないだろう。)
※女装してる時もあるが女装してないときの方が多い男の娘の例
例:WORKING!!のことりちゃん(女装をすることで男の娘になれるタイプが女装してる。「小鳥遊宗太」ではなく「ことりちゃん」)
例:暗殺教室の潮田渚(女装してなくても男の娘に見えるタイプ。作中で女装するシーンが複数あるが通常は女装してない)
作風としての違い
「男の娘」と「女装男子」に関わる作風として差異が出やすいのは恋愛面であろう。
女装男子や女装少年は「男子」や「少年」という言葉に引っ張られるようで、最終的に「自分は男だ」という意識に回帰して女性と結ばれる事が「ハッピーエンド」となる傾向にある。それを機に女装から卒業したり、急成長して少年ならではの美しさを捨て去る事も多い。実の所、2010年代前半の商業作品にはこのパターンも相当数見られた。
一方、男の娘は相手が受け入れれば誰とカップルになろうとも「ハッピーエンド」であり、その後も生活を大きく変える事はあまり無い。葛藤や変化は専ら相手側の役割となる傾向にある。もちろん男の娘が苦悩や葛藤しても問題ない。そういう意味で本当に心情は関係ないと言える。
二次性徴を回避しているだけにそういった欲そのものが訪れない事もあり、「草食系男子」を通り越して「小動物」として扱われているケースも見られる。
端的に言えば男の娘はどこまでも自由で浮世離れした存在なのである。
結論
上記のように「男の娘」とは明確な定義がある一方で、実際の扱われ方は移ろいやすいものである。
よくわからない場合は、容姿や体型が女性的で、女性的であることに本人も周囲も違和感を抱いておらず、それが自然である存在を、男の娘と考えればよいだろう。
つまり男の娘とは、男性でも女性でもない新しい性別なのかもしれないのである。
昨今では、男の娘で「男」を表現する作品(女性が多く出てくる作品で、女の子が苦手そうなシチュエーションを男の娘にさせて活躍させる、など)も出てきており、新しい性別としての要素がよりアップしてきている。
男の娘に対する感情
「男の娘が好きな男性=同性愛者」と考える人がたまにいるが、これはとんでもない間違いである。
「男の娘が好き」といっても、それは可愛いものを愛でる心、すなわち「萌え」であり、必ずしも恋愛や性行為は必要とされていない。それは男の娘が全年齢対象の作品を中心として発展してきた歴史からも言う事ができる。
先述の通り、ストーリーにおいても恋愛は必須の要素では無く、男性向け萌え文化自体そうした方向性を遠ざけつつある。男の娘の「天然」な姿や立ち振る舞いや、にもかかわらず「だが男だ」という一般の男性にとって抗い難い現実は、生々しい諸々とは一線を画した純真無垢で安易に踏み込むべからざる聖域として、ある意味女性ヒロイン以上にヒロインに適した存在なのである。つまり性的指向が女性に向いている(=一般的な)男性にとって、男の娘を(性器が関わるようなレベルの)露骨な性的幻想(妄想)に巻き込むことはありえないことであり、そのことが男の娘キャラに萌える心の純粋性を保証してくれるのである。
実際ゲイポルノと袂を分かって久しい現在、男の娘好きの男性達が他の同性愛作品を嗜むという事はほとんど無くなっており、女性向け・ボーイズラブにおいても認知されたとは言え決してメジャーな存在とはなっていない。そうした点も、男の娘がそうしたジャンルとは異なる発展を遂げてきた事を示していると言えるだろう。
そもそも「子=娘」という呼称が示している通り、「男の娘」は基本的に10代の少年の間に適用される概念であり、たとえカップルが成立したとしても一生を添い遂げる事は前提としていないのである。
良くも悪くも往年の衆道に近い様式美なのであり、近い将来失われるそれに対するもののあはれと理解すべきであろう。
三次元において
三次元においても男の娘が一ジャンルとして確立しつつあるが、
そう自称する者の大半は、本家である二次元において男の娘がブームになって以降に現れており、
・上述の「男の娘」と「女装男子」との違いを無視している
なこともあるためか、
愛好者の多くは単なるコスプレイヤーの売名行為と見做して受け入れていない。
「あくまでファンタジーにおける理想の人物像」とする意見が多いのである。
特に男娼やハッテン行為を兼ねる者は上記の流れに完全に逆らう形となるため、それ自体の違法性を超えて厳しく糾弾されており、ある意味衆道以上に純化・理想化が進んだ思想になっているとも言える。
一枚絵と男の娘
原作がある作品だと原作が男の娘であることを保証してくれるが、
オリジナルで一枚絵のみだと、男の娘を描くのは結構難しい。
理由
男の娘の定義(娘に見える男性)より次の2つを一つの絵で表現しなければならないからである。
・「男の娘」は娘に見えなければならない。
・「男の娘」は男性である。
これを股間の膨らみや平坦な胸で表現することが多い。
外性器で性別を判断する認識は共通しているが、それ以外で何をもって男性か女性かを区別する基準は個々人でバラバラなので一致しない
できるだけタイトルやキャプションなどに男の娘であることを明記するのが望ましいだろう
関連イラスト
タグ付けの傾向
先述の通り、「男の娘」は移ろいやすいものであるため、公式設定が無く作者もタグ設定をしていない一枚絵などには複数のジャンルタグが付けられている事も多い。
関連タグ
中性 ロリショタ 男姉ちゃん 偽娘(中国語)雌男娘 CJD 女装子
類似タグ
乙男 オカマ ニューハーフ シーメール 性同一性障害 同性愛
ショタ化
前出以外の著名な作品
ストップ!!ひばりくん! 女装山脈 処女はお姉さまに恋してる おと☆娘 少女少年
個別キャラクター
※男の娘一覧を参照。
関連企画
靡童館(靡童館 bi-dou-kan※R-18)
対義語
男の娘☆について
- 男の娘☆8 (2010年03月20日)
上記イベントの主宰である小林聡氏は「男の娘☆」という文字列の商標登録をしている(2011年9月に認可済み)。以下の区分において「男の娘☆」およびそれに類する表記(「男の娘」「オトコノコ」など)を用いることは不正競争防止法違反にあたると主張しているので注意してほしい。
- 同人誌及び商品の展示即売会の企画・運営又は開催、屋外広告物による広告、看板による広告、張り紙による広告、インターネットによる広告、街頭及び店頭における広告物の配布、郵便による広告物の配布
- ダンスに関するイベントの企画・運営又は開催、漫画キャラクターに扮そうすることを内容とするイベントの企画・運営又は開催、写真撮影会の企画・運営又は開催、セミナーの企画・運営又は開催、スポーツの興行の企画・運営又は開催、音響用又は映像用のスタジオの提供、写真の撮影
- 主に同人誌即売会やコスプレイベントの開催とその準備・宣伝が対象になっている。
また、株式会社「未来少年」が、2010年4月27日付で「男の娘」の商標登録の出願を行っているが、こちらは2011年8月に拒絶の最終処分が確定している。
(参照:ITmediaNEWS)
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