概要
神戸市出身/在住の漫画家士郎正宗が講談社のヤングマガジン海賊版に掲載したSF漫画。サイバネ技術や電脳化が一般的に普及したサイバーパンク的世界観の近未来日本を舞台に、主人公草薙素子が率いる公安警察機関『公安9課』の活躍を描いた作品である。
士郎正宗の別の代表作であり、世界観を共有する『アップルシード』は本作から95年後の世界を描いた物語となっている。
原作漫画は1980年代に連載開始されたため、敵役に「ソ連の人」が出るものであるが、他の作品より設定が濃すぎる為か1、2巻と「1.5巻」の3冊しか出ていない。「クサナギ(草薙剣)」「フチコマ(斑駒)」など、諸星大二郎の「暗黒神話」へのオマージュで名前が構成されているそうである。なので、バトーは「馬頭星雲」の筈。
ジャンルはSFポリティカルアクションと評され多分に政治的である。連載が始まった時代は世界各地で反体制運動が激化していたが、そんな中で本作は『機動警察パトレイバー』同様に「体制側が正義の味方をやる」作品である。
シリーズ全体の流れとして、基本的には原作版の主人公草薙素子が『公安9課』の立ち上げに関わり「人形遣い」の一件の絡みで公安9課を去り、素子自身も「異なる者」へと変質するまでの経緯を描いた原作第一巻の内容がベースとなっており、大抵の派生作品は「その間に起きた語られていないエピソードを描く」「独自の解釈でその後を描く」「原作第一巻最終盤の展開を無かった事にして素子が公安9課に残り続けていたパラレルワールドを描く」という、「公安9課に所属する素子の活躍」あるいは「公安9課のメンバーの活躍」を主体として描くスタイルが取られている。
また、元々の作品自体が「人体の大部分を機械に置き換えた場合、それを『人間』だと規定する根拠は何なのか?」「『人間』という存在を物質的な物で定義出来るのか?」といった哲学的な内容を含んでいる為、シリーズ内では異彩を放っている押井守が手掛けた劇場作品も本作の内包する要素の一つを突きつめた、という意味では原作を尊重しているといえる。
余談だが、現在こそハード・シリアス調一色な渋いシリーズ作品として見られているが、原作版では割とコミカルなシーンもふんだんに盛り込まれており、アニメや映画における作品しか知らないファンが見るとちょっと衝撃を受けるかもしれない(士郎正宗の作風として、仕事上では徹底的にドライでリアリストなキャラがプライベートでは大いにはっちゃける事で「人間性を失わないようにしている」という描写が定番化している)。
ストーリー
時は21世紀、第3次核大戦とアジアが勝利した第4次非核大戦を経て、世界は「地球統一ブロック」となり、科学技術が飛躍的に高度化した日本。
電脳化と義体化技術によって到来した高度ネットワーク社会の中で、より高度・凶悪化していく犯罪に対抗するために政府は、隊長草薙素子少佐を始めとする精鋭サイボーグによる非公認の超法規特殊部隊を結成した。公安9課、通称「攻殻機動隊」の誕生である。
アニメあるいは二次作品
劇場用アニメーション映画、TVアニメーション等で上記を原作とした作品が公開されている。
いずれのシリーズでも、それぞれ登場人物達の設定やストーリーがかなり違っており、それぞれが原作を核としたパラレルワールド的な別作品といえる。
1995年に公開された最初の映像化作品で、押井守が手がけた劇場版「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」は海外で絶賛され、その後のシリーズ化を決定づけた作品であり、2004年に続編の「イノセンス」が公開された。
2002年から開始されたTVアニメ「攻殻機動隊S.A.C.シリーズ」は、「もし草薙素子が人形使いと出会わず公安9課に残っていたら」という前提に立ったパラレルワールドとして第三の「攻殻機動隊」である。シリーズには、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society」がある。
ストーリーは完全オリジナルだが、原作や劇場版に対するオマージュが随所に見られる。また「電脳化・義体化社会における人間の定義」という原作のテーマよりも、近未来を舞台に現代社会にも通じる社会問題を主題としており、各エピソードの方向性もハードな諜報サスペンスからSFガジェットを使った人情話まで多岐に渡る。
監督・シリーズ構成を務めた神山健治の作品『東のエデン』と世界観を共有しているのも特徴。
2013年に開始された連作劇場アニメ及びOVA「攻殻機動隊ARISE」シリーズは公安9課が正式に結成される直前のメンバー達のエピソード及び素子がかつて所属していた陸軍501機関にスポットを当てた内容となっている。スタッフだけでなく、主要な公安9課メンバーのキャラクターデザインの変更とともに、キャストも刷新されたことで話題となった。
2015年4月に地上波テレビ放送用に再構成して新作エピソード2本を加えた「攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE」が放送され、6月にシリーズ完結編となる長編劇場版「攻殻機動隊ARISE GHOST IN THE SHELL」が公開された。
2017年3月31日に実写映画化作品『ゴースト・イン・ザ・シェル』がパラマウント映画配給で公開。監督はルパート・サンダース、脚本はジョナサン・ハーマンとジェイミー・モスが担当。
素子役をスカーレット・ヨハンソン、荒巻部長役を北野武が演じることで話題となった一方、日本語吹き替え版ではスカーレット・ヨハンソンの声は、アニメ版で素子の声を担当し続けた田中敦子が「引き続き」担当している。
シリーズ一覧
原作漫画
- 攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL(1991年)
- 攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE(2001年)
- 攻殻機動隊1.5 HUMAN-ERROR PROCESSER(2003年)
アニメ作品
- GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊(1995年)
- 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(2002年)
- 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 2ndGIG(2004年)
- イノセンス(2004年)
- 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society (2006年)
- GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊2.0 (2008年)
- 攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D (2011年)
- 攻殻機動隊ARISE (2013年)
- 攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE(2015年)
- 攻殻機動隊ARISE GHOST IN THE SHELL(2015年)
- 攻殻機動隊SAC_2045(2020年)
実写映画
- ゴースト・イン・ザ・シェル(2017年)
小説
- 攻殻機動隊 灼熱の都市(1995年)
- 攻殻機動隊2 STAR SEED(1998年)
- 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 虚夢回路(2004年)
- 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 凍える機械(2004年)
- 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 眠り男の棺(2005年)
- イノセンス After The Long Goodbye(2005年)
- 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX SECTION-9(2012年)
ゲーム
- 攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL(1997年 PS用)
- 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(2004年 PS2用)
- 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX -狩人の領域-(2005年 PSP用)
主な登場人物
公安9課
荒巻大輔(CV::大木民夫(劇場アニメ版)、阪脩(S.A.C.)、塾一久(ARISE))
アズマ(CV:尾形雅宏(S.A.C.)、寺杣昌紀(劇場アニメ版))
シリーズ共通の設定
主人公・草薙素子らが所属する内務省・内閣総理大臣直属の公安警察組織。
「犯罪の芽を事前に察知して、摘み取ること」を目的とした攻性の組織であり、超法規的な権限と強力な戦闘力を持つ。
詳細は「公安9課」の記事にて。
- 電脳化
脳にマイクロマシンなどを埋め込んだり一部を機械化したりすることで、人間の脳とコンピュータネットワークを直接接続することを可能にしたバイオネットワーク技術。
情報のリアルタイムでの検索、無線通信、有線通信、情報の視覚化・共有など現在のパソコンのようなことができるようになる他、記憶そのものの外部化や仮想現実体験、感覚・感情の共有といったことも可能となる。また、義体化技術も併せることで専用ソフトウェアによる知覚・格闘・射撃などの能力強化も行われている。
非常に便利な反面、ゴーストハックやウイルスなどによるサイバー攻撃を受ける危険性に常に晒されることになる。また、SACシリーズでは電脳化に伴う健康被害「電脳硬化症」や「電脳閉殻症」が登場しており、体質的に現行の技術では電脳化できない者たちが持ってしまう情報や出来る事の格差といった社会問題も描かれている。
- 義体化
人体の一部ないしはその全てを機械化する技術。一般的には現実の義肢のように健康上の問題を解決するために行われているものの、生身の人間を超える戦闘能力を得ることや容姿を若く美しいまま保つことも出来るため、健康体であっても自身を義体化する者もいる。
全身義体のほとんどは人間型が使われているが、中には非人間的なデザインの物もある。
ARISEシリーズでは技術更新に伴って電脳と新しい義体の規格が合わなくなり、古い全身義体を使っているサイボーグがアップデートやバージョンアップを受けられずに生きたまま朽ちていく「デッドエンド」と呼ばれる社会問題が登場する。
- ゴースト
人間から代替可能な生体部分を取り除いていった時、最終的に残る人間を人間たらしめている必要最低限の存在のこと。
ただし、厳密にはあらゆる生命・物理・複雑系現象に内在する霊的な属性、現象、構造を包括する総称であるため、人間や動物、植物といった生命体に限らずあらゆる森羅万象にゴーストは存在していると言える。
義体化技術や電脳化技術の一般化によって作中世界は同じ外見のサイボーグ達や、知識の程度や思想の傾向が同水準である人々が多数暮らしている社会となっているため、「個」を規定する「ゴースト」の存在が重要になっている。
- ゴーストハック
他人の電脳に不正アクセスするサイバー犯罪。
他人の電脳に侵入することで肉体の自由を奪ったり、記憶の改ざんやウイルスを埋め込んだりする。極刑モノの重犯罪であり、発覚すれば終身刑級の刑罰が課せられることになる。
- 攻性防壁
外部から不正アクセスやサイバー攻撃が行われた際、発信元を逆探知して攻撃ウイルスを放つコンピューターセキュリティ技術。発信者が電脳によってアクセスしていたならば、脳を焼かれて死に至らしめられることになる。かなり危険な技術のため、通常は特定重要人物の電脳や機密情報のデータベースに限られるが、テロリストや犯罪者が不正に使用していることもある。
攻性防壁による攻撃を躱す対策として身代わり防壁と呼ばれる使い捨て式のデバイスも存在する。(身代わり防壁は他者の電脳でも代用可能)
「情報は社会の基盤であり、不正アクセスは凶悪犯罪である」という作中の価値観を最も如実に表しているガジェット。
- 防壁迷路
不正アクセスしてきた相手を防壁内に取り込むことでシステムや電脳を守るコンピューターセキュリティ技術。
防壁を重ねただけで時間稼ぎにしかならない簡単な物から、相手を幻覚(疑似体験)の迷路に迷い込ませてしまう高レベルな物まで存在する。
特殊な光学技術を応用して、使用者の姿を視覚的・電子的にカモフラージュする事が可能な技術、及びそのシステムの総称。中でも光学的レベルのみならず熱領域レベルにまで欺瞞することができるものは熱光学迷彩と呼ばれる。
視覚的には透明であるが、当然使用しても実体はなくならないので、音や重量、匂いで察知される事もある。
その特性上、政府施設内等での使用は重犯罪行為になるなど、使用上の規則が厳しく定められている。
工作機械や兵器以外でも義体技術及び人工知能技術の発達によって人間同様の外観や能力、模倣人格を持つロボットも実用化されており、一般市場でもメイド用や愛玩用、性的奉仕用等として販売されている。9課でも雑務やオペレーター業務をこなすためのポニーテールのガイノイド達が配備されている。
一方でモデルチェンジに伴って捨てられたロボットが野良化、メンテナンスを受けずに電脳が劣化し暴走事故を起こすといった社会問題も存在する。
「多脚戦車」の一種。「シンクス」とも。人工知能を搭載し、自ら「思考」する「戦車」である。4つないしは6つの脚と2つの腕を持ち、機関銃や榴弾砲などの攻撃機能の他、衛星との通信機能や光学迷彩機能を保有するものもある。自律稼働もできるが、ポッド内に人間が搭乗して操縦することもできる。
- アームスーツ
「強化外骨格」とも。いわゆるパワードスーツで、内部に人間が乗り込んで操作する。
機動性こそ思考戦車に劣るものの、非常に強固な装甲と高い火力と電子的防御力を持ち、超人揃いの9課メンバーでも相応の装備が無ければ勝つことは難しい。
- 自衛軍
作中世界における日本の軍隊。
- 条約審議部
海外がらみの事件や工作、諜報を担当する、外務省の情報部門。その性質上、相手国の宗教や感情を考慮して、課員にサイボーグは存在しないとされる。
9課が日本政府の国内の汚れ仕事を「銃と戦車」で解決する組織とするならば、6課は日本政府の外交上の汚れ仕事を「金と工作員」で解決する組織と言える。
各シリーズを通して、何かと9課と対立する展開が多い。
関連タグ
GHOST_IN_THE_SHELL/攻殻機動隊 イノセンス(攻殻機動隊)
攻殻機動隊 S.A.C. 攻殻機動隊S.A.C.2ndGIG 攻殻機動隊 S.S.S.
攻殻機動隊100users入り 攻殻機動隊500users入り 攻殻機動隊1000users入り
RD潜脳調査室・・・ストーリーに直接の繋がりはないが、今作品の原作者が原作に携わっていることもあり、電脳や義体化を中心としたテーマや、共通の通貨などが登場したりする。
世界観の上でも、攻殻のそれを元にした派生であると明かされている。