解説
1983年に開催された日本SF大会「DAICON4」のプロモーション活動の一環として製作された。制作はDAICON FILM(現GAINAX)。
庵野秀明が帰ってきたウルトラマンを演じたことで話題となった作品である。
元ネタである「帰ってきたウルトラマン」に加え、歴代ウルトラシリーズ(ウルトラマン~ウルトラマン80)のパロディやオマージュが所々に散りばめられており、後の「新世紀エヴァンゲリオン」等のGAINAX作品に影響を与えた。
リアルな造形のマットアローやマットジャイロ、背景のミニチュアの一部は、何と紙で作ったもの。
なお、庵野秀明氏がオリジナルで作ったデザインであるため、本家のマットアローとはデザインが全く異なるが、コンテナで弾薬が変わるという今でも通用するシステムや複雑でリアルなデザインは現在でもこの作品の顔の一つとして根強い人気があり、たびたびガレージキット化されている。
後に庵野秀明展の展示用に当時と同じ三枝徹氏が制作した紙のミニチュアが制作された。
撮影は基地内等の隊員達のシーンは夏(貸し切りの工場で3日間撮影したが、冷房もない場所でかなり暑かったとのこと)、ウルトラマンとバグジュエルの戦闘シーンは冬で鳥取県米子市で撮影されている。
予算自体は自主製作であるために20~40万円程度だったとされ、プロのスタジオ撮影の照明效果の手法がわかっていなかった事とミニチュアの少なさがわからないように徹底的にウルトラマンが戦うシーンは俯瞰での撮影を行ったり、上記の通りミニチュアを紙で制作したり、爆発シーンはちゃんとした撮影用の火薬ではなく、薬局で購入した火薬の原料を圧縮してガソリンで爆発させていたり、警告のライトの点滅シーンはコタツの光を使ったりとかなりの工夫が凝らされている。
近年、この戦うシーンで使われた家屋のミニチュアが四半世紀の時を経て今も残っていた事が明らかになっている。
今作のMATは名称こそMATだが、服装自体はどちらかというとウルトラ警備隊に近い。この衣装はジャージをベースに業者に依頼して作ったものだとか。
当初は円谷からあまり良い反応はもらえていなかったそうだが、エヴァが大ヒットした後に円谷プロが公認し、期間限定として本作のDVDが発売された(後に再販されエヴァストアで購入可能になったが現在は絶版であり、中古価格も高騰している)。
それ以前は無許可だった為、『帰ってきたウノレトラマソ』の隠語もしくは『DAICON FILM特撮作品』としてビデオ販売されていたらしい。
現在はバップから発売されているブルーレイディスク「庵野秀明 実写映画作品集 1998-2004」のDISC1に映像特典としてアップコンバート版がメイキング共々収録されている。
安野モヨコ(庵野秀明さんの配偶者)の漫画『監督不行届』(マンガ版の12 あー 拾弐話)を原作にしたアニメ(第九話 のEDはA応Pによる「戦え!ウルトラマン」)で、作品の紹介と嫁の感想とともに実写映像が放送された。(あと物凄くちょろっと『立喰師列伝』という アニメでちょろっと出てくる)
また、「アオイホノオ」でもいわゆる「庵野ウルトラマン」が登場するが、時期的には厳密に言うとこの「マットアロー1号発進命令」のものでは無く大阪芸大での課題で作ったものであり、今作と比べると原っぱで何の着ぐるみもない、傍から見てもウルトラマンごっこしてるようにしか見えなかったかなりチープな出来のものである。(こちらはソフト化されていないが、庵野秀明展で映像が公開されていた。)
実写ドラマ版で庵野秀明を演じた安田顕氏が忠実に演じた再現バージョンが登場しており、その後に撮影された「ウルトラマンDX」の再現版は撮影はされたものの、劇中では尺の都合でカットされてしまった為映ることはなかった。(こちらはアオイホノオのBlu-ray特典で視聴可能。)ちなみに庵野ウルトラマンが「マットアロー1号発進命令」においても完全に素顔だったのもセットや隊員の衣装や怪獣が本格的なのに肝心のウルトラマンが手抜きすぎるというギャップを狙ったとされている。
また、後に庵野監督が企画に携わった日本アニメ(ター)見本市の最後の作品であるカセットガールのラストでターミナルドグマの中にいる庵野ウルトラマンが登場している。
今作の「帰ってきたウルトラマン」とは大芸で庵野製作の「自主製作映画のウルトラマン」が帰ってきたという意味合いもあるらしい。
ちなみにこの庵野ウルトラマンはフィギュア化された事がある。
そしてなんと、「シン・ウルトラマン」ヒット記念に円谷公認で2022年7月1日に一夜限りとしてこのマットアロー1号発進命令が新宿バルト9で上映される事となった。同時に幻の学生時代の庵野が制作した「自主制作版ウルトラマン」も上映された。
ちなみに8ミリ撮影だったが2Kリマスター化ができたらしく映画館での上映は充分可能なものだという。
また、2022年11月18日に『シン・ウルトラマン』のAmazonPrimeVideoでの配信が開始されると同時にこの作品も配信開始となった。
ストーリー
ある日、突如としてヒラツネ市に隕石ラムダ1が落下し、ヒラツネ市の中心市街地一帯は、一瞬にして廃墟と化した。
知らせを受けたMATは、ヒラツネ市に落下した隕石の中に怪獣がいることを突き止め、マットジャイロとマットアローを出撃させた。
隕石から抜け出した3匹の怪獣は1つとなり、増殖怪獣バグジュエルと化した。戦闘の最中、イブキ隊員のマットアローが撃墜される。
翌日、MATはバグジュエルを殲滅すべく核兵器を使用することに決定。ハヤカワ隊員は「イブキ隊員や生存者達を見殺しにできない」と中止にしようとするが、イブキ隊長に殴られ「同胞の仇を取るんだぞ?貴様、それでも地球人か!?」と一喝されて独房に入れられてしまう。
イブキ隊長が乗るマットアロー1号は熱核兵器を搭載し出撃。それを知ったハヤカワ隊員はウルトラアイを装着しウルトラマンに変身、間一髪マットアローを受け止め、核を引き抜き攻撃を中止させることに成功する。そしてウルトラマンは、立ちはだかる怪獣バグジュエルと戦う・・・
増殖怪獣バグジュエル
宇宙最強の怪獣で、ウルトラマンからは「キルアン」と呼ばれている。
その正体は恒星間生物兵器。隕石に偽装されたカプセル内部に潜み、ヒラツネ市に落下。3体に分離して成長した後、一つに合体し巨大な怪獣となった。
武器は口から吐く破壊光弾と、あらゆる攻撃を跳ね返すバリヤー。ミサイル弾を受け付けないが、レーザー攻撃に弱い(第2射のレーザー攻撃はバリヤーで対処した)。
ウルトラマンの攻撃をバリアーでことごとく跳ね返し追い詰めるものの、口腔内にウルトラ眼光を受けて怯む。ウルトラブレスレットでバリヤーを破壊されて、流星キックと回し蹴りを受けて倒れ、最期はスペシウム光線を浴びて大爆発した。
名前の由来は「バック(背中)」+「ジュエル(宝石)」。これはデザイン画の段階では背中が宝石のようだったことから。
当初は、ガメラに登場した怪獣レギオンのような設定を考えていた。
鳴き声はザンボラーの声を加工したのを使用。初出現時にはゴモラの声を発していた。
スーツは塗料やゴムの臭いが混じってアンモニアが発生する程酷い臭いがしたそう。
ちなみにバグジュエルの爆発シーンで庵野氏は顔を軽度だが火傷した。
キャスト
イブキ・ゲンゴロウ隊長:武田康廣
ハヤカワ・ケン隊員:林収一
イブキ・シンゴ隊員:澤村武伺
ヤマガ隊員:業天隆士
イマムラ隊員:西垣寿彦
ニシ・ユキ隊員:西由紀
ウルトラマン:庵野秀明
増殖怪獣バグジュエル:田村紀雄
ナレーター:清積則文
ウルトラマンの声:中曽根雅夫
スタッフ
プロデューサー:武田康廣、澤村武伺
脚本:岡田斗司夫
特技監督:赤井孝美
総監督(監督):庵野秀明
撮影:赤井孝美
撮影協力:山賀博之
効果:小西真
光学:庵野秀明
音楽:冬木透
CG:内田正美、厚見献志
編集:赤井孝美、植田正治、神村靖宏
特殊美術:米良健一郎、三枝徹、喜田淳、辰巳康治、福田太郎、柴原直季、田村紀雄
美術:指宿明、歌原弘明、田口清秀、長戸健司、原口直規、山本達也
美術:岩木泰孝、桑原悟、玉谷純、林収一、山下敏博、杉本末男
怪獣製作:赤井孝美、田村紀雄
衣装:佐藤万里子、高畑彰、七堂眞紀、西由紀
制作進行:紙谷博之、神村靖宏
スチール:永山竜吐
助監督:毛利文彦、石間久雄、森脇好彦
プロデューサー補:西垣寿彦、業天隆士
協力:ゼネラルプロダクツ、光洋電機、いづみ石油、ポエミ、キャンパスネットワーククラフト13
協力:石間写植、深川岳志、山本義秀、岸田晃宣、柴田鉄二、大阪エアウェーズ、関西学生SF研究会連盟
現像所:フジカラーサービス南大阪現像所、山陰フジカラー現像所
企画・制作:DAICON FILM(現・GAINAX)
テーマソング
オープニングテーマ
「戦え!ウルトラマン」
作詞:東京一
作曲:すぎやまこういち
歌:団次郎、みすず児童合唱団
※『帰ってきたウルトラマン』の没オープニング。ほぼ完全なお蔵入り楽曲で、オープニングどころか挿入歌としても全く使用されなかった幻の曲だが、冬木透関連作品の音楽を集めたLPに1番だけ収録されており、本作ではこれを使用したものと思われる。後に庵野監督が企画を務めた日本アニメ(ター)見本市でアニメ化された「ザ・ウルトラマン 」にて三番の歌詞がエンディングに使用された。
エンディングテーマ
「美しき青きドナウ」
作曲:ヨハン・シュトラウス2世
関連タグ
シン・ウルトラマン - 庵野氏が企画と脚本を務めるウルトラマンの映画。こちらは自主製作ではなく、円谷プロが製作するれっきとした商業映画である。なお、庵野氏は今作でも(モーションアクターとして)ウルトラマンを演じている。