「二律を定める」
「そうか」
「しかし、卿は狂いはしないと私は思う」
「卿は私と同じぐらい強いからだ。アムル、我が兄弟よ」
「──凪の日とて、この海のどこかで風は吹いている。それは卿らとつながっている自由なる風だ」
概要
銀水聖海において〝決して触れてはならない〟といわれる存在、不可侵領海に指定されている人物。
一万七千年前に大魔王ジニア・シーヴァヘルドが、彼を主たる不可侵領海、魔王にとって唯一の不可侵領海と定めた。そう指定されるだけあって、彼は魔王たちから見ても極めて強大な存在である。分かりやすく例えると、不可侵領海にとっての不可侵領海と言える。
彼が〝二律僭主〟と呼ばれる所以は、一万七千年前に融合世界ボルムテッドを滅ぼし、その王位を力によって簒奪したためであり、また、秩序に従った正式な即位ではなかったため、そう呼ばれるようになった。
そして、一万四千年前から学院同盟パブロヘタラを監視するため、パブロヘタラ大陸付近に樹海船アイオネイリアこと幽玄樹海を置き、周辺の海域がパブロヘタラの手に落ちないように牽制していた。
人物
容姿
水に漂うように浮いている異様に長い銀髪を持ち、夕闇を具象化したような外套を羽織り、無彩色の瞳を持つ背の高い男の姿をしている。
またノアは、かつて銀水聖海で栄華を極めた深層世界、銀水世界リステリアに存在する《淵》──《追憶の廃淵》から生じた種族、《廃淵の落とし子》である。
《追憶の廃淵》
銀水聖海に幾つか存在する《淵》の一つであり、銀海中から滅びた世界への追憶が溜まり、時としてそれが具象化される。
具体的にいえば、〝故郷へ馳せる想い〟や〝主への忠心〟、〝在りし日の仲間達との思い出〟などの、行き場を失った感情がこの《淵》に引き寄せられるのである。
そんな《追憶の廃淵》に溜まる追憶から生じる存在は、《廃淵の落とし子》と呼ばれる種族であり、多くの追憶を体現した存在であるため、他の者よりも優秀な存在として誕生する。
しかし、ノアはその中でも、滅びていない世界から誕生した初めての例であり、唯一の存在である。
また、銀水聖海の深淵に位置する小世界──深淵世界に赴くまでは幼い外見をしており、その身体には微細な変化すら起きなかった。
しかし、彼の世界に赴き、そこであらゆる世界から魔力や秩序が集まることで形成される混沌の銀河の一部と《融合転生(ラドピリカ)》にて融合したことで、その肉体は極めて強靭なものへと変質した。
また、混沌を克服した後、身体は問題なく成長するようになり、やがて長身の美青年へと変貌を遂げた。
混沌を克服した肉体
ノアが《融合転生(ラドピリカ)》にて混沌の銀河の一部と融合したことで、銀水聖海でも屈指の耐久力を持つまでになった肉体である。
それは、無数の第三魔王ヒース・トニアによる《流水根源爆発(グエン・ガヴエル)》による特攻を食らっても、多少の出血をする程度という異次元の頑丈さを誇っている。
能力
ノアはアノスと同じく根源に滅びの力を宿すが、主に影魔法や深化魔法を扱う。
その実力は、ある者を除き、魔王を優に上回り、銀水聖海において頂点を競うほどの力量を誇っている。
魔法
《二律影踏(ダグダラ)》
任意の対象の影を踏むことで、あらゆる防御を無視して相手の根源を踏み砕くことができる深層魔法。
この魔法の行使中は、術者の本体への攻撃が無効化され、傷を負わせるには術者の影を攻撃しなければならない。
また、王虎メイティレン曰く、《覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズべダラ)》より遥かに深層に位置する魔法とのこと。
《背反影体(ダヴエル)》
秩序に反する影を生み出すノア固有の深層魔法で、その効果は、並の神の権能を遥かに上回るほどに絶大なるものである。
また、出力を最大にすることで、あらゆる秩序に反することができる。
〝世界から秩序を切り離す〟、〝〜〜であるという秩序を打ち破る〟といった様に、秩序に大きく干渉することができる。そのため汎用性が高く、様々な使い方をされている。
《覇弾炎魔熾重砲(ドグダ・アズベダラ)》
蒼き恒星を射出する炎属性の深層魔法。
《魔黒雷帝(ジラスド)》を纏わせた《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》を軽く飲み込むほどの威力で、高い連射性を誇っているために使い勝手が非常に良い。
また、この魔法は魔弾世界エレネシアの魔弾魔法であり、かつてノアが魔弾世界を強襲した際に、相手が行使してきた所でその魔法を習得した。
《掌握魔手(レイオン)》
あらゆる秩序や権能、攻撃魔法などを一点に収束させ、魔力と膂力に任せて力尽くで掌握する深層魔法。
魔法制御を僅かにでも間違えると即座に暴発してしまう。
しかし、一点に収束させ、掌握した力の分だけその威力が跳ね上がり、自身の魔法の強化にも使用できるので、使い方次第では既存の魔法の強さを凌駕する魔法を放つことができる、非常に強力な魔法である。
《黒七芒星(デムド・イヴ)》
《黒六芒星(デムド・イラ)》や《黒芒星(デムド)》と同系統の深層魔法。黒の七芒星を描き、そこを通過した魔法の威力を途方もないほどに増幅させることができる。
《深印(ドラム)》では深化させられない魔法も、遥か深淵へと迫らせることができる。同系統の魔法の中でも、最強格に位置する深化魔法である。
《黒六芒星(デムド・イラ)》
《黒七芒星(デムド・イヴ)》や《黒芒星(デムド)》と同系統の深層魔法であり、《黒芒星(デムド)》のより上位の深化魔法である。黒の六芒星を描き、そこを通過した魔法の威力を途方もなく増幅させることができる。
《黒芒星(デムド)》
《黒七芒星(デムド・イヴ)》や《黒六芒星(デムド・イラ)》と同系統の深層魔法で、この系統の中では最も弱い深化魔法である。
しかし、それでも《深印(ドラム)》と比べると、威力の増幅率は桁違いである。
《影縫鏃(デミレ)》
黒い鏃を対象の影に突き刺すことで、相手を地面に縫い付ける拘束魔法。
深層世界の強者だろうと身動き一つ取れない程の呪縛であり、災人イザークとの戦闘では、不可侵領海たる彼の動きを数瞬とはいえ止めるほどに強力である。
《影鈴(ゼン)》
影の鈴を召喚し、それを鳴らすことで対象の影を浮かび上がらせる深層魔法。
アノスが《波身蓋然顕現(ヴェネジアラ)》にて顕現させた可能性の体と本体を判別するために、ノアの身体を操っていたロンクルスが使用した。
《幽影創造(ゼブラル)》
ノアが樹海船アイオネイリアを創造するために使用した深層魔法。
任意の対象の影を操ることで、実体を有するあらゆる物の形状を変化させる事ができる。
第十五章《無神大陸》編以降のネタバレを含みます!
魔眼
《混滅の魔眼》
混沌とした滅びを本質とする魔眼。矛盾や混沌とした存在を上書きして滅ぼす強大な力を持つ。
開眼しかけただけで世界を滅ぼしかねないほど圧倒的な滅びの力を内包する魔眼。
あまりに強力すぎる為、普段はその力を極限まで抑えることで秩序を滅ぼす力を発揮することができる。
魔法
《転生(シリカ)》
転生魔法。大魔王ジニアをして不可能と言わしめた夢の魔法。
そして、《融合転生(ラドピリカ)》などの仮初めの転生とは違う、真の転生魔法である。
力や記憶を来世に引き継ぎ、生まれ変わることができる。
また、魔法を発動さえすれば、火露が世界の外に流出しても問題なく機能することが確認されている。
転生世界ミリティアでのみ成立する限定魔法である。
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ネタバレ
※この先、原作「魔王学院の不適合者」の極めて重大なネタバレを含みます!
「誰かの大事にしている、小さな幸せを守るのが優しさなのだそうだ」
「そして、私は優しい子なのだそうだ」
「恩人の言葉を、偽りにするわけにはいかぬ」
正体は本作の主人公「アノス・ヴォルディゴード」の転生前の姿、前世である。
本編より一万四千年前、二律僭主ノアは永劫の呪いに縛られた恩人を救う為に泡沫世界で転生の秩序を構築した後、転生魔法で泡沫世界に消えていった。
それ以降、銀水聖海でアノス達が出会った二律僭主は本人ではなく、執事のロンクルスが彼の替え玉として戻らぬ筈の主の帰りを信じ、二律僭主を演じていた。