概要
英語圏の二次創作(ファンフィクション)において、ファンが用いている特殊設定「Omegaverse」の日本語表記。正式名は「 alpha / beta / omega dynamics 」で、Omegaverseは略称である。-verseは英語圏において特定のコミックキャラクターやテレビシリーズ等の架空の世界を表す接尾語。
簡潔に世界観を言い表すと「 性の階級 × 両性具有ファンタジー の複合設定」。オメガバースを採用する作品の大半は、この設定が基本となっている。作品によってはここに「ケモノ」や「半獣人」等の要素が更に加わる場合もある。
見所は発情期とブロマンスからの性交・結婚・出産を兼ね備える、現生人類から大きく離れたロマンある生態。それらはそれらに起因するカーストなどディストピア要素と表裏一体の関係でもある。
その他の設定はかなり自由度が高いため、ハードルの低さが二次創作・一次創作(※注釈後述)を問わず重宝されるようになっていった。元々は洋画・海外ドラマ系ジャンル内において広がりを見せていたが、現在は日本でも、様々ジャンルで用いられている。
※注釈「一次創作」について
オメガバースは上記発生経緯により二次創作派生である。そのため「一次創作」におけるオメガバースは有り得ない。すべての作品は「二次創作」または「三次創作」「四次創作」…などとなっても「オメガバース」である限り一次創作とはならない。オリジナル主人公でオメガバース設定の場合はいわゆるメアリー・スー扱いであり、あくまでオリジナル主人公を使った二次創作(二次オリ)となる。しかしながらオメガバースタグと創作BLタグ、一次創作タグ、オリジナルタグなどを同時につける作品があるため、二次オリ項目にあるように独自タグで棲みわけする方法が望ましい。ただし、単なる男性妊娠などのオメガバース設定と関係ない一般的な設定または独自創作設定の場合は「一次創作」扱いとなる。その場合はオメガバースタグは不要。
また、後述する「オメガ性」の設定から、男性妊娠(妊夫)だけでなく「百合夫婦」や「女攻め」といったジャンルにも援用が可能である。
この辺はOmegaverse記事の方にまとめられているので、併せてどうぞ。
二次創作発祥とあるとおり、もともとは他の作品のキャラクターを上記のような世界観に落とし込む、または作品の世界観自体に上記のような設定を付加する、というのが主な使われ方だった(言うまでもなくこれはかなり過激な原作改変にあたるので、ファンとそれ以外の軋轢を避けるためにも明確なタグ付けをする必要があった。「オメガバース」という呼称もその過程で定着したものである)。しかし最近では二次創作に留まらず、オメガバース的世界観を一から創作した作品も増えている。
オメガバースが生まれた理由としては、「絶対に逆転や破綻の起きない、世界観的バックボーンに保証された(性的)関係性」を求める気持ちが発端にあったと思われるが、その後様々な発展や複雑化を経て、もはや共通する単一の動機といったものは定めがたくなっている。
特徴的な設定
「第2の性」と「階級」
オメガバースにおける特徴的な設定として「 男性 / 女性 」の他に、「 アルファ / ベータ / オメガ 」という第2の性、3種類の性別がある。オメガ性の人間は発情期になると性欲が向上して身体に力が入らなくなり、更にはフェロモンを発して社会的に有能なアルファ性の人間を誘引・興奮させてしまう体質を持っている。これが定期的にまたは不定期に一週間程続くため社会での扱いが悪い。「番」や「抑制剤」と言った回避手段もあるが完全ではないとされる。
計6種類の性別が存在しており、それぞれの体質・能力の違いから社会での評価・待遇に差別がある「階級社会」となっている。
男性 | 女性 | 性質 | |
---|---|---|---|
α | アルファ男性 | アルファ女性 | 支配階級。知能が高くなりやすいエリート体質。 |
β | ベータ男性 | ベータ女性 | 中間層。数が一番多い。 |
Ω | オメガ男性 | オメガ女性 | 下位層。発情期を原因として社会的に冷遇されている。 |
アルファ同士による結婚も可能である。しかし、いざ結婚してみるとお互いプライドが高く、マウントの取り合いになるため、アルファ同士の結婚生活は長く続かないとされる。
設定の背景・由来
「男性妊娠」の浸透
海外ドラマ『スーパーナチュラル』で狼男を題材としたエピソードが放映されたのをきっかけに二次創作が拡大したと言われるが、英語圏では昔からMPreg(男性が妊娠や出産をするジャンルを指す Male Pregnancy の略)という呼称が存在するため、同種の嗜好はさらに以前から存在していた、とする説もある。
日本の腐女子の間ではオメガバースと設定が似ている商業BL漫画『SEX PISTOLS』のタイトルと設定を借りた「セクピスパロ」がジャンルの通称として定着しかけた時期があったが、オメガバース設定の浸透により、同傾向の特殊設定を指す呼称としてこちらが定着している。
アルファ / ベータ / オメガの由来
オメガバースにおけるアルファ、ベータ、オメガという用語は、昔の狼研究者が使っていた用語から借用したものと言われる。
20世紀半ばの狼の研究者は、捕獲されて飼育された狼の群れを観察して研究していた。観察対象の群れは互いに血縁関係がない成体で構成され、狭い場所で飼育されていた。そのような群れの観察から、アルファ(最上位)、ベータ(第2位)、オメガ(最下位)という序列の概念が生まれた。そしてアルファの地位をめぐる争いがあると考えられていた。
しかし後年、野生の狼の群れの研究が進むと、この飼育下の群れの行動は野生のそれとは異なることが分かってきた。
野生の群れではアルファの地位をめぐる序列争いがほとんど起こらないことが判明したのである。観察対象の飼育下の群れは特殊な構成と環境だったために、通常ではない行動をしていたのだった。
野生の狼の群れ(「パック」と呼ばれる)は、一組の繁殖ペア(いわゆる番・つがい)とその子供で構成されることが多い(例外もある)。年齢による序列はあるが、序列をめぐる争いはめったにない。群れは繁殖ペアを中心とした家族であると考えられるようになった。
こうしてアルファなどの概念は否定され、近年の野生生物学者たちは狼についてアルファ、ベータ、オメガという用語を使わなくなった。
詳しくは外部記事(英語)を参照。
https://www.scientificamerican.com/article/is-the-alpha-wolf-idea-a-myth/
オメガバースのアルファ、ベータ、オメガの設定は、現実の狼の生態とは無関係である。
生態
下記のような設定はあくまでも基本とされているものであり、描き手・書き手によって細部は異なるため、実際のところはこの限りではない。
オメガバースは作者によって様々な設定が存在する、非常に自由な世界である。
アルファ性 (Alpha)
基本設定
- 数が少なく、生まれつきエリートでボス的な気質を持ち、社会的地位や職業的地位の高い者が多い。総攻めであり、特にオメガ性に対しては絶対的な攻め手である。強引で支配的だが、作品によっては「持てる者の苦悩」も受け持っている。
- 発情中のオメガとの接触は、どんなに理性的なアルファであっても抗しきれない強烈な発情状態を引き起こし、時に暴力的なまでの性交に及びかねないため、この性質を嫌悪するアルファもいる。
- なお、オメガの発情抑制薬に相当するものが存在しないため、一度発情したアルファを、同じく発情しているオメガが止めるのはほとんど不可能。亜人や半獣人のいる世界観の場合、鋭い牙を持つなどより動物的な要素の強いフィジカルエリートでもある事が多く、一層顕著になる。
特殊設定
アルファ女性 (Alpha Female, AF) |
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アルファ男性 (Alpha Male, AM) |
関連設定
ラット |
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ビッチング |
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ベータ性 (Beta)
- 最も人口が多く、身体的特徴や行動等も現実の人間とほぼ変わらないとされる。
- 発情期も存在せず、オメガ性の発情に誘惑される事もあるが、アルファ性ほどの激しい反応は起こらず、自制も可能。中にはオメガ性のフェロモンがまったく効かない設定も存在し、そこでのベータ性からすれば発情オメガは「体調が悪そう」くらいにしか見えない。結婚もベータ性同士の男女でする事が当たり前と捉えており、その子供も高確率でベータ性となるので同様の家庭が再生産されてゆく。「一般人」「大衆」代表。
- ただ裏を返せばそれ以外の組み合わせや、ベータ性同士の子にもかかわらず他の性になる場合が稀にあるという事である。また、子供の時はベータとされていたものが年齢を重ねたら体質が変化する、といった設定も見られる。それらをどの程度タブー視するかでその社会が決まるところがある、重要な役割でもある。
オメガ性 (Omega)
基本設定
- 数はアルファ性よりも少なく、絶滅危惧種のようになっている場合もしばしば。大きく育たなかったり、誘惑や妊娠に特化した成長をしたりと、身体構造自体が生存競争に不利なようになりがちという設定も見られる。女性も「男性も」ほぼ確実に総受けである。
- そのまま絶滅する事を望むアルファやベータがいたり、アングラ世界からは「使える」存在と看做されある意味引く手あまただったりと、現実の女性やその他マイノリティーが被ってきた諸々のリスクやハンデのメタファーとして捉える向きもある。
特殊設定
性器
オメガ女性 (Omega Female, OF) |
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オメガ男性 (Omega Male, OM) |
関連設定
発情期 |
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抑制剤 |
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ネスティング |
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オメガ性の冷遇
- オメガ性の特性上、発情期になると周囲とのトラブルを引き起こし、本人もまともな労働力として使えなくなることから、繁殖(主に産む側)に関することのみが仕事とされていた歴史がある。
- 実際オメガ性が自立するにも就職先は制限されがちで、多くは低賃金の単純労働か、体質を活かした夜の仕事に従事せざるを得ないのが現実である。たとえまともな職を得られても、結局は発情期が足を引っ張り、職場内で冷遇・腫れ物扱いされたり、最悪愛人や枕営業要員として飼い殺しにされる事になる。
- 差別描写については、他の性と競合すると優先的に落とされたり、「優しくか弱い家庭的な性」として補助的な仕事に集中投入されたりする「程度」の、先進国における一般女性レベルの生活は可能としている設定も少なくない。中には珍獣のように、ある意味大切に「保護」されているという設定も見られる。とはいえ、こういったケースは家の奥に軟禁され、時が来れば保護者が決めた婚約者に引き渡されるのみといった自由無き人生を意味しているものでもある。
番(つがい)
- アルファとオメガの間にのみ発生する特別な繋がりを「番(つがい)」と呼ぶ。
- フリーのオメガはフェロモンを発してフリーのアルファを誘い、番になったオメガは以後フェロモンを発さなくなる。番になる基準は運命的なものであったり、性行為の際にアルファがオメガのフェロモン分泌腺があるうなじや喉元を噛むことでフェロモンが変質し、番になったことが周囲にも判別できるようになる等々、設定は様々。なお、ベータとオメガで繁殖は出来るが、番関係にはならないと言われる。
- この番は本能的なもので、通常の恋人関係や婚姻関係よりも強いものとされ、一旦番になるとどちらかが死ぬまで解除されないと言われる。特にオメガは、生理的にも他の相手との性交がしにくくなる側面があり、以後は番とのみ行為に及ぶようになる。
- しかしアルファの都合によっては、オメガ側が一方的に番を解除され引き剥がされる場合もある。この状態のオメガは非常に強い精神的ストレスを負い、以後は番を作れなくなってしまう。一方で発情期が再発するため、二度と番を得られないまま発情期を抱えた一生を送ることになる。
関連作品
BLやケモノ自体の扱われ方の違いもあってか、発祥である英語圏ではファンタジーを通じて現実社会の問題提起を行う作品が多く見られ(ディストピア小説やPolitical Fic本来の文脈でもある)、日本では逆にその不憫さや不条理に萌えたり、ささやかな幸せを見出したりするような作品が多く見られる傾向にある。
社会への問題意識を持っていて、それを表現したい、あるいはより原義的な意味でのディストピア萌えを伝えたいなら、そういった切り口でオメガバースを扱うのもいいだろう。多様な設定こそが醍醐味でもあるオメガバースにおいて、あなたの作品が、オメガバースのひとつのスタンダードになるかもしれないのだから。
外部リンク
日本語
日本語での詳細な解説(個人blog)
海外fanficでしばしばみかける設定など
疑義と批判的見解の例(個人blog)
英語
fanfiction(二次創作)のための用語解説wikiの記事。歴史や概略など。
※リンク先成人向けのため注意
有志によってまとめられた設定、世界観、用語等についての詳細な解説
上記AO3内の記事の日本語訳(原文投稿者許可済)※こちらは全年齢
※生殖器の図解画像があるため閲覧注意