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マルドゥック・ヴェロシティ

まるどぅっくゔぇろしてぃ

ハヤカワ文庫より刊行された冲方丁のSF小説。『マルドゥック・スクランブル』の続編にして前日譚。
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概要編集

冲方丁ハードボイルドサイバーパンクSF小説。

2006年に全三巻構成でハヤカワ文庫JAより刊行された。


第24回日本SF大賞を受賞した『マルドゥック・スクランブル』の続編にして前日談。

マルドゥック・スクランブル-09成立までの過程、そして前作の主人公ルーン・バロットウフコック・ペンティーノのコンビと死闘を繰り広げた宿敵ディムズデイル・ボイルドが如何にして大いなる虚無へと至り、ウフコック達と袂を別つことになったのかが明らかとなる。


「/」や「=」、「-」などを多用した独特の文体で書かれており、アメリカの小説家ジェイムズ・エルロイの『ホワイト・ジャズ』を意識したかのような文体となっている。


あらすじ編集

覚醒剤中毒による友軍への誤爆という罪を犯した元エリート軍人ディムズデイル・ボイルドは廃人寸前であったところを宇宙戦略研究所に収容され、そこで開発されたばかりの万能ネズミ型兵器ウフコックと出会う。麻薬中毒を克服し、重力を自在に操る力を得るとともに自己を回復してゆくボイルド。だが戦争は終結し、技術を危険視された軍研究所とその成果は廃棄されることが決定してしまう。

全てを葬り去るべく派遣された実行部隊を辛くも退けたボイルド達は、仲間と共に自分達の「有用性」を示すため、三博士の一人・クリストファーの提案に乗り、マルドゥック市で人命の保護と事件解決のために禁じられた科学技術を使用する独立法執行機関『マルドゥック・スクランブル-09』のメンバーとなる。


市警や検察と協力してマルドゥック市の様々な事件を迅速かつ的確に解決していくチーム09。


しかし、ギャングの世代間抗争に端を発した拷問殺人事件の背後にある巨大な陰謀が、都市政財界・法曹界まで覆い尽くし、09メンバー達を凄惨かつ過酷な運命に巻き込んでいくのだった。


登場人物編集

チーム09編集

クリストファーによって創設されたマルドゥック・スクランブル-09の実働メンバー。

  • ディムズデイル・ボイルド

徘徊者(ワンダー)/錆びた銃(ラスティ・ポンプ)/擬似重力(フロート)=意図的な重力発生。

かつてはエリート空挺部隊員だったが、戦意高揚のために与えられた薬物中毒によって味方を誤爆してしまい、その治療とマスコミからの追及を躱させるために宇宙戦略研究所に収容される。

09結成後は仲間と共に様々な事件を解決していくが、やがて都市改造計画と世代間闘争を巡る巨大な陰謀に翻弄され、ウフコック達を守るためにあまりにも残酷な選択を迫られることになる。

  • ウフコック・ペンティーノ

万能道具存在(ユニバーサル・アイテム)/ターンオーバー(反転変身)=記憶した道具にひっくり返って変化。

最強の万能白兵戦兵器を想定して作られた金色の喋るネズミ。無垢と良心の象徴であり、道具存在たる自分の存在意義について模索する。ボイルドとは互いにかけがえのない相棒同士。好物はピスタチオ

  • ラナ・ヴィンセント

短く刈った金髪で、シャープな顔立ちの元陸軍女性兵士。バイク兵。

超電導式機関銃の暴発で喪った両腕の代わりに生体電流を増幅する義手を移植されている。強烈な電撃を発する他、金属物を弾丸として電磁加速して撃ち出すことが可能。

  • ジョーイ・クラム

“拳骨魔(フィスト・ファッカー)”/銃弾をも止める鋼の筋骨と怪力。

短いブロンドを持つ小柄な童顔の青年で、元・陸軍歩兵。チームの最年少の一人。

元歩兵友好会ライトミドル級ボクシングチャンピオン。化学兵器で全滅しかけたところをハザウェイに救助され、親友となった。能力の代償として300kg近く増加した体重により、水中で活動することが出来ない

  • ハザウェイ・レコード

“再来者(レヴナント)”/肉体の即時再生による半不死。

赤毛のダックテールの青年でチームの最年少の一人。元衛生兵であり、化学兵器で全滅しかけた部隊を自らも毒に冒されながら救助、勲章を授与され、研究所行きになった。全身に人工的に癌化した胎児の胚細胞を移植しており、致命的な損傷を受けても数分で回復し蘇生するが、これは同時に大量のカロリーを消費し、文字通り寿命が縮む。

  • レイニー・サンドマン

“砂男(サンドマン)”/無数の粒子状に変化する皮膚・筋肉組織=身体的特徴の完全変化。

のんびり屋の元斥候兵。戦闘中味方を助けるために敵部隊へ火炎弾を持って突撃、敵ごと火だるまになった。火傷で壊死した皮膚に代わり、粒子状に変化しあらゆる変装を可能にする人工皮膚を獲得。ワイズの相棒。

  • ワイズ・キナード

“悪党(ワイズマン)”/人工声帯と鼓膜による集極音波。

切れ者の元通信兵。轟音弾により、聴覚を完全に破壊され、人工の鼓膜と声帯を獲得。ありとあらゆる音を聞き分け、さらにどんな音や声も自由自在に発声、特定の人間にだけ聞かせることができる究極の通信兵となる。レイニーと共に攪乱戦術で活躍する。

  • クルツ・エーヴィス

“盲目の覗き魔(ブラインド・ピーピング・トム)”/線虫(ワーム)散布による広大な視界確保及び針金虫(ワイヤーワーム)による戦闘力。

冷静沈着な元狙撃兵でトラップの名手。戦場で両目を真横から撃ち抜かれ盲目となったが、体内で光学伝達機能を持つ線虫を飼育・散布する能力による多次元的な複眼視界を獲得し、さらに線虫を繋ぎ合わせることで強靭な単分子ワイヤーカッターを形成することができる。

  • オセロット

不可視の猟犬/ステルス。

ウフコックと同じく研究所にて人並みの知能を得た元軍用犬。喉に移植された器械によって、電子音声で会話できる。身体能力を強化されている他、全身を光学繊維で作られた人工体毛で覆っており、完全に姿を消すことが可能。クルツの相棒。

  • ウィリアム・ウィスパー

“ハイテク世界のシャーマン”/電子世界における優秀な情報収集能力。

元ヘリコプターのパイロットであったが事故で脳を損傷。脳に埋め込まれたハードと頭皮を覆う金属繊維で手を触れず直接コンピューターを操作する能力を獲得している。寝たきりで喋ることはできないが、電子機器を通してメッセージを発する。

  • ドクター・イースター

お喋りイースター/助手・雑用。

宇宙戦略研究所の研究者で、クリストファーの助手。人体改造の名人。09立ち上げ後は事務作業やメンバーのメンテナンス、後方支援で活躍する。肥満体型。

  • クリストファー・ロビンプラント・オクトーバー

“渦巻き(ホイール)”/茶番好きの道化。

宇宙戦略研究所を創設した三博士の一人。オクトーバー一族の末弟。カオス理論に基いて髪をまだらに染め、派手な色の白衣を着込み、多くの小物をジャラつかせているというさながらパンク青年のような服装だが、顔立ちは美形。戦後、研究所の技術を人命保護のために活用することを提案し、マルドゥック市にてマルドゥック・スクランブル-09を創設する。


法曹・警察関係者編集

  • フライト・マクダネル

マルドゥック市警刑事。09結成直後のボイルドの実地訓練(ジョブトレーニング)のコーチであり、やがて貴重な友人となる。

  • フレデリック・ウォーマン

連邦検事。

  • クレア・エンブリー

マルドゥック市警の女性刑事。鼻っ柱が強く、背の高い美人。

  • サム・ローズウッド

弁護士。ある事件の中で09によって保護されたことを切掛に、ラナと付き合うようになる。


宇宙戦略研究所編集

  • チャールズ・ルートヴィヒ

”厚顔無恥(フェイスマン)”/研究至上主義。

三博士の一人。戦後は研究所とその関係者を生き永らえさせるため、研究所を社会から完全に隔絶させた環境に置き、研究のための研究を続けていくことを提案する。

  • オードリー・ミッドホワイト

嘘発見器/対象の近くに立つだけで心理・肉体の状態を把握し読み取る尋問の天才。

元偵察ヘリの女性パイロットで、ラナのパートナー。黒髪の美人でヘビースモーカー。

傭兵たちの略奪現場を調査中、何者かに三か月間拷問されて手足を失い、研究所に送られて超精密なスキャン能力を持つ義肢を獲得した。物語開始時点で研究所内で死亡している。


オクトーバー社編集

  • サラノイ・ウェンディ

”猿の女王(クイーン・オブ・エイプ)”/上昇志向。

三博士の一人。涼やかなブルネットの女性で、40代ながら30代前半にしか見えない。戦後、研究所の技術を都市における快楽や娯楽を供給することに活用することを提案し、オクトーバー社と合流する。

  • エッジス&ブレイディ

シザースと呼ばれる人格・記憶を共有するよう改造された二人組。サラノイの配下。

  • ファインビル・ノーマン・オクトーバー

オクトーバー社創始者。

  • グッドフェロウ・ノーマン・オクトーバー

オクトーバー社CEO。ファインビルの孫の代における長兄。ボクシングを嗜む鷹揚な人物。

  • ファニーコート・ブレイク・オクトーバー

地方検事補。次兄。潔癖。

  • ノーマ・ブレイク・オクトーバー

ファニーコートの娘。『暴力』に奇妙な好奇心を見せる少女。

  • クリーンウィル・ジョン・オクトーバー

オクトーバー社重役。三男。兄達に比べ、凡俗で精神的に幼稚。ペドフィリア


ネイルズ・ファミリー編集

マルドゥック市の裏社会を牛耳る大手ギャング。

  • ロック・ネイルズ

ファミリーのボス。子供をドラッグで洗脳して犯しながら嬲り殺すことを愛好する異常性癖者。

  • ニコラス・ネイルズ

ロック・ネイルズの息子。ゲイ。冷徹で頭脳明晰な上、大口径の二丁拳銃を巧みに使い、常人ながらチーム09とも渡り合うほどの腕前を持つガンファイター。

  • ナタリア・ネイルズ

ニコラスの妹。蠱惑的な美女。文字通りの『毒婦(ヴァンプ)』。

  • リズ・ブラウネル

ロックの妹。命を張った取引にも動揺しない『女帝』。

  • プリンス・ショーン

黒髪・黒い瞳・白い肌を持つ美青年。ニコラスのフリーラバー。


カトル・カール編集

拷問・暗殺・誘拐・脅迫を四分の一(カトル・カール)ずつこなすフリーの傭兵部隊。メンバーのほぼ全員が人間の形を留めないほどの機械化・強化手術を全身に施している異形者集団である。

  • フリント・アロー

司令官。顔面にピエロのメイクを施し、黒豹を思わせる精悍な肉体とアイスブルーの瞳を持つ剣士。刀身内部を毛細血管の如く流れるリキッドによる重心変化で切っ先の精緻なコントロールを可能とした漆黒の軍刀を操り、ボイルドの重力の盾すら切り裂く。

  • ブランドマン・スピットファイアー

全身に纏った防火服からさながらフラミンゴのような姿の男。燃性ナパームゼリーを使用した火炎放射器を使う。

  • スパンカー・モノライダー

下半身を一輪バイクに換装し、股間にユニコーンの彫像を生やした男。両手にはをも殺す鉄製のムチが生えている。

  • リッキー・ヒッキー

噛み付き魔。一見、小柄なバレリーナの少女のようだが、両足が車輪付きの義足となっており、さらに鼻から下がサメの如き鋼鉄製の顎部になっている。

  • ホッパー・スクラッチャー

引掻き魔。両腕を尖ったフックに、両足をノミに似た跳躍力を持つ機械化義肢にした青年。

  • ベイビーヘッド・ハングマン

トラックのタイヤより広い掌と巨大な腕、赤ん坊のような顔を持ち、胸から上しか無い。性器やその他諸々の内臓を全て両腕と肩に詰め込んでおり、左手に肛門がある。

  • ローチー・ニードルマン

巨大な盾を背負い、6本の機械化義肢で壁を這って移動するゴキブリのような姿を持つ男。指向性対人地雷と特大の注射針を持ち、薬物のスペシャリスト。

  • ホーニ-・ソープレイ

 トナカイの如き姿の女。高速で走る自動車に追い縋るほどの速度を四足走行で走り、赤熱化する男根を模した角で敵を粉砕する。

  • ダッキー・シューター

股間にショットガンの束を生やした男。レインコートを羽織り、露出狂スタイルで放つ。銃口にコンドームが装着されているが理由は不明。

  • シェイキー・スプラッシャー

手足を機械化し、婦人用の喪服を纏った小男。キャタピラ式の巨大なベビーカーを模した電撃ワイヤー射出機を操る。

  • ラバーマン・ポイズンスター

柔軟な肉体を持ち、神経ガスを発生させるボールを使う男。ハエを思わせるガスマスクで素顔は窺えない。

  • ブッティ・スケアクロウ

四肢が無く、機械の柱に腹から上だけを繋ぎ合わせたかのような姿の小男。幼児並みの知能と精神しか持っていないが、ウィスパーに匹敵する電子戦能力を持つ。


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