概要
2009年にユタ州ケーン郡のグランドステアケース・エスカランテ国立保護区ワーウィープ層から化石が見つかり、2013年に「南西部の流血王」を意味するリトロナクス・アルゲステスと命名された。全長約8メートル・体重約2.5トンと、ダスプレトサウルスやゴルゴサウルスと同じぐらいの大きさだった。また両眼は後の時代の種のように立体視ができる位置についていた。
発見されたワーウィープ層の年代は約8千万年前と、記載されているティラノサウルス科のなかでは層序学的に最も古い時代に棲息していたらしい。分類学上では前述した2種類よりも、ティラノサウルスやタルボサウルスに近縁とされている。
同時期のユタ州に棲息していた植物食恐竜にはディアブロケラトプスなどが挙げられる。ティラノサウルスがトリケラトプスを捕食していたように、リトロナクスもディアブロケラトプスを獲物としていた可能性は十分考えられる。
また、リトロナクスは進化型のティラノサウルス類の始祖である可能性が指摘されている。とくに1億年前から9500万年前は海水準が高く北アメリカは細長い大陸だとされている。この時期にララミディア(当時の北アメリカの西大陸)の南部でティラノサウルス科のオリジンが生まれ、海水準が下って他の大陸との行き来がしやすくなった際に北上していく中で、一部が北米にとどまりダスプレトサウルスやティラノサウルスになり、一部はアジアへ帰りタルボサウルスやズケンティラヌスになったとみられている。リトロナクスはアジアに進化型のティラノサウルス類が存在した理由の仮説を立てる素材としての側面も持ち合わせている。