🚊概要
路面電車は併用軌道、すなわち道路と共用の線路を走る軌道系交通機関のうち、電車を用いる公共交通機関の事である。ただし、全線が専用軌道になっていても路面電車扱いされる路線(例・東急世田谷線)もある一方、併用軌道区間があっても路面電車とはされない路線もある(例・江ノ島電鉄)。軌道が完全立体化されているモノレールやAGTなどは路面電車と呼ばない。
通常の電車よりも小型で床が低い形式の車両(低床車)を用いることが多い。これは駅の高床化されたプラットフォームを用いる普通鉄道と異なり、道路上に設けられた停留所(電停、安全地帯)からの乗降を想定するため。
都市内交通としてはバスよりも輸送人員が多く、地下鉄よりも少ないとされる。
日本においては一般的な鉄道の法律である鉄道事業法とは別に、軌道法により運用される。歴史的には「鉄道事業法」は鉄道省→運輸省の管轄であり、「軌道法」は内務省→建設省の管轄であった。現在はどちらも国土交通省の所管となっているが、軌道法はなおも鉄道局と道路局にまたがっている。江ノ電が併用軌道区間があるのに路面電車扱いされないのは、低床車を使わないからではなく鉄道事業法に基づく鉄道路線だからである。一方で名鉄豊川線のように軌道法に基づく路線でありながら併用軌道が一切なく高床の電車車両を用い実態としては普通鉄道と何ら変わりのない路線もある。軌道法に基づく併用軌道に大型車両が乗り入れ地下鉄路線と通し運転する京阪京津線のように、路面電車なのか普通鉄道なのか判然としない路線もある。
海外においては長編成で高速運転を行うものも多い。
世界の路面電車の歴史
19世紀に都市内交通として広く用いられていた馬車鉄道の電車への置き換えが起源である。併用軌道は気動車や機関車牽引の客車貨車などでも一応は運用可能であるが、あまりその例はない(現在の日本では伊予鉄道の坊ちゃん列車が唯一の例である)。当初はアメリカ合衆国が最大の路線を抱えていたもののモータリゼーションによりそのほとんどが廃線となり、現在では旧ソビエト連邦諸国とヨーロッパ諸国が最大の路線網を抱えている。
日本の路面電車の歴史
日本においては1910年の軽便鉄道法(1919年廃止)により、多くの併用軌道が百花繚乱のごとく建設され、大都市から地方都市に至るまで長く一般市民の脚として活躍した。
しかし、並行する道路の拡幅が行われないままモータリゼーションを迎えたところが多く、戦後は利用者の減少および道路の自動車の通行量の増加から、地下鉄(特に公有路線)や路線バスへと切り替えが進み、路面電車は相次いで廃止されていった。
日本では路面電車よりも郊外電車の導入の方が先だった(甲武鉄道、現JR中央本線の一部)のだが、当時の日本は技術的に電車を独自開発できる時代ではなかったため、路面電車様式の電車がそのまま鉄道線に投入されていた。
電車の直訳語であるElectric Car(略してEC)は、本来路面電車のような軽軌道用の車両を指した。高速鉄道用の電気旅客車は、Electric Multiple Unit(略してEMU)という表現が世界における一般名称である。しかし、日本の電車はその発祥が上記のようであったため、すべてがECとされる。なお新幹線も例外ではない(新幹線用電車はTrunk-line Electric Car、略称TECとされる)
関西の準軌私鉄や、京急などは当初より本格的なインターアーバンを目指したが、開業当初軌道条例(→軌道法)に根拠法をとり、わずかながらあるいは開業当初の区間に併用軌道を持つものが多かった。現状において、これらは勿論路面電車ではない。
近年の状況
1970年代の北米で、路面電車や市内を走行する鉄道路線を「ライトレール(LRT)」として再整備・開業させる動きが生まれた(LRT=路面電車というわけではなく、普通鉄道でもLRTに分類される路線はある)。1980年代のフランスや西ドイツでは中小都市を中心に盛んに路面電車が開業・復活する動きがあり、車両の低床化などの新機軸の導入も精力的に行われた。
これらの影響は1990年代頃から日本にも及んだ。広島電鉄などで低床車両の導入が進み、2006年には富山ライトレールが(JR西日本の在来線の路盤を一部活用する形で)新規開業。2015年には札幌市電が路線を一部延長し環状運転を復活、2023年には路面電車としては75年ぶりの完全新線として宇都宮ライトレールが開業するなど、路面電車の価値を見直す動きが相次いだ。
なお執筆時点では広島電鉄が日本最大の路面電車路線網を有している。これは広島の地質上の理由で地下鉄が建設できないためとされている。
またドイツでは1960年代に路面電車を基にした小規格の地下鉄(中心部は地下、郊外は地上を走行する。場合によっては普通の地下鉄に乗り入れする。)である「シュタットバーン」、1992年にはカールスルーエで実現した、高規格の路面電車(トラム)の車両を一般の都市間鉄道路線上で走らせる形態の軌道輸送交通機関「トラムトレイン」も登場している。
集電装置
過去においては集電装置にトロリーポールやビューゲルを採用していた。しかし日本では路線の分岐や折り返し等があるためこの形式では運用が面倒であり、またこれらの形式は架線より離線しやすく高速化にも向かないため1920年ごろよりパンタグラフを採用するようになり、現在の日本においては保存鉄道で用いられる車両以外はすべてパンタグラフになったが、シングルアーム式のパンタグラフの電車も増えており、デザイン的には原点回帰したような形になってきている。
現存する路面電車運営事業者
公営
民営
東急電鉄(世田谷線。ただし、東急玉川線の専用軌道区間のみが残った経緯から、路面電車であるにもかかわらず併用軌道区間がない)
豊橋鉄道(東田本線)
富山地方鉄道(富山市内軌道線、および旧富山ライトレールが運営していた富山港線の一部区間)
福井鉄道(福武線。福井市内の一部区間を除き鉄道)
京阪電気鉄道(京津線・石山坂本線。この2線を合わせ大津線とも呼ばれる。なお、京阪本線ももともとは路面電車発祥の路線であり、三条~七条間の地下化も軌道のまま実施された)
阪堺電気軌道(阪堺電車、阪堺)
岡山電気軌道(岡山電軌、岡電、岡軌)
広島電鉄(広電、宮島線は鉄道)
伊予鉄道(市内線。ただし城北線は鉄道)
長崎電気軌道(長崎電軌)
第三セクター
宇都宮ライトレール(宇都宮芳賀ライトレール線、ライトライン)
万葉線(加越能鉄道から路面電車線を引き継いだ。新湊港線は鉄道)
とさでん交通(旧社名土佐電気鉄道。ただし旧社名の正式表記は「土佐電氣鐵道」と一部に旧字体を用いる。土佐電、土電)高知県と高知市の出資で事実上の公営
路面電車に類似する鉄道路線
路面電車ではないが、一部併用軌道が存在するか、路面電車規格の車両が運転されている路線。
筑豊電気鉄道(路面電車タイプの車両が運行されているが、立派な鉄道線である。なお一部区間は2015年まで西鉄所有、うち2000年まで軌道線であった)
熊本電気鉄道(藤崎線)
えちぜん鉄道(三国芦原線。鉄道線であるが、福井鉄道との相互直通運転のため、路面電車タイプの車両が乗り入れる。)
戦後に路面電車やそれに準じた鉄道路線を保有していた鉄道事業者
公営
民営(インターアーバンとして後に鉄道線に昇格したもの等は除く)
東武鉄道(日光軌道線、伊香保軌道線)
西武鉄道(西武大宮線)
箱根登山鉄道(小田原市内線)
伊豆箱根鉄道(軌道線)
松本電気鉄道(浅間線)
静岡鉄道(静鉄。静岡市内線、清水市内線)
名古屋鉄道(名鉄。岐阜市内線、岡崎市内線、この他に犬山線の犬山橋。豊川線は法律上は軌道線扱い)
北陸鉄道(金沢市内線)
大阪市高速電気軌道(大阪市電。大阪市電気局時代と大阪市交通局時代に運営。現在は地下鉄と新交通システムを運営、なお地下鉄は一部区間を除き現在も軌道法で運営)
阪神電気鉄道(北大阪線、国道線など)
南海電気鉄道(大阪軌道線、和歌山軌道線。なお大阪軌道線の一部は阪堺電気軌道に移行)
阪急電鉄(北野線、事実上の廃止。名目上は休止の後、京都線の梅田乗り入れに転用)
西日本鉄道(福岡市内線、北九州線、大牟田市内線、福島線。北九州線の一部は筑豊電気鉄道に移行)
戦後に路面電車やそれに準じた鉄道路線を保有していた、現在は鉄道を運営しない事業者
公営
秋田市交通局(秋田市電)
川崎市交通局(川崎市電)
呉市交通局(呉市電。バスも広島電鉄に譲渡して事業部署消滅)
北九州市交通局(ただし貨物専業。また西鉄とは別事業者)
民営
旭川市街軌道(一条線、四条線、近文線)※バス事業も旭川電気軌道に譲渡して会社消滅
旭川電気軌道
新潟交通(電車線)
茨城交通(水浜線)※鉄道で残っていた湊線はひたちなか海浜鉄道に譲渡
山梨交通(電車線)
サンデン交通(かつては山陽電気軌道として路面電車を運営)
大分交通(別大線)
海外の主な路面電車のある都市
※☆は一度廃止されたが復活した都市・地域。
ドイツ
カールスルーエ(「カールスルーエ方式」と呼ばれる郊外鉄道線と市内路面軌道線との直通運転の草分け的存在。)
ベルリン(一部地下鉄の区間有り)
オランダ
フランス
パリ☆、ボルドー、マルセイユなど・・・
スイス
オーストリア
中華人民共和国
大連・長春・香港(3都市とも第2次世界大戦終戦以前から運行、現存。また路面電車と別にライトレールも運行されている。)
瀋陽☆
エジプト
アメリカ合衆国
ボストン(グリーンライン、一部地下鉄の区間有り)