「僕は兄上と垂氷郷に〝忠誠〟を誓っておりますので……」
「僕が役立たずかどうかはご自分の目で確かめられてはいかがでしょ〜か…?」
概要
雪哉とは、【八咫烏シリーズ】の第ニ作目、烏は主を選ばないの登場人物であり、以降シリーズの主人公のひとり。
北家の地方貴族(垂氷郷)の次男坊。
故郷である垂氷郷と、育ててくれた母の梓をはじめ家族に尽くして生きることを望んでいたが、ひょんなことから山内の中央で若宮の側仕えが決まった。
非常に名誉なことだが本人は嫌で仕方がなく、父から「勁草院(近衛隊の養成所)」の名を出されて渋々宮廷入りが決まる。
容姿
茶色の癖っ毛(猫っ毛)が印象的で、後に友人となる茂丸曰く、「たんぽぽの綿毛のような頭」。
そしてかなり小柄。尤も、シリーズ以降では逞しく成長している。
基本的に母親似。
これといって特徴のない、どこにでもいるような面差しで別に美形ではない。作者曰く、「どんなに頑張っても雰囲気イケメン」。
人物
周りからはぼんくら呼ばわりされており、変に有名人。武家にはあるまじき腑抜けた性格で、北家当主から「野心というものはないのか」と聞かれて「塵ほどもありませんね」という位には開き直っている。
……しかしその実は大変頭の切れる人物。家族のために優秀である事を隠し、敢えて愚かな振る舞いをすることで“ぼんくら”を装ってきた。
若宮からの無茶な言いつけも意図を見抜いて全てこなしており、彼から将来的に「近習」になることを望まれている。また若宮からは砂糖をまぶした干し金柑を度々“働き分”として貰っていた。
一度見た顔は忘れない、サイコロの出目を全て暗記しているなどから記憶力もずば抜けている。
要領がよく、判で押したような作られたにこにこ顔をするがその内面はとても腹黒。
自他ともに「性格が悪い」と評価される。
過去に痛い目を見ている市柳は雪哉を「能天気を装った邪悪な笑顔」「人畜無害そうな表情を裏切る狡賢く光る恐ろしい双眸」と表現している。
ちなみにコミカライズ版のセルフパロディでは、ニートになると危機感を覚えた父に強制的に家から追い出され、奈月彦が店長のパン屋で悪態をつきつつ働かされていた。
生い立ち
兄の雪馬、弟の雪雉の中で一人だけ母親が違う。
育ての母親は梓だが、生みの母は北家当主の娘の冬木。
つまり彼はれっきとした北家の御曹司の宮烏であるが、本人は自分を北家の人間として見られる事を嫌がり、あえて「垂氷の雪哉」を名乗って、身分の高いことを隠したがる。
かつての垂氷では、北家系列の宮烏や親戚が雪哉を養子に出して兄の廃嫡を打診し始め、さらに梓の存在が原因で冬木は亡くなった、と言われ始める。
雪哉の父の雪正は北家当主の顔色を窺うだけであり、全く頼れなかった。
それらの経緯から、雪哉は父の代わりに家族を守るため、あえてぼんくらな振りをしているのである。
雪正以外の家族全員がそのことを理解しており、仲良く暮らしている。
ちなみに、雪哉の母については外伝の「ふゆきにおもう」で彼女を慕い、今は雪哉の育ての母でもある梓目線で詳しく書かれている。
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※ネタバレ注意
雪哉は若宮から「北家」と繋がりがある人物だから利用されたと思い込み、怒りを露わにする。
そして一年間の近習を終えた後、今度は雪哉自身の意思で再び味方になって欲しいと若宮に言われた際、「若宮が日嗣の御子の座を降りる」なら、と条件を提示。
最終的に自分が彼の仲間になれないことを残念に思いつつ、
「僕の知らない所、僕と関係のない所で、どうぞ勝手に死んでください」
と返して別れる。
しかし「黄金の烏」にて、大猿の八咫烏襲撃事件をきっかけに、「真の金烏」の本質や、若宮の置かれている状況が故郷を守ることに繋がることを理解し、考えを改める。
若宮に忠誠を誓い、あれほど嫌がっていた勁草院への入峰を決意した。
※更なるネタバレ
第一部の最終巻、「弥栄の烏」にて、山神の暴走時、奈月彦の護衛にあたっていた親友の茂丸が、山神の攻撃を受けて死亡。雪哉が駆けつけた際はもう手遅れであり、その焼死体は炭のかたまりのようになっていて、雪哉が手を握ろうとした瞬間、呆気なく崩れた。
勁草院時から、家族を除いて唯一の理解者とも呼べる快活な人物であり、その死は雪哉の心に大きな傷を残した。
以来、人間性を失っていくきっかけとなる。
茂丸らの死の原因であり、八咫烏を食用する敵の猿達を徹底的に殺し、女子供でも「駆除」として容赦なく殲滅。
また、皇后夫妻や多数の宮烏、身寄りのない者、そして真赭の薄や若宮の妻である浜木綿がいる凌雲宮を囮にし、その後の猿への人身御供や人質として地方貴族の妻子を盾にし、朝貢を要求する策を提案。
当然「下種め」と非難されたが、雪哉が出した以上の案がないと判断される。
この一件で、真赭の薄からは完全に拒絶される。
猿を掃討した山内の滅びは変えられず、「どれだけマシな滅び方が出来るか」が問題になっていく。
「弥栄の烏」で驚くほど様変わりし、めっきり笑わなくなった雪哉だったが、若宮の娘、紫苑の宮を通じて安息と平和が訪れたように見えたが……
※最新刊までのネタバレ注意
第二部の「楽園の烏」では、博陸侯雪斎として朝廷で絶大な権力を握る存在に。
外界との共存が急務となり、谷間に存在する「第三の門」と呼ばれる、山内と外界をつなぐ「門」を手にするためである。
最初に谷間と呼ばれ、所謂スラムとして荒くれの溜まり場だった地下街を整備という名目で解体を強制。
小規模の衝突を経て、中央を守護している軍を派遣し、谷間を統治していた組織と正面衝突する。
またそれ以外にも抜かりなく、水場に敢えて効き目の遅い、解毒剤のない毒をばら撒いたことで当時谷間の中心的存在は全員死亡。
谷間は博陸侯に従わざるを得なくなる。
その後も、
抵抗する男は斬り捨てられ、捕虜は足を斬って馬にされた。
遊女は中央に連れて行き、工場での真っ当な職と与えた。
が、実際は博陸侯に何一つ不満を漏らせず、博陸侯に対して都合の良い言葉しか吐かない。
実質彼女たちは自由がないも同然である。
そして怪我人やや老人、子供は他に居場所がないので仕方なく集まっている状態で、子供は最終的に馬にする予定で育てられている。
ちなみに大人は全員が博陸侯と繋がっており、地下街の状況は全て筒抜けであり、
食料や医薬品に至るまで全て手配し、谷間から反逆が起こらないよう調整している。
また地下街はそれぞれ子供、女、男と三分割状態なのだが、それぞれがお互いの人質となっている為、どこかが下手を打てばどこかが割りを食うように設計されている模様。
赤ん坊は養育場を与え育てているが、彼らは自分達が八咫烏とは知らず、人間として育てられている。
山内に人身御供を捧げてきた山内村が「玉依姫」こと志帆の一件でいなくなったため、儀式を行う人間を育てている。
貴族の子孫、とくに特権階級の人間は順当な歴史教育が行われており、猿との大戦や谷間攻略の記録にも改竄がある。
貴族の子孫である頼人も博陸侯に対する疑問の声が浮かぶたびに、「博陸侯は慈悲深い」「全ては正当な行い」と現状を見るまで博陸侯のことを全く疑わず崇めていた。
どうしてここまで変わり果てたのか、かつての仲間はどこに行ったのか、それは……
第二部の「追憶の烏」で明かされた、山内が変わり果てるまでの事実。
若宮と護衛していた雪哉の同輩の明留が酷く、変わり果てた姿で死亡。
もちろん大紫の御前が犯人なのだが、実際に殺害を実行したのは妹の藤波である。
大紫の御前は、藤波を全ての犯人にするつもりだったが、長年大紫の御前に支えていた滝本が証言したことで大紫の御前は失脚し、藤波は自害。
若宮の娘こと紫苑の宮を女金烏にする道のりは遠くなったが、その後信じられないことが起きる。
あせびの御方と、若宮の実父の捺美彦の間に生まれた凪彦の存在が明らかとなり、親王宣下。
南家と東家が寝返ったのは明確で、
雪哉の実家の北家は意気揚々と武力による現状の“憂さ晴らし”を求める。
それは雪哉が思い描いていた平穏とは真逆のものであった。
また、奈月彦を「真の金烏」と言って味方していた神官、白烏は奈月彦のやり方に既に失望していた為、「真の金烏」ではないと糾弾。
浜木綿は奈月彦の死による怒りで、力尽くで金烏の座を奪いとれと雪哉に命じ、対立。
最終的に奈月彦の遺言から判断することになるが、彼が選んでいたのは浜木綿だった。
「お前はただの一度だって、奈月彦を選ばなかった」
そこで雪哉は、今の自分が、ぼんくらだったあの頃から変わってしまったことに気づく。
「あーあ」
「だから、駄目だと言ったのに」
雪哉は真の金烏の力に頭を垂れたのであり、仲間になってほしいと言った若宮にはそれが見透かされ、信頼を返してくれなかったと悟る。
そして紫苑の宮という最後の希望も絶たれたことで、雪哉は内臓までも吐き出すかのように笑い出し、その瞬間、全てがかつての雪哉と変わり果てた。
忠臣の治真を据え、奈月彦の統治を糾弾、浜木綿と紫苑の宮の身柄確保を命じて、奈月彦との思い出がある招陽宮をあっさり燃やした。
そして、博陸侯雪斎として、山内の全権を握り、世界を救った英雄の如く賞賛されていく。
ちなみに「追憶」というだけあって、