同名のトリニティ・ブラッドの登場キャラクターはトレス・イクスの記事へ
トレスしたイラストに付けられるタグ。
トレス(トレース)とは、「すでにある物をなぞること」を指し、イラスト技法におけるトレースは製図において行なわれる。そこから派生した用語。
概要
主に元になる他の図面、資料、写真、作品などを下地にして、それらをなぞってその内容を変えずに別の紙に写して清書をすること、またはそれによって作られた絵そのものを指す。
特に元絵の上に別の紙を置いて透かし、それをなぞって写し取ることを指す。
アナログ作業においては、トレス台と呼ばれる下から光を当てて、二重にした紙に複写する事や、トレーシングペーパーと言う専用の用紙を使う事を指し、またデジタルにおいてはレイヤー機能などを利用して同様の作業をする事を指すことが多い。トレスであることを隠した作者の場合、原典をそのままコピペして使用していることもある。
技法的な意味では、自身の描いた下絵をトレス台などを使いペン画に起こすこともトレス作業となるが、一般的に言われる「トレス」は、他者の手による作品や写真資料を下地にする場合を指すことが多い。
単に構図が同じのイラストを指す言葉ではない。(毎日数えきれない数が生産されるイラストにおいて、同じ構図が0という事はあり得ないのである。)
その他
模写の一種ではあるが、見て描いた物を【模写】。写真やイラスト等を紙に透かして描いた物を【トレス】と使い分ける場合が多い。どちらの呼び方を選ぶのかは個人の感覚の違いによる。
ただし、模写をトレスと言う場合はあまり影響は無いが、トレスを模写と言うと極めて悪印象を抱かせる。
元となったイラスト(または写真)の線をなぞって描いた物を見ながら描いた様に言うのは良くない。
アニメや漫画、イラストなどの愛好家や作者がトレスを嫌う傾向も少なからず関係しているが、実際にはトレスそのものよりも、作者がトレスをしているにもかかわらず自力で描いたかのように振る舞うことでトラブルが起こりやすい。
トレスを見破る事は容易である。
低レベルなトレスなら素人でも画像編集ソフトで元の画像と重ね合わせれば一致することが多く、容易に発見できる。
プロが「同じ絵は二度と描けない」と言うように、完全に重なり合う絵を模写で描くことはまず不可能なのである。
また、トレス元の絵の質と、作者自身が実際に描いた絵の質に開きが目立つ場合もまず一発で疑われる。自分の画力に見合わない高い画力で描かれた絵をトレスして自分で描いたと言い張ったところで安易に騙せるわけがないのは言うまでもないことである。
しかし、ネット上では構図が似たイラスト同士を重ね合わせて一部の線が被っていることをトレス行為の結果だと称し、トレスしたと判定した人物に損害を与えるケースが散見される。裁判に至ったケースまである。⇒参考になる外部リンク
そのため、他者の作品を安易にトレスだと決めつけたり、誰かが「A氏がトレスした」などと騒ぎ始めた際に鵜呑みにして批難する行為は大変危険である。
pixiv等、デジタルイラストで問題になるケースは、トレスというより【コピペ】や【コラージュ】と呼ぶべきものが多い。
他人の作品のコピペやコラージュを完全なオリジナル作品として発表してしまえば、当然著作権侵害となる。
Pixiv上で発見した場合は被害を受けている作者に連絡してあげよう(運営へ通報しても何の効果も無い)。ただし、最終的に侵害行為に対して何らかの動きを取るかどうかは、権利者本人が決めることなので、仮に本人が動こうとする素振りを見せなかったからと言って騒ぎ立てることはしないように。無用なトラブルの元であるし、権利者でなければどうこう言う権利もないのである。
戦前~高度経済成長期にかけて制作された「赤本」や貸本屋専用の漫画本は、漫画家の描いた原稿からガリ版に線をトレスして制作されていた。
この為、同じ漫画家の作品でも、複数のトレス職人が版を起こしている場合にはタッチのばらつきができる。
トレスはあくまで作画・製版技法であって、問題になるのは元絵の著作権と発表手段である。
トレスの注意点
他者の手による作品や写真資料を下地にしてトレスした場合、オフライン上ならびにオンライン上で発表、販売することができない場合がある。必ず、下地にする資料の利用規約をあらかじめ確認しておくこと。
また、構図やバランスなどをある程度自力で再現する必要のある「見て描く模写」、加えてそれらを完全に自力で表現しなければならないデッサン、スケッチ、クロッキーなどに対して、コピーであるトレスは「作品を細部まで観察することで技法を分析する」という事に特化しており、基礎画力が無ければ、練習として何の意味も成さない。
実力を身につけるのに役立つ度合いでいえば、「トレス<模写<デッサン、スケッチ、クロッキー」といえる。
練習技法としてのトレスは↓も参照。
ここ最近はトレスに対する風当たりが非常に強くなっており、トレスそのものが違法な技術と認識される事もしばしば。
誤解なきよう重ねて言っておくが、トレスそのものは違法ではない。トレスした作品をトレス元の許可なく、オフライン上やオンライン上で発表したり、販売したりすることが違法なのだ。
素材を使ってトレスする際の注意点
- 建物や商品などの映った写真でも使用することはできる(建物には原則著作権がなく、商標権が及ぶのは指定商品で商標的使用をした場合に限られ、意匠権は同一・類似機能を備えた物に限られる。美術館などは建物でも著作権がある場合があるが、著作権法46条の範囲で利用可能。)が、表札などの個人名がわかるものは消しておく。
- 通行人などの人物が写っている写真は個人が特定できないよいうに顔を加工する。
トレスしてオフライン上・オンライン上で発表、販売することができない素材
- トレスして二次利用することが禁止されている有料素材写真(サンプルも不可)
- ブログやホームページなどで無料で公開されている写真(権利者があらかじめ許可を出している場合はOK)
- 自分が購入していない資料(購入したものでも利用規約で禁止されていれば使うことができない)
自分で撮影した写真
- プライバシーの問題により、家の中や下着などの洗濯物が写っているもの
- 上記と同じくプライバシーの問題により、自分以外の人間がはっきりと写っているもの(個人の特定ができないように加工や改変をする。もしくは被写体本人の許可を得なければならない。たとえ家族であろうともこのルールは変わらない)
トレスしても問題に問われないケース
- 自分自身で描いたイラストをトレスすること
- 自分で描いたラフスケッチを、清書・ペン入れするために別の紙にトレスすること
- 自分のオリジナルキャラの表情設定をつくるためのトレス(無論、自分で描いた絵を)
- 自分で撮影した写真(上記の注意点をクリアしたもの)をトレスすること
- 練習として他者が権利を有するイラストや写真をトレスし、非公開に留めたもの(というより、公開した時点で著作権法に触れる可能性がある。権利者が許可を出している場合は除く)
- ありふれたもの(ありふれた表現は創作性のある著作物ではないため著作権でも保護されない)
- 著作権法13条(日本)や17 U.S.C. §105(アメリカ合衆国)で、著作権の対象とならない公的機関が公表した写真やイメージイラスト。
関連した訴訟など
なお写真素材をもとにトレースをしても表現上の本質的特徴を備えておらず直接感得できない場合は著作権侵害にあたらないという判決が出された。(平成29年(ワ)672号)
輪郭は共通していても服の柄、表情や頭髪の流れ、光の当たり具合が再現されていなかったこと等による。
以下判決文13頁から。
(前略)本件イラストは本件写真素材に依拠して作成さ
れているものの,本件イラストと本件写真素材を比較対照すると,両者が共
通するのは,右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体
の男性の,右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分の
みであり,(中略)
本件写真素材におけ
る被写体の鼻や口は再現されておらず,さらに,本件イラストでは本件写真
素材における被写体のシャツの柄も異なっていること等が認められる。(中略)
したがって,本件イラストは,本件写真素材の複製にも翻案にも当たらず,
被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したものとは認められない。なお,
原告は,譲渡権侵害も主張するが,本件イラストが本件写真素材の複製及び
翻案には当たらないため,本件イラストを掲載した小説同人誌を頒布しても
譲渡権の侵害とはならない。(後略)