概要
大人向けの作品を多く残したエクトール・アンリ・マロが書いた、数少ない児童向け小説。
アニメ版では、世界名作劇場のペリーヌ物語が有名。
聡明な少女ペリーヌが、苦難の末に父の故郷マロクールへたどり着き、祖父ヴュルフランの愛を勝ち得るまでを、近代化の進む紡績工場を舞台に描いた作品。
主要登場人物
ペリーヌ・パンタヴォワーヌ(偽名:オーレリー)
本作の主人公。登場時、11歳か、12歳程度の少女。
フランス人の父エドモンと、インド人の母マリーの子で、ハーフ。インド、ダッカ生まれ。
ブロンドの髪に琥珀色の肌という、思いがけない取り合わせだが、顔は繊細で優しく、切れ長で利口そうで真面目な黒い目が印象的。
父と話すときはフランス語、母と話すときは英語を使っていたので、どちらも会話は同じくらい出来る。ただ、書く方になると、特殊な決まり事(一致)があるフランス語文法はさっぱりであり、その為、物語中盤にはベローム先生から教育を受けるようになる。
サラエボで父を亡くし、更にパリで母を亡くして、道中野垂れ死にし掛けながらも、なんとか父の故郷マロクール村へたどり着く。
「オーレリー」という偽名は、この地において初めて出会った少女ロザリーから名を聞かれたとき、本名を言いたくなかったので思いつくままに名乗った名前で、特別な意味はない。その為、この名前で呼ばれた際に、自分のことだと気付かない場面が何度かある。
勤め先の工場では、最初はトロッコ押しをしていたが、あるとき、英語とフランス語の通訳を任されたことがきっかけで、実の祖父であるヴュルフランに気に入られ、彼の秘書となる。
更にギョーム(御者)も兼務し、ヴュルフランの後継者を狙う工場の面々から身を守るため、彼のお屋敷に部屋まで用意してもらえるようになるのだが、ここでも彼の親族の悪意に晒される、苦労の絶えない子。
そして、とうとう祖父はエドモンの公式な死亡を知ることとなり……
エドモン・パンタヴォワーヌ
ペリーヌの父、ヴュルフランの一人息子。フランス人。物語開始時には故人で、没年齢36歳。
厳格な父に反抗し続けたため、インドへ出向させられるも、現地でマリーと出会って勝手に結婚したため、勘当された。
死因は肺炎であり、父同様、呼吸器系が弱かったようである。
マリー・ドレッサニ
ペリーヌの母。ペリーヌは、作中で母をイギリス人であるとしているが、実際にはインド人。(当時のインドは大英帝国の植民地であった)
実家はバラモンの家門だったが、キリスト教に改宗したため、異教徒としてパリアというカーストよりも下層の地位に落とされてしまった。
その為、インド人社会ではなく、イギリス人社会との関わりと持つようになり、その一環でエドモンと出会う。
物語開始時では、26、7歳とあり、まだ30歳に満たないとされているので、ペリーヌを生んだのは10代半ばである。
この早すぎる出産や、長旅の苦労が祟ってか、パリにはなんとかたどり着くも、力尽きてしまう。
ヴュルフラン・パンタヴォワーヌ
ペリーヌの祖父。フランス国内に五つの工場を持つ、巨大紡績企業の社長。
その年間収益は1200万フラン(日本円にして約160億円)を超え、個人資産も1億を超えると噂されるほどの大富豪。
小さな商売から初めて、ここまで成功したという経緯があって、「自分は選ばれた人間だから、望むもの全てを勝ち取ることが出来る」と思い込んでいるところがある。
物語開始時、65歳。長身で、年の割に健康そうだが、慢性気管支炎を患っており、肺炎の発作から引き起こされた重度の白内障により、失明状態にある。しかし、その代わりに耳が良く、音から得た情報で全てを察するという卓越した能力を持つ。
たまたま英語がわかるということで、通訳を頼んだ女工オーレリー(ペリーヌ)を気に入り、親睦を深めていく。
公明正大であるのだが、どこか思いやりに欠けた面があり、公私は切り離して考える型の人物。
この性格が災いして、とある一件で自分の冷酷さがどうなるか、思い知らされることになる。
ロザリー
マロクール村出身の女工。両親を失った孤児。工場では糸巻き機担当。歳はペリーヌと同年代。
雇い主でもあるヴュルフランは名付け親で、彼に可愛がられている節がある。
着の身着のままでマロクール村へやってきたペリーヌを色々世話してくれるが、彼女の勤務初日に機械に指を巻き込まれて、大怪我してしまう。
フランソワーズ
ロザリーの祖母。かつてはエドモンの乳母でお屋敷勤めだった。
今は雑貨屋兼下宿宿を営んでいるが、この下宿はペリーヌですら一日で逃げ出すほどの劣悪環境。
テオドール・パンタヴォワーヌ
ヴュルフランの兄の息子で、二人の甥の片割れ。ヴュルフランの息子エドモンが消息不明であることを良いことに、後継者の座を狙っている。
身のこなしやしゃれた服装をした紳士の出で立ちであるが、その実、母親にちやほやされ、甘やかされて育った道楽息子。
一応、口は達者なようで、自分は事業家であると自負しているが、作中でその能力を見せることはない。
カジミール・ブルトヌー
ヴュルフランの姉の息子で、二人の甥の片割れ。テオドール同様、ヴュルフランの後継者を狙っている。
国立理工科大学を卒業した「優秀な技師様」だが、入学試験の採点配分は数学58、物理10、科学5、フランス語6という非常に偏ったものである。
結局、この科目しか勉強しなかったせいで、日常の知識を身に付けず卒業してしまい、従兄のテオドールには後れを取っている。
タルエル
工場長。紡績工場における事実上のナンバー2で、マロクール以外の工場も監督圏内にある。
叩き上げの職人であるが、上昇志向が強く、ヴュルフラン亡き後は、工場を我が物にせんと企んでいる。
ヴュルフランや二人の甥には、愛想良く接しているが、工員達には冷たく無慈悲なので、陰では嫌悪されており、「貂」、「やせっぽっち」、「ユダ」といった蔑称で呼ばれている。
ファブリ
設計技師。フランス人であるが、英国に長くいたため、英語も話せる。
方々へ出張や視察に向かったり、工場では消防団長も担っていたりと、幹部の面々では出番が多い。また、終盤ではある重大事実の調査を任される。
二人の甥や工場長殿の暗躍については察知しているものの、「自分は協力を要請されていないし、どちらかといえば、その被害者たるヴュルフランを気の毒に思っている」と言って、傍観者の立場を決め込んでいる。
モンブルー
会計主任。フランス語の他に、ドイツ語が出来る。
英語も出来ると自負していたが、機械の取付にやってきた英国人技師達にまるで通じなかった為、ペリーヌに通訳の役目を奪われてしまった。
この件を屈辱に思い、ペリーヌに皮肉を言ったり、彼女に軽く交わされても食い下がったりと、小物な一面を見せる。
しかし、悪人ではないようで、ファブリとは共に食事を取る場面では、彼同様、後継者争いには参加せず、中立の立場を保つと明言している。
バンディ
外国交渉係。イギリス人。
キリスト教徒、プロテスタントらしく、聖書を愛読している。
読書好きで物静かな人物だが、バンディと呼ばれると激怒する。
これは、名前のBenditが英語発音ではベンディットだが、フランス語発音ではバンディとなり、フランス語で同じ発音のBandit = 盗賊を連想させて、不愉快に感じるという理由から来ている。
ペリーヌが通訳の仕事を任されるきっかけになったのは、この人物が腸チフスに冒されたため。
ブノワ
ペリーヌが通訳に呼ばれた、サン・ピポワ工場の工場長。同じ工場長であるタルエルよりは、地位が低い様子。
ボーナスの事を考えて、ヴュルフランにお世辞を言うような下心は持ち合わせるものの、ペリーヌの人物像に関して聞かれた際は、正確な意見を述べている。
ベローム先生
マロクール村の小学校教師。
40歳にも満たない女性だが、名は体を表すという言葉の通りに大柄(ベロームは偉丈夫という意味)で、長身のヴュルフランより背が高く、肩幅も広い。
この外見を馬鹿にする都会の人間達とうまく付き合えず、やむなく田舎の小学校教師になったが、高等教育を受けた優秀な教師であったため、彼女の受け持つクラスは同県で最高の成績を占めている。
ヴュルフランの依頼により、ペリーヌの家庭教師を担うようになるが、いち早く彼女の明晰さを見抜き、好印象を得ている。
教師という立場上、教育以外のことは教えまいとしているにも関わらず、ペリーヌに迫りつつある危険を忠告したり、個人的な気遣いをしたりと、外見に反した善人。