概要
(ナレーション:山野井仁)
まずは、大豊娘娘を語る上で大豊核心工業集団の歴史を語らねばならない。
大豊とは、かつてベイラムグループの経済圏内にて展開されていた飲食チェーン店だった。
大豊娘娘はその頃から存在しており、当時はよくあるパッとはしないものの可愛らしいマスコット然とした姿であった。
ベイラムは保有する自社の軍事力を強化する上で、前線の士気を上げるべく上質なレーションを欲しており、数ある製造元の候補から「栄養抜群、日持ちよし、美味しい」と評判の大豊に目を付けた。
依頼を受けて製造された大豊製のレーションは、各地に赴いているベイラムの部隊から非常に高く評価され、これを機に大豊は正式にベイラムの同盟企業として名を連ねることとなった。
やがて、大豊はレーションの運搬作業を担う「戦場の出前屋」としても活躍するようになるのだが、ここで一つ重大な問題が発生した。
大豊製のレーションはベイラムの部隊の間で一種の嗜好品と化し、戦地では隊員同士で奪い合いにまで発展する事案が度々報告されるようになる。
そればかりか、独立傭兵や他企業までもがその味の虜となり、大豊の輸送機を襲撃してレーションを根こそぎ奪う掠奪行為が頻繁に行われるようになったのである。
レーションの運搬に兵力を割きたくないベイラムは護衛にMTを2~3機あてがうのみで、高性能なACが配備されるのはごく稀であり、一騎当千の実力を有する独立傭兵や、数を頼りに襲撃してくる他企業への対抗戦力としては非常に心許ない物であった。
そこで、大豊は自衛手段を拡充するべく兵器開発への参入を決定し、ベイラムの質実剛健な兵器のノウハウを取り入れ、火力と継戦能力を両立した武器や、堅牢な設計のACパーツの開発を推し進めていく。
製造された大豊の武器やACパーツはベイラムの部隊からも評判がよく、兵器開発部門が台頭するにつれて大豊の事業内容は逆転し、自社のコンセプトたる「樹大枝細」を突き詰めるべく「大豊核心工業集団」に名を改め、飲食業から撤退して兵器開発をメインとしていったのである。
レーションの製造は規模を縮小しながらも事業の一部門として続けられており、60種近くあったレパートリーは僅か7種にまで減少してしまったものの、その質の良さは未だに高く評価されている。
あくまで飲食チェーン店のマスコットに過ぎなかった大豊娘娘も完全に過去の遺物扱いされ、数多く展開されていた店舗の撤退に伴って闇に葬り去られてしまっていたが、突如転機が訪れる。
それは、ベイラムのライバル企業であるアーキバスグループが生み出した大衆向けのマスコットキャラクター「アーキ坊や」の誕生である。
アーキ坊やに対抗意識を燃やしたベイラムは、デザイン案を詰めないままに急拵えのベイ太郎を発表するものの当初は非常にウケが悪く、アーキ坊や一強の時代となっていた。
大豊はこれを対岸の火事として静観していたが、ある日広報担当が倉庫の奥深くに眠っていた飲食チェーン店時代の看板と、そこに描かれたかつての自社キャラクターである大豊娘娘を発見し、担当者が気まぐれに自身の趣味を交えて大胆にアレンジした大豊娘娘を自社製品のPRと共に公開すると、瞬く間に話題となる。
担当者の元々の趣味だったのか、大豊の社風に染まった結果かは知る由もないが、「樹大枝細」を体現したかのような美少女キャラクターは一部界隈で大ウケし、これを好機と見た大豊は生まれ変わった大豊娘娘の関連グッズをいち早く製作し始めた。
その売り上げは凄まじい勢いで伸び、人気が出てきていたベイ太郎を一瞬で追い抜き、アーキ坊や一強時代に終止符を打った。
軍需産業自体が男性比率が高い界隈という事もあり、時期によってはアーキ坊やを超える事さえあるほど人気を博したのである。
更に自社を宣伝するべく、大豊は『キャンペーンガールの大豊娘娘』を決めるイベント「娘娘コンテスト」を毎年開催するようになり、企業合同イベントなどの際は大豊が採用したリアル大豊娘娘による企業ブースでの製品紹介(時にはベイ太郎とアーキ坊やの乱闘を背景にしながら行われる)や写真撮影などが毎回大きな賑わいを見せている。
現在では飲食チェーン店時代の姿も子ども向けのイベントで着ぐるみとして登場したり、ファミリー層向けのグッズも多数作られるようになり、レーションの包装にも描かれている。
波瀾万丈な歴史と多種多様な姿を持つ大豊娘娘は、今ではちびっ子から大人まで親しまれる人気マスコットキャラクターとしての地位を確立したのである。
真実
以下、本作ストーリーの重大なネタバレはあんまり含まれておりませんので注意!
察しの良い人は既にお気づきだろうが、大豊娘娘は公式とは一切関係ない完全な二次創作キャラクターであり、上記の概要もまったくのデタラメである。
端的に紹介するなら、ゲーム『アーマード・コアⅥ』に登場するベイラムグループの同盟企業「大豊核心工業集団」が掲げるコンセプト「樹大枝細(中心たるコアは大きく、他は最小限に)」を超解釈し、手元の情報より余白を推測し埋めていく遊戯に慣れ親しんだ傭兵たちが生み出した架空の看板娘である。
作中に登場するのは戦闘用ロボットのパーツや武装を製造している兵器開発企業であり、マスコットキャラクターだの他業種からの方針転換だのといった情報や裏設定などは一切出てこない。
すべてはコーラルに身を浸した者たちの幻覚である。
誕生の経緯
2023年9月10日、同じく『ACVI』に登場するベイラムの対抗企業「アーキバス」の社章をヒントに、とある傭兵コンビがマスコットキャラクター「アーキ坊や」をネットに挙げたことが全ての始まりである。
アーキ坊やが点けた火は爆発的に燃え広がり、ACシリーズでも前代未聞の作中企業のマスコットキャラクターというムーブメントが瞬く間に浸透し、ネットミームと化した。
前作の『アーマード・コア ヴァーディクトデイ』から雌伏の時を過ごしていた10年の間に、現実の企業や自治体などがSNSやイメージキャラクターを活用して広報活動を行う事例が一文化として受け入れられてきた背景も、決して無関係ではないだろう。
同じゆるキャラタイプのアーキ坊やとベイ太郎のライバル関係が、ゲームをプレイした者には納得の共通認識として広がる中、製品を通じてキャラ付けされている他の企業が放っておかれる道理は無く、キャッチーな標語を掲げる大豊のマスコットキャラクターの方向性として提案されたのが「樹大枝細」を体現したボンキュッボンなチャイナっ娘という萌え路線である。
可能なかぎり発信源を辿ると、とーふや氏の発言が名称と方向性の由来で、そこから数多のユーザーが描き起こした中でもメイン画像を描いたげんちゅい氏のイラストがビジュアルイメージの一つとして定着している。
マスコットガールという新たな切り口で生まれた大豊娘娘は、先行するゆるキャラ勢との競合を見事に回避し、先んじて二次創作界隈を賑わせていたエアやオールマインド、C4-621の美少女化ファンアート路線とも「本編に登場しない完全な幻覚」という一点で立ち位置を分け、勃興した企業マスコットブームの勢いのままに独自路線を突っ走り、SNSのトレンドにまで食い込んだ。
ビジュアルは描き手によって異なるが、概ねわがままボディでチャイナドレスを着た美少女として表現される傾向にあり、企業エンブレムに用いられているロゴマーク(「豊」の簡体字である「丰」)やカラーである芥子色がデザインに反映されていたりする。
また、作中ではキャラクターの外観情報が乏しいためにファンアートが描き手によって多様化するというACシリーズ二次創作の特性は、大豊娘娘について「毎年、あるいはイベントごとに抜擢されるキャンペーンガール」という解釈がなされ、従来のファンアートと合体事故まで起こした結果、女性の621が大豊の依頼でキャンペーンガールを務める、あるいはキャンペーンガールの衣装で大豊への潜入工作を行う、すなわち大豊娘娘の恰好をした女621という概念も生み出された。
そのせいでウォルターの「大豊はお前の価値を理解していないようだ…話をつけておこう」という台詞がなんだか全然違う意味に聞こえてくる問題が発生する事に。
大豊娘娘そのものにも様々な解釈がなされ、
- 大豊製AC「天槍」の頭部パーツは性能が控えめなので、キャラクター的にはアホの子。
- 現在の萌え路線になる以前では、よりマスコット然とした大豊娘娘が存在する。そちらの大豊娘娘がいかにも中華料理店にありそうなデザインなので、大豊は飲食店を経営している、あるいはしていたかもしれない。
- キャラクターの企画会議では“清渓川構文”よろしく「樹大枝細」の社訓に反する意見を述べた社員が処分されたりする。そのため、中華系企業という事も相まって『大豊の前身企業の一つは間違いなくここ』だろというネタも。
- 企業主催のイベントでは大豊娘娘の衣装をまとったコンパニオンのお姉さんたちがカメラに囲まれている。
等々、その発想は多種多様である。
ファンアートの多くはイラストだが、VHS画質のCMを“発掘”してくる周りを防ぐほどの傭兵や、布を染める工程からコスプレ衣装を作り上げた者も観測されている。
大豊核心工業集団について
ベイラムの同盟企業であり、企業名から中国系である事がうかがえる。
製造している武器は大型グレネードやガトリングといったガチタン御用達の重量級パーツばかりと、強いこだわりが漂ってくるラインアップ。
ACフレーム一式も手掛けており、どっしりとした作りのコアと身軽な印象の手足を持つ重量2脚AC「天槍」を製造している(手足を重厚に作るとその重さで機体が振り回され、姿勢制御に影響を及ぼすといったデメリットが考えられるが、脚部の“貧弱さ”を不安視する声もちらほら)。
2脚パーツなどはすっきりした膝下に比べて大腿部が太ましい作りになっており、コア(上体)との接続部分が見事にくびれているため、大豊娘娘を“天槍の擬人化”と捉えるのもあながち間違いではない。
そこに「樹大枝細」の精神さえ込められていれば、鋼の装甲も萌えマスコットも同じ場所に辿り着くのだ。
天槍そのものに不埒な感情を抱き始めた場合は少し冷静になった方が良いかもしれないが……
余談
- 「娘娘」は中国語で貴婦人や女神に対して使われる尊称であり、企業の繁栄を願って生み出されたであろうキャラクターへのネーミングとしては申し分ない。
- 「大豊娘娘などの企業マスコット拡散による『ACVI』の認知と購入」の事例が少数ながらも報告されており、巡り巡って現実のマスコットキャラクター戦略の有効性を証明することになってしまった。
- 大豊娘娘爆誕のきっかけとも言える四字熟語「樹大枝細」だが、簡体字や繁体字に変換して検索しても『ACVI』か大豊娘娘の情報しか出てこない事から、実在する故事成語の類ではなくフロム・ソフトウェアが生み出した造語と見られている。とはいえ、「樹(の幹)は大きく枝は細く」は天槍の見た目そのままを表した秀逸な造語であり、読んで字の如く以上の意味は込められていないので、勝手にいかがわしい意味を付け加えられたフロムからすればとばっちりもいいところであるが。もうやだこの星
- 「ネット流行語100 2023」にてまさかのノミネートされた(AC6関連では他にタイトル・621・ウォルター)。50音順ではソラ・ハレワタール(プリキュア)と千切豹馬(ブルーロック)の間に挟まっており、この並びを見て何かの人物名と思ってクリックしてこの記事にたどり着いた人は何を思うのだろうか…。そして最終結果は69位と、AC6関連では残念ながら最下位となってしまったが、それでもホグワーツ・レガシーや強風オールバックなどを上回る順位を獲得した。