概要
英名で「Camel spider」や「Wind scorpion」と呼ばれるが、同じくクモガタ類(クモガタ綱)とはいえ、クモ(クモ目)やサソリ(サソリ目)のどちらにも属とされず、自ら「ヒヨケムシ目」(Solifugae)として独自に分類される節足動物であり、1100種以上が知られる。
一般的に目にするヒヨケムシは、脚は長く、全身がクリーム色で毛が生えている。なお、脚の短い種類や、黒・赤・白など派手な色をもつ種類もある。種によっては1cmの小型から肢を伸ばすと10cm以上に達する大型のものがある。
8本足であるが、前方の触肢が脚のように発達しているため、一見では10本足と誤解されやすい。また、多くのクモガタ類の頭胸部は1枚の甲羅に覆われるのに対して、ヒヨケムシの頭胸部はある程度の節に分かれるのも特徴である。
そして中でも特に目に付くのが、その最大の特徴とも言えるくちばしのような顎(鋏角)だろう。
腹部は袋のように柔らかく、色薄い種ではそこから内臓が透き通って見られる。
生態
ほとんどの種類は砂漠などの乾燥地帯に住む。昼行性の種類もいるが、多くのものは夜行性で、日中で石の裏返しなどによって太陽の下で晒すとすぐ影のある場所へ向かって走り出す。名前通りの「日を避ける者」である。
しかしその臆病な側面に反し、ヒヨケムシは立派な捕食者である。
毒はないが、苛酷な環境に適した獰猛さを持っており、早送りの如く動きは素早い。昆虫・クモ・サソリの他、大型種だと小型の脊椎動物さえ襲って食らうこともある。強大な鋏角は勿論、その長い触肢の先にある吸盤も獲物を確保する強力な武器である。
しかしながら体の殆どの部分は無防備で柔らかく、ヒヨケムシ自身も鳥類・哺乳類・爬虫類などの捕食者に狙われやすい。
多くのクモガタ類と同様、獲物の体液しか呑めないので食事の最後は必ず遺骸が残されるが、ヒヨケムシはその体液を搾り出すため、食事中は大きな鋏角で獲物をぐしゃぐしゃな肉塊になるまで咀嚼するというエグイ絵面になる。
また、その乱暴な繫殖行動も注目される。多くの種類から交接直前にオスがメスの腹部と生殖孔を噛むようにマッサージする行動や、交接失敗による共食いが確認される。メスが交接直前から麻痺されたように動けなくなる状態に入るという現象がある。
なお、ヒヨケムシに関する研究は非常に少なく、その生態は未だに多くの謎に包まれている。
人間との関わり
あらゆる噂で誇張されてきたが、基本的には無害の動物である。人間を自発的に襲うことはしないが、活発な捕食者であるため、下手に手を出すと防衛行動として噛まれる危険性があるため、注意すべし。
上述の日当りを避ける習性から由来する速い動きと人の影を追い掛ける事態から「襲い掛かる」と勘違いされることもある。
一時期、巨大ヒヨケムシの写真がネットに出回ったことで一躍有名になって、それから「人喰い」や「猛毒グモ」など様々なデマがネットで広く流された。
屈強な兵士が宿舎内でヒヨケムシと遭遇し、悲鳴を上げて逃げるという微笑ましい(?)映像とかもあったりする。
稀にペットとして流通するが、不明点の多い生態から長期間の人工飼育に不向きであり、1年ほどで死んでしまうことが多い。
その奇っ怪な姿から、日本ではウデムシやサソリモドキと並んで「世界三大奇虫」と呼ばれるが、両者とは近縁ではない。