魔王と勇者の戦いの裏で
まおうとゆうしゃのたたかいのうらで
概要
文庫版はオーバーラップ文庫にて第1巻が2022年3月に刊行された。2023年5月時点で既刊は3巻。イラストは山椒魚。
2022年7月には葦尾乱平の作画によるコミカライズが『コミックガルド』にて連載が開始、2023年5月時点で単行本2巻が発売されている。
物語の舞台は、主人公が前世で遊んだ経験があるファンタジーRPGと同じような世界。いわゆる転生ものだが主人公はゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる国で生きるモブ貴族となっている。ヴェルナーは前世の記憶がよみがえった後は、ゲームで起きた魔物の軍勢による王都襲撃イベントを生き残るという目的で奔走することになる。
小説本編では主人公ヴェルナーの一人称で語られているが、時折他者視点のパートが挟まることがある。ヴェルナーの前世の記憶にある元のゲームや歴史の知識をベースにした解説部分が少なくない。特にそれまでと変わった状況が訪れた際には、目の前の状況とヴェルナーの知識をすり合わせたり分析することを兼ねた解説、いわゆる「ウンチク」が語られる。このウンチク部分を許容できない読者からは評判がイマイチだが、後の伏線になる部分が少なくないし他の作品との違いを浮きだたせる特徴でもある。
原作ゲームに関してはそれほど語られてはいないものの、主なイベントやアイテムの効果などについては前世の記憶通りで、ゲームの主人公パーティのメンバーには音声が付いていたことが作中で明言されている。
しかしゲームの容量の都合で削減された要素などに言及される・ゲームデザイン自体がかなり古典的である等、ROMカセット時代のゲームであるかのような描写も散見される。このため読者の間では「前世でプレイしたのはリメイク版だったのでは?」という推測もある。
他のファンタジー系のライトノベル作品と比べて中高年男性の登場人物が多い。また文庫版第1巻のあとがきでは、編集部と読者の両方から花がないという指摘があったことが記されている。
物語
「内政、防衛戦、戦後の後始末――勇者(とも)と違う、俺の戦場。
いずれ魔王と勇者の戦いが世界の命運を決める。そんなRPGゲームの世界へ転生したことを思い出した貴族の子息ヴェルナーは、本来名前も出ずに死を迎えるモブ。理由は魔王軍による王都襲撃だろう。そう判断したヴェルナーは悲劇を回避するため、前世の知識と知恵を総動員して生き残る術を模索する。
ゲームの知識で己を鍛え、勇者マゼルと親友になり……迎えたゲーム開始イベント『魔物暴走(スタンピード)』。勇者のいない戦場で、誰も気付かなかった魔物の狙いを阻止し獅子奮迅の活躍を見せたヴェルナーは、ゲームの歴史をも変えることに――!?
伝説の裏側で奮闘するモブキャラの本格戦記ファンタジー、此処に開幕。」(公式サイトの解説文より)
物語序盤で発生するはずの王国軍敗北イベントで生き残るどころか、ヴェルナーの活躍で勝利を収めたことで以後の物語展開は大きく異なっていく。
登場人物
- ヴェルナー・ファン・ツェアフェルト
スキル:槍術
本作の主人公。年齢は明言されていないが学生。
ツェアフェルト伯爵家の次男だったが、幼い時に優秀な兄を事故で失っており嫡男となった。その事故のあたりで前世が日本人であることを思い出し、以後は魔軍による王都襲撃イベントを生きのびるべく前世の記憶と知識、今生での貴族家嫡男としての立場を活用して立ち回る。
日本人としての記憶と感性を持っているため、他の人から見ると時々規格外の発想をする。
前世では歴史オタクかつ仕事中毒だった模様。偽悪的な言動をすることがあるが、基本的に波乱やトラブルを避けるべく、他者には穏便に対応しようとする。
ヴァイン王国の学院側からは「優秀だが、他者を遠ざけようとするところがある」と評されてはいたものの、学生たちからは伯爵家嫡男あるいは大臣の息子という程度のモブキャラ扱いだった。しかし魔軍最初の侵攻となった魔物暴走(スタンピード)で王国軍に勝利をもたらした後、魔軍の脅威に対応すべく前世の知識に基づいた様々な献策を提案したことで王太子をはじめヴァイン王国の重鎮たちに目をかけられ重用されていくことになる。
- リリー・ハルティング
勇者マゼルの妹で、本作のメインヒロイン。可愛らしい容姿の少女で働き者。
故郷であるアーレア村を襲撃された際に魔軍にさらわれてしまうが、危機一髪の場面でヴェルナーに救出された。ヴェルナーに好意を抱いており、彼のためにツェアフェルト家の使用人として働きながら、貴族としての勉強や礼儀作法を習得しようと努力している。
乱雑な字を読み取る、平面から立体を想像して正確に描く高い空間認識能力、優れた記憶力など優秀な能力を持っており、要所でヴェルナーを助けている。
勇者パーティと仲間たち
- マゼル・ハルティング
スキル:勇者
ゲームにおける主人公キャラクター。
勇者のスキルを持つが、自身も努力家で高い能力を有する。また一度見た物を忘れないという特別な記憶力も持つ。
実家は宿屋であり、両親と妹リリーがいる。
物語開始前には王都の学院に在籍しており、ヴェルナーと友人となっている。能力の高さと温厚な人柄から学院では人気者だったが、魔軍が侵攻を開始して以降は次々と軍功を打ち立てて更に名声を高めていく。
原作ゲームではラウラと結婚、魔軍により荒廃したヴァイン王国の王となっている。
- ラウラ・ルイーゼ・ヴァインツィアール
原作ゲームにおけるヒロインで、パーティメンバーの1人。
ヴァイン王国の第二王女。教会からは聖女として認められるほどの実力を持ち、「神託」を受けたこともある。
王族あるいは聖女として相応しい気品と気さくで親しみのある性格を併せ持つ。その一方で年相応の女の子らしく、ヴェルナーとリリーの恋愛事情には食いつき気味に興味を示した。
ゲームでは神聖魔法による高い魔法攻撃力と回復魔法を使いこなしていた。エンディングではマゼルと結ばれた。
- ルゲンツ・ラーザー
スキル:武器の達人
ゲームでのパーティメンバーの1人で戦士。
熟練の冒険者で、マゼルの兄貴分のような役回り。
いわゆる「貴族らしさ」を嫌っている描写があるが、この世界の貴族らしくないヴェルナーのことは高く評価している。
作中でヴェルナーに雇われていた傭兵隊のゲッケとは友人。
ゲームでは渋い声が評判の声優が演じていたらしい。
- フェリックス・アーネート
ゲームでのパーティメンバーの1人で設定年齢は14歳。
孤児院出身の斥候(スカウト)。素早いだけでなく勘が鋭い。
ゲームでは罠の解除で活躍、特に彼がいないと攻略できない罠だらけの迷宮があった。
かわいい系の外見で、ヴェルナーは初対面時に「このゲームが20年遅く発売されていたら多分女の子だっただろう」と評している。
作中ではヴェルナーが渡した金貨の袋のおかげで妹のように可愛がっている孤児院の女の子を助けることができたため、ヴェルナーを兄貴と慕うようになった。
- エリッヒ・クルーガー
ゲームのパーティメンバーの1人。
各地を旅していた修道僧(モンク)で、格闘による戦闘能力と回復魔法を習得している。
僧侶らしく言動は温厚で礼儀正しい。
ゲームでは「当時としては珍しい修道僧」という設定で、前半では回復と物理戦闘を、後半では回復メインで立ち回ることが多かったらしい。
作中では、ヴェリーザ砦撤退戦後に兵士たちの治療に協力していたところでヴェルナーと遭遇。ヴェルナーの提案で勇者パーティに合流している。
- ウーヴェ・アルムシック
ゲームでのパーティメンバーの1人。
ヴァイン王国の老魔術師。古代王国が作り出したとされる魔法装置を研究していたため、魔法に関して豊富な知識を持つ。興味のある話題が出ると結構礼儀を無視するところがあるが、本人の性分と魔法の実力、さらに王族の教育係をしていたことなどから溜息まじりに許容されている。ある意味テンプレ的な魔術師であり、他人にあまり興味がない。
武力重視のお国柄の影響か、邪魔とあらばモンスターだろうが瓦礫だろうが魔法で吹き飛ばそうとする脳筋気質の一面がある。
国家機密であるはずの国内外の地図に関する知識を持っていたため、当初はヴェルナーを警戒していた。
ヴァイン王国
作中の舞台となる大陸で最も大きな国。
当代の国王、王太子ともに優秀と言える。しかし全般的に貴族は武官派の勢力が大きく、ヴェルナーいわく「脳筋」に偏っており、同じ爵位でも文知派は地位が低めに扱われる。
原作ゲームでは序盤で騎士団など軍が大損害を被り、王太子をはじめ多数の王侯貴族が戦士していた。
- ヒュベルトゥス・ナーレス・ヴァイス・ヴァインツィアール
文庫版第1巻時点で38歳の王太子。
転生者であるヴェルナーが「天才」と評するレベルで政治や軍事に長けた才覚を有する。
王国上層部で早い段階でヴェルナーを高く評価しており重用する。
- イェヒ・アルティヒ・セイファート
王太子ヒュベルトゥスの大叔父にあたるヴァイン王国の高位貴族で、“将爵”という現実世界の欧州でのDukeに相当する爵位を持つ。
隠居した軍の高官だったが、魔王復活の事態を受けて現役に復帰した。軍の将官として優秀な能力を持ち、脳筋気質の貴族たちからも敬意を払われている。
あまり貴族らしくないヴェルナーを気に入っており、弟子のように何かと気にかけている。
- ヘルミーネ
武官系貴族家であるフュルスト伯爵家の次女で、女性騎士。
貴族としては真面目な性格ゆえに、物語開始時はヴェルナーやツェアフェルト家を重要視していなかった。しかし作中でヴェルナーの言動に接していくうちに、貴族として騎士としていろいろと考え直していく。
正ヒロインの登場が遅いため文庫版で追加された女性キャラクター。武官系貴族らしい言動をとる脳筋の兄タイロンに苦労させられている。