概要
直訳すると「合成装置」であり、電気的な波形を合成して出力する機械である。最終的に波形が得られればそのプロセスがなんであれ「シンセサイザー」であり、そのためシンセサイザーと言ってもさまざまなものが存在する。
入力装置の形は様々で、ギター型・ドラム型・ラック型などさまざまな形のものが存在するが、一般的にシンセサイザーというと鍵盤型のものか、ソフトウェアシンセを指す。
現在最も普及している「減算方式」のシンセではVCO・VCF・VCA・EG・LFOと呼ばれるモジュールのパラメータを調整することで音作りをする。
減算方式とは、フィルターで倍音を削って音作りをするシンセのことである。
一方「加算方式」とは、全ての波動は複数の正弦波の合成で表せるということを利用し、正弦波を複数合成して音作りをするシンセのことである。
これからも進化し続ける、未知の領域の楽器である。
シンセサイザーの要素
オシレーター(VCO - Voltage Controlled Oscillator)
オシレーターと呼ばれる発振器の多くは正弦波(Sine)・矩形波(Square,パルス波のデューティ比が1:1のもの)・パルス波・鋸歯状波(ノコギリ波,Saw)・ノイズなどの波形を出力・合成し自由自在に音色を作ることができる。最近では波形を手書きできるソフトシンセも多い。
正弦波(Sine)
正弦波は、倍音を一切含まない丸い形をした波形である。時報によく使われる。ドラムンベースのベース音にこの波形をそのまま使うことも多い。
パルス波(Pulse)
パルス波は、振幅が最大値と最小値のどちらかの値をとるように周期的に変化する、四角い形をした波形である。パルス波にはパルス幅というパラメータがあり、上下させるとL状態とH状態の時間比率の値が変わり音色も変化していく。
デューティー比は、パルス幅をパルス周期で割ったものである。
矩形波(Square)
矩形波は、パルス波のデューティー比が1:1で奇数倍音を含む四角い形をした波形である。デジタル信号そのものであり、デジタル回路で容易に発生させることができたため昔のゲーム機でよく使われている(いわゆるピコピコ音)。また音圧の高い波形である。
なお初期のモーグ機ではSquareではなくRectangleと表示されていた。
鋸歯状波(Sawwave)
鋸歯状波は、基本周波数の偶数倍音と奇数倍音を含み、のこぎりのような形をしている波形である。すべての整数倍音を含み豊かな響きが得られるため、シンセサイザーの音作りでは頻繁に使われる。
トランスでよく使われるSuperSawという波形は、ローランドのJP-8000に搭載されていた互いにデチューンした7つのノコギリ波を複数重ねた物であるが、現在では広く知られ、ノコギリ波の数に関わらずこのような音色をSuperSawと呼ぶようになった。
また類似音色にHyperSawがある。
三角波(Triangle)
三角波は、奇数倍音を含む三角形の波形である。矩形波との違いは高い周波数にほど波形に含まれる倍音が小さくなっていくことである。正弦波に近いため、ローパスフィルターで倍音を削ることにより正弦波を作るシンセサイザーもあった。
ホワイトノイズ(Noise)
ホワイトノイズは、すべての周波数で同じ強度であるノイズ波形である。高周波の音が耳障りなのでローパスフィルターで削ることが多い。
効果音に使ったり、他の波形に微妙に混ぜて使われることが多い波形である。機種によっては最初から高周波になるにつれて音圧が減衰していく(いわゆる1/f)ピンクノイズに切り替えられるものもある。
フィルター(VCF - Voltage Controlled Filter)
フィルターは、ある周波数帯域のみを通過させ倍音をコントロールし音色を変化させることができるものである。
種類は、高い周波数のみ通過させる「ハイパスフィルター」、低い周波数のみ通過させる「ローパスフィルター」、特定の帯域のみ通過させる「バンドパスフィルター」、特定の帯域のみ削る「ノッチフィルター」などがある。シンセに搭載されるフィルターは、12dB/octと24dB/octのカーブが多い。
VCA/エンベロープジェネレーター(EG - Envelope Generator)
ADSRと呼ばれるアタック・ディケイ・サスティン・リリースのパラメータを調整し音量やピッチを変調させる。ピッチを変調させるものはピッチエンベロープ、アンプを変調させるものは単純にエンベロープと呼ばれることが多い。機種によってはすぐに鍵を離しても最低限発音をキープする時間を設定できるH(ホールド)やサスティン内での減衰量のF(フェード)などもある。この他AとRだけの簡易エンベロープもある。
LFO(Low Frequency Oscillator)
LFOは、変調に使われる低周波オシレーターのことである。VCOと同じく様々な波形が出せるが、100Hz以下の極めて低い周波数しか出せない。コルグのシンセサイザーではMG(Modulation Generator)と表記される。
変調させる対象はピッチ、フィルター、音量、FM、パルス幅、定位などがある。例えばピッチにLFOをかけるとビブラートのような効果が得られる。
パルス幅を変調させるものはPWM(Pulse Width Modulation)とも呼ばれる。
ハードウェアとソフトウェア
シンセサイザーには専用の電子回路によって組み上げられた機械としてのシンセサイザー(ハードウェアシンセサイザー)と、コンピュータで実行するソフトウェアとして作られているソフトウェアシンセサイザーがある。1990年代まではコンピュータの処理能力が足りずハードウェアシンセが大量に使用されていたが、コンピュータの性能が飛躍的に向上した2000年代からは場所を取らず、カスタマイズが簡単で、複雑な音作りが出来て、音色を大量に保存しておけるソフトウェアシンセサイザーが広く普及した。特にスタインベルグ社によって開発されたソフトウェアシンセの共通規格であるVST規格はソフトシンセの普及に重要な役割を担っている。
近年はその境界も曖昧になってきており、一見ハードウェアシンセに見えても中身はコンピュータとソフトシンセの組み合わせというシンセサイザーもある。またパソコン上で動くソフトウェアシンセサイザーも、MIDIキーボードをパソコンに接続することで手弾きも可能である。
アナログとデジタル
デジタルとアナログでどちらが絶対的に上というものはなく、それぞれの特徴を把握して使い分ける必要がある。
また、ハード=アナログ、ソフト=デジタルではないので注意。
アナログシンセ
典型的な減算型シンセである。多くはオシレーターに正弦波・矩形波・パルス波・鋸歯状波・ホワイトノイズなどの基本波形を搭載している。
アナログシンセの特徴は、アナログ回路で波形が歪み(サチュレーション)倍音が発生して太くなる、ピッチの変化がなめらか、デジタルシンセで多い折り返しノイズがない、温度変化などによる微妙なヨレなどがある(一般的にはアナログシンセは電源を入れてからしばらくは回路が冷えているため音程が正しく出ない。但しVCOの代わりにDCOを搭載した機種では、ピッチの温度依存性はほとんどない)。
アナログシンセが良いと言われるのはそのためであるが、これは不安定ということでもあり、同じ機種でも個体差があったり突然暴走したりすることもある。
アナログシンセには単音しか出せないモノフォニック・シンセと和音が出せるポリフォニック・シンセがある。またポリシンセでは発音数分だけのシンセサイザー回路を内蔵した2~10音程度のものと、分周式オシレーターを使って1つのオシレーターで何音でも同時に発音できる全音ポリのものがある。
6音ポリ・アナログシンセの音(シーケンシャル・サーキッツ Prophet-600)
デジタルシンセ
デジタルシンセは、デジタルで処理していてシンセサイザーである。
デジタルシンセを使うメリットは、温度変化によるヨレやアナログ回路による歪みが生じない、FM方式やPCM方式が使える等である。
PCM方式のシンセはギターやドラム、ピアノなど、生楽器の音を使えるのが特徴。
PCM
これは合成された音ではなく、既存の楽器の音を一旦サンプリング・量子化して、デジタルデータに変換したものである。さらにこれをオシレーターとして使い、フィルターなどで音作りすることも可能である。もとがサンプリング音源なので非常にリアルな音を出せる。
欠点は音色を記憶するために大容量の記憶装置が必要なこと(メモリー容量が絶対的に少なかった初期の機種は音色のリアリティに難があった)、プリセットシンセの性格が強く他の方式と比べ音作りの自由度が低いこと(サンプリング音源である以上、本質的に実在しない楽器の音は出せない)、サスティンが無限の音色(オルガンのように鍵を押している間ずっと発音されるような音色)の再現が難しい点である。
このうち、元となる音を実際にサンプリングする機能を持つものはサンプラーと呼ばれる。
PCMシンセの音(コルグ 01/W pro X)
FM
FM方式は、周波数変調(FrequencyModulation)を用いて波形を作る方式である。加算型に分類される。
FMシンセではオペレーターと呼ばれる、波形を変調や発生をさせるモジュールがある。オペレーターを横に並べて同時に発音させて音色を変化させることもできるが、FMシンセ最大の特徴はオペレーターを使ってオペレーターを周波数変調させることができることである。変調する側オペレーターはモジュレーター、変調される側のオペレーターはキャリアと呼ばれる。この合成方式は複雑な倍音をもつ波形を作れるので、きらびやかな音や金属的な音を作るのに向いている。欠点は音作りの操作が直感と全く合わないこと、一聴してFMの音とわかるような特有の癖があること、弦楽器の音の再現が苦手な点である。
ちなみに、メモリ使用量が少なくさまざまな音色を作れるため携帯電話などの音源にも使われている。
有名なFMシンセの一つに、初音ミクのデザインのモデルとなったDX7などがある。いわゆる80'sサウンドを代表する音である。
この他、日本ではよく鉄道の発車メロディに使用される。
FMシンセの音(ヤマハ DX7)
ウェーブテーブル/ベクトルシンセシス
ウェーブテーブル方式はごく短い波形を大量に用意し、それらを次々につなぎあわせて音の変化を作り出す仕組みである。ベクトルシンセはその発展型で、ジョイスティック操作でリアルタイムに様々な波形のつなぎ方を選択できるものである。音を激しく変化させて他の方式では出せない個性的な音を作ることができる。
ウェーブテーブル方式の有名な機種としてはPPGのWAVEシリーズ、ベクトル方式としてはシーケンシャルサーキッツのProphet-VS、コルグWAVESTATIONなどがある。
なおマイクロソフトのWindows付属ソフトウェアシンセのようにPCM音源にもかかわらずWavetableと表記されている場合もあるが、ここで説明したウェーブテーブル音源とは全くの別物である。
ウェーブテーブルシンセの音(PPG Wave 2.3)
アナログモデリング
さらに、デジタルでアナログの特性を再現したアナログモデリングシンセが存在する。VA(Virtual Analog)シンセとも呼ばれる。ハード・ソフトの両方があるが、ハードウェア型のものでも実は内部に搭載したコンピュータ(DSP)で専用アナログシンセシミュレータを実行しているだけであり、理論上はソフトウェアシンセしか存在しない。現在の製品では、音は本物のアナログシンセとほとんど区別がつかないレベルになっている。
自動演奏
シンセサイザーは内部的には電気信号によって操作されるので、ケーブルをつないで簡単に外部から自動演奏させることができる。そのために非常に良く使用されるのがMIDIであり、デジタル通信によってあらゆる操作(演奏にかぎらず設定の変更なども含む)が可能である。
しかしMIDIは1982年に作られた規格であり、それ以前のシンセではCV/Gate信号で演奏するしかなかった。これは電圧によって音程を伝えるアナログ通信方式で、音程と発音時間だけしか操作できない単純な信号である。例外としてモジュラーシンセではパッチコードの接続次第で様々な操作が可能だったが、そのためには数十本から数百本ものコードを繋げなければならず実用的とはいえない。
CV入力は全てのシンセサイザーにあるわけではなく、ついていない機種は改造しない限り手弾きしかできなかった。
なお、シンセサイザーを自動演奏させる専用の機械をシーケンサーというが、現代ではパソコンにシーケンサーソフトウェアをインストールして自動演奏させることが多い。
このほか、MIDIを使って手動で他のシンセサイザーを遠隔操作する装置をMIDIコントローラと呼ぶ。またそのような外部入力によってのみ演奏されるシンセサイザーを音源モジュール、トーンジェネレータなどと呼ぶ。
特殊なシンセサイザー
モジュラーシンセ
シンセサイザーの黎明期からあるタイプのシンセサイザー。一般に知られるシンセサイザーと比べ極めて大型であり、日本の音楽関係者の間では俗に「タンス」と呼ばれる。大型にもかかわらず単音しか発音できないモノフォニック・シンセがほとんどで、主にその多彩な波形加工回路を利用して不思議な音(スペシャルエフェクト)を作るのに使用される。鍵盤を使って演奏することは少なく、ほとんどの場合シーケンサーで自動演奏させる。
モジュラーシンセサイザーは一般のシンセサイザーのようにVCOやVCF、VCAといった要素が内部でつながっておらず、前面パネルにパッチコードと呼ばれるケーブルで各要素を自由に接続して使うため、使用状態ではコードだらけのスパゲティ状態となる。誤ったつなぎ方をすれば簡単に故障した。それらの要素自体自作パソコンのように単独に購入して組み上げるもので、組み上げるにも使用するにも電気回路の知識が必要であった。
このようにモジュラーシンセは極めてアナログコンピュータに近い装置であり、当然普通のミュージシャンに簡単に使いこなせるものではなかった。モジュラーシンセ全盛期にはそれこそ白衣を着たエンジニアがセッティングないし演奏することも珍しくなかった。
モジュラーシンセの音(ARP 2500)
この機種はスライドスイッチを使用してパッチケーブルを不要にしておりモジュラーシンセの中でも楽器らしい機種であるが、それでも見ての通り何かの実験装置のような外観である。なお鍵盤は画面には写っていないが一応付いている。
ドラムマシン
ドラムパートに特化したシンセ。ローランドのTR-808やリン社のリンドラムLM-1が著名。多くはシーケンサーを内蔵し、決まったリズムでドラムパターンを繰り返すが、ボタン操作により手動演奏も可能である。類似のものとしてベース音を出すベースマシン、サンプリングした音をシーケンサーで演奏するリズムマシンがあり、主にクラブシーンで使用される。
ドラムマシンの音(ローランド TR-505)
シンセドラム(電子ドラム)
ドラムマシンと同じくドラムパートに特化しているが、こちらはドラム型のパッドを備えて本物のドラムセット同様に手で演奏するように作られたものである。ドラムセットに追加して通常のドラム楽器では出せない変わった音を出すためのものと、本物のドラムスの音をシミュレートするものがある。前者はポラード・シンドラムなどに始まり近年はコルグ・WAVEDRUMなどが知られ、後者は古くはシモンズドラム、近年のものではローランドのV-drumsが知られる。
シンセドラムの音(シモンズ SDS-7)
ヴォコーダー
シンセサイザーの音に人間の声で変調をかける機械。マイクと鍵盤が付いているものがよく知られるが、ボックス型で鍵盤が外付けのものや、固有のVCOがなく外部のシンセサイザーの音を入力して声と合成する機能しか持たない機種もある。一人でハモったり、ロボットボイスを作るのによく使われた。YMOやP-MODELといったテクノ系バンド、アース・ウィンド・アンド・ファイアーやリップス・インクなどファンクバンドでの使用例は著名。この他ラジオのジングルで多用される。
近年はいわゆるケロケロボイスを作るために使われるソフトウェアを俗にヴォコーダーと呼ぶことが多いが、これは正しくはオートチューンなどと呼ばれるものでヴォコーダーとは別物である(オートチューンはフィルターの一種でシンセサイザーではない)。
ヴォコーダーの音(ローランド SVC-350)
なおこのヴォコーダーはVCOがないタイプなので、別途JUPITER-6でキャリア音を入力している。
VOCALOID
ヤマハが開発したボーカロイドはPCM録音された声に音程変調をかけるもので、ボーカルシンセサイザーの一種である。
ちなみにヴォコーダーの声入力にVocaloidを入れることももちろんできる。
その他
ゲームボーイや携帯電話などにもシンセサイザーが搭載されている。無論パソコンにも搭載されている。
特に初期のゲーム機は記憶容量や処理能力が乏しかったため、CPUパワーを消費せずに音を出せる音源専用IC(ワンチップシンセサイザー)を搭載していた。これをチップ音源といい、これらの音に似せて作った音楽のジャンルを「チップチューン」という。近年のゲーム機はコーデックを搭載して大容量ROMに記録されたPCM音声を再生するようになっているのでシンセサイザーはない。
一方携帯電話やパソコンは比較的処理能力に余裕があるため、仮想的なシンセサイザーをCPUの計算で再現するソフトウェアシンセサイザーを採用している(PC-9800など古いパソコンではチップシンセを使っていた)。
楽器としてのシンセサイザーは元々アメリカのロバート・"ボブ"・モーグ博士率いるモーグ(Moog)社が売り始めたものだが、電子楽器は日本メーカーの得意中の得意分野であり、日本の楽器メーカーによって進化させられてきた部分は非常に多い。コルグやローランドはシンセサイザー専門メーカーであり、ヤマハも古くからシンセサイザーを開発している。MIDI規格は日米のシンセサイザーメーカー6社によって作られたが、その中心となったのもローランドであった。
このほかかつてKAWAIもシンセサイザーを発売していたが撤退。
カシオ計算機も80年代後半に撤退していたが、2012年に再参入した(詳しくはhttp://world.casio.com/emi/xw/)。
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メーカー:Moog ARP シーケンシャル・サーキッツ Oberheim Roland YAMAHA KORG CASIO
著名機:Minimoog Prophet-5 Odyssey Mono/Poly Polysix JUPITER-8 SH-101 DX7 MS-20 DS-10 SC-88Pro 01/W TRITON TR-808 TB-303 ELECTRIBE microKORG KAOSSILATOR
著名使用者:スティービー・ワンダー ブライアン・イーノ クラフトワーク 小室哲哉 YMO P-MODEL 冨田勲 浅倉大介 電気グルーヴ POLYSICS ダフト・パンク 中田ヤスタカ Sota Fujimori