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YAWARA!の編集履歴

2020-11-30 23:56:09 バージョン

YAWARA!

やわら

「YAWARA!」とは、浦沢直樹による漫画、およびそれを原作とするアニメである。

概要

浦沢直樹による漫画『YAWARA!』は、「ビッグコミックスピリッツ」にて1986年から1993年まで連載された。全29巻、文庫版全19巻。完全版全20巻。発行部数は3000万部以上(ビッグコミックスピリッツ版のみの実績)。


柔道漫画、そして青年誌でタブーとされていた女子を主人公としたスポーツものとしては異例の大ヒットを記録して、アニメ化以後は幅広い年齢層に多大な人気を博した。また女子柔道ブームの火付け役となり、女子柔道の強者を「やわらちゃん」と呼ぶ発端ともなり、当時彼女の髪型をリスペクトする女子選手が山のようにいた。


アニメは『YAWARA! a fashionable judo girl!』というタイトルで、1989年10月16日から1992年9月21日まで全124話が放送された。アニメ化できなかったオリンピック出場から完結までの話は、1996年に金曜ロードショーで『ずっと君の事が…』の副題で放送されたが、展開がかなり異なる上に舞台がアトランタに変更された。視聴率も取れていたので、主題歌も永井真理子、今井美樹、辛島美登里、原由子などといった、時代を彩る大物アーティストを起用できたという。


なお、当初はスポ根へのアンチテーゼを盛り込んだ、柔道はやりたくないのに才能だけで勝っていく少女を描いたドタバタ群像劇だったらしい(お色気シーンも多かった)。ところが、作者自ら監修に加わった(ドラマがあんまりの出来で作者が激怒したため)というアニメ化をきっかけに方針を転換、作者曰く「どのようにしたら売れる作品になるか」を突き詰めた実験作品だといい、蓋を開ければ、劇中後半にはトレンディドラマばりの青春柔道ラブストーリー(DVDの宣伝文句をそのまま引用)になった。そんなわけで、柔道の要素も高い(当初は女子が男子トップクラスに勝つなど無茶苦茶な描写が多かったが、作者が何度も取材し、だんだん本格化していった)が、あくまでベースとなっているのは猪熊柔と松田耕作のラブストーリーである。


その内容は王道的な展開も多いものの、原作者浦沢直樹の緻密な心理描写、巧みなストーリー展開、あちこちに鏤められた布石や伏線などロジックが売りである。また、作者は自分が苦手だった可愛い女の子を描くために、必死に江口寿史の画風をリスペクトしたことをカミングアウトしている。


ストーリー

大きく分けて4部にわけられ、武蔵山高校時代、三葉女子短大時代、鶴亀トラベル時代、そしてバルセロナ編となっている。高校時代は柔道をプロットにしたドタバタラブコメディー、短大時代は富士子との友情を描いた青春物語、鶴亀トラベル時代では、より柔と松田の関係を掘り下げつつも周囲の邪魔が入ったりと、昼ドラのような生々しい展開となっているなど、作品の雰囲気は異なる。また、あちこちで似たようなシーンが繰り返し登場するが、それぞれ二人の心理状況はまるで異なっているのも特徴であり、この辺りは作者の非常に高い構成力が窺える。


なお、pixiv百科事典では、あまりあらすじは好まれる風潮ではないのだが、如何せん連載から30年以上経過している作品なので、当作の緻密なロジックを知ってもらうために敢えて載せることにした(考察や分析は決して個人的主観ではなく、かつて存在したファンサイトや匿名掲示板などファンによる分析をまとめたものが中心)。


なお、ネタバレにはなるが、28巻に登場する柔の回想シーン及び29巻に登場する松田の回想シーンについて詳しく補足を入れてみた。


武蔵山高校時代

柔道家の祖父の元で稽古に明け暮れていた少女猪熊柔、しかし彼女は思春期を迎え、普通の女子高生のようにオシャレしたり恋したりしたい思いを秘めるようになり、柔道から遠ざかろうとしていた。一方、日刊エヴリーで嫌々スキャンダルを取材していた松田耕作は、ひったくり犯を巴投げで投げ飛ばす女子高生(猪熊柔)を目の当たりにし(松田の回想シーンA:自分にとって生き甲斐の発見)、彼女にスーパースターの光を感じ、彼女を追い回す。


しかし、そんな松田の前にはだかったのが二枚目の優男、風祭進之介。柔は彼に一目惚れし近づこうとするが、その正体は本阿弥さやかのコーチだった。しかも、彼女が風祭を一本背負いで投げてしまったことを松田耕作にすっぱ抜かれてしまい、マスコミらが大騒ぎで彼女は家に帰ることすらできなくなってしまう。責任を感じた松田は柔をバイクで連れ去るが、風祭のつもりで付いてきたのにその相手が松田とわかり激怒、一本背負いでふっとばしてしまう(柔の回想シーン1:本人にとっての馴れ初め)。松田はその実力を目の当たりにして感銘を受けるが、その目前で、柔本人が、罰が悪そうに突っ立っていた。松田はとりあえず、帰る場所がなくなった彼女を救うため、自分のアパートで保護しようとする。彼女は汚らしい彼の部屋に呆れるが、持ち前の女子力を発揮し部屋をいそいそと片付けてあげる(柔の回想シーン2:ここを選んでいることは、普通の家庭的な女の子としていられることへの喜び、すなわちコンプレックスの解放が込められている。また、松田の回想シーンB)。そして、そこで彼女の「普通の女の子でいたい」という思いを酌み取るようになり、気晴らしに誘った遊園地(松田の回想シーンC)でも頻繁に声を掛けられ、普通の少女でいられなくしてしまったことに責任を感じ、自分の夢を惜しみつつも試合に出て負けることを提案する。だが、彼女は試合中、うっかり母親を目撃したことで、女子柔道の強豪、藤堂由貴を投げ飛ばしてしまい、その活躍はすぐに国内に知れ渡ってしまった。


だが、それでも相変わらずの柔は柔道を始める気はなく、痺れを切らした松田は柔を葉山に連れていき、トレーニングに励むさやかの姿を見せる。しかし、そこには片想いしていた風祭が一緒におり、ショックを受けた柔はそのまま傷心のまま一人バスに乗り去っていく。だが、ショックを受けたのは松田も同じ(ただし、この頃は柔への片想いというよりはこんな奴に渡したくないという男の意地)で、それをさやかの前で公言しようとした。咄嗟に風祭は松田を口封じし、柔に柔道をさせるため、自分に気があることを利用して「柔道をしている貴方が一番輝いている」と告げた。その言葉を信じた柔は、それが本当なのか大会に出てみようとする。だが、運悪く自分が特訓した男子部員の大会とバッティングしてしまい、彼女は自分の試合より向こうの動向が気になる。すると今度は松田が協力してくれて、最後には柔からの熱望で、壊れたカブで二人乗りして会場に駆けつけた(柔の回想シーン3及び松田の回想シーンD:自分の力になってくれたことへの回顧+恐怖体験による心の同調作用。タンデムは後でもう一回登場する)。そして、部長である花園の勝利を見届けると涙ながらに笑顔をこぼす。


これで柔道に気が向いてくれるかと思えば正反対で、努力は報われる、自分で人生を切り開けることを確信した柔はかねてより志望していた三葉女子短大への受験を熱望するようになり、また柔道から離れる。だが、その矢先、カナダからジョディという柔道選手が新聞記事を読んで柔を訪問する。滋悟郎はしばらく居候させるが、受験勉強にも支障が出てきてしまったため柔は怒って追い返してしまう。しかし、柔と戦いたい一心で短期間で日本語を覚えたことを滋悟郎に聞かされ、その執念に感服した彼女はジョディに対戦を約束する。そして、一戦を交えた後、ジョディという強敵を知り、初めて柔道に楽しさを感じるようになり、2人は仲良くなりソウルでの活躍を誓い合った。だが、そのジョディはソビエトのテレシコワに負傷させられてしまう。きっかけを失った柔はまた予定通り、三葉女子短大受験の勉強を続ける。


だが、彼女の短大受験を喜ばない祖父の滋悟郎が彼女の参考書や問題集を没収してしまったのである。困った彼女に手を差し伸べたのは風祭であり、彼はマンツーマンで家庭教師を買って出る。だが、そのせいで合鍵を持っていたさやかと鉢合わせてしまい、さやかはとうとう風祭を取り囲むため、柔をわざわざ招待して風祭との婚約発表を公表する。とどめを刺された柔はやけっぱちになり、もう自分には進学しかないと開き直る(アニメでは松田がその心情を察し、風祭に花を持たせ柔を元気づける話がある)。しかし、滋悟郎から受験の条件として大小の大会全部出るように申し付けられ、受験勉強の合間に試合消化と多忙な毎日となってしまった。おまけに松田にも邦子という恋敵が現れ、それまで歯牙にも掛けなかったはずの松田にも、もやもやとした感情が生まれる。さやかからは風祭、邦子からは松田と二人のいちゃいちゃを見せつけられ、やぶれかぶれの柔はもう試合も集中できなくなり、それが原因で受験前日の試合で利き手を捻挫してしまった。


受験当日、滋悟郎は薬を塗ってくれるが、当然の如く捻挫の治療薬でなかったために柔は痛みで鉛筆が持てなくなってしまった。困った彼女の元に現れたのは松田、彼女は邦子へのヤキモチもあって当初は相手にしなかったが、その誠意に圧され鉛筆が痛くて持てないことを告げ、そして夢を諦める(祖父の言う通り西海大に行く)消極的発言をしてしまう。それを聞いた松田が裏腹な感情を隠して手助け、彼の応急処置のお陰で彼女は字が書けるようになり、力になってくれた彼に対しても仄かな恋心を抱くようになる(柔の回想シーン4及び松田の回想シーンE:心情の変化につながる重要なターニングポイント。松田にとっても自分を頼ってくれたことへの歓び)。だが、それが取材目的のためだと知らされると幻滅し、酒の勢いもあって彼を投げ飛ばしてしまった(当然これは未成年者飲酒で、後に物議を醸すことになった場面だが、当時はワインは例外的に食事の一環として黙認されていた風潮があったことを補足しておく)。


三葉女子短大時代

晴れて三葉女子短大に入学した彼女だが、なかなか周囲の浮わついた感覚についていけずどぎまぎ。そんなとき、後の無二の親友となる伊東富士子に出会い、二人でゴルフサークルに入部。だが合コンのとき、うっかり柔は相手の男を投げ飛ばしてしまい、自分の柔道は他人に危害を及ぼすものだとショックを受ける。だが、富士子は猪熊柔の一本背負いを見て感激、そして自分が対照的にバレリーナになれなかった存在だということを暴露する。それを聞いた柔は、富士子から託された思いも込め、再度柔道に打ち込むことを決意、そしてソウルで友情を築いたジョディと戦うことを目指し、稽古に励むようになった。また、その矢先で柔と松田は通り雨の中、電話ボックスで二人きりになり、松田は柔に試合が終わったら独占インタビューさせてほしいと柔に告げ、約束を交わす(松田の回想シーンF:松田にとって柔を異性として意識するターニングポイント。その直前にハンバーガーショップでバイトする彼女の色気に気付き、実家での見合い話を拒否し、ちゃんと相手がいる《柔を仄めかす発言》ってことを伝える場面がある)


しかし、ジョディと戦うことは叶わず。また、テレシコワが彼女を負傷させてしまったからである。怒りが芽生えた柔はジョディの仇をとるためにテレシコワに戦いを挑むも彼女の強烈な裏投げで気を失ってしまう。そんなとき、ずっと会いたかった瞼の父親の声がする。しかし、それは父親ではなく、松田の声であった。その声で彼女は復活し、そしてテレシコワを倒し優勝するが、その中で、懸念していた自分が原因で父親が失踪した事実を知り衝撃を受け、「もう柔道はしない」と松田に告げる。それでもまるで父親のように自分の名前を呼んでくれたことが嬉しく、松田に「お父さんみたいだった」と感謝の意を告げて、彼の告白も聞かずしてかすやすやと寄り添って眠ってしまった。(松田の回想シーンG:一旦は父親のように見られていたということで距離を置かれることを把握するも、寄り添って眠ってくれた(心を許してくれた)ことが大きなファクター。なお、柔の回想には含まれていないが、柔としてもこの話以後、彼に対する当たりが柔らかくなっており、深層に刷り込まれたことがわかる)


だが、柔の引退宣言にショックを受けたのは松田だけじゃなく、富士子もであった。そこで彼女は、柔を柔道に復帰させるため、自分も柔道を始め、そして三葉女子短大に柔道部を作ることを決心。そこになんとも頼りない白帯連中が集まる。それがきっかけで柔は柔道に復帰するが、どうやったら部員が強くなれるか悩んでいた。そこで松田は、自分が投げられて体で教えたらいいことを提案すると、彼女は笑顔で反応する(松田の回想シーンH:松田にとって柔の態度が軟化したことへの確信)。そして富士子もバレエで鍛えたバネの強さで伏兵として成長を遂げるようになり、その後の団体戦では柔と富士子の大活躍で、富士子はさやかと引き分け、決勝では柔が名門大学選手を五人抜きするなど話題をかっさらう。満足な滋悟郎だったが、就活でまた事情が一変。柔は西海大編入を断り、柔道部のない旅行代理店「鶴亀トラベル」入社を希望する。その理由は失踪した父親を探すためであり、それを松田と風祭に告げる。困った二人、それもそのはず、父親の虎滋郎はちょうど今、本阿弥さやかのコーチとなっていたのである。


その矢先、ユーゴスラビアで世界選手権が開かれる。だが、そこに松田の姿はなかった。焦る柔だが、邦子から「もう冷めた」と聞かされ思わず動揺する。しかも、それからというもの、試合が怖くなり、今まで体験したことないスランプに陥ってしまう。かたや無差別級に抜擢された富士子は初戦こそガタガタだったが、大金星を繰り返すほどだった。松田は親父が倒れたから帰省しただけだったが、女子柔道界がメダル一つ取れずに不調だというニュースを知り、一路ユーゴスラビアに向かう。だが、霧のため着いた場所は会場とは別天地であり、彼は意地で彼女を追いかけようとする。そしてなんとか会場に着き、柔にエールを送ると、それまで絶不調だった柔は嘘のように一変、フルシチョワを一閃する。そして、二人きりになった後、彼女は松田に対し溢れる想いを込め、涙を流してしまうのだった(柔が松田への恋心を把握するきっかけで、回想シーンの引き金にもなっている重大な出来事)


だが、鶴亀トラベル入社問題が残ったままで、しかも松田は滋悟郎の罠にかかり、卒業試合と称して名門大学との練習試合を組まされてしまう。しかも、柔の入社がかかっているのだという。結果、富士子の頑張りによって彼女らは星取り戦で勝利を収めるも、風祭の挑発に乗り、柔本人の前で「取材対象のために彼女を追ってきた」と言わされてしまい、柔の彼に対する想いが急に褪せてしまう。それどころか風祭が急接近、柔も彼に傾きかける(なお、このシーンはファンでも賛否両論であるが、ファンの間では結果的にはこれが風祭の敗北フラグとなった見方が強い)


鶴亀トラベル時代

晴れて花のOLとして鶴亀トラベル社員となった柔だが、彼女の上司は全くやる気のない羽衣という冴えない男。あまりにやる気の無さに痺れを切らした彼女は事もあろうに競合他社、本阿弥トラベルの顧客を訪問してしまうが、得意先が猪熊柔のファンだということで、彼女はいきなり接待のため羽衣と一緒に北海道に行くことに。だが、偶然にもその日が全日本選手権とバッティングしてしまったのである。


困った柔は風祭に相談(ライバル会社の社長という事実は知らない)すると、彼は彼女に、自社の損失は差し置いてでも接待に同行することを助言した。だが、いざ北海道で現地で決断を迫られた羽衣は、実は日刊エブリー、特に松田耕作の記事の大ファンであり、顧客からの柔道なんかどうでもいいという発言がきっかけで、松田に「猪熊を今から羽田に返す」と伝え、社長の命令も無視して柔に試合に出るように告げる。そして松田とタンデム(高校時から意識していたかっこいいバイク姿、加えて高校時に体験した二人乗りの恐怖体験の再現、後になればなるほど柔の顔つきが恐怖心から陶酔に変わっている。蛇足だが、高速道路でのタンデムは連載当時は法律違反行為だった)で会場に乗り付け、同時に彼女は松田に対し「見直した」と告げた。今まで取材対象だと思ってたけど、その記事が人に元気を分け与えてくれることもあることを羽衣から知らされたからで、彼女は一度褪せた想いを取り戻し、自分がたとえ取材対象であっても心が満たされるようになった。


そして大会は腕を磨いた本阿弥さやかをもろともせず優勝、しかも北海道はその柔と富士子の活躍のお陰で、柔道ファンだった得意先と馬が合い、柔の心配をよそに上手く行ったのだった。柔は出張から戻ってきた羽衣に感謝され、そして松田を褒めると、柔は自分のために尽くしてくれた松田に逢いたくなり、見舞いを理由に近づこうとしていた。かたや松田はどんどんスターになっていく柔に一抹の淋しさも感じながら、一人で乾杯。そこへ柔が訪れたものだから松田は焦り、出会い頭に二人が接触する(松田の回想シーンI:ここが残っていることこそ男の本能ナリね)。とんだハプニング発生だが、彼女はそれを拒まず、その後夕食を作ってあげるなど和気藹々と夜の一時を過ごす(柔の回想シーン5:唯一、劇中で二人がプライベートで仲睦まじくしており、松田とは対照的に、仲良く食事しているシーンが選ばれているのも心理学的には重要な意味《すなわち、夫婦としての関係への意識》を持つ)。だが、二人いいムードに割り込んだのが邦子であり、彼女は恰も自分が同棲しているかのような言い方で柔を追い返してしまったのだった。


二股をかけていたと思い込みすっかり松田に幻滅した柔だが、そんなとき富士子が悩みを打ち明ける。それは恋人の花園薫としばらく逢っていないことで、彼女は浮気を心配していた。他人事じゃないと柔は花園を問い詰めると、花園は強くなって最後の大会で勝つまで彼女には逢わないと男らしい発言をする。それを聞いた柔は感銘を受け、そして滋悟郎も花園に協力し、彼を猛特訓する。一方の花園も松田と邂逅し、同じ波長を感じた(最後の回想シーンにつながる、高嶺の花としての距離感)彼に激励される。しかし、富士子は花園を信用できず、自分たちの行く末を案じ最後の最後まで現れなかった(松田の記事がきっかけで花園の活躍を知る)。結果、花園はあと一歩で強豪に敗れるが、それでも活躍を見届けた富士子は彼を改めて見直し、二人きりで抱きつく。その後富士子は妊娠し、二人は晴れて夫婦となった。しかし、そんな幸せ絶頂の彼女とは対照的に、柔は逆に自分が遅れていることに気付かされ、一向に捗々しくない松田との関係に嫌気さえ差してしまう。そして、その欲求不満への捌け口として、明白に自分に好意を示してくれる風祭に縋ったりもしていた(アニメ版ではこの下りに風祭はほぼ登場しなくなっている代わりに、損なわれていた柔と松田の信頼関係の修復とその後の微妙な関係《柔は周囲に、建前上はボーイフレンドと意識している》についてもあまり触れられていない)。


そんな柔だが、会社のクレーム処理がきっかけでずっと捜していた父親がさやかのコーチである事実を知ってしまい、ショックの余り大会をボイコットしてしまった。そこに松田がカンを働かせ、柔の居場所を探り当てるが、そこで「松田さんにはどうせ私の気持ちなんてわからない」と涙をためた本音を聞かされてしまう。それでも言い過ぎたと彼女から手を引き、一日遊園地で気晴らしにとデートをするが、笑顔はお互いまるでなかった挙げ句、別れ際に「もう自分が柔道やめたら関係ない」と言い切られてしまう(心を通わせたはずの二人が唯一デートした場面だが、二人とも笑顔がなかった上に、松田が苦手な絶叫マシーンに連れ回しているなど、完全に現実逃避の行動。当然お互い2人の回想シーンにも出てこない)。


松田は、直接柔本人に交渉しようとするが、邦子が未練がましい柔への想いを断ち切るため、待ち伏せて柔を誘い「自分たちは会社やめて結婚する」と吹き込んだため、柔はまたショックを受けてしまう(自分が遊園地の後、別れを告げたせいでそのような動きになったという後悔も込められている)。一方、松田は柔とは接点がなくなってしまったので富士子の力を借りようとし、出産後復帰してほしいと懇願する。根っからの柔道好きな富士子は、快く復帰を目指しトレーニングに励むが、柔からは「富士子にまで無理をさせた」と誤解を生み怒りに触れてしまい、その前日に邦子から嘘を吹き込まれ動揺していたこともあって、松田に「もう柔道はしないし、一切関わらないでほしい」と関係を断絶してしまった。


生き甲斐を失った松田は失意の元、山形への出張がてら帰省し母親に「記者やめて実家を継ぐ」と力なく告げるが、母親は一喝。それで目が覚めた松田は情熱が蘇り、改めて柔に直接話しかけようとするが、柔は相変わらず突っ慳貪な態度で「どうせやめちゃうんでしょ」と返されてしまい、やむなく同僚に待ち合わせ場所を知らせるマッチを渡すように頼む。しかも、明日がクリスマスイブであり、天然な彼女はそれを知らずに裏腹な心で風祭との約束を交わしてしまっていた(松田の方も明日がイブとは気づいていなかった)。


イブの夜、彼女は支度をしようとすると、滋悟郎が部屋に仕掛けていた新聞記事のスクラップブックに躓いてしまう。そこにふと松田耕作の署名が。彼女は一旦は見て見ぬ振りをするが、いざ手に取ってみるとすっかり熱の入った記事に魅入られ、そこから会場の歓声が聞こえてきたのである。そして、全部読み終えた後彼女は涙に満ち溢れていた。あんなに前から自分のことをずっと見守ってくれていたのだと…。彼女は強い想いを抱き、風祭には断りの電話を入れてから慌てて松田が待つカフェに向かうが、そこはもう閉店であり、彼女は必死に松田の行方を捜す。失意の彼女は気落ちしてバスに乗り込むが、発車寸前の窓の目前に現れたのは電話ボックスから飛び出した松田であり(柔の回想シーン6:恋心が確信に変わった決定的場面。ずっと根気よく自分を待っていてくれたことも大きい)、彼女はバスの中で涙ながら「柔道をやるから記者やめないでほしい」と松田に告白(松田の回想シーンJ:逆に、松田にとっては柔からの恋心を察したわけではないが、自分が柔への想いを確信している)、そして彼女も笑顔の松田からプレゼントを窓越しに受け取った。


プレゼントの手袋ですっかり冷え切った心を温めてもらえた柔は、松田への想いを募らせつつ柔道界に復帰、富士子の前に笑顔を見せながら、その手袋を物思いに耽りながら見つめる。しかし、また邦子が邪魔をし、彼女の恋心を察し「邪魔しないでほしい」と吹き込まれ、今度はメランコリーな気分に。それでも松田の飾らない熱意は確実に伝わっていき(特に富士子優勝時のシーンで彼女の心の迷いがすっかり晴れていることを確認できる)、そしてジョディとの約束(ここはアニメだと松田が自分の想いを柔に激白しており、ここは原作派とアニメ派真っ二つに分かれるところ)もあり、全日本選手権では巴投げや寝技を磨いたさやかと白熱の死闘を繰り広げ、その後二人きりになり大会での活躍を誓い合う(アニメではここで松田が告白しようとして滋悟郎らの邪魔が入り最終回となるが、原作では、まだお互いの信頼関係を築いている期間となっている)。


バルセロナ編

バルセロナ五輪への切符を手に入れた柔と富士子だが、今度は松田にトラブルが発生した。なんと邦子が行方不明になったというのである。そしてその原因が誘拐であることがわかり、松田は警察に頼っていられないと自力で邦子救出に向かう。一方、次第に松田への想いを募らせる柔は松田が現れないことに動揺するが、富士子の機転でプレスIDの写真を渡され「これをお守り代わりにしてほしいと伝言を預かった」との言葉を真に受け、その気遣いを心から受け止める。そして、顔写真を胸に当てて、虎滋郎が育てたというフランス人の伏兵、マルソー戦に挑む。そして今までにないクレバーな試合運びで優勝した柔は、自分を気遣ってくれた松田へお礼をしたくて、溢れんばかりの想いを膨らませ、一人でホテルに向かう(なお、そのホテル名はサルバドールであるが、サルバドルといえば戦争映画で有名であり、嵐の予感を感じさせる名称となっている)。


一方、松田は邦子を救出し、彼女のために服を買い出しに出ていた。邦子は体を張って自分を助けてくれたことで勘違いが頂点に達し、二人は相思相愛だと思いこむ。そんな時、柔がホテルの一室を訪問、二人は鉢合わせに。するとガウン姿の邦子が嘘を吹き込み、おまけに「耕作はたった今出ていった」と告げたものだから、柔はたまらなくなってIDを突き返し、そのまま走り去り、一人エレベーターの中で激しく泣き崩れ、ずぶ濡れになりながら夜道をとぼとぼと歩き出す。


すれ違いになった松田が部屋に戻ると邦子がスタンバイ。だが、邦子は松田から「自分は好きな人がいる」と告げられ、彼女もまた涙を溜めて部屋を出ていくことに。そこでずぶ濡れで橋の欄干で突っ立ったままの柔を目撃した。邦子が一声かけると、彼女はまた涙が滲み出て踵を返して歩こうとする。たまらなくなった邦子は「せいぜい明日も金メダルとればいい」と告げると、それまで無言を保ってた柔は涙声で「金メダルが欲しくて柔道をやってるわけじゃ…」と返す。それを聞いた邦子はその裏側にある心情(彼の心をつなぎとめるものが柔道であること)も察しており、今までの嘘を白状し懺悔、そして実は両想いであったことを告げる。しかし、半信半疑の柔はその晩ずっと魂を抜かれたようになっていた(これは邦子が今まで嘘ばっかりついていたことも原因)。


だが、無差別級の直前、目前に松田を発見、彼が見てくれていることを確信した柔は昨晩の出来事がなかったかのような快進撃を続ける。そしてテレシコワ戦の前日、二人はばったり鉢合わせに。松田は思い思いにさっきまでの出来事を語るが、その姿を目の当たりにした柔は出会いからの積もる想いが込み上げ、本当は心がつながっていたんだと思わず嬉し涙を流してしまう(柔の回想シーン1~6全てが登場。またシチュエーションはユーゴと同様《タクシードライバーも再登場し、そのエピソードもデジャヴュを与えている》であり、それが感情発起のトリガーになっている)


そしてテレシコワ、そして松田から真心の激励(ここもイブでの出来事の繰り返し要素がある)を受けた後、最高のライバルのジョディを破り、世界を感動の渦に巻き込み、二階級制覇の偉業を達成した柔だが、あれから松田とはなかなか逢えないでいた。一方の松田はその想いとは裏腹に、もはや彼女は雲の上の存在で自分とは釣り合わないと考えるようになり、タックルを受け負傷した駐在員に代わりアメリカでの武者修行を選択し、柔が松田のアパートを訪ねたときには蛻の殻になっていた。


国民栄誉賞授与式当日、松田がアメリカに行く事実を邦子から聞かされ思わず取り乱してしまう柔。一方、松田は成田に向かう鴨田の車の中でぼんやりと授賞式の中継を聴き、柔を取材対象だけでなく、一人の女性としても追ってきたことを思い出し(松田の回想シーンA~I。柔とタイミングがずれている。その理由がアパートでの柔訪問直前で一人寂しげに乾杯していたシーンなどであり、自分には勿体ない、高嶺の花という感情が出てしまったため)、今から戻れるかと鴨田に伝える。そして授与式寸前に土壇場になって松田が会場に現れ、喜びの余り邦子は松田を前に突き出してしまうと、ちょうど授与寸前の柔と鉢合わせに。しかし、口下手な松田は自分がアメリカに行くとだけ伝えると柔は戸惑ってしまい、場は闖入者で大混乱、そのどさくさに柔は松田の手を引き、二人で首相官邸を出て逃避行する。そして成田空港で、二人は別れを告げ、4年後のアトランタでの活躍の約束を誓い合った。しかし、松田の背中がエスカレーターから消えていった後、柔は最後まで自分の想いを告げられなかったことで感極まって肩を震わせながら泣き出す。だが、そこに再度松田がエスカレーターを逆走し立ち戻り、涙顔の柔の前に「君が好きだ」と告げる。それを聞いた柔はもう遮るものはないと「私もずっと好きだった」と返し、7年に及ぶ二人のすれ違いの恋は遂に結ばれることになる。


それからの後日談、柔は弁当を作って倹約、貯金をしてすぐにでもアメリカに旅立ちたい(松田に逢いに行くため)と願うようになるのだった(また、それまでは芸能界に出ずっぱりで年末までスケジュールを埋めていたはずだったのが、普通の鶴亀トラベル社員に復帰していることからも、もう自分はみんなのスーパースターでなくていいという心の変化も見て取れる)。


その後のエピソード

当然続編希望の声も高かったのだが、浦沢直樹本人が当作、特に松田耕作をあまり気に入っていないのか「続編やるとしたら、まずは松田を殺しますね」と発言しているため、すなわち続編は期待してはいけないということである。作者よ…


また、連載中にアニメの展開に振り回された部分もあり、作者自身、昔は気に入っていない節があった。それで作者自らHappy!というもっと作者がやりたかった展開の作品を発表することになる(こっちは相当えぐい展開やキャラが多く、当作がいかに読みやすい作品かわかるほど)。


逆に言えば、最終回後の展開(二人の電話や手紙のやりとり、アメリカでの再会、結婚、二世誕生など)を自由に膨らませられる上、脇役が非常に立っている作品なので、とにかくSSが多い作品としても知られている(最初から立場上すれ違いを繰り返していただけで、両者ともお互い根は一途だったのもそれをやりやすい理由)。


登場人物

猪熊家

猪熊柔(CV:皆口裕子

猪熊滋悟郎(CV:永井一郎

猪熊玉緒(CV:藤田淑子

猪熊虎滋郎(CV:岡部政明

猪熊カネコ(CV:皆口裕子

日刊エヴリースポーツ

松田耕作(CV:関俊彦

鴨田(CV:茶風林

加賀邦子(CV:あきやまるな

編集長(CV:岸野一彦

本阿弥家関係者

本阿弥さやか(CV:鷹森淑乃

本阿弥錦之助(CV:鈴木泰明

徳永(CV:島田彰

風祭進之介(CV:神谷明

伊東・花園家

伊東富士子 / 花園富士子(CV:川島千代子

花園薫(CV:菅原正志

花園富薫子(CV:こおろぎさとみ

柔道選手

藤堂由貴(CV:峰あつ子

ジョディ・ロックウェル(CV:一城みゆ希

アンナ・テレシコワ(CV:水谷優子

ベルッケンス(CV:佐々木るん

キム・ヨンスク(CV:林玉緒

フルシチョワ(CV:滝沢ロコ

クリスティン・アダムス(CV:さとうあい

マルチネス(CV:水原リン

マルソー(CV:荒木香恵

柔道関係者

祐天寺豪造(CV:仲木隆司

ポルナレフ監督(CV:上田敏也

タマランチ会長(CV:矢田稔

石倉監督(CV:稲葉実

犀藤(CV:西尾徳

山下泰裕(CV:藤本譲

三葉女子短大

南田陽子(CV:鈴木みえ

日陰今日子(CV:冬馬由美

四品川小百合(CV:東美江

小田真理(CV:斉藤庄子

鶴亀トラベル

大田黒社長(CV:亀井三郎

羽衣係長(CV:西川幾雄


主題歌

オープニングテーマ

「ミラクル・ガール」(第1 - 43話)

作詞:亜伊林、作曲:藤井宏一、編曲:根岸貴幸、歌:永井真理子

「雨にキッスの花束を」(第44 - 81話)

作詞:岩里祐穂、作曲:KAN、編曲:佐藤準、歌:今井美樹

「負けるな女の子!」(第82 - 102話)

作詞・作曲・歌:原由子、編曲:小林武史

「YOU AND I」(第103 - 124話)

作詞・作曲:陣内大蔵、編曲:根岸貴幸、歌:永井真理子

エンディングテーマ

「スタンド・バイ・ミー」(第1 - 43話)

作詞:松本隆、作曲:矢萩渉、編曲:萩田光雄、歌:姫乃樹リカ

「笑顔を探して」(第44 - 81話)

作詞・作曲・歌:辛島美登里、編曲:若草恵

「少女時代」(第82 - 102話)

作詞・作曲・歌:原由子、編曲:小林武史・桑田佳祐

「いつもそこに君がいた」(第103 - 124話)

作詞・作曲:LOU、編曲:松浦晃久・LAZY LOU's BOOGIE、歌:LAZY LOU's BOOGIE


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