「日本の国民のみなさんは素敵で優しい人たちだと思う。この国に生まれて良かったなと思います」 ―― 桑田佳祐
概要
経緯
上述した発言は2011年3月19日に放送された桑田佳祐のレギュラーラジオ番組『やさしい夜遊び』(TOKYOFM)でのものである。同年3月11日に東日本大震災が発生し広範囲に被害が及び、しばらくの間は報道特別番組が放送され、翌日に放送予定だった同番組も休止を余儀なくされた。一週間後に放送を再開し、桑田は冒頭から被災地へのお見舞いの言葉を述べ、被災したファンからのメールを読みつつ自身が影響を受けた音楽を流し、生ギターで「希望の轍」を歌ったのち、終盤で自らが生まれ育った日本への愛と支えて貰っているファンへの感謝をしみじみと語りだし、この発言に至り「今この時こそみんなの力を信じる」と表明した。翌日の夕方にはこれらの発言がTechinsightによりネットニュースとして書き起こされた。
補足
かねてから桑田は日本人として生まれ育った事を誇りに思い「みんな日本人である事をもっと懐かしむべきだよ」「日本人の良さや和の要素を自分の音楽に取り入れたい」という考えを語っており、サザンオールスターズやソロの楽曲で四季折々の情景及び古語や歌謡曲・唱歌・沖縄民謡の要素を取り入れたり、1997年の年越しライブで日の丸がデザインされた扇子を頭に乗せて「ジャズマン(JAZZ_MAN)」を演奏したり、1999年と2010年にライブやラジオで国歌「君が代」を歌うなど、日本の文化への敬意を度々表明していた。また、1984年7月27日号の「ぴあ」の表紙として日の丸を持ったサザンのメンバーのイラストが及川正通によって制作された(参照)。
『やさしい夜遊び』でも日本の四季・風習や名所の魅力をリスナーから募集しそれを基に語る企画(※1)を行ったり、生歌のコーナーで前述した国歌、歌謡曲・唱歌・童謡、瀧廉太郎作品などを歌う事がある。
- ※1:「ああ、素晴らしきかな和の世界~日本について語ろう」(2009年4月11日放送分)、「京都について語ろう」(2018年3月3日・10日放送分)、「我がふるさと、茅ヶ崎特集」(2018年3月31日・4月7日放送分)など。
震災以降はこの傾向がより強くなり、チーム・アミューズ!!名義のチャリティシングル「Let's_try_again」のMVや半年後の9月10日・11日にセキスイハイムスーパーアリーナで『宮城ライブ_〜明日へのマーチ!!〜』を開催した際には日の丸をバックに投影して歌唱した。翌年の全国ツアー「I_LOVE_YOU_-nou_&_forever-」でもこの演出は踏襲。ライブ全体も歌舞伎や花魁といった和の要素が取り入れられた。これ以降も宮城ライブへの恩返しや「東北の事を忘れない」「震災を風化させない」という思いから宮城での公演をコンサートツアーの最初(サザンでは2019年、ソロでは2012年、2021年)もしくは最後(2013年のサザンのスタジアムツアー)に組み込むケースがある。また、会場周辺への桜の植樹、地震や豪雨などの多くの自然災害の被災地にCD・DVDやライブ活動の収益金を寄付するなどの復興支援を行っている。
近似する発言として桑田の地元である茅ヶ崎市で2000年に開催された『茅ヶ崎ライブ』で多くのファンや茅ヶ崎市民に支えられて実現した事への感謝として述べた「茅ヶ崎に生まれて良かったです!!」や、2014年秋に紫綬褒章を受章した際に述べた「日本が、そして世界が平和でありますように」が挙げられる。
上述の発言にあるように日本への愛を排斥思想や戦意高揚に持ち込む考え方には批判的である。これは桑田の父親が満州からの引き揚げ者であった影響によるもので「戦争なんて悲惨なことはもう二度とやるもんじゃないというのは、ともかく親父から刷り込まれました」と語っている。
こういった事から現在もサザン及び桑田には右や左などのイデオロギーを問わず多くのファンが存在し(逸話を参照)、桑田本人も彼らに分け隔てなく接し「僕には何か特定の主義もなければ思想もありませんし、右でも左でもリベラリストでもなけりゃ、聖人君子でも何でもない」と語っている。
2015年にはライブ中の失言やハプニングに対する抗議デモがなされたり上述と正反対の解釈のデマが流れた影響で桑田本人が謝罪と釈明に追われ、抗議団体の代表から「今後も監視は続けていく」と厳しい言葉を投げかけられた。一方でサザンは同年の夏に日本武道館でライブを行い、後にその映像を見た前述の団体の代表が怒りの矛を収める旨をTwitterで表明した。これは日本武道館の大道場(アリーナ)の天井に日の丸が掲揚されており、いかなるイベントの場合でも降ろしてはいけないルールに桑田が従った事が理由であった。
なお、桑田が日本の良さについて語る際には、たいていの場合が「自分は日本人として生まれたから」という文脈によるものである。
さらにその中でも「日本のもつものが群を抜いて優れている」という語り方は下記の道後温泉でのエピソード以外ではほとんどしていない。
桑田は少年時代からテレビから流れていた歌謡曲を気に入っていた一方で、AFN(当時はFENと呼ばれていた)やジュークボックスで流れていた洋楽にも傾向していた。バンドを始めオリジナル曲を作るようになる前は洋楽のカバーを行っていた。デビュー後も言語や文化の違いに気づく前は日本語と英語のダブルミーニングを歌詞に取り入れたり、全編英語詞の楽曲やアルバムが制作されたり、アメリカでレコーディングをした経験がある。
1985年に上梓された『ロックの子』(講談社)においては、音楽について日本語の奥深さやダブルミーニングの価値を強調する一方で、「日本語の良さは日本語を話す民族にしか伝わらない」「それでも外国の音楽をすごく愛している」と直後に言及している。
1999年の『素敵な夢を叶えましょう』(角川書店)では、日本人のもつ静寂の文化に着目したのは、イタリアとスペインを旅行してきたことで接したヨーロッパ文化の持つ凄さと比較しての結果であるとしている。
2002年および2015年のインタビューでは「若い頃は洋楽をコピーすればいつかは自分もアメリカ人やイギリス人みたいになれると思っていた」と前置きし、次第に言語や触れている文化の違いから「なれる訳がない」「僕ら日本人はどうやったって彼らのようにはなれない」と気づき現在の方向性になった旨を語っている。また、2010年代以降は意識的に英語詞を減らすようにしていると語っている。
上述した苦悩や紆余曲折がありながらも桑田は『万葉集』に描かれた言葉に感動し「この言葉を我々はなくしていいのだろうか」といった危機感を持った事を語ったり、2012年秋に道後温泉本館にある『坊っちゃんの間』を見学した際に「僕は日本人の言語感覚や思考回路を誇らしげに感じている」といった旨を語っている。
その日本語の美しさを大切にしていきたい思いがゆえに若者が使う略語を理解するのに苦労している旨を度々語ったり、「最近のJ-POPにはどうも『生きた歌詞』が少ない」「日本人として、日本の皆さんに楽しんでもらえる、日本語としてのポップスを作ろうと思った」といった意見や信条を述べる事もある。もっともこういった話をする際には「かく言う私も『ボディ・スペシャルⅡ』で"からまって愛はFeel So Good"とか書いちゃってる張本人なので、まったく偉そうな事は言えない」と自虐的なオチをつけて笑いに変える場合もある。
自身の和洋折衷な音楽性を和食や洋食に例える事もあり、2015年のサザンのアルバム『葡萄』を「欧米のロックを日本向けにアレンジした、昔ながらの洋食屋のようなアルバム」「『和風だし』と『ビフテキ』にこだわった」と説明。また、2021年のソロ名義のミニアルバムのタイトルを『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』と命名している。
彼の発した一言一句を切り取って「都合のいい大義名分」で解釈することは、桑田のみならずあらゆる人の場合においても、ふさわしいこととは言えないだろう。
桑田の著書の題名を敢えてもじらせてもらえば、「たかが歌手じゃねぇか」なのである。
関連イラスト
関連動画
桑田佳祐 – 涙をぶっとばせ!!
2012年に行われた全国ツアー「I LOVE YOU -now & forever-」の映像で構成されており、2:15 - 2:17にはメイン画像の元ネタとなった「月光の聖者達」のアウトロで日の丸をバックモニターに映して歌ったシーンが登場している。
桑田佳祐 – Let's_try_again_〜kuwata_keisuke_ver.〜
先述した「Let's_try_again」のテーマ部分にAメロとBメロを追加したバージョン。このMVもレコーディング風景や桑田の歌唱シーン(虹がかかった青空をバックにしたものと、ビクター401スタジオに組まれた黒バックのシンプルなセットの2パターン)と、震災当時の世の中の実景映像(震災や福島第一原子力発電所事故の余波による不安、震災の影響で積まれた瓦礫などの撤去作業、各地から東北の避難所に届いた救援物資に書かれたエール、自衛隊による災害派遣活動、東北各地の伝統行事や祭事、震災から立ち直ろうとする人々の姿、この曲のリズムに乗って拳を上げたり笑顔を浮かべる人々の姿など)が挿入され、スタッフ及び桑田の日本への愛が伝わる作品となった。
サザンオールスターズ - 東京VICTORY
世の中で起きている現実と向き合いながら東京オリンピック(2020年)に向けて前向きに進もうとする歌詞が綴られている。2番の歌詞中の「金色に光る一番星」は金メダル、「Rising sun」は日章旗(日の丸)であり、最後には世界の平和を願うフレーズが綴られている。このような内容により日経エンタテインメント!では「桑田の日本に対する強い愛情がにじみ出た」と高く評価されている。
MVのフルバージョンはこちらを参照。ライブ映像は2015年のライブツアー『おいしい葡萄の旅』の東京ドーム公演と福岡ドーム公演を組み合わせたものである。
サザンオールスターズ - 蛍
元々は映画『永遠の0』の主題歌として書き下ろしたものだが、身近な愛する人に先立たれた人への思い、サザンのメンバー全員が胸に刻み込んでいる東日本大震災への思い、大切な人との別れ、食道がんとの闘病を経験した桑田自身の思いも詰め込まれており、映画主題歌の枠にとどまらず、普遍的な平和への祈りが込められた楽曲でもある。
MVには蛍や夏を想起させるアニメーションと奇跡の一本松・原爆ドーム・五山送り火などの写真が登場。2013年のスタジアムツアーでは観客に配布されたリストバンドが発光する演出があり、以降のライブでも踏襲された。
関連タグ
JAPANEGGAE ジャズマン(JAZZ_MAN) あなただけを_〜Summer_Heartbreak〜 通りゃんせ ありがとう 神の島遥か国
月光の聖者達 Let's_try_again ピースとハイライト 蛍 東京VICTORY 海のOh,_Yeah!!
藤井フミヤ:尊敬するミュージシャンとして桑田を挙げており、愛国心と世界平和への願いを持ち合わせている事を語っている。
勝谷誠彦:サザンのファンである事を生前に度々公言しており、桑田の思想信条に対して「桑田佳祐は右でも左でもない。アナキストなのだ。ただし、愛国者であるなとは、私はときどき感じるのである」と評価した。