概要
戦闘機同士の空中戦。中でも最も典型的にイメージされる、互いが複雑な機動を駆使して攻撃に有利な位置を奪い合う近接戦闘を指す。格闘戦とも呼ぶ。
互いの相対速度が速すぎる為、正面及び側面への攻撃が非常に困難である事から相手の後方について攻撃するのが基本となっている(同方向に同等の速度で進む形になるので相対速度が最も低くなる)。
攻撃する側は、相手を機銃の照準内に捉えるないし空対空ミサイルでロックオンする為に敵機の後方から接近し、逆に被攻撃側は相手を自機の後方に回り込ませないように回避機動を取りつつ、自分が攻撃側に回れる機会を狙う。
言葉の由来は、上記の機動が犬が喧嘩をする時互いに相手の後ろに回り込もうとする姿に似ている為、とされている。かつてのドッグファイトは前方固定機銃という武器の特性により敵機の後方につくことを目的とされたため、このような名前が付いた。
ドッグファイトに突入した場合、機体性能のうち最高速度やレーダー探知距離といったものはあまり意味を成さなくなり、エンジン出力や旋回性、コクピットの視界、そして何よりもパイロットの力量や僚機とのコンビネーションによる影響が大きく、さらに運の要素すら絡んでくる。パイロットの優れた技術により、一見決定的にすら思われた性能差が覆される様はロマンにあふれており、ドラマチックですらある。
レーダーやミサイルの発達した現代では、遠距離からのミサイル攻撃に比重が置かれ、『エースコンバット』のような華麗で派手な超近接戦は現実にはなかなかおこらない。
とはいえ映画やゲームのようにいつまでも敵機を追いかけまわしてくれるほどの持久力はミサイルにはない。
公表されてる射程はあくまで「そこまでミサイルが飛べる」距離であり、多くの場合敵機が全く回避機動を取らない前提のものである。逃げ回る戦闘機にまともな命中を見込もうとすれば、ステルス機でもない限りは、敵機のレーダーに探知され、敵機のミサイルを回避しながら、ミサイルの持久力で追随できる距離まで接近する必要がある。ドッグファイトに至らなくともミサイル回避には機動性が必要であり、やはり戦闘機の能力に欠かせない要素である。
かつては戦闘機のジェット化、高速化に伴ってミサイル万能論が盛隆し、「音速を超える戦闘機同士でドッグファイトは起こり得ない、だから戦闘機に機関砲や機動性はいらない」という意見さえあったほどだが、ベトナム戦争では想定していたほどミサイルは万能ではなく、しばしば格闘戦が発生してそれが誤りだった事が実証された。ミサイルの撃ち合いであっても機動力は不可欠であり、湾岸戦争においてもドッグファイトは発生している。
そのため現在でも程度の差こそあれ、格闘戦の性能が軽視されることはない。DACT(Dissimilar Air Combat Training、異機種間戦闘訓練)ではドッグファイトが発生するように仕向けられることもあり、実戦では無敗の機体が撃墜判定を受けることもある。
ただし近年のミサイルは、黎明期の50年代~70年代に比べて射程距離やミサイルの機動性、命中率が劇的に向上し、更にはチャフやフレアの欺瞞にすらだまされることがないように設計されている。そのため戦闘機同士の交戦距離は大きく延びており、敵機が豆粒どころか全く見えない、という距離で戦闘が始まることも珍しくない。
また格闘戦を行うにしても後方を含む全方位に撃て、敵機前方からもロック可能になるなどミサイルの性能向上の影響は大きく、以前の戦闘機よりも格闘性能をある程度割り切ったり、かつてはドッグファイトの必須装備とされた機銃・機関砲を固定装備しない機体も少数ながら再び現れ始めている。(※F-35はA型のみ固定機銃を装備している)
ドッグファイトを全く想定しない戦闘機は現在の所ほぼ無いが、空中戦の様相は今後も変わり続けていくと考えられており、ステルス性の追求も相まって以前よりは戦闘機開発における格闘性能の優先度は下がっている。