概要
ゴーラ王妃にしてモンゴール大公。夫はゴーラ王イシュトヴァーン。長男はドリアン。父はモンゴール前大公ヴラド・モンゴール。母はヴラド大公妃アンナ。弟にモンゴール公子ミアイル。
豊かな金髪と美しい緑色の瞳、大柄でグラマラスな美女。男勝りの性格で、10代の頃から父ヴラドの右腕として一軍を率い、公女将軍と称された。物語の開幕当初は、その苛烈で冷徹な性格を評して〈氷の公女〉などとも呼ばれたが、その性格は父ヴラドの期待に応えるために無理をして装っていた部分もあったようで、物語が進むにつれ、恋に情熱を燃やす感情的な性格が表に出てくるようになった。アルド・ナリス、イシュトヴァーンの2人と激しい恋に落ちたものの、どちらも彼女が真実の愛を得るに至るものとはならず、却って彼女を不幸な運命へと導く結果となった。
アムネリスが物語に登場したのは、物語が開幕して直後のことであった。モンゴールによるパロ奇襲に端を発した黒竜戦役と時を同じくして、彼女は辺境ノスフェラスへの侵攻を命ぜられる。それはキタイの魔道師カル=モルがもたらした、恐るべきグル・ヌーの秘密を手中にし、モンゴールによる世界征服の野望の足がかりとするためのものであった。
だが、その侵攻の前に立ちはだかったのが、グイン率いるセム族であった。ノスフェラスの怪物イドを用いた奇策や、イシュトヴァーンを間諜とした奸計、そして幻の民ラゴン族の参戦により、アムネリスは守り役でもあるマルス伯を失うなど予想外の惨敗を喫し、ノスフェラスからの撤退を余儀なくされる。
トーラスへ戻った彼女に、父ヴラドはパロの王族、クリスタル公アルド・ナリスとの結婚を命ずる。それが彼女にパロの王位継承権を与えるための政略結婚であると理解したアムネリスは、モンゴール占領下のパロの首都クリスタルへと向かい、ナリスと対面する。その対面が彼女の運命を大きく変えていくことになる。
ナリスの美貌と洗練された挙措に、アムネリスはたちまち恋に落ちてしまう。ナリスもまた、アムネリスを〈光の公女〉と呼んで愛をささやき、政略結婚であったはずの2人は真実の愛で結ばれたかのように思えた。だが、それはナリスの策略であった。2人の婚礼の日、ナリスは巧みに身代わりをたて、暗殺されたように装って姿を隠す。その真相に気づかず、ナリスが殺されたものと信じたアムネリスは悲嘆にくれ、トーラスへと戻っていく。
だがしばらくして、身を潜めていたナリスが軍を率いて反乱を起こし、クリスタルを奪還したとの報がトーラスに届く。初めてナリスに騙されていたことに気づいたアムネリスは激怒し、自ら軍を率いて再びパロへと向かう。だが、黒太子スカール率いるアルゴス軍、沿海州海軍の参戦、さらには父ヴラドの急死、そしてゴーラの友邦であるはずのクムまでもが敵方として参戦したことで、彼女はなすすべもなく敗れ、モンゴールは滅亡、アムネリスはクムにて幽閉されることになる。
クムの首都ルーアン近くの都市バイアに幽閉されたアムネリスは、ナリスを真似てクム大公タリオを籠絡し、その愛妾となって油断させ、機を窺いつつ日々を送る。その彼女にチャンスをもたらしたのは、当時、盗賊の首領となっていたイシュトヴァーンであった。イシュトヴァーンの助力によってクムを脱出した彼女は、旧モンゴール勢力と合流し、モンゴール奪還の兵を起こす。イシュトヴァーンらの活躍により見事、トーラスを占領していたクム軍に勝利した彼女は、モンゴールの復活を宣言、亡き父を継いでモンゴール大公の地位に就く。
やがて、イシュトヴァーンとの恋に落ちたアムネリスは、戦功を重ねてモンゴールの右府将軍となったイシュトヴァーンと結婚、妊娠し、幸福の絶頂を迎えたかに思えた。が、その幸福感が彼女を盲目にしていたのか、イシュトヴァーンが次第に彼女を疎んじ始めていることに気づくことはなかった。
ユラニアの首都アルセイスを舞台としたクーデターと、それに続く戦役によるユラニア滅亡を経て、ユラニアに留まったイシュトヴァーンが自らゴーラの王位に就くことを宣言すると、彼のもとを訪れていたアムネリスはモンゴール大公としてそれを承認し、自らもゴーラ王妃となる。だが、そのことをモンゴール政府に認めさせるために戻ったトーラスで、思いもよらぬ事態が起こる。かつてのノスフェラス戦役で彼女が率いた軍が敗れたのは、当時傭兵であったイシュトヴァーンの裏切り行為があったからだとして、イシュトヴァーンが告発されたのだ。
半信半疑のまま、イシュトヴァーンをトーラスに迎えたアムネリスは、イシュトヴァーンの何気ない一言から、その告発が真実であることを知る。その後、トーラスの金蠍宮で行われた裁判で、イシュトヴァーンの自白を耳にし、彼女は茫然自失の状態に陥る。その時、イシュトヴァーンが密かに伏せておいたゴーラ軍が金蠍宮を急襲してこれを制圧、モンゴールはあっけなく敗れ、再び滅亡の憂き目を見ることになる。
なすすべもなくイシュトヴァーンに投降したアムネリスは、彼への激しい憎悪を抱いたまま、ゴーラの新首都となったイシュタールの塔に幽閉されることとなる。そして、その獄中で彼女はイシュトヴァーンの息子を産み落とす。夫への憎悪を込めて、その子に悪魔神ドールの子を意味するドリアンの名を与えた彼女は、息子をゴーラ宰相カメロンに託し、隠し持っていたナイフを自らの胸に突き刺して自害を果たした。
死の間際、アムネリスは、自分がイシュトヴァーンを許せずに憎んでいたのは、イシュトヴァーンがモンゴールを再度滅亡させたからではなく、自分の侍女であったフロリーを抱いたからであったことをカメロンに告げた。