VAPE
べいぷ
概要
喫煙に類似した娯楽、及びそれに用いる器具の事。
2018年現在、様々な形状の器具が存在して外観は一定しないが、機構としては植物性グリセリン主体のリキッドを電熱コイルで加熱し、発生した煙を吸引するスタイルでほぼ確定している。
日本国内では「電子たばこ」と呼称されているが、薬事法の都合でニコチン入りのリキッドは販売や譲渡が禁止されているため、大半のユーザーは香料のみ添加されたリキッドを使用しており、そのため「ニコチン・タール0の禁煙補助器具」を謳い文句にしている製品もある。
リキッド
植物性グリセリン(VG)とプロピレングリコール(PG)を混ぜたベースリキッドに様々な香料で香り付けしたもの。
VGは粘性が高くガンク(コイルに付着するカス)が溜まりやすい。またわずかに甘みがある。
PGは粘性が低くガンクが溜まりにくく、甘みが無い。稀に口内や喉が荒れるといったアレルギー反応を呈する人がいる。
リキッドの特徴によってVG/PGの比率は調整されている。
VGとPGはともに食品添加物として認可されている物質であり、いずれも人体への悪影響は極めて少ないとされるが、猫など一部のペットに対してはPGが有害となる点には注意が必要。
VGとPGによる粘性のある液体に香料を加えたものが「リキッド」である。
このリキッドを、コイルを巻いたコットンあるいはシリカウィッグなどに染み込ませ、コイルを加熱して気化させると、粒子が煙状の蒸気が発生する。
この煙の量が通常の紙巻きタバコに比べて非常に多いため、「爆煙」と呼ばれ好まれる傾向にある。煙をアート的に吐き出す「トリック」を行う者もいる。
フレーバーは多種多様で、コーヒーや紅茶、カクテルなどのドリンク系、クッキーやチョコレートなどのスイーツ系、果ては肉野菜炒めやピザといったお食事系、極めつけは「女の子のかおり」なんて物まである。
MODやアトマイザーの本場は中国だが、リキッドについては日本国内を含め世界中で作られている。
地域的な特色として、高温多湿の東南アジアでは強い甘さと爽快感(メンソール)が好まれるため、東南アジアメーカーのリキッドはかなり甘ったるい物が多い。
柑橘系リキッドは、「リモネン」が樹脂攻撃性(プラスチックやゴムを劣化させる性質)があるので注意が必要。
構造
コイルとリキッドタンクが一体化した「アトマイザー(気化器)」と、制御用マイクロチップを搭載したバッテリー部「MOD(Modify)」に分かれているものが、2018年現在は一般的である。
アトマイザーとMODの接続は数種類の規格があり、メーカーやモデルによっては互換性がある。
この規格によってアトマイザーの大きさとMODを合わせた全体の形状におおよその分類がされており、太さが1センチほどのスティック型、太さ2センチ前後のペン型・チューブ型、MODが箱型のバッテリーケースになっているBOX型、その他規格外の極小タイプなども発売されている。
互換規格では初期に登場した細いペンタイプの物に採用されているeGo規格、現在主流の510規格の二つが一般的。
タバコメーカーが販売しているものだとタンクとコイルを一体化して使い捨てにしたPOD型が多く、それらの場合は独自規格である。
ドリップチップ(吸い口)にも510規格、それより大きな810規格、メーカーごとの独自規格、使い捨てタイプに良くある一体型がある。
アトマイザー
リキッドを気化させるアトマイザーは「クリアロマイザー」「RTA(Rebuildable Tank Atomizer)」「RDA(Rebuildable Dripper Atomizer)」の三種類に大別できる。
クリアロマイザー
コットンとコイルが一体化したカートリッジを交換するタイプのアトマイザー。
手軽ではあるが、2~3週間で交換が必要なコイルは5個パックで1500円前後とそこそこランニングコストがかかる。
味はピンキリではあるが、高級機でもRDAやRTAには劣るというのが一般的な評価。
RDA
コイルを自分で巻き、そこにコットンを詰めてコイル部を自作するタイプのアトマイザーで、リキッドを保持するタンクが無いもの。
コイルを自作するため慣れは必要だが、コイルのランニングコストが極めて安く、好みに合わせて抵抗値を変える事が出来る。
コイルが一つだけのタイプが多いが、コイルを2個、3個と複数設置するタイプも多い。ただし複数コイルを使用するものはMODへの負荷も相応に高いので、充分な知識を持つ上級者がそれに適応するMODと組み合わせて使用するのが望ましい。
一般的には最もシンプルで最も味が良いとされるが、2~3パフごとにリキッドを補充する必要があるので手間はかかる。
ただし、電極と接続するポジティブピンがパイプ状になっているものを使い、本体にリキッドのボトルを合体させた「スコンカー」というタイプのMODを使えばリキッドチャージの手間は解消される。
電熱線ではなく、金属メッシュを使用するタイプも登場している。
RTA
RDAにリキッドを保持するタンクを付けたタイプのアトマイザー。タンクはコイルデッキを取り囲むように設置される。
RDTA
RTAと似ているが、タンクの上にコイルデッキが設置されているアトマイザー。
POD
mybluなどのリキッドタンクとコイルが一体化していて、吸い切ったら終わりの使い捨てタイプ。
手軽さが一番の売りで紙巻きタバコの喫煙者に対して訴求しているが、使い捨てゆえにランニングコストが高い。
またVAPERからすると味の点で大きく劣る。
普及
日本でVAPEが注目され始めたのは煙草への規制が強まった2015年頃からであり、商品として実用化に成功した中国をはじめ諸外国よりも一足出遅れており、2018年現在での認知度は決して高くはない。
ただしタバコメーカーが世界的な規制強化に対応するためにVAPEに進出(インペリアル・タバコのmybluなど)しており、徐々に認知度は上がっている。
ただし、報道で用いられる「電子タバコ」という語が「ニコチンなしのVAPE」、「ニコチンありのVAPE」、「IQOSなどの加熱式タバコ」、「リキッドを添加して煙を増やした加熱式タバコ」のどれを指すのか不明瞭という状況でもある。
なお日本よりも普及が早かった韓国ではRBA(RDAやRTAの総称)の流行は既に通り過ぎており、手軽さ重視のPODタイプが最も普及しているとの事。
ただし細かい手仕事が好きで味を重視する日本のVAPERが安易に味に劣るPODタイプに移行するか、という点は疑問である。
規制
煙草に類するものであり、その規制は世界各国で異なる。
日本の場合はニコチンが薬事法で規制されているため、原則的にはニコチンゼロ、タールゼロのリキッドしか販売されていない。
そのニコチン規制のお蔭で、諸外国であるようなタバコとしての規制を受けず、煙草税の賦課もされていない。
法律を字義通りに捉えれば煙草ではないので未成年でも使用できるが、販売店やメーカーは「煙草に類似するもの」として未成年には販売しないという自主規制を実施している。
また煙草ではないにしろ「煙草に類似するもの」なので、喫煙場所については煙草規制に準じるのが望ましい。
アメリカではニコチンリキッドが一般に流通しており、しかも未成年でも普通に購入できてしまうため、未成年の喫煙率増大を招いてしまった。
それによって規制強化論が極めて大きくなってしまい、ついにはサンフランシスコ市ではVAPEそのものの販売やネット通販の到着地に指定することが禁止される法律が可決されるまでになってしまった。
サンフランシスコ市はアメリカのVAPE市場で圧倒的なシェアを誇るJUUL Labs社の所在地であるにもかかわらず。
EUではEU全体の規則として「ニコチンリキッドのボトル容量は10mlまで」「ニコチンリキッドの濃度は2%まで」「アトマイザーのタンク容量は2mlまで」という規制が課せられている。
そのため、ヨーロッパでも販売しているタンクアトマイザーはチューブ部分が短く、日本国内で販売する際に大容量の長いチューブを付属させている場合がある。
タイではVAPEやIQOSなどの加熱式タバコは国外からの持ち込み及び単純所持が禁止されている。2019年以降に「新品価格の4割程度の関税を支払う事で持ち込みを許可」する規制緩和案が協議されているが、それが実現するかは不透明な状況。
というように規制は各地で異なるので、VAPEを持って海外旅行をする時は事前に下調べをしないと痛い目を見る事になる。
事故と事件
製品の性質上、大容量の充電式バッテリーを搭載しているため、使い方を誤ればショートによる破裂事故などが起こる危険性が皆無ではない。
現に海外では数件の事故が発生しており、2018年には米フロリダ州で死者が出てしまった。
が、だからと言って即座に「VAPEは危険」と判断するのは早計である。
これらの事故の多くは「メカニカルMOD」と呼ばれる、制御用電子チップを搭載していない、「単なる金属製の電池ボックス」とでも言うべきバッテリーを誤使用した事が原因とみなされている。
これらは電池と加熱装置がほぼ直付けになってしまうため、電池の出力をほぼ100%で使って爆煙できる反面、コイルの抵抗値が極端に小さいとショート状態になってしまう。
言ってしまえば電池の+と-を電線で繋いでしまっているも同然となってしまうため、当然バッテリーに大きな負荷がかかり破損の危険性が爆上がりしてしまう。
これらメカニカルMODは最低限の電気知識と専用器具が必須の上級者限定のアイテムであり、かっこつけで使う事は絶対に避けるべきである。
構造が単純なため、個人制作の美しいデザインのものが売られているケースもあるので、購入の際は注意が必要である。
メカニカルMODに対し、マイクロチップを搭載した一般的バッテリーは「テクニカルMOD」と呼ばれる。ことVAPEに関しては「中国製の安価なコピー(クローン)製品」であっても「電子チップの搭載されたテクニカルMOD」である限り、「日本製の高品質メカニカルMOD」よりもはるかに安全だと言える。
事件としては、リキッドに違法薬物を混ぜ込むケースが日本国内でも数件発生している。
前述の通り、元々漢方薬吸引用として製品化されたVAPEは、そのリキッドベースであるPG・VGが「香料や薬効成分を溶かし込みやすい」という性質があるため、その気になれば素人でも違法リキッドを作る事が出来、また外観からも判別が不可能である等、頭の痛い問題である。
Pixivでの使用例
煙をデザインとして配置するのに適している。
また、パイプやキセルほどボリュームがあるためガジェットとしても見栄えが良い。
ニコチンが含まれなず、厳密に煙草ではないため若年齢に見えるキャラクターに喫煙的な表現をさせる事も出来るが、現実にはVAPEユーザーおよび販売者は自主規制として未成年の利用は自粛するよう呼びかけている(VAPEから入って喫煙者に移行してしまう可能性があるため)。
世界的に見ても目新しいアイテムであり、認知度や市民権を十分に得ているとは言い難いため、若干扱いにくい題材ではあるだろう(2018年現在)。