笠松競馬
かさまつけいば
概要
岐阜県地方競馬組合が笠松競馬場で施行する地方競馬のこと。名古屋競馬と共に東海地区競馬を形成している。オグリキャップを輩出したことで有名。
主催の岐阜県地方競馬組合は、笠松競馬場で地方競馬を主催する一部事務組合である。岐阜県、笠松町、岐南町で構成されている。
1934年(昭和9年)4月設立。1996年(平成8年)4月に笠松競馬管理組合を統合している。
不祥事・事故・事件
多くの不祥事・事故・事件が発生するという悪い面でも有名である。
競馬法及び覚醒剤取締法違反事件
1975年(昭和50年)、競馬法及び覚醒剤取締法違反で複数の騎手や厩務員が逮捕され免許を剥奪された。また、それに伴い開催も2週間自粛された。なお、それにより88安藤勝己]]を始めとした新人騎手の騎乗機会が増えたとされる。
東海ゴールドカップ周回誤認事件
1981年(昭和56年)12月30日に行われた東海ゴールドカップ(2,500m)で、ダイサンフジタカ騎乗の井手上慎一が距離を1,400mと錯誤し、2周目直線で手綱を緩めてスピードダウンしたため5着に敗れ、上位人気馬であったことから場内のファンが「八百長だ」と騒いで返金を要求。一部のファンは管理事務所を取り囲み、さらに興奮したファンが予想紙を販売する小屋への放火や窓ガラスを割るなど暴徒化、岐阜県警機動隊や羽島署員が出動する事態となり、警察官に暴行を働いたファン1名が公務執行妨害容疑で逮捕される始末となった。なお、公正委員は井手上の距離錯誤によるミスを認めたものの、地方競馬実施規則に基づき、審議対象にならずレースは成立という結論を下した。また、井手上は笠松競馬での騎乗を無期限で停止(後に解除)され、所属していた名古屋競馬でも10日間の騎乗停止となった。
ハロー車侵入事件
2011年(平成23年)1月7日第3レース(若竹特別A2 ダート1,800m 5頭立て)にてハロー車(馬場を均すための専用車)がレース中に侵入し、レースを妨害したとしてレースが不成立となる事故が発生した。向正面からスタートし、コースを1周半する1,800mの距離で行われたレースだったが、馬場整備の受託業者が800m(スタート地点は1800mと同じ向正面)で行われるレースと勘違いし、レース中にもかかわらずコースにハロー車を入れ整備を始めた。最後の直線に差し掛かったところで、レース中の5頭は2台のハロー車の間を縫うようにしてゴールインしたが、レース全般に重大な影響を与えたものと見なされ、レースは不成立となり、当レースに関する勝馬投票券は全て返還(無条件払い戻し)となった。払戻総額は786万2,000円。当然ながら不成立とならなければ的中していた勝馬投票券を持っていた者も数多くおり、抗議も相次ぐ事態となった。なお、笠松競馬では午前中に1,800mのレースが行われることは少なく(1,800mのレース自体も開催期間中に僅かしか行われない)、それも業者の勘違いに繋がったと言われる。1着で入線した尾島徹騎手は、「直前で気付き何とか避けたが、とにかく驚いた。頭数が少なく、ばらけた展開のレースだったから、ケガなく済んだが本当に危なかった」と振り返り、「こんなずさんなことでは、ファンの信用を失ってしまう」と語った。
競走馬の脱走・逃走
先述の通り、厩舎と競馬場の間を馬運車ではなく徒歩で移動するため、1991年(平成3年)以降、競走馬が脱走・逃走するなどの事故が15件以上、うち競走馬と乗用車が衝突してしまう事故が7件以上起こっている。
2013年(平成25年)2月20日1時45分頃、スイート(牝6歳)が装鞍所で調教されていた際に他の競走馬が暴れる姿に興奮、逃走し走行中の軽乗用車と正面衝突した。運転手の男性にケガはなかったが、スイートは左前脚の付け根を負傷し予後不良となった。同年3月10日にも乗用車との衝突事故が起こっている。4月26日、第5レースに出走予定だったミッキーオスカー(牡4歳)が脱走し、約10km走り抜け各務原市内の公園で保護された。第5レースは2番人気であったミッキーオスカーを除外した8頭で行われた。10月28日3時5分頃、コスモビジョン(牝2歳)が場内コースで調教されていた際に突然暴れだし逃走、約300m東の堤防道路で走行中の軽乗用車に正面衝突した。運転手の男性とコスモビジョンが死亡したほか、軽乗用車が対向の乗用車にも衝突して運転手の男性がケガをした。当時、装鞍所出入口の男性パート警備員が業務日誌の手直しのため持ち場を離れており、鉄柵は開放状態で、置き柵などの放馬対策も機能しなかったという。その年4回目の脱走であり、開催を自粛し名古屋競馬は開催日程を変更することになった。その後、11月18日から4週間ぶりに開催されたのに伴い、警備員の増員や非常サイレン増設に当面は月に一度、競走馬の逃走を想定した訓練を実施するなど再発防止策が行われた。翌2014年(平成26年)10月7日に男性パート警備員が業務上過失致死傷容疑で岐阜地検に書類送検された。警備会社や、笠松競馬場を管理する県地方競馬組合については、サイレンの設置や監視態勢の強化などの事故防止策を講じていたことから、立件は見送られた。
2019年(令和元年)6月12日9時45分頃、厩舎に帰厩途中の4歳牡の競走馬1頭が車のエンジン音に驚いて暴れ、厩務員の手綱を切って逃走した。車両通行のため開いていたゲートから公道に出たものの、約5分後に住宅地で確保され、人馬にケガはなかった。前述の2013年(平成25年)の事故も含め、度重なる放馬事故を受けて、岐阜県地方競馬組合は同月17日に厩舎入口に従来の遮断機に加え、横に開閉する伸縮型のアルミ製フェンスと鉄製バリケードを設置し、組合職員や警備員らによる対応訓練が行われた。なお、県競馬組合は「事故の再発防止対策を徹底するため」として予定していた同月18日から21日の競馬開催を自粛した。
騎手・調教師の不適切事案続出と開催自粛
2020年(令和2年)6月、関係者が勝馬投票券を購入した競馬法違反容疑で、所属の調教師1名、騎手3名が岐阜県警より任意による事情聴取と自宅や厩舎など家宅捜索を受けたことが公表された。岐阜県地方競馬組合(以下「組合」)は「警察の捜査に全面的に協力し、必要に応じて関係者に厳正な処分をする」とコメントしていた。その後、同年7月末の騎手(調教師)免許更新時に、尾島徹、佐藤友則、島崎和也、山下雅之の4名が免許を更新せず引退。共同通信や産経新聞などは「免許を交付されず引退した人物」が「馬券購入に関わった容疑で捜査中の調教師と騎手の4人」であるという趣旨の報道をしている。厳正な処分をするとしていた組合であったが、この「引退」に際して対外的な発表は行わず、またこの4人以外への調査が不十分であり、後の第三者委員会の設置へと繋がる事となる。
2021年(令和3年)1月19日には再び、所属する騎手、調教師などが競馬法で禁止される勝馬投票券を購入し、名古屋国税局から申告漏れを指摘されたという朝日新聞の報道を受け、「事実確認を行うため自粛する」として、予定していた19日から22日までの競馬開催を中止した。岐阜県知事の古田肇は同月19日の記者会見で第三者委員会を設けて事態の解明を行うとともに再発防止策の策定や、関係者の法令順守意識の徹底などに当たることを表明し、そのうえで2月の開催も休止し「遅くても3月には笠松競馬を再開したい」との見通しを述べたものの、真相の解明にはさらなる時間を要することから3月から5月までの開催も休止されることになった。
2021年(令和3年)4月1日には2020年(令和2年)及び2021年(令和3年)の不祥事を調査した第三者委員会による報告書が公開された。この中では2012年(平成24年)から2020年(令和2年)までの8年間に渡り最大8名の騎手グループが競馬法に反し馬券を購入し、確認できただけで約1億4000万円の利益を得てその所得を隠していたと報告された他、馬券購入の所得とは別に経費の水増し等によって脱税を行っていた者が10名、馬券を購入していた騎手グループに対し自身が担当する馬の当日のコンディションといった情報を伝え、見返りに報酬を受け取っていた関係者が数名、別件ではあるものの女性厩務員らへのセクシャルハラスメントを行っていた調教師1名が報告された(いずれも重複あり)。一方で疑惑のあった八百長については複数の騎手からの証言があったものの、あくまで騎乗に対する騎手の主観以上の証拠は無いため事実としては認定はされなかった。このうち2020年7月末に既に「引退」した4名は第三者委員会の連絡に応答がなかったため調査はされていない。この4名は2021年3月11日に競馬法違反で書類送検、3月30日に略式起訴、2021年4月12日に岐阜簡易裁判所により元調教師に罰金30万円、元騎手3人に罰金40万円の略式命令が出されている。
2021年(令和3年)4月21日、岐阜県地方競馬組合は再発防止策と以下の通り関係者の処分を発表し、前年に引退した尾島、佐藤、島崎、山下の元騎手・調教師4名を「中心的な役割を果たした」として事実上の競馬界からの永久追放となる「競馬関与禁止」処分とし、複数の現役騎手・調教師も一定期間の競馬関与停止とする処分を下した。また、組合の関係者では組合トップの管理者を務める古田聖人笠松町長を減給10分の1、3か月とするなど21人を減給や戒告などの処分とし、岐阜県知事の古田についても減給10分の1、3か月相当とした。さらに笠松町長が務めてきた競馬組合管理者を県の副知事が務めることになり、笠松町長は副管理者とした。競馬関与停止処分となった8名の騎手・調教師は4月21日付で地方競馬全国協会がそれぞれの免許を取り消し、さらに金銭を受け取った関係者のうち時効が成立していない騎手2人は刑事告発を受けた。なお、このうち2名は現金は受け取ったが賄賂だという認識は無かったと主張し、処分の取り消しを求めて岐阜県地方競馬組合および地方競馬全国協会を相手に岐阜地方裁判所に5月31日付で提訴している。加えて同年8月1日の免許更新時には度重なるセクハラ行為で重い処分を受けていた井上孝彦の調教師免許が更新されず、前日付で事実上の引退となった。組合は「地方競馬全国協会が決めたことなので仕方がない」とコメントするに留めた。
このほか、不正行為に関与しなかった所属騎手10人のうち、2020年(令和2年)10月にデビューしたばかりの長江慶悟を除く9人は「競馬の公正を害する行為等を知ったにもかかわらず報告を怠った」ことが管理者指示事項に違反したとして戒告処分を受けた。
2021年(令和3年)4月27日、地方競馬全国協会は再発防止策を発表。調整ルームや騎手控室における通信機器の所持と使用厳禁を改めて徹底し、金属探知機を用いて所持物や身体検査を実施、通信機能抑止装置や電磁波遮蔽フィルムの設置も定められた。笠松競馬の再開時期については農林水産省、総務省と協議して決定するとして明言を避けた。
さらに一連の処分発表後の同年5月12日、所属の現役騎手1名が同年3月に笠松以外の競馬場で予想行為をしている元騎手がSNS上で実施した懸賞に応募し、現金10万円を受領していたことが判明した。組合はこの騎手について第一報での実名公表を行わなかったが、先の処分で戒告を受けている水野翔が同年3月18日に瀧川寿希也(川崎競馬元騎手)より10万円の振り込みを受けたことが明らかになっている。組合の調査に対し、当該騎手は「レースが中止されていたので生活費の足しにした」と話しており、この行為は組合の管理者指示事項に違反する「公正を害する恐れがある行為」として、5月25日、岐阜県地方競馬組合は水野と笹野博司調教師を処分した。
水野は先述の井上調教師の免許失効後まもなく、騎手を引退した。この事案については組合や報道機関からのリリースが一切なく、地方競馬全国協会のデータベースで騎手免許が失効した状態になっていることでのみ確認が取れる。これにより、2021年(令和3年)8月時点で笠松競馬場に所属する騎手は9人となった。
岐阜県知事の古田は5月18日に「手続きや準備が順調に進んだ場合、再開は7月に入ってからとなる」と、開催再開時期の見通しを示したが、実際には岐南町・笠松町の公営競技施行団体の指定が8月4日までずれ込み、同競馬場におけるレース再開は同年9月8日〜10日より2021年(令和3年)度第1回開催を施行することを決定。その後、8月に数回にわたる「開催演習」を経て、同年9月8日より約8か月ぶりに競馬開催(新型コロナウイルス緊急事態宣言発令中のため無観客開催)を再開した。なお、再開に際してファンファーレ、馬場入場曲、締め切りチャイム、ゴール板の塗装などが刷新されている。
マスコット
昭和より「マックルくん」という騎手の姿をしたマスコットがおり、一時期、2500mスタート地点(第3コーナー付近ポケット)に「ジョッキーマックル君の快走にご期待を!!」なる横断幕が掲げられていた。しかし、着ぐるみのゆるキャラではないため全国的に知名度が低く、競馬情報番組『競馬展望プラス』2018年(平成30年)4月20日放送回では、全国の地方競馬のマスコットが紹介される中、笠松のみマスコット不在と紹介されている。ほか、厩務員会による非公式キャラクターとして、「マックルV(ファイブ)」というローカルヒーローがいる。