概要
昭和13年(1938年)を舞台に、両親を亡くして孤児となり、奇形の見世物たちがうごめく見世物小屋で働かされるはめになった薄幸の少女みどりの辿る数奇な運命を描いた、丸尾末広作のエログロ漫画である。「地下幻燈劇画 少女椿」という題名でアニメ映画化される。また、これまで実写化は不可能であると散々言われてきたが、2017年(平成29年)には倫理上の問題からか、舞台を「見世物小屋」から「サーカス小屋」へと変えて実写化された。
「私はどのように生きたらよいでせう」
登場人物
おかっぱ頭が特徴の女の子。年齢は10代前半。
父親が蒸発してしまい、花売りをしながら病床に伏す母親と共に暮らしていたが、母親が亡くなり(しかも、下半身からネズミに食い破られていくという凄惨な有様であった)、孤児となる。客として知り合っていた嵐鯉治郎を訪ねた事がきっかけで、見世物小屋の芸人にされてしまう。ワンダー正光が一座に来てからは人生がマシな方に傾き出す一方で他の芸人を化け物呼ばわりするなど、性格が徐々にきつくなっていく。
小人症の中年男性。鯉治郎が東京から呼び寄せた芸人であり、西洋手品の使い手。みどりを気に入り寵愛するが、彼女に対する独占欲も露わにしていく。今で言うこれ。小人症であることを客に指摘されブチギレ、観客全員の体を幻術で捻じ曲げたり潰してミンチにしたりした(その後警察が騒ぎを聞きつけ捜査に来たものの、一応幻術で皆元通りにして、つい先程客をミンチにしたことをなかったことにして騒ぎを収めたようではある)。座長が金を持ち逃げして行方をくらました際には、みどりとともに座を離れ旅をする。道中で弁当を買いに行き、バス停で待たせておいたみどりの元に戻る途中強盗に刺されて命を落とす。
見世物小屋「赤猫座」の芸人。両腕を失い、火傷した顔を包帯で覆った男性。原作のみで明かされているが、32歳である。怪我の理由は不明だが、代わりに足を手のように使うことが出来る。欠損・包帯・学ランなど数々の属性を持ち、作品の中でも高い人気を誇るキャラクター。みどりに対して恋愛感情を抱いているようだが、その一方でみどりを暴力的に強姦するなど彼女への感情はツンデレを通り越してとんでもねぇことになっている。みどりにいじめたことを謝る際に「さっきはごめんな、もういぢめねえからよ。本当は俺はお前のことが好きなんだ」と告白するところをワンダー正光に見られてしまい嫉妬され、口に泥を詰められ殺される。
軽業や火吹き芸を行う芸人。黒髪のポニーテールが特徴。見た目は美少女だが、一人称は「俺」で生意気な性格のふたなり。朝の起き抜けに立ちションしながら自分の股間のナニを見せつけみどりをドン引きさせた。また、みどりが神社でこっそり飼っていた子犬を見つけ出し、地面に叩きつけるなどして殺した挙げ句、解体して鍋にし、一座の皆に夕食として出した。自分の食べている肉が、可愛がっていた犬であることを察したみどりはショックのあまり号泣している。
赤猫座の座長である鯉治郎に可愛がられている。鯉治郎が金を持ち逃げして自分を捨てて逃げた際には悔し泣きしながら髪を短く切り、みどりたちが出発する際「おーいみどり、さようならー!」と泣きながら笑顔で見送った。
蛇を生きたまま丸呑みする芸を行う芸人。妖艷な美貌とグラマラスな肉体を駆使し、人間ポンプ赤座ら男の芸人のほぼ全員と肉体関係を持つ。みどりのことは最初は邪険に扱うが多少なりとも憎からず思っていたようで、みどりがワンダー正光と座を離れるときにはみどりの服装を「とってもかわいいよ」と褒め優しく門出を祝い見送った。
剣を丸呑みする芸を持つ隻眼の大男。紅悦と肉体関係を持ち紅悦いわく「体の割にせがれはちっこい」らしい。最初はみどりに紅悦とともに性行為をするようせびるが紅悦に止められる。以前から他の一座からスカウトされていたようで、親方が赤猫座から金を持ち逃げしたときにはこれ幸いとばかりに他の一座に移る準備をしていた。最初はみどりを邪険に扱っていたものの、みどりがワンダー正光と座を出る際には「達者でな、頑張れよ!」と優しく門出を祝い見送った。
赤猫座の座長。人気のない駅の外で花を売っていたみどりに「困ったときは私を訪ねておいで」と優しい声をかけた山高帽のおじさんの正体。カナブンと肉体関係を持っていた。本性はケチで小心者の人間であったが、芸人たちに比べてみどりへの扱いは穏やかで、みどりが風邪をひいて熱を出したときは何もせず寝ておくよう優しく声をかけるなど一座の人間の中では常識人。最終的には一座のお金を持ち逃げして行方をくらました。肉体関係のあったカナブンすら捨てて逃げた。
衝撃のラスト
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原作版
座長が金を持ち逃げして行方をくらまし、みどりは一座をワンダー正光とともに離れることになった。赤猫座の団員に優しく見送られ、二人は旅へと出た。
正光は道中で弁当を買いに行きみどりをバス停で待たせるが、強盗に刺殺されてしまう。
みどりは戻ってこない正光を探しに行くも見つからず同じ道をぐるぐる回る羽目になる。
そんな中、死んだはずの鞭棄や正光を含めた赤猫座の芸人が神社の並木道で賑やかに宴会を行っているのを見たみどりは正光を含めた赤猫座の団員に裏切られたと思い込み、精神が崩壊してしまい「死んでしまえー!!」と叫びながら拾い上げた棒切れを振り回す。やがて赤猫座の一同がみどりを取り囲む。正光の使っていた瓶抜け術用の巨大なガラス瓶の中にはみどりの両親がおり、娘をあざ笑うかのような表情で性行為をしていた。
それらの光景はすぐに消えてしまい、ワンダー正光が殺されたことなど当然知らないみどりは、幻から覚めると、自分が本当に一人になってしまったという現実に打ちのめされ、声をあげて泣くばかりであった……
実写映画版
原作版とは微妙に世界観の異なる実写映画版では、ラストも大きく異なっている。
みどりはワンダー正光と共に旅に出た後、ワンダー正光の魔法に頼りながら女優としての花道を歩んでいくが、やがてワンダー正光はみどりのために魔法を使い過ぎた事によるものなのか衰弱死してしまう。直後に死んだはずの鞭棄や正光を含めた赤猫サーカスの団員が自分の事を嘲笑う幻覚に拾い上げた棒を振り回す。
それらの光景はすぐに消えてしまうが、同時にこれまで手に入れてきたものも全てを失い、声をあげて泣くばかりであった……
原作版では、ただただ徹頭徹尾悲劇的な目に遭ってきたみどりであったが、実写映画版の結末は、衰弱死寸前のワンダー正光の想いを弄び踏み躙るような倫理観に欠ける言動が見られた事もあり、見方によっては自業自得と捉えられなくもない。
所収
単行本 青林工藝舎より
2003年初版発行 ISBN 4883791416