概要
グロック17(GLOCK17)とはオーストリアの銃器メーカーであるグロック社が開発した自動拳銃である。
開発は1980年からわずか2年で最初のプロトタイプが提出され、1983年のトライアルで「Pi80」の名前でオーストリア国防軍の制式拳銃として採用された。
トライアルに参加した他の銃はスタイアー社のPi18、H&K社のP7、SIG社のP220/226、ベレッタ社のM92FSB-F等が名を連ねていたが、無名のグロック社の製品には誰も目を向けていなかった中での快挙だった。
Pi80の民間用モデルとして1982年に西欧市場で、1985年に銃器輸入商社を介してアメリカ市場で販売されたものがグロック17である。
17とは、当時としては多かった17(+1)発の装弾数をアピールしたものだと言う説や、製作するにあたって獲得した17件の特許の数であるという説、などさまざまだが本当の理由は分かってない。
信頼性の向上と共に部品点数は多く複雑化していたオートマチックピストルではあるが、このグロック17では非常に部品点数が少ない構造となっている。
バリエーションとしてバレルにコンペンセイターの穴が開けられたグロック17C、17Cにエクステンドスライドストップ等を追加した競技向けモデルのグロック17CC、競技向けのロングバレル・ロングスライドのグロック17L等がある。
17LはIDPA競技会のルール改正により使用できなくなったため、新しいレギュレーションにあわせて銃身長を短くしたグロック34が発売された事で製造は終了している。
銃身にポリゴナルライフリング(多角形施条)を使用しているため、ライフリングが食い込む弾頭部側面にギルティングメタルが施されていないソフトポイント弾が使えず、弾を選ぶ。
グロック17にはいくつかのフレームバリエーションがある。
- 1stGen
グリップが全面栗地。
- 2ndGen
グリップの前面がチェッカーとなった。
- 3rdGen
現行のフレームでアンダーマウントレールやフィンガーグルーブ、フィンガーレストが追加された。
初期の9mm用フレームはGen2と同様の2pinフレームだったが、後に他の口径用のフレーム同様にロッキングブロックピンが追加された3pinフレームに変更されている。
また、エキストラクターに突起が追加され、ローディングインジケータとして視認しやすく変更もされている。
- 3rdGen RTF
ラフテクスチャーフレーム(Rough Texture Frame)。
フレームの滑り止めの模様の変更、スライドのセレーションをうろこ状にするなど、外見を変更したGen3。
現在はカタログ落ちしている。
- 4thGen
現行のフレームで強装弾に対応するために補強に加えてリコイルスプリングが二重になる等様々な変更が施されている。
外見上の大きな違いは滑り止めの模様の変更、グリップ後部のバックストラップが交換可能となっている等、複数ある。
既存のフレームでは推奨できない強装弾に対応したためか、弾薬の相性によっては動作不良を起こしやすくなってしまっている。
多くの箇所を変更したため、Gen3までと部品の互換性がなくなっている。
余談
元々グロック社は樹脂成形と金属プレス成形の会社であり、ドアノブやヒンジといった産業用部品の下請けや医療技術部品などを製造し、装備関係ではナイフや折りたたみスコップ、手榴弾の樹脂製外皮などを製造しているだけと銃器メーカーではないため、その機構や設計思想はそれまでの軍用拳銃のスタイルにとらわれないものであった。
もともと軍用品を作っていたために兵士から直接意見を聞けるだけでなく、設計を行なったガストン・グロック氏自身が拳銃射撃を好んでいたことから、拳銃に必要なもの、必要でないものが分かっていたのも大きいだろう。
発表当時は特殊な機構や材質、デザインから敬遠されたが、現在ではその性能が認められ、軍・警察用として本国のオーストリア以外にも、フィンランド、スウェーデン、インドやアメリカのFBIなどの法執行機関に採用されている。
樹脂性フレームは寒冷地や熱暑地等の金属を素手で触れなくなる事がある地域、海岸近くで錆を気にする必要のある地域では特に評価されている。
金属製のスライドは特殊な熱処理とTenifer Finishと呼ばれる表面処理により防錆能力は高くなっており、海中に長期間放置した場合でも作動した例もある。
Tenifer Finishはステンレス以上の防錆能力を発揮するため、他社の銃ではバリエーションとして存在しているステンレススライドモデルは存在していない。
NATO規格弾となった9x19mmを使用する拳銃の必要性から行なわれたアメリカ軍のXM9パーソナルディフェンスピストルトライアルではM1911に換わる拳銃としてベレッタM92FSがM9として採用されたが、グロック社は準備不足として参加を辞退している。
ソリッドフレーム(金属製フレーム)ではないグロックはポリマーフレームへの懐疑から、初期型グロックはガンケースがタッパー状だった事もあってタッパーガンなどと皮肉った名で呼ばれることもあった。
特殊な安全装置(セーフティ)
このグロックはマニュアルセーフティ類を搭載せず、トリガーにのみ射手が直接操作可能な安全装置が有るセーフティを採用しているが、既存の安全装置に慣れたユーザーが使用した際にホルスターから出すときなどに誤発射が多い銃としても有名であった。(撃つ時以外でもトリガーに指を掛けているという事で安全意識のかけらも無かったということも示しているが)
また、長年ダブルアクションリボルバーを使用していた警官はトリガーストロークやトリガープルの違いから暴発させやすく、対策としてオプションでトリガープルを重く(5ポンドから8ポンドに変更)するためのコネクターランプ(ポリスコネクター)を用意し、さらにリボルバーに似たトリガープルの感触を持ちトリガープルをさらに2ポンドほど重くしたトリガースプリング(ニューヨークトリガースプリング)をオプションで用意した。
これらによってトリガーセーフティはより安全性の高い方式として生まれ変わった。
外見からは一つしかないと思われる安全装置だが、トリガー・セーフティ、ファイアリングピンブロック・セーフティ、ドロップ・セーフティと三つの安全装置が搭載されている。
それぞれのセーフティは連動しており(セーフアクション)、セーフティを外す操作を必要とせず、対象に銃口を向けてトリガーを引けば良いだけとなっている。
また既存のダブルアクション(前進状態)、もしくはシングルアクション(後退状態)と違い、コッキングされた状態ではストライカー(グロックはハンマーは無く、直接ファイアリングピンを動かすストライカー方式となっている)を6割程度後退させておく変則ダブルアクションを採用している。
この構造により万が一ファイアリングピンセーフティが働かずにストライカーが前進した場合でも誤発射の可能性を減らすだけでなく、ダブルアクションのようにトリガーが重くならないことを両立している。
射撃直後にはストライカーは完全に後退した状態であり、トリガーを一定以上戻すことで6割前進した状態へと戻るが、少しだけ戻した状態で再度トリガーを引く事で一度目の射撃時より弱い力でトリガーを引くことが可能となっており、連射の際にガク引きにより狙いがずれてしまうことを防いでいる。
ストライカー方式のためにコッキングがされているかどうかわからないため、トリガーがコッキングインジケータを兼ねている。
しかし、このようなグロック独自のセーフアクションや変則ダブルアクションを好まないユーザーは多いため、グロック17の後追いをした銃では既存の銃のようにセーフティレバー、グリップセーフティなどを採用し、ストライカー方式を採用した場合でも変則ダブルアクション機構を採用しない銃もある。
このような安全機構があってもマニュアルセーフティが搭載されていないことから一部の法執行機関では従来の拳銃を採用、またはXDMやM&P等のマニュアルセーフティやグリップセーフティのようなトリガーセーフティ以外の安全装置を搭載している機種へと変更しているところもある。
社外部品としてM1911と同じように操作ができるサムセーフティを搭載する部品も登場している。
グロック側もイギリス軍向け(クロスボルトセーフティ)やタスマニア警察向け(M1911風サムセーフティ)のようにユーザーの要望に応じてマニュアルセーフティを搭載したモデルを出す等、ある程度は対応している。
変わった特徴
この銃には他と違う変わった特徴が多い。
中でもとりわけ有名なのはその素材である。
グロックは、フレームやマガジンがポリマー、強化プラスチックでできている。
そのため、重量が軽く射手への負担が少なく、高温環境や極寒環境でも素手で扱えるという利点がある。
フレームに使用されているポリマーは硬質ではなく柔らかい樹脂を使っており、強度を高めると共に射撃時の反動を吸収する役割を果たしている。
グロックの開発以前にも、ポリマーフレームの拳銃は開発されていたが、時代がそれを受け入れずすぐに姿を消した。(ちなみに、世界初のポリマー製拳銃はH&K社のVP70である)
問題点
グロックはグリップは自然とハイグリップとなるようにデザインされているが、Gen3やGen3をベースとしたSF(Slim Frame)、RTFまでバックストラップ(グリップの後ろのふくらみ)が同じ曲線でユーザー(特にアメリカで多数派となるM1911ユーザー)からデザイン変更を求める声があった。
現在Gen3と並行して販売されているGen4ではグリップのバックストラップが交換できる様になって、やっと解決されたと思いきや、先に登場していたアフターパーツの方が人気で決断の遅さがうかがえる。
またハイグリップが出来るグリップ形状の影響でアメリカ人などの手の大きい人が後退したスライドで親指の付け根を切るという事故が多く、グリップ後部のビーバーテイルの延長が求められていた。(既に解決済み)
開発当初はどちらの手でも同様に扱えるような設計というのは珍しい時代であり、右手で扱うことを前提とした軍用拳銃であった為にマガジンキャッチが左手で操作できないという不満もあったが、これもGen4では左右入れ替え式に変更する事で解決しているが、左手用に入れ替えた場合は固定用の切り欠きが片方にしかないGen3までの旧型マガジンが使用できなくなるという問題も生じている。
前述のようにグロック17のフレームは柔らかい樹脂を使用しているが、Gen3以降のアンダーマウントレールを持つグロックではねじで側面から締め付けるタイプのライトを装着した場合、締め過ぎる事でフレームが歪み、動作不良を引きこしてしまう問題がある。
一部の競技用途ではポリマーフレームでは軽すぎ、ダットサイト用のマウントアームの増設といった加工を施す際にゆがんでしまうといった問題ことから金属製フレームがアフターパーツで販売されている。
また、初期のマガジンはスチールインサートが無いため、多く装填した際にマガジンが膨らんでしまい、グリップから抜けにくくなるという問題があった。
他にもU字型白線が引いてある標準型のリアサイトが見にくい、アイアンサイトがポリマー製の為に破損や変形などの心配があるといった問題点もあり、グロックが完璧な拳銃と言われるにはまだ時間がかかる。
もっとも、アイアンサイトに関しては他社製品でも見にくい、使いにくいなどは珍しくなく、アフターパーツに交換が当たり前の部品なのでグロックに限らない話となっている。
さらに言えば万人に合う完璧な拳銃というものは無いため、カスタムパーツで補助したり、銃自体に加工を施す事で使いやすい銃へと変える事は当たり前となっている。
都市伝説
限られた場でのみ有名だったグロックの存在を広く世界的に有名にしたのは皮肉にも間違った報道や認識がきっかけだった。
1990年の映画「ダイ・ハード2」でテロリスト役がこの銃を所持していたことがきっかけである。
そこでのあるセリフが当時の社会で波紋を呼んだ。そのセリフは、空港内でのシーンでテロリスト役の男が「この銃はプラスチック製だから、X線に映らない」と言ったのである。
当時アメリカでは外国製品排斥の動きがあり、映画での間違った台詞だけでなく、「X線探知や金属探知機にも引っかからないハイジャッカー御用達の銃」と悪意を持った誤報道やバッシングが行われ、さらにリビアのカダフィ大佐が大量購入したと報道されてしまう。
これらの件が原因となり、グロック社には真偽を問う意見が殺到したが、実際には銃弾やスライドなど、金属部分はそのまま映る為に容易に発見されてしまう。
現在のものはマガジンには補強のために金属のインサートが入れられ、フレームのポリマーにはX線造影剤を素材に混ぜ込む事で発見をさらに容易になっている。
結果としてはオーストリアの無名メーカーであるグロック社の宣伝をマスメディアが無料で行った程度で済み、あの有名なグロックを欲しがるものはアメリカで多く生まれることとなり、長く品切れが続くようになった。
なお、実銃が販売されていない日本では同じくダイハード2での「アンタの給料全部投げ出しても買えないね」という台詞が原因でグロック17の値段が非常に高価であるという誤解が長く続くことになった。
実際は新品価格でグロック17が441ドルに対しベレッタM92Fが685ドル、SIG P226が628ドル、コルトM1911が526ドルと他の銃と比較して安価な銃であり、中古であればさらに安価に購入可能となっていた。
遊戯銃
様々メーカーから発売されている。
- タナカワークス:17 2ndGenモデルガン、17 3rdGen(2pin)固定スライド及びガスブローバック
- KSC:17 3rdGen(2pin)ガスブローバック
- 東京マルイ:17 2ndGenコッキング、17Lコッキング、17 3rdGen(3pin)ガスブローバック、17カスタム(カナダのSMARTLOCK製カスタムパーツをモチーフとしたカスタムパーツを装着)
等。
しかし、エアソフトガンとして成立させる為の機構の制限からグロック独自のセーフアクション等は再現できておらず、多くの製品ではインナーハンマー式のシングルアクション機構を採用している。
タナカより発売されているモデルガンのグロックのみ、それらを再現している。
また、前述のような柔らかい樹脂を使用したフレームは再現されておらず、硬質のABS樹脂や金属粉を混入したヘビーウエイト樹脂となっている。
商標の問題からグロックのロゴが使われていないものもある。
KSC製は製造時期によってはスライドのロゴがG部分だけになっておりオーストラリア製表記がMIL SPEC表記となっている。フレーム側もロゴがなく、パテント表記や製造国表記部分が変更されている。
タナカ製はロゴのG部分が少し異なり、CLOCKとなっている。