概要
19世紀後半のアメリカ合衆国における当時フロンティアと呼ばれた主にアメリカ西部の未開拓地を舞台にした時代劇・アクション作品の総称。原語のカナ表記にしてウエスタンとも言う。
北米大陸の壮大な自然を背景とし、組織や身分に束縛されない独立独歩の登場人物たちが活躍し、手段を問わない悪漢と己の正義にのみ従って戦う保安官やガンマンたちが対峙する歯切れ良い勧善懲悪の脚本、そして一丁の拳銃早撃ちのみで生死を競うことを中心とした派手なアクションシーンから高い人気を得た。
しかし、インディアン（ネイティブアメリカン）と呼ばれる先住民に対する人権意識が高まるにつれ、その方向性を大きく問われることとなった。伝統的な西部劇の構図では、先住民を単純な悪役にすることで白人視聴者の人気を得ようとしていたからである。
現代でもSF等とリンクさせることで西部劇風の創作がなされることはあり、日本でも類例が見られる。pixivでは西部劇風の世界観による作品、あるいは既存の西部劇作品を題材にした二次創作などで用いる。
史実の『西部開拓時代』
確かに西部開拓時代はロッキー山脈、ミシシッピー川といった手付かずの大自然にアメリカの開拓者が挑んでいった冒険の時代なのは確かだ。また身一つで集まった開拓者のコミュニティには英国や欧州のしがらみが通用せず、自由な住人たちが活躍していたこともほぼその通りである。しかし、それ以外の面では西部劇と史実の西部開拓は大きく異なっている。
大衆向けの娯楽でも有った為、西部劇世界では『 ガンマンは相手が先に銃を抜かないかぎりこちらから攻撃することはない 』といった武士道にも通じる正義の価値観や勧善懲悪といったものが強調されるのがセオリーなのだが、
実際の『アメリカ西部開拓史』は、修羅の国やリアル『北斗の拳』といった表現のほうがお似合いなレベルで殺人や強盗、先述のインディアンや黒人等に対する異民族迫害・差別が横行する無法地帯であったとされる。
…とうよりも、歴史学的にはモンゴルのユーラシア大陸征服に匹敵するレベルのコロンブスの時代から始まった白人によるアメリカ大陸征服事業の最終段階であり、民族学的にはインディアン諸部族に対するホロコースト・ジェノサイドが並行して行われた黒歴史の最たるものであった。倫理問題や治安の悪化なんて度外視の、人間が利潤追求の果てに行った所業だったのだ。
つまり、『西部劇』とはあくまで『勝者（あるいは侵略者）の歴史』に基づく物語なのである。
1860年代のアメリカ南北戦争の影響で没落した南部諸州の民衆がゴールドラッシュに沸くカリフォルニア周辺の西海岸地域へ職や生活の場を求めて移住していったのが始まりだが、何もない荒野にゼロからインフラを築いていく傍らで、既に東海岸を追われていたインディアンから、さらには白人入植者同士で限られた資源や「生活できる土地」を奪い合っていたというのが実情であったようだ。当時、『自由の国』であるアメリカは最大の治安維持組織であるアメリカ軍の規模を最小限に留めており、特に地方の治安維持に関しては民衆の自治や良心といった『見えざる手』に委ねていた部分が多かった。このため、たとえ現地の実情がどんなに酷いものであったとしても国家運営に支障がない限りは基本的には放置されていた。地域の正義を守る代表格の保安官も、住人たちが自衛の為に腕利きのガンマンを（悪名や犯罪があっても見逃して）雇っている過ぎない事があった。有名な保安官ワイアット・アープも連邦保安官でありながら私怨による殺人の罪で地元の保安官と互いをつけ狙い合うといった事態になっている。
西部開拓の狂熱はアメリカ全土に波及し、最後には大西洋側の東海岸と太平洋側の西海岸の両方から内陸に向かって進んでいった。そして、最終局面では徹底抗戦を臨んだインディアンたちに対して今まで傍観していた政府側が先にあげたアメリカ軍に対して掃討を指令、徹底的に実行された。生き残ったインディアンは保留地（居留地）という名のただの不毛の荒野に追いやられ、1890～1900年代以降のアメリカ大陸は完全に白人が支配する世界となった。
（合衆国だけに関してなら北アメリカ中央部だけが領域なのだが、既に中南米諸国では多くの先住民族が殲滅されるか辺境に追いやられており、上記の段階でインディアンやインディオのユートピアはほぼ完全に略奪・消滅させられた。）
