作品解説
『裏世界ピクニック』は宮澤伊織によるエンタメSF小説。ハヤカワ文庫JAより刊行されている。
ストルガツキー兄弟の小説『ストーカー』を意識した作品で「理解の及ばない異世界でのお宝探索」というコンセプトを軸に、〈裏世界〉と呼ばれる異空間を探索する女子大生二人組の冒険と、微妙な距離感を描き出す。
裏世界ではくねくね・きさらぎ駅・八尺様・コトリバコといった各種掲示板サイトに登場した都市伝説が、作者による解釈や再構築を経た姿で登場しており、圧倒的な不条理の中に垣間見える理屈や法則を手繰り寄せて事態を打開する推理ものの一面を併せ持つ。
書籍情報
早川書房〈ハヤカワ文庫JA〉、既刊6巻(2021年3月17日現在)。
- 『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』
ファイル1 くねくねハンティング
ファイル2 八尺様サバイバル
ファイル3 ステーション・フェブラリー
ファイル4 時間、空間、おっさん
- 『裏世界ピクニック2 果ての浜辺のリゾートナイト』
ファイル5 きさらぎ駅米軍救出作戦
ファイル6 果ての浜辺のリゾートナイト
ファイル7 猫の忍者に襲われる
ファイル8 箱の中の小鳥
- 『裏世界ピクニック3 ヤマノケハイ』
ファイル9 ヤマノケハイ
ファイル10 サンヌキさんとカラテカさん
ファイル11 ささやきボイスは自己責任
- 『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』
ファイル12 あの牧場の件
ファイル13 隣の部屋のパンドラ
ファイル14 招きの湯
ファイル15 裏世界夜行
- 『裏世界ピクニック5 八尺様リバイバル』
ファイル16 ポンティアナック・ホテル
ファイル17 斜め鏡に過去を視る
ファイル18 マヨイガにふたりきり
ファイル19 八尺様リバイバル
- 『裏世界ピクニック6 Tは寺生まれのT』
ファイル20 Tは寺生まれのT
※単行本未収録作
間章 夜桜おねえさんの深夜配信(漫画版1巻収録)。
間章 真夜中のチキンとゴリラ(漫画版2巻収録)。
間章 窮鳥来たる夜(漫画版3巻収録)。
間章 夜が降りて来る前に(漫画版4巻収録)。
間章 やがて夜になる(漫画版5巻収録)。
間章 夜桜お姉さんの飯テロ配信(漫画版6巻収録)。
間章 新宿、初めての待ち合わせ(漫画版1巻店舗限定特典)。
間章 八尺様エピローグ(漫画版2巻店舗限定特典)。
間章 お茶の水、初めての打ち上げ(漫画版3巻店舗限定特典)。
間章 池袋、ひとりカフェ飯(漫画版4巻店舗限定特典)。
<ハヤカワ・ジュニア・ホラー>
『裏世界ピクニック〔ジュニア版〕』
※一巻を小中学生向けに読みやすくしたもの。漢字にルビを振った他、アニメの画像を挿絵に使用、劇中の用語に注釈を付け、巻頭にはキャラ紹介や用語解説を追加している。
更に巻末には、ジュニア版独自の原作者のあとがき、および「若おかみは小学生!」の令丈ヒロ子による解説も掲載されている。
コミカライズ
月刊少年ガンガン2018年2月号よりコミカライズされ連載中。
作画担当は水野英多。
単行本は既刊6巻(2021年3月12日現在)
巻末に、原作者書き下ろしの短編小説も収録されている(上記参照)。
また、店舗限定特典として、書下ろし短編小説が掲載されたペーパーもある。
アニメ版
2020年3月5日、アニメ化が発表された。
2021年1月からAT-X、サンテレビ、BS11、TOKYOMXにて放送された。
製作はライデンフィルム&FelixFilm
公式PV
アニメOP
「醜い生き物」
作詞・作曲・編曲 HoneyWorks
アニメED
「You & Me」
作詞:佐藤ミキ 坂詰美紗子
作曲・編曲:maeshima soshi
アニメ各話リスト
話数 | サブタイトル | 脚本 | 登場怪異 | 原作該当話 |
---|---|---|---|---|
一話 | くねくねハンティング | 佐藤卓哉 | くねくね、エレベーターの怪異 | ファイル1 |
二話 | 八尺様サバイバル | 佐藤卓哉 | 八尺様 | ファイル2 |
三話 | 巨頭の村 | 宮澤伊織 | 巨頭オ | アニメオリジナル |
四話 | 時間、空間、おっさん | 冨田頼子 | 時空のおっさん、廃墟、巨大風車 | ファイル4 |
五話 | ステーション・フェブラリー | 根元歳三 | きさらぎ駅 wild things | ファイル3 |
六話 | ミート・トレイン | 根元歳三 | きさらぎ駅 wild things 猿夢 | ファイル3 |
七話 | 果ての浜辺のリゾートナイト | 井出安軌 | リゾートバイト 須磨海岸にて | ファイル6 |
八話 | 猫の忍者に襲われる | 伊神貴世 | 猫の忍者 | ファイル7 |
九話 | サンヌキさんとカラテカさん | 伊神貴世 | サンヌキカノ | ファイル10 |
十話 | エレベーターで焼肉に行く方法 | 宮澤伊織 | エレベーターで異世界に行く方法 | アニメオリジナル |
十一話 | きさらぎ駅米軍救出作戦 | 根元歳三 | きさらぎ駅 wild things 姦姦蛇螺 | ファイル5 |
十二話 | 空魚と鳥子 | 冨田頼子 佐藤卓哉 | 姦姦蛇螺 | ファイル5 ファイル7 |
あらすじ
ネット怪談×異世界探険
「検索してはいけないもの」を探しにいこう。
仁科鳥子と出逢ったのは〈裏側〉で〝あれ"を目にして死にかけていたときだった――その日を境に、くたびれた女子大生・紙越空魚の人生は一変する。「くねくね」や「八尺様」など実話怪談として語られる危険な存在が出現する、この現実と隣合わせで謎だらけの裏世界。研究とお金稼ぎ、そして大切な人を探すため、鳥子と空魚は非日常へと足を踏み入れる――気鋭のエンタメSF作家が贈る、女子ふたり怪異探検サバイバル!
主な登場人物
主人公兼語り部。裏世界を探索中に死にかけて、仁科鳥子に助けられる。以後、彼女と共に裏世界を探索する事に。
くねくねにより溺れかけていた紙越空魚を助けた恩人。裏世界で行方不明になった、閏間冴月を探している。
認知科学者。裏世界の存在や事象を、科学的に解明できないか研究を続けている。
※上記三人の詳細は、当該項目を参照。
閏間 冴月(うるま さつき)
長い黒髪に黒縁眼鏡で背の高い女性。DS研の客員教授を務めていた「裏世界」研究者で、同期の小桜はその手伝いだった。本編開始の三ヵ月前に行方不明になっている。
裏世界の調査の手を広げようと、小桜を探索のパートナーに誘ったものの固辞されたため、代わりの人材をあちこちでスカウトしていた。仁科鳥子、瀬戸茜理もその候補である。小桜に言わせれば『他者をたぶらかすことに長けたアルファ・フィメール』。
ファイル8にてコトリバコにまつわる一件で空魚の前に姿を現し、何らかの思惑で裏世界に近い存在となっていることが示唆されていた。
そしてファイル11、潤巳るなの引き起こした騒動の末にその姿を現すが―――
汀 耀一郎(みぎわ よういちろう)
ファイル8「箱の中の小鳥」より登場した、DS研の事務局長を務める男性。研究者ではないが、銃器や刃物の扱い、ブービートラップ、拷問術などにも長け、民間軍事会社に個人的な伝手もある人物。そのため、事務一般のみならず、荒事への対応なども行う。
青年期には人類学者・カスタネダに傾倒。彼に所縁のある中米に渡り、マヤ文字の入れ墨を腕に彫ったりもしたが、本人にとっては若気の至りでやらかした黒歴史らしい。若い頃には地元のギャングと揉めて、テキーラの飲み比べを行い、気が付いたらドブの中に転がっていたというやんちゃな経験もしている。
基本的に穏やかで紳士的な人物であるが時折えげつない過去の存在を匂わせることがあり、本作のホラー要素とは別方向のリアル方面のホラー要素とも言える存在である。
笹塚 二胡(ささづか にこ)
ファイル12「あの牧場の件」に登場した、民間軍事会社(PMC)『トーチライト』の代表取締役の女性。『セキュリティ・コンサルタント』、及び『海外渡航コーディネーター』の肩書を持つ。
『トーチライト』を率いる女性で、汀、およびDS研とも知り合いで、裏世界ことUBLに関しての経緯および事情は把握している。汀とはトーチライトを始めるよりずっと前に、一緒に働いていた事があったらしい。
ある一件の後に『山の牧場』に赴いた際。トーチライトの社員たちを指揮し、空魚と鳥子の協力を受けつつ、『牧場』内を制圧した。
瀬戸 茜理(せと あかり)/ CV:富田美憂
ファイル7「猫の忍者に襲われる」(アニメでは八話)より登場。
空魚と同じ大学に通う一年生。空手の県大会で優勝した経験を持ち、空魚は「カラテカ」と呼んでいる。
明るく好奇心旺盛な性格で、空魚を先輩と慕うが、空魚はそれをやや鬱陶しく感じている。ネットロア「猫の忍者」の怪異に襲われた事から、空魚に助けを求め、関わるように。
冴月はパートナー候補とするため、茜理の家庭教師も行っていた。
また、冴月から小桜の事を聞いており、空魚の「石神井で集まって相談している」という言葉から、それが小桜の事だと推測。小桜の家を付きとめ訪問した(ちなみに小桜邸を訪ねた際には、羊羹の手土産を持参したためか、小桜は終始ご機嫌だった)。
コミュニケーション能力も高く、初対面の小桜ともすぐに仲良くなっていた。
裏世界の怪異事件に巻き込まれはしているものの、裏世界の詳細な事情は知らず、行ってもいない。ただし、怪異と目撃して対峙したり、中間領域に知らぬ間に赴いてしまった事は多々あるため、現在は
「中間領域の事を裏世界と思っている」
「空魚と鳥子はそこで専門家として研究している」
と、認識している(空魚も面倒なため、それを訂正はしていない)。
空魚には毎回塩対応されているが、茜理本人は全くめげる事無く付きまとっている。
後になって空魚に誘われ、夏妃とともにラブホ女子会に参加する(ファイル16「ポンティアナック・ホテル」)。
後に、付きまとう理由として「紙越センパイ、かっこいいんですよ」と打ち明けた。
曰く「センパイ、人に好かれようとしてないじゃないですか。でも意志は強くて、どこか遠くを見てて。私子供のころから、私の事なんか眼中にない人に憧れがちなんですよね」
ちなみに、ラブホでのとある恥ずかしい一件も「かっこよかったです!」と即答していた。
なお昔からモテていたせいか、上記のように「私のことなんか眼中にない人に憧れがち」とのこと。空魚はそれを聞き「夏妃が聞いたら泣くな」と思ってしまった。
ワンルームマンションで一人暮らししており、ファイル13では空魚を泊めた。料理もこなし、同エピソードにて手料理を空魚と夏妃に振る舞った(肉野菜炒め、切り干し大根、ご飯と味噌汁)。
大学では、空魚とは学部が異なる(教育学部)ため、普段行き来する校舎は空魚のそれとは異なる。空手は昔から通っている道場でしか教わらないため、サークルは料理研究会(料研)に入っている。
ある怪異との一件で、空魚を尾行し、裏世界に一緒に向かう事になってしまった。その際には、空魚と鳥子に協力した(ファイル20「Tは寺生まれのT」)。
市川 夏妃(いちかわ なつみ)/ CV:島袋美由利
ファイル10「サンヌキさんとカラテカさん」から登場した、茜理の親友で幼馴染(アニメには九話から登場)。高校卒業後には、実家の自動車整備工場で働いている。「サンヌキカノ」の怪異に巻き込まれた事を、茜理を通して空魚と鳥子が知り、二人に助けられた。
その外観は、空魚の第一印象は「ぶっちゃけヤンキー」。その口調も「~っす」とヤンキーっぽい。茜理からは「なっつん」と呼ばれており、夏妃の方からは「アカリ」と(カタカナ表記で)呼んでいる。
茜理の家庭教師だった冴月を警戒していたため、空魚と鳥子の事も当初は訝しんでいた。
ちなみに初対面時、鳥子を空魚と勘違いしており、鳥子の方は「こんな美人ならアカリが持ち上げるのも仕方ねーかな」、空魚の方は本人を目の前に「(最初言われて)は? って」「陰キャのオタクっぽいのに、意外とビビらないし」と、失礼な事を言っていた。
冴月に対しては、面識は無かったが、茜理と一緒の所を遠目で見ていた。
「うちあの人(冴月)、なんか嫌だったんすよね」「OBのセンパイとかとは全然違う怖さってか、気味悪かったんで」と、空魚に伝えている。
茜理とは幼馴染であるため、幼少時には保護者のように「かわいいから、うちが(声をかけてくる)やべーのを追い払ってた」。しかし茜理が空手を始めてからは、腕っぷしは彼女の方が強くなり立場は逆転。しかし茜理自身は今も「なっつんは強くて頼りになる」と慕ってくれている。
茜理に対しては特別な想いを抱いており、後にファイル13「隣の部屋のパンドラ」で、空魚が茜理の部屋に泊る事を知った時。スマホの通話でそれを知って、三分くらいで大慌てで駆け付けた(その際には、茜理が空魚になついているため、あからさまにヤキモチを焼いた態度を取っていた)。
同エピソード内では、空魚のAP-1の改造も請け負う。
ファイル16「ポンティアナック・ホテル」で、茜理とともにラブホ女子会に参加。その際には茜理と二人で風呂に入っていた。その様子を見た鳥子は「付き合ってるのかな」と口にするが、小桜は「距離は近いけど、あたしはそうじゃない(交際ではない)ほうに賭けるね」と返す。
小桜とはAP-1の引き渡しの時に、小桜邸にて顔を合わせている。ラブホ女子会では、小桜から「ムードを気にするタイプだね」「まともな感性持ってていいと思う、ほっとする」と評価されていた。
ラブホ女子会以降、小桜と改めてご飯に行きたいと言っていたとの事。茜理いわく「(なっつんも)すごい人見知りするタイプなんで、そんな事言うの珍しいんですよ。なんか(小桜と)波長が合ったのかもしれないですね」(ファイル20「Tは寺生まれのT」)。
肋戸誠司(あばらとせいじ)/ CV:寺島拓篤
ファイル2『八尺様サバイバル』に登場。
二人が裏世界で遭遇した、迷彩服と外套に身を包み、AKアサルトライフルを携行する男。結婚1年目で妻・美智子が一緒に居たはずの自宅から忽然と姿を消してしまい、あらゆる手段で捜索を続けた末に独力で裏世界(彼自身は「ゾーン」と呼称)へと辿り着く。
秩父の山中にある廃神社の鳥居に生じるゲートから出入りしているが、持ち込んだ物資で裏世界に長期滞在しており、現実世界へは補給目的で戻るだけになっている。妻の行方が掴めないまま、精神状態が不安定になっているものの、近しい者が失踪した鳥子と互いの境遇に共感を覚える。一緒に美智子の探索を行う中で、「トースター」「仏壇飯」「カスミ網」などと呼んでいるグリッチの存在を二人に教えた。
その後、八尺様と遭遇するが・・・・・・。
また、ファイル19では、消えたはずの肋戸美智子を名乗る女性が登場。行方不明になった夫を探してほしいと、空魚達に依頼してくる。
アニメ版では、二話に登場。AKアサルトライフルは下げていたものの、服装はパーカーとズボンに変更。眼鏡をかけて髭を伸ばしている(上記イラストはアニメ版)。
ペイルホース第三中隊
ファイル3『ステーション・フェブラリー』に登場。アニメには5話より登場。
沖縄の在日米軍に所属する海兵隊。山中での訓練中に「ステーション・フェブラリー」こと「きさらぎ駅」の怪異に巻き込まれ、部隊ごと裏世界に来てしまった。怪異との遭遇で人員も損耗しており、空魚と鳥子が出会った時点では、補給も無く現状把握もままならない状況下で、乏しい物資や弾薬をやりくりしつつ怪異に応戦していた。
指揮官のレイ・バルカー少佐(CV:増元拓也)やウィル・ドレイク中尉(CV:諏訪部順一)が友好的な態度を示す一方、二人に懐疑的なグレッグ曹長(CV:小野友樹)に空魚の青い眼を見られ、怪異の仲間と誤解されたため一度は二人だけで遁走。
後に、孤立している彼らを放置すべきでないと考えた空魚は(「米軍の武器を分けてもらおう」という打算的な理由も含めつつ)、鳥子とともに再び裏世界へ救助に赴く。
なお、二人の話を聞いた小桜は「ペイルホース第三中隊は、公開情報に存在しない秘密部隊」という推測を立てている。
彼らは裏世界を「other side」、グリッチを「bare trap」、裏世界の怪異・怪物を「wild things」と呼称する。
潤巳るな(うるみ るな)
ファイル11『ささやきボイスは自己責任』に登場。
いわゆる「自己責任系」のネットロアを動画サイトでばらまく高校生のYouTuber。夏妃が「サンヌキカノ」の怪異に悩まされるようになったのは、彼女の怪談動画を見てかららしく、空魚と小桜は「不特定多数に怪異を伝染させる」意図を有しているのではないかと推測した。
その声に「人を操る力」を持つ。この声により多くの信者を擁し、カルトめいた集団を作り上げている。声質や発声については、空魚いわく「訓練を受けたものではなく、芝居がかったところのない、素人の声」。
閏間冴月に心酔し崇拝、ハンドルネームも彼女の名前に由来している(空魚は本名を「聞いたけど忘れた」)。知識量や人生経験などは高校生の平均的なそれだが、自身の『声』の力を有してからは全能感に浸り、冴月を除く自分以外は格下の存在と見下している。そのため、他者に対しては嘲り見下すような口調で接する。
配信は中学のころから行っていたが、あまり人気は無かった。しかしある時、ASMR動画を漁っていた際に、冴月のものと思しき動画『ブルーワールド』を聞く。その動画に『神』を感じ取り、気が付いたら自身の声の能力を手に入れたらしい。そして、冴月を崇拝しだしたのもこの時から。
以後、会った事の無い冴月に接触したいがために、実話怪談「山の牧場」「まる穴」をベースにした施設を飯能の山中に作り出した。この施設には、あえて裏世界の怪異に接触させて変異させた、様々な能力を有した第四種接触者も閉じ込めており、るな自身、およびカルト集団の戦力や道具として確保している。
この第四種とカルト集団を率いて、空魚と小桜を拉致。DS研を襲撃した。
なお、彼女は自身を含め、裏世界の第四種接触により会得した能力、およびその能力者を『ギフテッド』と呼称する。
現在、とある出来事の後遺症で、口元に傷痕が刻まれてしまった。
ありがとう女
ファイル11『ささやきボイスは自己責任』に登場。
鳥子の透き通った左手を、何者かが隠し撮りしてネットに上げたらしい画像のプリントアウトを持っていた40代の女性。透明な指を持つ鳥子を探していたらしく、画像を「ありがとうございます」と書かれた紙製ファイルに入れていたことから空魚が命名した(他にも、「ごめんなさい」「夢 DREAM」「!!!悪魔!!!」といったファイルを持ち歩いていた)。
「るな様」を崇拝し、彼女に操られていたが、実は……。
外館(とだて)
ファイル18『マヨイガにふたりきり』に登場。
ある屋敷に住む、白髪を後ろで束ねた、すらっとした年配の女性。オレンジ色の迷彩ジャケットを着込んでいるハンターで、銃を扱えるほか、狙撃した獲物を解体する事も出来る。
裏世界に迷い込んだ時に出会った犬に「ハナ」と名付け、屋敷にて共に生活している。穏やかな性格で、空魚と鳥子の事も歓迎し迎え入れた。
裏世界には存在しないと思われていた動物が、独自の進化を遂げて存在していたことを空魚達に教えた。
なお空魚は、外館とハナの事を『「自分とハナ」だけの世界で完結してしまっている』『(空魚と鳥子を含む)他者に対し、関心や興味がない』と捉えている。そのため、普段は自分達以外が裏世界に関わることを厭う空魚も、彼女とハナに関してあまり抵抗を感じなかった模様。
霞(かすみ)
ファイル19『八尺様リバイバル』より登場した少女。
肋戸の妻、肋戸美智子と名乗る女性からの依頼で、裏世界に入り込んだ空魚と鳥子が遭遇した。
以前に肋戸とともに赴いた、八尺様が出現した場所にて。そこから飛ばされた『夕映えの中に浮かぶ、古めかしい街並み』を探索中に、空魚が発見する。粗大ごみが積もった山の中にできたトンネル、その内部の空間で生活していた様子。
伸ばしっぱなしの長い黒髪に、黒いボロボロのワンピース、片足だけの靴を身に付けていた。空魚は彼女の外観から、5歳か6歳くらいと判断する。また、空魚は発見した時から、肋戸夫婦の娘か、あるいは肋戸自身が裏世界の影響で変化した姿ではないかと予想していた。
二人に出会った直後、裏世界の青色の波動らしきものが迫ってくるが、それから逃れるように二人の手を引き、様々に変化する情景の中を移動。小桜の玄関先のゲートに、二人に連れられるようにして現れる。
その後、DS研に引き取られて保護されるも、身元および正体は不明なまま。当初は周囲の大人に警戒していたが、食べ物と寝床の提供で徐々に打ち解けている。
ただし、トイレは当初使い方を知らなかった様子で、職員たちが教える事で5回に3回は使用するようになった。
口にする言葉は、空魚や鳥子なども含め、彼女の周囲にいる人間が、過去に口にしたもの。その者が会話を交わした相手の言葉も口にしている。
しかし、脈絡のある会話は現時点ではわずかしか行えていない。そのため、喋る事はできても、会話や返答はできないのか、あるいは意図的に行っていないのかも不明。意思疎通ができているかどうかすらも判然としない。
いきなり消えて、別の場所に出現するという能力を有する。どうやら、中間領域を出入りする事で、「通常空間から消え、再び現れる」事が可能らしい。この能力を用い、DS研の建物内を移動して、お菓子をくすねるような事も行っていた(ファイル20)。
この能力を用い「出たり消えたりするから」というところから、空魚が「霞」と命名した。
また小桜邸を訪れた際、空魚にも覚えのないセリフで喋り、それを聞いた桜子は呆然としていた。おそらく閏間冴月が、初めて小桜邸を訪れた際の台詞だと思われる。
用語
DS研究奨励会
正式名称は「一般社団法人DS研究奨励会」。DSはダークサイエンスの略で、通称「DS研」。小桜が所属している団体で、研究資金の提供元。
90年代にオカルト関連の事象を「科学における未知の領域」ととらえ、それを研究するため設立された団体であり、独自のアプローチで異世界「ウルトラブルー・ランドスケープ(UBL)」=裏世界へのアクセス方法を確立し、その探索を主目的としていた。
しかし未知の状況で裏世界深部にまで侵入した事から、影響を受けて変異する者が急増。現在は探索をほぼ打ち切っており、犠牲者の回復や治療方法を模索する形で活動が続いている。犠牲者の中にはDS研の母体企業の重役、支援者の官僚、代議士、それらの関係者や家族なども存在し、そういった筋から活動資金が出ている。
資金調達や医療施設運営のため、法人として表向きは保険組合の運用を中心に事業を展開している。健康診断センターに偽装した施設を溜池山王駅近辺に設置しており、「DS研」と言えばその施設を指す事が多い。
この施設には職員はほとんどいないが、それは「裏世界由来の品物(アーティファクト)が、人間の心身に悪影響を及ぼすため」であり、普段からあまり人を置かないようにしている。施設内部では、第四種接触で異常をきたした犠牲者たちを個室に収容している他、空魚や鳥子らが裏世界内で回収したアーティファクトの保管もしている。
鹿児島県の農業機械メーカー・文明農機が製作している、たばこ畑の作物管理作業車(実在)。APは「all purpose」の略。
ファイル6「果ての浜辺のリゾートナイト」の後、酒に酔った勢いで空魚が購入し、「裏世界」で二人の足となる。後に夏妃により改造を施され、エンジンや履帯を交換。3㎞/時から10~15㎞/時へと移動速度が向上した。
他にも、シートや荷台の増設など、様々な改造を施される。
裏世界
本作に登場する、人間の認識を超えた怪異や怪現象が多発する異常な空間。草木が茂る中に廃墟が点在しており、天候の変化はなく、青空が広がっている(後に、降雪が確認された)。また、昼夜も存在する。
いわゆるネットロア、ネット上で語られる“怖い話”にたびたび登場する「異世界」で、ネット怪談に登場するような様々な怪異、既存の科学では説明できない存在があふれている。何者かが持ち込んだと思われる銃火器が落ちていたり、隠されている事もある。
入り込んだ人間に認識障害を発生させ、会話や識字能力、判断力などにも変化を生じさせる。携帯電話やスマートフォンの電波が届く事もあるが、当たり前のように文字化けし、会話内容も支離滅裂なものになっている事が多いため、現実世界と裏世界での意思疎通は極めて困難。東京のゲートと沖縄のゲートが徒歩で移動できる距離圏に存在するなど、現実世界との位置関係もひどく歪んでいる。
怪異に物理的な攻撃が通用する場面は少なく、認識を深めて狂気に近寄ることで初めて接触や干渉ができるようになる。「くねくね」との遭遇から生還した後は、空魚の右目を介したり、鳥子の左手で物理を無視した干渉が可能になっているほか、人間の「認識」と密接に結びついて挙動しているというDS研や小桜の仮説から、狂気と理性の境界線上に策が生まれることもある。
空魚や小桜は、この裏世界と発生する怪異を、人間とはかけ離れた思考を有する何らかの存在が、『恐怖』を以て人間に接触し、怪異による恐怖を介する事で、人間の事を理解しようと試みているのでは……と、仮説を立てている。
「裏世界」は小桜が常用する呼称で、語り手である空魚が「裏側」と呼ぶほか、肋戸は「ゾーン」、潤巳るなは「ブルーワールド」と呼称。DS研は「ウルトラブルー・ランドスケープ(UBL)」と名付けており、青色が何よりの危険信号である。
ゲート
現実世界と裏世界を繋ぐ時空の歪み。ドアや穴のような、分かりやすい形のものもあれば、「エレベーターのボタンを一定の順で押すと辿り着く」「人ごみに紛れているうち、いつの間にか迷い込む」といったものもある。
ゲートは常に安定しているわけではないらしく、空魚が見つけてしばらく使っていた大宮市街中の廃墟の裏口扉は、鳥子と連れ立って現実世界に戻った際に使用不能となった。以後は鳥子が常用していた神保町雑居ビルのエレベーターを使用。
その後、小桜の自宅玄関先で怪異が発生した一件を境に使い勝手のよい新しいゲートが生成されてしまい、AP-1をそこから持ち込むようになった。
神保町のエレベーターのゲートは、一定の順番でボタンを押していくうちに、エレベーターの扉が、雑居ビル内ではありえない、中間領域に似た異様なフロアに開くようになる。
そのまま何度か往復していくうち、五階で扉を開くと、廊下の向こうから長い黒髪の女が駆け込んで乗り込もうとしてくる(この女は、鳥子いわく「絶対乗せてはならない」とのこと)。
そして、再びエレベーターで数度の行き来をしていくうち、エレベーター内の数字や文字の表示が「見た事のない、読めない文字」に変化。最後に辿り着いた階の扉が開くと、裏世界内の、とある廃ビルの屋上に続く扉に辿り着く。
物語初期は、空魚と鳥子は主にこのゲートを用いて裏世界に赴いていた。しかしこのゲートも、五階の女が予想外の場所に潜んでいたり(アニメ版3話)、(空魚が最初に使った時には)最後のフロアで得体のしれない何かが接近してきたり(ファイル1「くねくねハンティング」)と、決して油断できない。
中間領域
現実空間と裏世界とが、混ざり合ったような空間。
完全な裏世界ではないが、裏世界に赴く意図が無くても、知らぬ間に形成される事が多い。
共通しているのは、当事者が人込みの中(普通に街中を歩いていたり、営業中の喫茶店の中や、居酒屋で支払い終えて外に出た時など)に居た時。周囲の人間がいきなりいなくなって、孤立した状態になり、周囲を見回すと、中間領域に入ってしまっている、というパターンが多く見られる。
そして中間領域に入った状態で更に先に進むと、裏世界に入り込んでしまう。いわば、自然発生するゲートのようなものだが、ゲートと異なり通常空間との境目が不明瞭なため、知らない間に迷い込む、というパターンがほとんど。特に裏世界に縁のある者は巻き込まれやすく、空魚や鳥子もストーリーが進むにつれて迷い込むことが多くなっている。
他にも、裏世界に辿り着くまでに時間がかかるアクセス方法をとると、形成されることもある(上記神保町のエレベーターによるゲートでは、途中の階がそれにあたるらしい)。
中間領域はネット怪談「時空のおっさん」に登場するような世界に極めて近く、迷い込むと「おっさん」(何らかの管理職に就いているらしい中年男性)が現れ、原典の怪談にあるように「こんなところに来るな」と注意され、案内されて現実空間に戻る……という経緯を辿ることも多い。
他にも、八尺様の帽子など、「裏世界に関連するアーティファクト(品物)を所持していたために、そこから中間領域に迷い込む」といった事例もある(ファイル3他)。
グリッチ(Glitch)
裏世界のあちこちに点在する、異常現象が発生する空間の異常領域。天然の罠のような危険域であり、踏み込んだ者を一瞬で焼き尽くす「トースター」など、様々な種類がある。
人間の目には不可視であったり、気配などを全く感じさせないため、目視では安全領域と区別できない。そのため、空魚の青い目で見る、ボルトのような消耗品を怪しい場所に放って様子を見る、長い棒でつつくなど、確認していくしかない。
他に存在が確認されているグリッチは、
「仏壇飯(白い挽肉状の塊が円錐形に突き出ており、近づくと歯医者のドリルのような金属音が響く)」
「カスミ網(非常に細い髪の毛で作られたジャングルジムのようなもので、内部に鳥の羽のようなものが舞っている。ほとんど目に見えず、ボルトを放っても中に入ってしまうため認識しづらい)」
「洗濯機(空魚が命名。水面の一部が円筒形に区切られ、内部に直径1mほどの渦が巻いている。その水流は、消火器をズタズタにするほどの威力を有する)」。
第四種接触者
「裏世界の諸々との接触事例者」を事例に応じて分類する方法で、UFOや未確認飛行物体におけるハイネックの分類を小桜がアレンジしたもの。
第一種は目撃(裏世界関連の存在、もしくは裏世界そのものを目撃)、
第二種は侵入(裏世界へと当該者が侵入、または裏世界の存在が当該者の近辺に侵入し接近)、
第三種は接触(裏世界の存在を、当該者が物理的に接触)、
第四種は接触し変異した者(裏世界の存在と接触し、その影響で物理的精神的に変化・変異が発生)を示す。
空魚、鳥子は言わずもがな、DS研で治療対象となっている者の多くが第四種に該当する。
変異は、裏世界の存在を見聞きしたり、触れたり、あるいはネットを通じるなど、何らかの理由で裏世界そのもの、およびアーティファクトなど、関連する存在に接触する事で発生する。
変化した結果、時に超常的な能力を有するようになる事が明らかになっている。空魚および鳥子は軽微な変化にとどまっているが、それ以外の多くの被験者は完全に変異してしまっている。
DS研に収容されている接触者たちの変異の度合いは、日常生活を送れる状態には無く、元に戻す事は現時点では不可能。意思の疎通も出来ず、生死すら不明。治療の糸口も見つかってないため、DS研では根本的な治療はできず、終末治療のペインコントロールに近い事しか行っていない(というか、できない)。中にはそれすら施せない者もいる。
そのため、空魚と鳥子に裏世界でアーティファクトを回収してもらい、それらを研究する事で治療の糸口がつかめないかと、一縷の希望を託している。
トーチライト
笹塚二胡が代表取締役を務める、民間軍事会社(PMC)。DS研とは以前より付き合いがあり、UBL(裏世界)関連の経緯および事情は把握している。言うなれば、『DS研の直属部隊』のような存在だが、笹塚は『(汀の)個人的なコネ』と述べている。
裏世界に関する事案で物理的に危険な状況下では、DS研は汀の伝手によってトーチライトに仕事を依頼している。
『山の牧場』の事後調査の際に登場し、空魚と鳥子、汀とともに現場へと向かった。
その際に参加した社員たちは、半分以上が外国人で、ごつい男性がほとんど。女性は笹塚と、オペレーターのヒスパニック系「ミシェル」の二人だけだった。
民間軍事会社としては優秀で、『牧場』内に残っていた第四種接触者と交戦。火器を用いて射殺し、制圧する事に成功する。
しかしそれでも、社員の何名かは『牧場』内での裏世界からの影響で、気分が悪くなったり、怪異に引っ張られて自ら飛び降りようとした(ミシェル、及び男性社員のマーカスは、第四種の影響で飛び降り自殺しそうになっていた)。
余談
- アニメでは、本編およびED終了後に、ミニコーナーのように空魚と鳥子がデフォルメキャラとなり、居酒屋で酒を飲む様子が描かれている。3話までは空魚と鳥子の二人だけだったが、4話では(タブレットのモニター越しにだが)小桜も登場し、二人に説教していた。
- コミカライズ版の巻末には、原作者によるSSが掲載されている。それらは小桜が主役となっている間章で、サブタイトルに「夜」の文字が入っている。
関連タグ
Сталкер:ストルガツキーの小説「ストーカー」。モチーフ元であり、本作のタイトルは原題「路傍のピクニック」から採られている。
ラスダン少年:本作と同時期に紙越空魚役の花守ゆみりと仁科鳥子役の茅野愛衣がご出演をしているアニメ。
洒落怖:劇中に登場する多くの怪異のモチーフになって