概要
舞台は近未来のアメリカ。幻想剤運用で捕まった五反田老人が、ごく平凡な刑事である野坂に贈った遺産。それは見た目は人間と変わらないぐらい精巧で、人間らしい感情を持つ超高級アンドロイドのお雪であった。しかし彼女が来てからというものの野坂の周りでは不審な出来事が次々と起こり野坂自身も変調をきたしていく。果たしてお雪の正体とは何なのか?
登場人物
- 野坂:本作の主人公で自己主張をあまりせずイエスマン気味。シルバーシティ警察の生真面目な刑事で独身。素行や人格の良さから一部を除き周囲の人間からは信頼されている。階級は警部補で独身。お雪の正体について探るべく捜査を続けている。本人に全く自覚はないが意外とモテる好青年であり、ヒロイン勢からは「アキ」と呼ばれ親しまれている。若さ故にすぐ熱くなってしまう事があり取調室でチンピラの前で激昂して発砲しそうになった事がある。また反権威主義のためか弁護士にも食って掛かる事がある。(いずれも後述のパウエルに全て阻止された)。ケイとは6回もデートをしているのにもかかわらず手を繋いだ事すらないという友達以上恋人未満の関係だがその理由は…
- お雪:本作のもう一人の主人公でありメインヒロイン。妖艶な雰囲気を持ち黒髪ロングかつ色白の肌のため「雪女」が元ネタとされる(実際に野坂からも妖怪だと例えられている)が白雪姫とも似ている。しかし製造されてからそんなに年数が経過してないのか見た目の割に言動がやや幼い。その実態は五反田老人が会社の資材を流用して極秘でGEオートマトン工場で製造した超A級アンドロイド。ハウスキーパー(メイドロボ)として野坂の元で働いている。見た目は華奢な女性で性格も一見控えめで従順そうだが実際は自己主張もするし我が儘で独占欲が強い一面もある。搭載されているAIが優秀なので人間と同じように喜怒哀楽があり動作も生物的。しかしアンドロイドのため象の後ろ足をへし折るレベルの怪力を誇りそのため成人男性でさえ太刀打ちできず即死してしまう。またダイからアンドロイドである事をすぐ見破られていたため動物の目だと彼女が人間でないのは一目瞭然らしい。同作者による短編集『サイボーグお鷹』のお鷹を想起させる部分も多く野坂やケイからも純粋なロボットではないと言及されているため転生体の可能性が示唆されている。
- ケイ・ポーター:ハロルド・ポーターが溺愛する愛娘。ポーター家の末っ子で成人女性。赤髪翠眼が特徴な誰もが認める絶世の美女(野坂曰く見ているだけで息が詰まり身体が痺れる)で態度物腰も温和なため野坂を含め多くから惚れられている非の打ち所がない完璧超人だがヤンデレ的な部分を覗かせ気丈な一面もある。野坂とはある意味で似た者同士で清廉潔白かつ正義感が強く『黄金の精神』を持つ(しかし姉三人は自分とは違いクズだったとの事。後述参照)。所謂もう一人のヒロイン。お嬢様言葉を話すが嫌悪感のある相手の前では普通に女性的な言葉遣いをする。
以下ネタバレ注意! |
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その正体はハロルドが死んだ娘に似せて作った超A級アンドロイドでスペックはお雪を上回るとされ社会力も遥かに高い。製造に数十億ドルを費やした紛う事なき高級品であり謂わばターミネーター(T-800)や如月ハニーなどに近い生体アンドロイドで脳と骨格以外は人間と同じ体組織を有している。そのためぱっと見は人間にしか見えず周囲からもアンドロイドだと気付かれないぐらい精巧である(ダイですら正体を見抜けなかった)。角川文庫版の表紙にもなっているが人間のように涙を流し疑似血液も流れている。しかし所詮はアンドロイドのためか、やや人間離れした部分もありお雪に負けず劣らずの怪力や身体能力を持ち結果として気が狂って襲撃してきた狼犬フォスを返り討ちにし、あっけなく葬ってしまった。また自力で生気のない機械人形として振る舞う事が出来るというよく分からない特技を持つ。なお前述の姉三人はケイ自身がオリジナルを模したアンドロイドのため直接的な血の繋がりはない。5年前に人間そっくりのアンドロイドと出会い(製造者は大富豪の老人)精度の高さに驚いたという趣旨の発言が彼女の口から語られるがそれが彼女自身の述懐を元にした作り話もしくは姉妹機だったかどうかについては定かではない。同胞のアンドロイドのあり方に対しては複雑な感情があり「たとえ人間のような感情や心を持っていても結局は所有物でしかない。ロボットはロボットであるべき」と胸の内を野坂に独白している。
- ハチ:恐らくエイトマンが元ネタとされるアンドロイドの刑事で3mを誇る巨人。その外観や設定は大きく異なっている。決して悪人ではなく紛れもなく良い奴なのだが、いかにせんアンドロイドの割に頭があまり良くないため野坂からはバカにされており「C級アンドロイド」と酷評されてしまっている。
- ダイ:ブルーキャットのサイボーグで素体は高級猫。しかし立風書房(現:学研パブリッシング)版の表紙だけは茶トラのような体色(オレンジ)で表現されている(山野辺進氏が担当した早川書房の挿絵でも灰色となっているため岩淵慶造氏の独自解釈だと思われる)。化粧をしているので恐らく雌だが一人称は「僕」となっているボクっ娘。ポーター家から譲り受けたらしい。猫特有の口腔構造によりダ行がラ行になってしまう。
- 狼犬フォス:犬(シェパード)のサイボーグ。ポーター邸で飼育されている。やや傲慢な性格をしており長年の付き合いがあるケイからは嫌われている。上記のダイに対しては同じ哺乳類かつ力関係も同じという種族の因縁からか強いライバル意識があり猫である彼の事を忌み嫌っている。江戸っ子を思わせるフランクな口調が特徴。
- 五反田:知人の野坂に遺品として「超A級アンドロイド」を贈った老人で歳のせいか頑固。幻想剤密売で捕まったため俗世間からはドロップアウトした。顔は広く友人にヤン・チャペックなどがいる。過去にオートマンGE工場の技術部長まで務めた高名なロボット工学者だったが自身の不祥事により退職し、その際に特許を社に渡すことで穏便に収めてもらっていた。
- ハロルド・ポーター:本作の鍵を握る人物でケイの父親。シルバーシティの実質的な支配者かつ大富豪で高齢者。過去に妻と娘が居たがいずれも交通事故で先立たれてしまい代わりとしてアンドロイドの妻を所有している。若い頃はプレイボーイであり大変モテていたとの事。妻子を失ったトラウマからか人前では機械のように無表情のため野坂からは強い苦手意識を持たれ「まるでアンドロイドのようだ」と評されている。しかし娘であるケイの前では親バカな一面を見せるため強ち人間味がないわけでもない。
- マイク・ブラッジョン:野坂と同じ署に属する黒人の悪徳警察官で冷酷かつ残忍な性格(サディスト)。そのため正義感が強く真ぐな性格の野坂とは折り合いが悪く犬猿の仲。なお卑劣漢でもある。
- ローマックス:市警刑事課長で野坂の上司にあたる。勤続30年のベテランでキャリア的に署長を務めていてもおかしくないが上層部と折り合いが悪いため課長止まり。癖の強い人物が多い中では比較的まともな部類。またアンドロイドの事を毛嫌いしているため一切所有していない。
- マナ・ローマックス:ローマックスの娘だが母親が黒人のためか身体的な特徴は黒人に近いらしい。つまりムラートである。優しい性格で控え目。ケイ・ポーターの友人であり今も交流が続けている。物語中盤以降は出番が一切ない。
- 小男のハリー:ホテルのマネージャーとして勤務している慇懃無礼な男。
- 顎なし:『幻想剤』を販売している五反田の元同業。
- エーデルワイス:シルバーシティ警察の署長だがイマイチ影が薄い。
- フェルドナンド博士:ハロルドの台詞のみに登場しパリ在住。ケイのメンテナンスを担当していると思われるが最後まで詳細は明かされなかった。
- ポーターの妻:故人。溺愛していたが不慮の事故により死亡してしまった。娘のケイと瓜二つの外見であり汚れなき「黄金の精神」の持ち主であったらしい。
- アダム・パウエル:階級は部長。野坂の上司でブラッジョンと同じ黒人警官だが、こちらは真逆の性格であり高学歴のエリートで知的な人物。同著の『サイボーグ・ブルース』に彼を意識したとされる同じ黒人警官のアーネストが登場し人物像も似ている。
- カリノ:階級は検事補(検察官)。皮肉屋で嫌味な性格をしている。野坂にとってはとてつもなく嫌な上司のため煙たがられている。
- レッド・カーライル:新聞記者で「特A級アンドロイドお雪」について追っており記事のネタにしようと野坂にしつこく取材する。五反田とは浅からぬ因縁があるらしい。
- ハワード・ファレル:銀髪の大柄な老人で弁護士。決して野坂の事を嫌っているわけではないが、いかにせん職業柄として一言二言が多い部分があり悪意はないが直情的な野坂とは折り合いが悪く衝突してしまう。
- ファン・マヌエル
- 浮浪者たち:ロボットハウスに居着いている社会不適合者でお雪によって生きた屍のようにされてしまっている。
余談
本作に登場するアンドロイドは人外である事を強調するためか一貫して「白い乳房」と「黒闇でも輝く白い肌」などが強調されている。
現代でもコアなSFファンの間では根強い支持があり世代を超えて愛されているのにもかかわらず映像化やコミカライズも一切されていない。原作者の平井氏自身も本作をターニングポイントに路線変更をしてしまい生前は映像化に対しても無頓着であった。しかし非公式だが「疾風のようにガンガル部」が手掛けたコミカライズ版が存在し実質的に史上初のコミカライズとなる。なお現代に合わせて登場人物の設定(ケイの外見変更に関しては作者からの補足あり)や作風が変更されている部分に注意されたし。WEBコミック
関連タグ
関連作品
- 幻魔大戦:同作者による小説及びアニメ。世界観や作風は大きく異なっている。
- ウルフガイ:同作者による小説及びアニメその2。本作を意識したような描写やパロディネタが多く存在している。
- アンドロイドは電気羊の夢を見るか?:同じく主人公が刑事かつアンドロイドをテーマとしたSF小説だが作風は真逆。
- まほろまてぃっく:作風こそ大きく異なるが一部の登場人物に本作の影響が見られる。
- メタルK:サイボーグかアンドロイドかという違いはあるが主人公である冥神慶子のイニシャルがKな事と人物像がケイ・ポーターを彷彿とさせる。関連性は不明だが内容にどこか本作の影響が見られる
※「セクサロイド」をテーマにした作品はこの世に数多く存在するが初版発行から半世紀以上が経った現在でも類似作品は極めて少ない特異な作品でもある。