概要
京都市伏見区にある伏見稲荷大社が日本各所にある神道上の稲荷神社の総本社となっている。
稲荷神社の前には狛犬の代わりに宝玉をくわえた狐の像が置かれる例が多い。民間伝承では「狐の姿をした神様」としても認識・信仰されている。一方、神社庁の見解では、狐はあくまでもお稲荷様の使いであり眷属であるため、お稲荷様自身が「狐の神様」だったり、「狐の姿をしている」という扱いではない。
祭神の正式名称は「宇迦之御魂神」という須佐之男命の娘で、女神とされているが、現在では大歳倉稲魂命(オオトシクラムスビノミコト)、歳徳神(トシノリカミ)、歳徳玉女(トシノリタマメ)、宇迦御魂(ウカミタマ)、保食神(ウケモチ)が混同されているため、それらをまとめた総称となっている。
元々は穀物の神様だが、稲作という生活に密着した神徳、更に古来日本では稲作は産業の中心であったため、徐々に神徳が拡大解釈されていき、現在では神徳は産業全般に及ぶ。
京都にある伏見稲荷大社の大量の鳥居は、ほとんどが産業系事業者の奉納である。
ちなみに、千本鳥居にあるようなサイズの鳥居なら十数万円くらいで奉納可能。
仏教系のお稲荷様
インドでは夜叉、もしくは羅刹に属する一族であった「ダーキニー」が、密教において仏教を守護する(単独の)神・荼枳尼天となった。人の死と関係が深い事から中国において狐との関連付けがされていたが、日本ではさらに進行し、図像表現で狐に騎乗するようにもなり、宇迦之御魂神との習合が進んだ。
妙厳寺(豊川稲荷)などの寺院で守り神として祀られている「お稲荷様」はこちらであり、別に本尊(豊川稲荷では千手観音)が存在する事が多い。
民間伝承のお稲荷様
仏教を含めた民間伝承の世界観では、お稲荷様は「狐」をはじめ無数の同一視(神仏習合)がされている。一部だけを簡単にまとめても、
●稲荷=ダキニ天=稲荷=三狐神(田の神)=野狐(野生の狐・狐の妖怪)
●稲荷=倉稲魂(ウカノミタマ)=宇迦之御魂大神(ウカノミタマノオオカミ)
●ダキニ天=貴狐天皇=白晨狐王菩薩=飯綱
といったようになり、無限と言えるほど多種多様である。
※「野狐」とは野生の狐、狐の妖怪。
融合(習合)の具体例
- 稲荷=ダキニ天
「ダキニ天と稲荷はすでに平安時代の末から同一視されていた」
(出典:『呪術と占の日本史』200ページ)
「三狐を稲荷三の峯に配し。遂に野狐を合せ祭る事になりぬ。」
(出典:『百家説林』一〇四八ページ)
「もともと田の神とその使令としての狐という信仰があったことが伏見稲荷が全国的に受容された基盤」
(出典:『日本文化史ハンドブック』414ページ)
「顕密仏教の習合思想において大日如来と同一視されるアマテラスは、東寺即位法の縁起では、ダキニ天に変化する。」
「荼吉尼天の別号を白晨狐王菩薩、或いは貴狐天皇などと称した」
(出典:『浄瑠璃の小宇宙』244ページ)
「陀耆尼天の惡魔を。白晨狐王菩薩。又貴狐天皇など稱する飯綱使(イツナツカヒ)とおなじく。野狐大明神なりとも。野狐大菩薩なりとも稱し。…恐多くも倉稲魂の神名を假り。」
(出典:『百家説林』一〇五〇ページ)
- 稲荷=倉稲魂(ウカノミタマ)
「稲荷神、稲荷大明神は、宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ)、あるいは宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)であり、倉稲魂命とも書いた」
(出典:「稲荷信仰と鼻面稲荷社」34ページ)
「玉藻稲荷神社は、玉藻の前(九尾の狐)の神霊を祭る神社です。玉藻の前は、絶世の美女に姿を変えて中国、インド、日本の帝に仕え悪事を尽したという伝説の妖狐(ようこ)で、謡曲「殺生石(せっしょうせき)」でつとに知られています。」
(出典:「玉藻稲荷神社」)
「現在、那須の黒羽町篠原(下野国)には古い塚らしい小丘の上に祠堂があって玉藻稲荷が祀られてある。ところで、おそらくは同じ神社の伝説と思われるのだが、「那須記」の巻五「那須野殺生石付源翁位階之事」(彰考館本)の殺生石伝説は、篠原稲荷大明神の縁起となっている。
…松浦静山に黒羽の城主大関括斎の語った伝説に言う稲荷祠も玉藻稲荷のことと推測される」
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お稲荷様をモチーフとした作品
『我が家のお稲荷さま。』 『すっくと狐』