770Kは、メルセデス・ベンツがかつて製造していた高級乗用車。愛称は「グロッサー・メルセデス(或いはグローザー・メルセデス)」。
1930年から38年まで製造された初代(W07)と、1938年から43年まで製造された2代目(W150)が存在した。
いずれも、皇族や王族、国家元首、上級貴族向けのフラッグシップモデルであった。
性能
エンジンは7.7L 直列8気筒と非常に大きなもので、特に末尾にKが付くコンプレッサー(※)付きの車両は、当時のこの種の車両としては比類なき性能を誇った。
- (※):Kompressor:独語で過給器の意でこの車両の場合はスーパーチャージャー
所有者
我が国では、昭和7年(1932年)に昭和天皇の御料車としてコンプレッサー非搭載の770が採用され、合計7台が輸入された。車体が、ため色(深い緋色)に塗られていたため、戦後に行われた全国行幸では「ため色のベンツ」「赤いベンツ」と呼ばれ有名となった。その後も長きに渡って使用され昭和43年(1968年)に引退した。
本国ドイツでは、ドイツ製で最高性能を誇っていたことから、ドイツ帝国最後の皇帝であったヴィルヘルム2世が晩年に使用していたほか、ドイツ第三帝国の威信を誇示すべくアドルフ・ヒトラーやナチス高官といった面々が積極的に使用していた。
特に、ヒトラーが用いていた車両は数々の防弾装備が施されて、車重が3tに及んだにもかかわらず過給器付きで当時の自動車としてはエンジンの出力が高かったため、150km/hまで加速できたそうである。
性能、デザイン、装備、(ある人々以外の)所有者、希少価値の全ての要素において、世界的な名車たる資格を有しており、現に数少ない現存車がオークションに出品されると非常に高値が付くにもかかわらず、積極的に使用していた人々がよりによってナチス党首とその幹部なので良い印象を持たない人が少なくないという悲運の名車である。
昭和天皇の御料車として使用された770のうちの1台と、ヴィルヘルム2世が使用していた車両が、ドイツ シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ博物館に保存されている。