コナン・ザ・グレート
こなんざぐれいと
「クロムよ、俺は祈ったことがない。
祈り方も知らん。1つだけ願いがある。復讐を遂げさせてくれ!
この祈りが聞けぬなら、もう祈らんぞ!!」
1982年に映画化された『Conan the Barbarian(コナン・ザ・バーバリアン)』の邦題。
コナンの詳細は「英雄コナン」へ。
あらすじ
キンメリア人で鍛冶屋の息子、幼いコナンの村を謎の集団が襲撃する。
理由も分からないままコナンの家族は彼の目の前で殺され、彼自身も奴隷商に売り払われた。だが過酷な日々の中、コナンは屈強な青年に成長する。
その後、剣闘士として武芸を、雇い主から様々な書物を与えられて文字の読み書きと哲学を学んだ。やがて持ち主の手で奴隷から解放されたコナンは自由を手に入れる。
盗賊サボタイと組んでコナンは盗みに入った邪教の神殿で女盗賊ヴァレリアに出会う。この時、コナンは邪教の神殿にある蛇の紋章が故郷を襲った集団と同じシンボルであることに気が付いた。
神殿から盗んだ宝石で豪遊するコナンたちは兵士たちに捕えられ、オズリック王の前に召し出された。
王は盗賊たちを罰するつもりはなく、それどころか邪教徒の指導者タルサ大王に逆らった勇気を褒める。またそこで自分の娘ヤスミナ姫をタルサから救出してくれれば望むだけの報奨金を出すと提案した。
サボタイとヴァレリアは危険すぎるとコナンを説得するが彼は一人でタルサ教団の本拠地、魔の山に向かう。
しかしタルサの部下に見破られ、捕らえられてしまう。
タルサに磔にされたコナンだがサボタイやヴァレリア、魔術師アキロに救出される。
しかし瀕死のコナンに死が迫る。ヴァレリアは「自分が代償を支払うからコナンを助けて」とアキロに訴えて死神たちを追い返す。翌朝、コナンは奇跡のように息を吹き返した。
再び姫を救出に向かったコナンたちは魔の山から姫を連れ出すことに成功する。姫はタルサに洗脳されていた。しかも逃げる途中、ヴァレリアがタルサの部下に殺されてしまう。
コナン、サボタイ、アキロは死んだヴァレリアを荼毘に付す。
アキロがサボタイに訊ねた。
「おまえなんで泣いてる?」
サボタイが涙を吹いて答える。
「コナンはキンメリア人だ。決して泣かない。
だから俺が奴の代わりに泣く。」
ヤスミナ姫を奪い返そうと向かってくるタルサたちにコナンは罠を仕掛けて立ち向かう。
次々に襲ってくる大勢の敵兵に遂にコナンが追い詰められる。すると冥界からヴァレリアが現れる。
光の中でヴァレリアはコナンに問いかける。
「永遠に生きたいか腰抜け!」
コナンは再び剣を取って敵を倒し、敵が持っていたタルサの奪った父の鋼の剣を折る。
部下たちが倒され、タルサは逃亡する。
しかし魔の山で追い詰められたタルサはコナンに問いかける。
「お前はワシを殺すために生きて来た。ワシのいない世界を考えられまい」
魔法でコナンを催眠にかけようとするタルサだがコナンの剣で倒され、タルサ教団の信者たちも解放される。
背景
この映画でアーノルド・シュワルツェネッガーは一躍脚光を浴びる。しかしコナンの役者としてアーノルドが選ばれた訳ではなくアーノルドをメジャーデビューさせるために映画の題材を探しが始まってコナンが選ばれた。
映画プロデューサーであるエドワード・R・プレスマンは『鋼鉄の男』(1977年。アーノルドらボディビル選手のドキュメンタリー)でアーノルドを知り、彼を主役にした映画を作ろうと計画し、アーノルドに交渉した。
エド・サマーとロイ・トーマス、『プラトーン』のオリバー・ストーンなどによって脚本が書かれる。
サマーとマーベルコミックのトーマスはロバート・E・ハワードの原作小説『館のうちの凶漢たち』を元に邪悪な魔法使いを殺すために雇られる戦士という物語を書いた。
しかし続くストーンは彼らの脚本を捨てて小説『黒い怪獣』と小説『魔女誕生』を元にした脚本を1978年に書き上げた。こちらは有史以前の過去の地球、ハイボリア時代ではなく終末戦争後の未来を舞台とし、コナンは王女に雇われて数万のミュータントと軍隊を率いて戦うという筋書きで4時間映画という大作、しかもシリーズ物の第1作ということになっていた。
最終的には脚本も書ける監督として『ダーティハリー』、『地獄の黙示録』のジョン・ミリアス監督が起用される。
彼は脚本をファンタジーよりも現実味のある物語、残虐な場面をマイルドに修正していった。また黒澤明の『七人の侍』から少人数で敵の騎馬隊と戦う場面を、小林正樹の『怪談』から「耳なし芳一」のエピソードを加えた。
ちなみにプロデューサー、脚本、監督、メイン出演者を含めてコナンを読んだことがあったのはエド・サマーだけで他はこの映画の仕事に取り掛かってからハワードの小説や漫画を読むか挿絵のフランク・フラゼッタからイメージを膨らませていった。
オズリック王役のマックス・フォン・シドーは「長男が子供の頃に読んでた」という理由で出演オファーを受けたとしている。
結局、撮影は1980年10月頃に始まった。
当時は特殊効果が未熟だったためアーノルドはスタント無しで危険な撮影に臨み、何度も傷を縫った。ヴァレリア役のサンダール・バーグマンも殺陣で指から出血している。
他にもコナンがハゲタカに噛みつく場面では本物のハゲタカの死体にアーノルドが噛みついて撮影したという。また犬に飛びかかられて怪我している。
なお剣術指南は神道自然流良武会の山崎清が行っている。また映画の中でもコナンの剣の先生として出演した。
剣の制作には刃物職人のジョディ・サムソンがジョン・ミリアス監督と話し合ってコナンの父の剣、アトランティスの剣の他に撮影用に様々な素材で同じ見た目の剣を作成した。
特にコナンの父の剣とアトランティスの剣は4本作られたが1本あたりで約1万ドルを使ったという。
他に巨大な蛇のロボット、フランク・フラゼッタの挿絵をモチーフに古代の街並みや魔の山などの巨大セットがロン・コップ(ロナルド・レイ・コブ)によって作られた。
1981年のクリスマスに放映されるようにプロデューサーのプレスマンは調整を進めていた。ユニバーサルは8月にも映画の編集を完了していたが残虐なシーンをカットするようにハリウッド上層部からお達しが出る。
カットされたのはサボタイが蛇の塔でモンスターを殺害する、コナンが市場でスリの腕を切断する、オズリック王が暗殺される、タルサ大王によるコナンの村の襲撃場面の短縮やコナンの母親の生首のアップなどで140分の映画は126分に再編集された。
1982年2月19日テキサス州ヒューストンで試写会が開かれ、翌月から全米で放映が始まった。
評価は大きく二極化した。「若者を熱狂させる完璧なファンタジー」とする向きと「サイコパスのスターウォーズ」という向きである。客の多くはマッチョ志向の若い白人男性ばかりであるとニュースは報じた。
興行収入では大きな成功を収めなかったものの、コナンのクローンと揶揄される作品が次々に作られるなどカルト的な人気を博した。1984年には第2作となる映画『コナン・ザ・デストロイヤー』も公開されている。
その後もコナンの映像化は続いたが、第1作のようなクリティカルレスポンスは出ていない。
動物愛護団体は本物の動物を危険な撮影に使ったことを非難している。
指摘されたのは犬を蹴る、馬を転ばせる、ラクダへの打撃。
フェミニスト団体は「コナンの世界には2種類の男性がいます。その一方はゴージャスなおっぱいが着いています」と皮肉った。批判的な団体はヴァレリアを男性と同じように戦う強い女性像のキャラクターではなく、アクション映画の伝統的な男戦士の相棒と見做した。
特にグラフィックデザイナーのレナート・カサロが手掛けた映画ポスターでボディラインがくっきり浮き出た革のボディスーツを着たヴァレリアがコナンの横で大きく脚を広げて困難な姿勢で立っているのは性的な光景であると指摘された。
この映画に政治的なメッセージがあると見る意見もある。
タルサ大王を打ち破るコナンはソ連を打倒するアメリカの暗喩であるというもの、黒人の悪役を倒す金髪の獣は白人優位思想の現れ、ワーグナーのジークフリートとの類似(ヒトラーがワーグナーのファン)など。
これらの批判的な意見は1980年代のアクション映画がこれまで通りに行かなくなった現れでもあった。
元ネタ&小ネタ
- 鍛冶屋の息子
本作ではコナンは鍛冶屋の息子になっているがこれは小説『龍の刻』で「ワシは王族なんかじゃない!鍛冶屋の息子だ!」という台詞がある。
ちなみにアメリカのファンタジー雑誌に言わせれば「コナンが奴隷として環境に忍従するのはおかしい!」と映画のコナンが原作よりも野蛮人らしくない点を挙げている。
- 苦痛の輪
本作に登場する大勢の奴隷が押して回す放射状の横棒が着いた車輪。
ジョン・ミリアス監督いわく「ただの嫌がらせ」だったのだが小麦を磨る機械ということになった。
後に捕まえたNPCを屈服させる拷問器具としてゲーム『コナン・エクザイルズ』に登場した。
- アトランティスの剣
コナンが放浪中に落ちた洞窟で剣を拾う場面はリン・カーターとディキャンプの小説『洞窟の怪異』が元ネタ。
- ヴァレリア
ヴァレリアという名前のヒロインは小説『赤い釘』にも登場するが映画のヴァレリアとは関係ない。
コナンの恋人で冥界から駆けつけてコナンを助けてくれるという場面は小説『黒い海岸の女王』のベーリトが元ネタ。
- セト
セツとも呼び古代エジプトの蛇神。有名な破壊神セトとは別の神。
常闇に包まれた影の国スティギアで信仰される神でありクトゥルフ神話においてはハスターと同一視される。
コナンの物語の舞台、ハイボリア時代はアトランティスやルルイエのあったムー大陸が海底に没した時代に当たりスティギアはムー大陸から生き延びた者たちがクトゥルフ信仰を現代まで伝える接合点である。
つまりスティギアはニャルラトホテプの化身のひとつ暗黒のファラオ、ネフレン=カが統治したエジプト王国の前身にあたる。
蛇を信仰するタルサ大王も古い滅びゆく種族の末裔として設定された。
- ヤスミナ姫
小説『黒い予言者』に登場するヒロインと同名だが関係ない。
- 嘆きの木
コナンが磔にされる場面は小説『魔女誕生』に登場する場面。
- 耳なし芳一
瀕死のコナンを死神から守るために魔法使いアキロが施した呪い。
ジョン・ミリアス監督が日本の耳なし芳一から着想を得た場面である。