中国(漢民族)の伝統的衣装のこと。17世紀半ばまで(明朝以前)は中国で広く着られていたが、清朝成立時に満洲族の衣装に置き換えられた。
清時代には男性の衣服は満洲族の衣裳である旗装(旗袍ではない。旗袍とは満洲風のドレスのこと、洋服である)が強制され、漢服は道士と僧侶にみられるのみとなった(その他も一部の特例がある)。一方女性は漢服である襖裙の襖を旗装に変え、漢服の馬面裙と共に普段着として着ていた。清朝滅亡後は中国人の衣服は洋服に変わり、漢服は普段着として復活しなかったが、映画や戯曲のほか、中華民国公式祭服や一部の大学の卒業服として使われていた。後、文化大革命になって、祭祀や伝統戯曲が迷信と「四旧」として禁止され、ほとんど見られなくなった。
近年も街角で漢服を見ることは少ないが、その他の伝統文化と共に復興しつつある。現在は道教の道士の服や僧侶のほか、一部の私塾や学校制服、一部個人の礼装として使われている。また、普段着として普及させようとする有志者もいる。
一見の印象は和服に似ているところもあるが、実際の構造はかなり違う。全体的に見ると漢服の裄丈(通袖)は和服よりも遥かに長い(礼装では250cmくらいある)、衿と衽の幅も若干広い。その故、袖を除いてみると漢服は和服のような長方形ではなく、台形に見える。
漢服は和服と同様、男女とも右前(右衽)で着るが、左前(左衽)で着るのは死人ではなく夷狄(未開の蛮人)とされている(「微管仲、吾其被髮左衽矣」――孔子)。
漢服は、特に礼装が儒教経典の思想に従うものが多いので、数千年間にわたり変化こそ少ないが、種類がそれなりにある。現代において主に以下の種類がある(下着、装飾品除く):
下裝
裳
- 裙
- 帷裳
- 蔽膝
袴
- 褲
配飾
- 腰帶 披帛 首飾
首服
- 冠冕
- 巾帽
足衣
- 鞋 靴 木屐 襪