概要
アメリカのハリウッド映画では伝統的に映画の最終的な編集権(ファイナル・カット)は映画の製作者であるプロデューサーが有する。
ディレクターズ・カットは、プロデューサーによって不本意な編集を行われた監督(ディレクター)が当初劇場公開されたバージョンとは別に改めて編集した映画のバージョンである。
この作品は映画館で再公開されたり、ソフトでリリースされることが多い。
なお、日本映画では基本的には監督が編集権を持っており、劇場公開版も通常は監督が編集したものであるため、劇場公開版がディレクターズ・カット版でもあるのが本来だが、のちに別バージョンを発表する際に『ディレクターズ・カット』と称して公開・販売されることがある。
これはハリウッド映画での起源からいうと異なった使われ方である。
ディレクターズ・カットが作られる背景には、「営業成績を重視するプロデューサーの意向と芸術性を重視するディレクターの意向とが食い違い、妥協が成立しなかった」などの事情がある。
多くの場合、当初は営業成績を重視したバージョンが発表されるが、その映画の評価が定まったところで監督が「自らの理想像により近い版」を作成して発表する場合がある。
またほとんどの場合、劇場公開版よりもディレクターズカット版のほうが上映時間が長い傾向にある。
これは、監督が描きたい通りに全てを収録するとどうしても長尺になってしまい、劇場公開においては不向きとの判断から削られてしまうためである。
そのためディレクターズカット版は、劇場公開の際にカットされた未公開シーンを復活させる形で追加されるのが最も明瞭な変更点である場合が多い。
未公開シーンが多い作品の場合、ディレクターズカット版が3時間や4時間程度に至る作品もある。
ビデオテープやDVD、ブルーレイなどの市場が拡大したことにより、劇場公開版とは異なる版が公開されるチャンスが増えたことも、ディレクターズ・カットが増加した背景にある。
未公開シーンを追加しての販売であれば、劇場で作品を鑑賞済みのファンも改めてビデオテープやDVDの購入層に取り込むことが見込め、商業的な効果が得られる。
そのため、監督が公開版に対して特に不満がなくとも、あえて追加シーンを盛り込んで販売したり、公開時の段階でソフトの販売時のシーン追加を見越し、あえて公開時にはいくつかのシーンを温存、あるいは事前に撮影溜めする場合もある。
これらのケースは『ディレクターズカット版』と呼称するには適切ではないとの判断から、『完全版』や『未公開版』『最終版』など、別の呼び名を付ける場合もある。
また、これ以後に再編集をした別版が作られることはないだろうとの配給元の判断で『完全版』や『最終版』と銘打ったにもかかわらず、その後さらに追加編集が行われた版が制作されることもあるので、『最終版』が本当の最終バージョンとは限らない。
近年のテレビアニメやテレビドラマでも放送時に規制されていた表現(主にお色気・残虐描写や尺に合わずに未公開になったショット)を、パッケージ販売の際に元に戻したバージョンをディレクターズ・カット版として収録する動きが一般的になりつつある。