概要
中華人民共和国・長江中流域の湖北省宜昌市三斗坪に存在する超大型のダム。
水力発電と長江の治水を目的とし、全長660㎞の巨大な貯水池を持つ。
併設されている三峡ダム水力発電所は世界最大規模の発電能力(2,250万kW)を持ち、ここで生み出された電力は下流の上海市などの長江デルタ地帯へと送られている。
一般的な読みは「さんきょう」だが、中国語の発音に寄せた「サンシャ」でも一応伝わる。
その計画は孫文の時代に始まる、万里の長城以来の世紀の大事業として1994年に着工、12年後の2006年に三期に分けて建設されたダム本体の工事を完了し2009年に発電所を完成、送電を開始した。ダム湖の全長は663kmにのぼり、これは東京から兵庫県の姫路市までの距離に相当する。貯水量は393億立方メートルで、琵琶湖のおよそ1.4倍にもなる。
大河である長江の洪水抑制・経済発展に必要な大量の電力エネルキーの供給という2つの目的を兼ねたこの巨大ダムは、まさに国家の威信をかけた一大プロジェクトであり、完成当時は「三峡ダムは、1万年に1度の大洪水にも耐える」とまで豪語されていた。
問題点
このような巨大ダムであったため費用や安全性、住民の立ち退き補償など問題は計画時点においても山積していたのだが、天安門事件以降当局は反対意見に圧力をかけて強引に押さえ込み着工。
長江上流の重慶市など都市区域も含めて水没予定地の地域も途方もなく広大であり、140万人もの住人が追い払われ、まともな補償をもらえなかった住民も少なくなかった。
さらに周辺の地質の脆さゆえ、ダムに貯められた水が水圧となって周辺の地盤に負担をかけ地滑りなどが頻発している。
また上流域からの土砂やゴミがダム湖に溜まっており、除去も追いついておらず水質汚染も深刻な問題となっている。
決壊の危機
2019年以降、「ダムがすでに変形してきており決壊の危険がある」との指摘がされるようになってきた。この時点では「証拠とされている画像そのものが歪んでるから判断がつかない」「現地で見学したが歪んでなかった」「いや、本当に歪んでいるのを見た」などと議論百出だったのだが・・・
2020年6月に入ると中国南部では集中豪雨が相次ぎ、長江沿いの都市では洪水被害が相次いだ。
このことから、もはや前出の変形云々以前の問題で三峡ダムがいつ決壊してもおかしくないと言われており(ダムは本来、溢れても「人工の滝」になるだけで決壊はしないものだが、ここの場合強度不足が度々指摘されている)、もし決壊した際は上海まで被害が及び4億人の被災者が出るという試算も出されている。
日本で令和2年7月豪雨をもたらした梅雨前線の西端は中国南部に到達しており、COVID-19の流行が一段落したばかりの武漢市では市街地が水没してしまい、7月中旬時点で既に公になったぶんだけでも140人以上の死者と3000万人を越す被災者が出ている。
長江の支流では水位上昇が危険な域に達したとしてダムが爆破された箇所もある。
三峡ダム本体がいつまで持つかも予断を許さない状況となっている。
2021年に入り、三峡ダムそのものの状況は大きく動かないながらも7月に差し掛かると中国国内の洪水がまたも頻発し万単位の被災者と実数不明の死者が出ている。
この問題は仮に決壊した場合、下流の穀倉地帯の水没、また上海など大都市への電力エネルギー供給能力の喪失などを引き金として中国の国内経済、そして世界経済においてもその影響が波及する恐れがあるため国際的にも注目され始めており、CNN等が熱心に報じているものの日本国内においてはネット関連以外の日本の映像メディアでは全く取り上げられていない。
なお中国国内においても共産党系メディアにおいて一面で報じる事態になっている辺り、中国政府としてもかなり深刻な問題として捉えているようである。