F-117
えふいちいちなな
世界初の実用的なステルス機として1981年に初飛行を行ったアメリカ空軍の攻撃機。
レーダーによる探知を極力抑えるため、平面で構成された独特なフォルムをしている。開発された当時の設計用コンピューターの能力的限界から、レーダー反射断面積(RCS)の計算をし易くするため、平面で繋げたスタイルとしたのである。また、非金属素材を使い、兵装はウェポンベイ内に格納できるようになっている。空気力学的に不安定な形状だが、フライバイワイヤによって常に修正舵を当てることで克服している。
試作機である「Have Blue」を含め、開発から生産、部隊での運用まで、すべてが極秘に行われた。
戦闘機を表すFナンバーでありながらステルス性を優先したため空戦能力は低く、実際は攻撃機に分類されている・・・が、パイロットの腕次第では克服できなくもない。かもしれない
兵装
とはいえ、実機は固定機銃は持たず、ガンポッドとして搭載することもできず、空対空ミサイルの運用能力を持たない。(試験が行われていた時はサイドワインダーの運用能力を持っていたが、後の機体はランチャーそのものが排除されていた)
さらに機上レーダーも搭載していない為に空戦能力は皆無となっている。Fナンバーをつけるに至った経緯にはいくつかの説があるが、空戦能力を持った機体として作られてはいないのは確かである。
兵装はGBU-24などの1t級爆弾を2発のみ。おまけに爆弾倉は中央から分割されているため、GBU-15のような大型の兵器を搭載できない。
実戦参加
1989年12月19日に始まったパナマ侵攻のオペレーション・ジャストコーズ(Just Cause)の支援で投入されたのが初の実戦参加となっている。湾岸戦争へのご存知のとおりで、コソボ紛争では初の被撃墜を記録した。そのせいという訳ではないが、2008年、すべてのF-117は維持の困難さを理由に退役した。
「初の被撃墜」
1997年3月27日、ベオグラード近郊において、SA-3「ゴア」により撃墜される。
真相については諸説あるが、要は「毎日同じ場所を、同じ時間に通過していたので予め当たりをつけて迎撃された」というもののようだ。
しかもF-117の飛来は捜索レーダーであるP-18(NATO側名称スプーンレスト)が30km圏内でならば捕捉できてしまったようである。
これはP-18が300MHzのメートル波という能力的には二次大戦レベルの分解能しかないあまりに大雑把なレーダーだったことが逆に作用しステルス形状など知った事かとばかりに反射してしまうためだ。
しかし大雑把なレーダーなのでこれでミサイルの照準はとても無理。普通ならわずか30km圏内で捕捉されたところで問題ないはずである。
だが飛行経路はいつもと同じなので高度はわかりきっている、そしてこれで距離が判明したので仰角は三角関数で自動的に判明し、最後は方位を合わせるだけだがこれも飛行経路はいつもどおりである。
油断しすぎて舐めプすると相手も馬鹿ではないから足元すくわれるものだ。
そのスタイル
レーザー誘導爆弾とともに、湾岸戦争で一躍有名となった。
黒く、航空機離れしたスタイルは「流行り」となり、トヨタのWillVSなどにも影響が見られる。
しかし、このスタイルは湾岸戦争当時でも既に旧式化していた。パナマ侵攻が行われた頃には先進戦術戦闘機(ATF)計画に基づいてYF-22やYF-23の開発が進められており、1990年の夏頃までには両機共に初飛行を行っている。
これらは進歩したコンピューターにより、ずっと滑らかで航空機らしいスタイルに設計されている。
F-117はいわば「飛ぶだけで精一杯」なのに対し、F-22等では空力の研究が進み、ステルス性を確保しつつ、格闘戦まで可能になったのは世代の差と言える。
Darker than Black
真っ黒なカラーリングが有名だが、実はこの色、昼間はもちろん夜間迷彩効果も低い。一般的な戦闘機のような「灰色」が昼夜両方において最も適した色なのだが、軍上層部の要請により真っ黒に染め上げられた。
(機の凹凸をわかり難くするための技術・機密的問題説がある)
2003年にはグレー系のロービジ塗装が施された機体が登場しており、「Dayhawk(昼の鷹)」という俗称が与えられている。記念塗装では機体下部全面に星条旗が塗られた事もある。
命名法改正前のFナンバー最終番号はF-111であり、117という突飛な番号の素性については様々な説が提唱されている。
- 開発コード流用説 : ソ連の(本来ならTu-20になるはずだった)Tu-95やA-50などのように、命名規則に沿っていない開発段階の数字をあえて使うことで混乱を狙ったもの。もっとも、F-117や原型となったハブ・ブルーの開発コードナンバーは判明していない。
- エンジン番号との混同を狙った説 : アメリカでは軍用ターボファンエンジンに対してFと三桁数字の組み合わせを用いている(初期に開発された2桁番号製品はTF)。そのため、命名法改正後に新規開発された「F+3桁数字」というコードナンバーの製品と言えばエンジンと混同させられそうではある。ちなみにF117ターボファンエンジンはC-17が搭載するエンジンで、民間型のPW2000はボーイング757が用いている。F-117自身のエンジンはF404である。
- 旧ソ連戦闘機割当て説 : テスト用に秘密裏に入手したソ連製戦闘機にF-112~F-116が与えられており、それに続く番号とすることでF-117も同種のテスト機と誤認させようとしたというもの。ただしその詳細はMiG-21またはJ-7にYF-110、MiG-23にYF-113、MiG-17にYF-114という関係しか明らかになっておらず、112、115、116の素性は不明である。
- 旧命名法則変換説 : 命名改正後の新型機を旧空軍、旧海軍式にそれぞれ変換するとF-19がF-117に変換されるというもの。この法則に従うとF-5がF-112、YF-12がYF-113、F-14は海軍機なのでF13F…となり、YF-17がYF-116、F/A-18がF5H、F-19がF-117となる。しかしF-19が欠番になった理由(後述)から考えるとこの推測による一致は偶然の産物かもしれない。
いずれの説も決定的ではなく、真相は未だ謎のままとなっている。
F-19
F/A-18からF-20に番号が飛んだため、間のF-19がこのF-117にあたるといわれていた時期もあった。
『イタレリ』(模型メーカー)がもれ出たわずかな情報を元にプラモデルを作成し、これにF-19の名称を使用した。この商品は大ヒットとなったが、軍はこのような航空機の開発について否定も肯定もしなかった。しかし、さすがに『最高機密の漏えい(可能性)』があったということで、機密保持の問題・ロッキード社内の内紛から社長が公聴会に呼ばれるなど、スカンクワークス内でも問題となった。
一応、試作機であるハブ・ブルーとF-19は所々であるが類似点があるものの、実際の機体とは似ても似つかないものであった。実際に比べてみるとF-19よりも、むしろスカンクワークスの前作であるSR-71に近いものがある。
現在ではノースロップの希望により、本来軍から提案されていた「F-19」を飛ばし、F-5G改めF-20となったことが公式文書から判明している(参考外部リンク)。理由は偶数番号にすることでMiG-21、23といったソ連製「奇数」戦闘機との差別化をはかり、またF-16などの「10番台戦闘機」よりも新しい「20番台戦闘機」としてPRしたかったから、とされる。
こうしてF-117は後続に道を譲り、すべて退役したはずであった。
が、2018年にネバダ州の演習場で飛行する姿が目撃・撮影され、「退役したはずでは無かったのか、何かの間違いでは無いのか?」と衝撃が走った。
その後も目撃情報は続き、最近では他の航空隊と共に合同演習に挑む姿も確認されている。
割と堂々と人前に出した割に公式な発表はなく、何機が再就役したのか・どのような任務に就いているのか等は一切不明なままである。
…と思ったら2021年には白昼堂々と米空軍基地との共用空港に飛来。これと前後して米空軍はF-117の復活を公式に認めた。ステルス機であることを生かし、演習における敵役を引き受けているらしい。
F-117は現役を退いたが、ある日突然に再び現れ、おそらくまた突然消えてゆくのだろう。
すべてが謎の中から姿を現したような戦闘機には、これがちょうどいいような気もする。