概要
機動戦士ガンダムAGEに登場する一族。本作は親子三代に渡る戦いがテーマとなっており、文字通りの戦いが描かれた。
家系図
本作の初代主人公かつメイン主人公。母・マリナからAGEデバイスを託され、救世主となるべくガンダムを制作して戦いに臨むも、その長い戦争の中で大切な人を次々と失ったことで、次第に全人類をも巻き込む復讐鬼となり果てる事となる。
フリットの母。フリットが長い人生の中で最初に失った大切な人物。
初代ヒロイン。フリットの幼馴染。戦争に人生を捧げるフリットを心配しつつも彼を見守る。
その後はフリットと結ばれ、アセムとユノアの二児の母となる。しかし、彼女がフリットと結ばれる事ができたのは、ある人物の犠牲があってのことなのだが…。
エミリーの祖父。フリットとエミリーの結婚後、アスノ家の一員となる。キオ編ではすでに他界しているため、キオとは出会う事はなかった。
フリットとエミリーの息子にして本作の二代目主人公。父や息子とは違い、ⅹラウンダー能力が受け継がれなかった。父・フリットの存在の大きさ、ゼハートとの友情、戦士としての挫折や苦悩を抱えながらも一人前のパイロットとして成長していく。
しかし、キオ編ではとある事情をきっかけにフリットと対立していく。
フリットとエミリーの娘でアセムの妹。アセムとは違い、父から期待を寄せられなかったことから、自分なりにできる事を見つけていくが…。
二代目ヒロイン。アセムの友人。アセムと同様ゼハートとの友情に悩みながらも、アセムを支える事を決意する。後にアセムと結ばれ、キオの母となる。
アセムとロマリーの息子にして本作の三代目主人公。アスノ家全員の長所だけを受け継いで生まれてきたような超ハイブリッド。しかし、それ故にフリットからアセム以上にヴェイガンへの復讐の道具に酷使されたうえ、敵味方双方からサンドバッグ同然に扱われてしまう。ある意味アスノ家最大の被害者。
アスノ家の崩壊
前述の家系図はアセム編から作り出されたものではあるが、その発端となったのはフリットの初恋の相手であるユリン・ルシェルの死によって形成されたと言っても過言ではない。実際に劇中ではエミリーよりもユリンとの交流シーンが強く描かれており、もし仮にユリンが殺されなければフリットは間違いなくエミリーではなく、ユリンと結ばれていただろう。だがそのユリンはとある悪魔によって自分の目の前で無残に殺され、フリットは心に大きな傷を負う事となった。
本来なら彼女を失った悲しみは、新しくできた家族によって埋める事もできただろうが、フリットにはそれができなかった。「救世主」という名の重すぎる重圧によって…。
その後フリットは、自分の子供であるアセムやキオを(愛情はあれど)悉くガンダムに乗せ、自分の復讐のために酷使。特にキオに至ってはフリットが犯した罪を全て背負わされる形で敵も味方からも忌み嫌われ、サンドバック同様にフルボッコにされるという13歳の少年としては余りにも酷な生き地獄を味わう羽目になってしまう(しかもエミリーやロマリーを始めとした身内たちはそんなフリットを止めようともしなかった)。
もちろん、キオもフリットに意を唱えるものの、彼よりも遥かに過酷な人生を辿ってきたフリットにとって、僅か13歳のキオの言葉など「ただの子供の甘い戯言」としか認知されず、まるで大人のエゴを振りまわるかのように声を荒げて返されてしまう。
「奴らは私から大切な人たちを奪った。誰が何を言おうとヴェイガンは悪魔だ。」
しかし、どう考えても悪魔と化しているのは明らかにフリットの方である。確かににユリンを殺害したデシルは救いようもないクズではあるものの、それはフリットが魔王と呼び憎悪している男によって無理やり戦争の道具として叩き込まれたからである。そしてフリットもまた魔王と同様に自分の復讐の道具のためにキオやアセムを無理やりガンダムに乗せ、人殺しをさせている始末である。更にはあれほどキオ達の言葉に耳を貸さなかったにも関わらず、最後はユリンの言葉ひとつであっさりと手の平を返し、一変してヴェイガンを救おうとして救世主となった訳である。
結局アンタは自分の家族よりもユリンの方が大事だというのか。
ここまで彼らの家族関係が酷いのは、本作の描写不足が大きな原因ではあるのだが、小説版では描写が補完された分、さらに家族関係が泥沼化している。
特にユノアに至っては、アニメ版とは似てもつかないほどの不良となり果ててしまい、その原因を上げると、
①フリットに何の期待もされず、蔑ろにされた。
②僅か13歳のキオを戦争に駆り出した。
③フリットの独裁政治によって多くの人間の人生が狂わされ、大勢の恨みを買った。
④これだけの所業を犯したフリットをエミリーやロマリーは一切止めようとしなかった。
…明らかにアニメ版の脚本を皮肉ってる部分が多いが、寧ろ同じ家族ならこう考えない方がおかしいと言えるだろう。
またユノアに限らず、アセムに至ってもラクト・エルファメルからユリンの事を聞かされた事で自分や息子のキオを復讐の道具として利用したフリットに憎悪し、同様に不良と化してしまった。
これにより、キオ編に入ってからアスノ家は事実上崩壊してしまい、末裔であるキオは、永く過酷な戦争によって狂わされた自分の家族のせいで多くの人々を苦しめていた事に心を痛める事になってしまう。
崩壊の果てに(以降の項目は小説版のネタバレを含みます)
そんなキオやアセム達の心情をよそに、フリットはプラズマダイバーミサイルを使い、自分の大切な人達を奪ったヴェイガンを殲滅せんと行動を開始する。だが、そんな彼の前に立ち塞がったのは、一機のガンダムだった。
キオ「降りてください、フリット・アスノ。あなたにガンダムのパイロットたる資格はありません。」
それは半世紀もの戦い続けてきた自分を真っ向から否定する言葉であった。
フリット「キオ!?ヴェイガンにどれだけの理由があろうが、どれだけの地球への復讐を糧として生きてこようが、それが何ほどの免罪符にもならぬと、なぜわからん!」
キオ「それならじいちゃんにだってわかるはずだ!それはあなたの理屈にも適用されることだって!殺されたから殺す、というのは単なる復讐であって、論理付けじゃない!あなたは、知恵を本能に従わせて、取り返しの付かない罪を犯そうとしている!」
フリット「子供が!」
フリットは反論する。やはり彼はキオの意見など「単なる子供の甘い戯言」としか思っていないのだ。
キオ「子供だからこそ言えるんだよ!」
「何度でも言うよ!あなたもイゼルカントも間違っている!あなた達は同じコインの裏表だ!過去を言い訳にして憎悪と哀しみだけをまき散らしている!」
ついにキオはFXバーストモードを使う。
キオ「もうやめようよ!僕達には関係ないことなんだ!これ以上、僕達の世代に、僕達の次の世代に憎しみを広げないで!!」
ユリン「フリット…もう答えは出ているんでしょう?」
キオによってⅹラウンダーの空間に飛ばされたフリットは、そこでユリンと再会する。
フリット「ああ出ている!出ているとも!奴らを生かしておく訳にはいかんのだ!」
ユリン「どうして?私やフリットに酷い事をしたから?でもキオが言ってたでしょ?相手だって同じことを思っているのよ。」
ユリンは初めてキオの名前を口にする。それは自分が死ななければ生まれなかった命。自分の復讐のために人生を狂わされた少年の名を。
フリット「そうではない!イゼルカントの虚妄とそれを受け入れて、自分たちの責任を放棄しようとするヴェイガンの精神性そのものが間違っているのだ!」
ユリン「だからみんな殺してしまうの?私やフリットや、キオのような子供も…。」
ユリンは望んでいなかったのだ。自分のために多くの人間を巻き込み、フリットが復讐のために多くの人間を殺すことを…。そしてフリットの前に、かつてフリットが失った大切な人達が現れる。まるでフリットに失望したかのように…。
フリット「惑わすな!あなたがたを殺された恨みを、憎しみを忘れろというのか!私の人生は復讐のためにあった!この世界の罪業すべてを引き受けてでも、私は、私は救世主にならねばならんのだ!」
???「フリット・アスノ!あなたは間違っている!」
その声をフリットは知っていた。それはまだ自分がヴェイガンへの憎しみに囚われていなかった頃の純粋な、少年時代の自分自身だった。
少年フリット「あなたがなりたかったのは本当にそんな救世主か!?グルーデックさんやウルフさん達はそんなことをあなたに臨んだのか!」
老年フリット「子供が…子供が何を言うか!!」
二機のガンダムがぶつかり合う。
老年フリット「五十年だ!息子を、師を、家族を奪われ、あらゆるものを奪われたこの五十年を忘れられるものか!どんな顔をして死者の墓前に立てばいい!?」
少年フリット「じゃあ、あなたは自分の顔を鏡で見たことがあるのか!!」
少年フリットのガンダムが、老年フリットのガンダムの黒いパーツを次々と破壊していく。まるで老年フリットが纏った憎しみという名の鎧を一つずつ引きはがしていくかのように…。
少年フリット「復讐を言い訳にして!罪を逃げ場にして!そんな自分の子育てすらできずに、自分や人を殺して終わりにするような人間に誰が墓前に立ってほしいもんか!!」
老年フリット「私は潔くありたいだけだ!不死者たるイゼルカントも、EXA-DBを生み出したイナーシュも、政治屋のオルフェノア一族も、誰一人として責任を取ろうとしなかった!だが私は違う!罪に殉じる覚悟がある!」
少年フリット「覚悟があれば何をしても許されるのか!?それじゃあ、イゼルカントとどう違うっていうんだ!」
「言ってみろ!フリット・アスノ!あなたがやっている事はイゼルカントとどう違うんだ!あなたがキオにやらせている事は、デシルとどう違うって言うんだ!」
少年フリットは、タイタスやスパローに換装しつつ、老年フリットを追い詰めていく。
少年フリット「自分や他人の過ちを認めて、戦争を終わらせる事が僕の勝利条件じゃなかったのか、フリット・アスノ!僕が、僕が救世主になる事を諦めるなんて、そんなの許さないぞ!!」
少年フリットの最後の攻撃を喰らい、老年フリットは再び光に飲み込まれた。
衝撃の真実
フリットが飛ばされたのは、自分が最も古い記憶。それは母・マリナが死んだあの日だった。
悲しみに暮れていた幼いフリットに向けられたヴェイガンのモビルスーツの銃口。その直後だった。
「まだ…子供じゃないか…。」
それはフリットに銃口を向けていたモビルスーツのパイロットの声であった。
「イゼルカント様は地球種に生きる道を残してやれ、と仰った。こんな、私の子供と同じ年の子供を殺せ、という意味ではないはずだ…。」
それはⅹラウンダーたるフリットの魂が、パイロットと交感したことによる記憶だった(フリットがⅹラウンダーとして覚醒したのは、彼と共鳴した事がきっかけである)。
「生き延びろよ、坊や。恨んでくれていい。それでも、私の子供たちが、キミと手を取り合ってEDENに帰れることを…。」
フリットにとっては偽善かと思うかもしれない。だがこのおかげでフリットは生き残れた。エミリーやディケ、ユリンと出会えた。アセムやユノア、そしてキオという子供ができた。少なくとも幸運と言える時を生きることができたのだ。
(なお、このパイロットが後の兄妹の祖先なのかどうかは不明だが、少なくともフリットの孫がヴェイガンの子供たちと手を取り合う事は出来ており、彼の願いは違う形で叶えられたようである)
フリット「諸君、ガンダムを通して、私の声を聞いているすべての人々よ。私はフリット・アスノ。地球圏に混迷をもたらしてきたひとりである。」
キオのFXバーストモードを通して両軍に訴えるフリット。そこに移っていたのは、たった一人の少女の言葉だけであっさりと手の平を返した「偽りの救世主」ではなく、最後まで悩み葛藤し、かつての自分と向き合いながら、本当の意味で自分やヴェイガンを許した「真の救世主」の姿だった。
キオ「じいちゃん…じいちゃんはなれたんだね。みんなを救う、本当の救世主に…」
大人のエゴ(及び脚本家の悪意)に振り回され、自分の意見もまともに聞いてもらえず、ヴェイガンを救うどころか、自分の家族もバラバラになってしまうなど、この永き戦争によって全てを捻じ曲げられたこの一人の少年も、ある意味本当の意味で救われたのかもしれない。