意味と用法
この場合の失はしくじる、やりそこなうという意味で、何かをなくす意味ではない。
不意をつかれてつい笑ってしまう、という使い方もあるが、どちらかと言えば笑ってはいけない理由がある場合に堪え切れずに、もしくはついうっかり笑いを漏らしてしまう事であり、例えば「葬式の時に思い出し笑いをした」という笑い方は失笑だと言える。
この他に、他人を嘲り笑う事は本来礼儀に反するしてはいけない笑いである事から、
他人の失敗を見たり、愚かな発言を聞いた時に「失礼ながら笑ってしまいました」という意味で「失笑した」を使う事もよくある。
というか、現代社会で「失笑」を使うケースのほとんどはこの用法である。
よくある誤用 1 「笑いも出ない」
前述の通り、大概「悪りぃけどアンタがバカで笑っちまったよ」と他人を批判する時に使う事が多い言葉であるが、この使い方を見て意味を誤解してしまう人もいるようだ。
失笑の失を「うしなう、なくす」という意味に取って「笑いも出ないほど呆れる」という意味だと思い込んでしまうのがよくある間違い方である。
平成23年度の文化庁の発表では、アンケートの結果なんと60%もの人が「失笑」は「笑いも出ないほど呆れる」という意味だと思っていたという。
実際にはむしろ「呆れて笑う」のが失笑なので意味が逆である。注意してほしい。
よくある誤用 2 「楽し過ぎて自然に笑みがこぼれる」
先程の文化庁のアンケート結果が公表されると、インターネットの掲示板やSNSでは当然多くの人々がそれをサカナに「失笑」の意味について語りあった。
しかし、その中の一部の人は辞書に載っている「思わずふき出してしまうこと」といった短く不完全な説明から色々と解釈を重ねたあげく、どうやら間違った結論に辿り着いてしまった様だ。
即ち、
「笑いを我慢する事が出来ないほど最高に楽しい、面白い時の笑い。それこそが真の失笑である」
と…
新たな誤用の誕生である。
この誤った考えはネットを通じてある程度拡散してしまった様で、今でも「何バカなこと言ってんだw失笑したわwww」等と正しい失笑の使い方をしていると
「その使い方、誤用ですよ」と誤ったツッコミを入れてくる残念な人が時折現れる。
まことに残念ながら楽しい、面白いという文脈で失笑が使われる事はあまり無いのが現実である。
間違い方としては「笑いも出ないほど呆れる」という意味だと思っているより酷いくらいなので、
いいかげんそろそろ目を覚ました方が良いのではないだろうか。
人を見下す笑い=失笑でOK!誤用だなんて誰も言ってない
文化庁の国語に関する意識調査で明らかになったのはあくまでも
「呆れて笑うという意味で使われる事もある失笑という言葉が、多くの人に笑えないという意味だと誤解されていた」
という話である。
この点を何か誤解して「呆れたり、人を見下したりして笑う場合、失笑を使うのは誤り」と懸命に説明している人がインターネット上に散見されるが、そんな説はない。
例えば文化庁の意識調査の報告書的な意味合いを持つコラム「言葉のQ&A」(文化庁月報平成25年3月号)は
"「失笑」を「愚かな言行に対する笑い」と受け取って,「冷笑」や「軽蔑の笑い」というような意味で使用する傾向もあるようです。"
といった結びになっているが、そういう使い方が間違いだとは書いていない点に注意。有り得る使い方の一部を紹介したようなニュアンスだろう。
その前の呆れた場合の失笑に関する部分も、要約すると「いくつかある失笑の使い方の中で、呆れて笑う場合に使うイメージが強いのは何故か」といった話をしているのであり、「呆れて笑うという誤った意味が生じたのは何故か」などという話はしていない(この辺は文章構成が拙いのも誤読する一因になっているかもしれない)。
そもそも失笑は「失敗の笑い」という字の通り「笑った事自体が問題となる」場合や「何か問題があって、結果として笑ってしまった」場合に使う事がほとんど。いわゆる悪い意味でしか使わない言葉なのだ。
元々マイナスの意味を持つ言葉、悪い意味でしか使わない言葉なので呆れられて笑われてしまうという意味の「失笑を買う」といった否定的な使い方が出来たのであって、
「失笑を買う」という形でよく使われるから失笑という言葉に悪いイメージがつき、意味が変わったわけではないだろう。それを考えると文化庁の分析もちょっとヘンなのかもしれない。
真の国語に自信ニキならばここは「文化庁文章ヘタですね」位のセリフをカマしてほしいところ。文化庁や文部科学省が何が正しい日本語か決めている訳ではないのだ。