アニメ劇場版の「攻殻機動隊」を元にしたコラージュ・パロディ素材のひとつ。
元ネタ
「攻殻機動隊」劇場版にて。
正体不明の犯罪者「人形使い」を追う警察組織・公安九課所属のイシカワとトグサが、人形使いに操られたと思しき清掃局員の男性に対して取り調べをしたときにその男性が発したセリフである。
凄腕の電脳ハッカーである人形使いはその技術を使って政府機関への不正アクセスやサイバーテロ等を試みる犯罪者であった。しかし彼(?)は自らの手を汚すような真似はせず、電脳を介して他人の脳をハッキングし、その人間に偽りの記憶を植え付けることで、脳を弄られた被害者達が「自ら望んで」サイバーテロを仕掛けるようにする(つまり、操られた当人は犯罪に加担した自覚すらない)、という手口で犯罪行為を繰り返していた。
人形使い自身はこの過程で犯罪に関与しないため、公安九課は操られた人々を一人ずつたどる形で彼の足跡を辿っていくしかなかった。
捕らわれたこの清掃局員は政府関係者へのハッキングを試みていたのだが、その理由は「浮気して娘を連れて出て行った奥さんの気持ちが知りたい」であった。しかし、公安九課が彼の身辺を洗ったところ、浮気した妻と出て行った娘の存在そのものが植え付けられた偽の記憶であり、清掃局員本人は結婚したことのない独身男だったという事実が判明。
娘の写真、と清掃局員が主張していた写真には本人とカメラ目線の犬しか映っておらず、その事実を突きつけられた彼は絶望のあまり呆然と固まる、というシーンである。
なお、写真に映っていた犬(バセットハウンド)のリードは彼ではなく画面外の人物が持っていたものだったため、実のところこの犬すら清掃局員の家族ではない。
劇場版セリフ
清掃局員「……擬似体験って、どういうことです?」
トグサ「だから、奥さんも娘も離婚も浮気も全部偽物の記憶で夢のようなものなんです。あなたは何者かに利用されて、政府関係者にゴーストハックを仕掛けてたんですよ。」
清掃局員「そんな、まさか?」
イシカワ「あんたのアパートに行ってきた。誰もいやしない。独(ひと)りもんの部屋だ」
清掃局員「だから、あの部屋は別居の為に借りたアパートで……」
イシカワ「あんたあの部屋でもう10年も暮らしてるんだ。奥さんも子供もいやしない、あんたの頭の中だけに存在する家族なんだ」
トグサ「ごらんなさい。あなたが同僚に見せようとした写真だ。誰が写ってます?」
清掃局員「確かに写ってたんだ……俺の娘……まるで天使みたいに笑って……」
トグサ「その娘さんの名前は?奥さんとはいつ何処で知り合い何年前に結婚しました?そこに写ってるのは、誰と誰です?」
清掃局員「そのウソ夢、どうやったら消せるんです……?」
トグサ「残念ながら現在の技術では、成功が2例報告されているだけでとてもお薦めできません。お気の毒です」
pixivでは
主に、上記のシーンを元にしたパロディ漫画につけられる。
似たようなタグに存在しない記憶があるが、あちらは「現在進行形で幻の中にいる」旨のイラストにつけられるのに対し、こちらは「幻である事を指摘され、残酷な事実を突きつけられる」シーンを描いたものにつけられるパターンが多い。
余談
この映画の原作漫画「攻殻機動隊」にも同シーンは存在するが描かれ方が大きく異なり、
- 擬似体験のことを突きつけられたシーンで清掃局員が逆ギレ気味に聞き返す
- 清掃局員の年齢が劇場版より若い
- 事件後同僚に離婚の話を尋ねられるシーンがあり、そこで「消えたの!」とうんざりした様子で吐き捨てる
と、劇場版よりもコミカルかつマイルドに描写されている。
なお雑誌掲載版には最後のコマはなく、単行本版で(あまりに救いがないからと)描き足された模様である。
監督である押井守は大の愛犬家としても有名な人物。
彼は写真に映っている犬と同じ犬種の「ガブリエル」を飼っており、この犬はガブリエルがモデルだとされている。なので、このシーンは「天使のように笑う娘」でガブリエルを連想できる、というマニアックな小ネタでもある。
2017年の実写版では当該清掃局員は「リー・カニンガム」の名で登場。アニメ映画版におけるツァン・ゲン・ファー(コーギー)の役回りも担っており、ピアノ教室に通う娘をゴミ収集車で迎えに行く途中に同僚ともどもゴーストハックで意識を完全に乗っ取られ、何者かが車内に用意したサブマシンガンを使ってオウレイ博士襲撃を実行する。最終的には素子に取り押さえられ、取調室で現実を突きつけられるが、最後まで娘の存在が嘘だと認められず、ケーブルが繋がれた首輪に全体重をかけ頸椎を折り自殺してしまった。
余談
「疑似体験」「擬似体験」と漢字に表記ゆれが見られるが、意味としてはどちらも同じ。
ちなみに原作漫画で使われていたのは「擬」のほう。