解説
CV:間嶋里美
連邦軍ベルファスト基地の郊外に住む戦災孤児の少女。
幼い弟のジルと妹のミリーを養うために基地で物売りをする傍らジオン側に雇われ、現地スパイ107号としてホワイトベースに対するスパイ活動を行った。
窓ガラスが割れたままの貧しい家には3人だけの写真が飾られ、裏口や窓には板が打ち付けられており、弟妹が留守を守っている。(住処に関しては空き家に潜り込んでいるという旨が劇中で語られている。)
カイ・シデンと出会い、その後シャア・アズナブルからのホワイトベースへの侵入司令を受けるが、自身の弟や妹達と変わらない歳の少年少女が戦場に立っているホワイトベースの実情を知って以降、自らの行いを悔いてジオンを裏切り、罪滅ぼしとしてカイと共にガンペリーで出撃する。
その際に被弾でガンペリーに搭載された発射システムが故障、これを手動レバーで発射すべくガンペリーの格納庫に降りてミサイルを発射するが、その際に発生した爆風で大西洋にその身を投げ出され、命を落とした。
「THE ORIGIN」でも同様に死去するが、ミサイル発射時の爆風によってガンペリーの壁に激突。その際首の骨か頭蓋骨が折れたかのような描写が追加された。
この時、なぜ爆風で投げ出されるような位置に発射装置があったのかということについては議論が交わされる事もあるが、コクピットでカイはミハルに「レバーは一つずつ押す」と伝えているにもかかわらず、格納庫の発射装置のレバーをミハルは三つ同時に下げているため、噴射の衝撃が想定以上のものとなった可能性が高い。
彼女との出会い、そして死は結果として、ベルファストでホワイトベースから降りるつもりでいたカイにとって大きなターニングポイントとなり、半ば白けた気持ちで生きてきた彼に生きる意味、そして戦う意味を悟らせ、彼女のような悲劇を二度と引き起こさないよう戦争を終わらせる決意を固めさせている。
弟妹のその後(非公式)
弟のジル・ラトキエと妹のミリー・ラトキエはその後の映像媒体には2023年時点では登場していない。そのため、以下は非公式設定であり、弟妹のその後については媒体ごとに異なる。ちなみに漫画『ガンダムさん』ではとんでもない事になっている。
フォウが主役の小説『フォウ・ストーリー――そして、戦士に…』では、彼女の死後、妹のミリーは誘拐され行方不明になり、弟のジルはムラサメ研究所に強化人間の実験体(被験者番号005)として入所。フォウ(被験者番号004)と心を通わせていく。最終的にフォウと結ばれるが、ジルはフォウとアマリ(フォウ、ジルと同期の被験者の少女、被験者番号006)の2人がテストパイロットに選ばれないように守るため、試作段階のMRX-008サイコガンダム試作8号機のテストパイロットに志願、サイコミュの暴走により命を落とす。
漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』外伝「アルテイシア 0083」では名前のみ登場し、「アストライア財団」で戦争孤児救援に従事するセイラ・マスの口から、孤児園に入らず家を守り続けるジルと彼女を財団が見守っているとカイ・シデンに語られた。
漫画『機動戦士ΖガンダムDefine』では、ジルの行方は不明なものの、妹のミリーが姉と似た容姿に育った上で、凄腕のハッカーとなっている。
また、偶然だと思われるが漫画『機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY(たいち庸氏による新訳版)』のオリジナルキャラクターで同名のジル・ジグラが登場しているが、こちらはハニートラップをこなせる妙齢の女性軍人である。
余談
彼女の物語は、シリーズ中盤、星山博之氏が富野監督にイタリア映画の名作「自転車泥棒」から着想した、カイにスポットライトを当てたストーリーをやりたいと提案し作られたエピソードである。(星山氏は第27話の「女スパイ潜入!」を担当している。)
第28話「大西洋、血に染めて」は富野由悠季監督にとっても会心の出来だったようで、当時製作に参加していた板野一郎は、富野が安彦良和のところへ突然やってきて「安彦ちゃん! この回は……ちょっと読んでよ、描いてて泣けてきちゃってさあ!」と描き上げたばかりの28話の絵コンテをわざわざ見せる一幕を目撃している。それを読んだ安彦は少し涙目になりながら「良かったよ、いいよミハル!」と太鼓判を押し、そのまま2人は「この回は良くしたいね」「でしょ? 絶対良くしたいよね」と男泣きしながら盛り上がったとのこと。
そんなに良いのかと気になった板野は、2人がいなくなった後に置きっぱなしの絵コンテをこっそり見て、やっぱりいたく感動したそうだ。
しかし、劇場版Ⅱ製作時には、「上映時間の問題からミハルのエピソードが削除される可能性もあった」と富野は述懐している。結果的にはほぼ完全に組み込まれている。
ミハルを演じた間嶋里美氏はアムロ・レイを演じた古谷徹と結婚し、後に声優を引退(ちなみに古谷は再婚で、夫の古谷と初共演となったのは「初代ガンダム」から)。声優引退後は「スーパーロボット大戦」シリーズのゲーム中心のアフレコの仕事をやっている。
少年役の多かった間嶋里美氏曰く、ミハル役は初めてのティーンの少女役で、最後の回想シーンで富野監督から「このシーンでは彼女が今まで押さえていた女の子らしさ、そういったものを十分に出してください」との演技指導があったそう。
ミハルと弟妹の住む家は、同時期に富野監督が絵コンテを手掛けていた「赤毛のアン」のグリーンゲイブルズが元になっており、家のラフも富野監督の手によるもの。劇中でもドアの装飾等以外はほぼ似た造りになっている。
「同じお皿を洗っていても、アンの手が大きくなっているんですよね」とバンクの嵐であるガンダムと比較して羨ましがっていたそうだ。
ゲーム「ギレンの野望」のジオン勝利ルートではエンディングで流れるムービーで、カイがミハルや弟妹達と一緒に暮らすかのような描写がされており、皮肉にもジオンが連邦を徹底的に叩いたifルートにおいて、カイとミハルが戦後も生きて結ばれるという場面が描かれることになった